何もしない悪役令息になってみた

ゆい

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本編

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そう言えばこの世界、BLゲームだったなと思い出したのは8歳となり、学園に入学する年齢の頃だった。
目が見えない僕は学園に通うことは出来ないけど、入学前の7~8歳前後の子供の顔見せのお茶会が王宮で開かれる。
一応僕の元にも招待状が届いたが、両親は無理に出席をしなくていいと言ってくれた。
確かこのお茶会で、リアムは王子に一目惚れして、父にお願いをして、無理矢理婚約者になるんだった。
次兄と王子は同じ年齢だが、次兄の口から王子の話は聞いたことがなく、すっかり忘れていた。

王子にはまだ婚約者が決まっていない。
王子妃教育もあるから学園入学前に決まるのが通例だが、あの流行り病により長兄より下の年代の子達の数は少なくなり、王子妃として家柄・適正などを鑑みた結果、まだ見つかっていないそうだ。
一応僕も候補に挙がったらしいが、全盲になってしまったので、早々に候補から外されたと父から聞いた。
『次兄は?』と聞いてみたら、何とも言えない雰囲気になった。多分みんな困った顔をしているのだろう。
次兄は、

「誰があんな奴の元に行くか!」

と、怒りだしたのには驚いた。
後からこっそり長兄に聞いたら、2年前のお茶会の時に次兄は王子と口喧嘩をしたようだ。それ以降2人は全く口をきいていないらしい。
喧嘩の内容については、次兄は誰にも言わなくてわからないらしい。
そう言えば、次兄が騎士になりたいと言わなくなったのもこの頃だった。

僕は学園にはいけなくても、父が家庭教師をつけてくれている。
ただ先生の話すことを聞いたり、質問に対しての受け答えしかできない。
前世みたいに点字なんてないから、本なんて読めないし。
探査魔法も沢山練習した結果、家族や使用人達がわかるようになってきていた。
でも、姿形が似ていると間違えてしまう。
まだまだ練習をしないと。



ってあれ?ゲームのストーリーから色々と離れてきていることに気がついた。
元から何もしないことにしていたが、ここまで色々変わるとは思わなかった。
僕が婚約者にはなれないし、次兄も王子の騎士にはならないみたいだ。
ただ、格闘ゲームで僕が重宝していた騎士だった次兄の姿が、リアルタイムで見れるかもと少し期待をしていた時期があったから、残念に思えた。

お茶会は、僕が全盲で迷惑になるので欠席をすると返事をしたら、付き添い付きでも構わないと参加を促す返答が返ってきた。
父も母も出席するしかないと言うので、誰が付き添うか話し合いをしたら、次兄に決まった。
父と母は領地に行く事が決まっていたし、長兄は学園の用事が組まれていた。
父達はくれぐれも喧嘩はしないようにと、次兄に口が酸っぱくなるほど、言い聞かせていた。
次兄はやんちゃなところもあるが、基本的に優しいし、正義感が強い。剣の鍛練も休まずに行っていると聞いている。
なのになんで騎士を目指さなくなったのか、次兄が誰にも理由を話さない以上、僕も家族も何も聞けなかった。



お茶会当日、使用人達に着飾られて、次兄の手を借りて王宮に行く。
王宮の人に案内をされながら、会場となる中庭に向かう。

「エド兄様、バラの香りがします。」

「ああ、見事に綺麗に咲いているよ。やっぱり王宮の庭師の仕事は素晴らしいね。」

「何色がありますか?」

「赤が多いけど、黄色や白、ピンクがあるよ。他にも色々な花も咲いているよ。」

「それは見応えがありますね。」

記憶から花を思い出し、色とりどりに咲いている様を思い浮かべる。

「リアムなら、…この風景を観たなら、お茶会そっちのけで、スケッチしていただろうね。」

「…そんなにですか。観れなくて残念です。でも香りだけで想像は出来ますよ。」

そんな会話を聞いていた王宮の人は、

「少しここでお待ちください。」

と、その場を離れて行った。
次兄が庭を、僕が香りを愉しんでいると、彼は戻ってきた。

「どうぞこちらを。」

と次兄に二輪のバラを差し出した。次兄は、

「これは?」

「庭をお褒めいただきましたので、お礼でございます。庭師に頼み、少し香りが柔らかいバラをお送りします。」

次兄は、僕のジャケットの襟のボタン穴に一輪のバラを挿してくれた。
次兄も同じようにバラを挿した。

「優しい香りがします。ありがとうございます。」

「綺麗なバラをありがとうございます。」

と、彼にお礼を言った。

「こちらこそ喜んでいただきありがとうございます。…私、サファイア公爵邸に招待状をお届けに伺った時に、玄関の間の素晴らしい絵画を観て以来、リアム様の絵画の虜になりました。今日こうしてお話もできて、本当に嬉しいんです。」

少し興奮気味の彼の声に嘘偽りは感じられなかった。
しかし、どの絵を指しているのかわからなかった。描いた絵は全て父が管理しているから。

「エド兄様、玄関の間の絵とはどれなんでしょうか?」

「ああ、リアムが描いた中で一番大きい王都の街並みの絵だよ。」

「あれはまだ上手く筆が使えなかった頃のもので、拙い部分もあるから、そんな目立つ場所に飾られているなんて恥ずかしいです。」

「いえいえ、とても素晴らしいです。街並みを切り取ったかのように精緻でありながら、どこか温もりを感じる素晴らしい絵ですよ。」

「そうなんだよ。リアムの描いた絵はどれも温かみがあるんだよ。特に父様と母様を描いた絵は、見ていて心が温かくなるんだよ。」

「それは一度見てみたいですね。」

「父様に伝えておくから、見に来たらいいよ。僕が一番好きな絵なんだから。」

「はい、公爵様にお伺いの手紙を出します。」

「あの、…褒め過ぎです。……恥ずかしいです。」

僕は真っ赤になった顔を隠す。
2人は僕のその様子にクスクスと笑う。

もう描けなくなったけど、描いた絵は何年経っても覚えている。
僕も両親を描いた絵は、一番頑張って描いたから、次兄にそう言ってもらえて嬉しかった。


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