何もしない悪役令息になってみた

ゆい

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本編

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「ほ、他にはどのような本を読まれましたか?」

と、ルビー公子にまた質問をされる。どうやら、僕が本当にいろんな本を読んでいるのかと疑っているみたいだ。
実際は、哲学なんて話題についていけないので、別方向に話を逸らしたいだけの王子やカミラだった。

「そうですね、…この国の建国記も面白かったです。作者もそうですが、読んでくれる使用人によっては解釈が違うので、色々な捉え方で学べました。」

この国の建国記は色んな人が書いていて、初代マグノイア王の解釈が著者によって違っていた。
ある人は民思いの優しい王と書いていたり、ある人は実は戦い好きだったと書いていたりで、色々な解釈で書かれていた。ただ一貫して書かれてあることは愛妻家だったということ。王妃であるシャルーネを生涯愛し続けたと、どの建国記にも書かれてあった。

「それは面白いですね。コルシーノ著の建国記は読まれましたか?」

「…ええと、確か東の隣国から戦争を仕掛けられるところが書かれてあるものですよね?戦争の時に作られた国境の壁の話ですよね?初代王と彼の側近の魔術師が一夜にして作ったと言われる壁が、まだ残っていると聞いています。いつか東側に行って、その壁に触れてみたいんです。」

「ええ、私もいつかその壁を見てみたいんです。もしよろしければ、一緒に見に行きませんか?」

「行かせません!」

と次兄が反対の声をあげる。

「ルビー公子、俺の目の前で大事な弟を口説きだすな!ただの顔見せのお茶会でナンパをするな!」

「私はリアム様を誘っているのだから、サファ…、エドワード様には関係ないだろう?」

次兄も僕もサファイア公子だから、言い直したんだろう。呼び慣れていないから、次兄の名前がすぐに出なかったみたいだし。

「兄弟なんだから、関係あるに決まっているじゃないか!」

次兄は本当に側近とも仲が悪いようだった。父との約束は守っているから、次兄はまだ自分を抑えているように感じた。
それに次兄は何を言い出しているのだろう?僕は悪役令息なんだから、口説かれることもナンパされることもないのだろうに。

「兄様、兄様、ナンパってなんですか?」

次兄の服をちょこんと掴み、次兄の意味のわからない喧嘩を止めようと、無知のフリをして聞いてみる。

「あっ、リアム、ごめんね。が遠くまで行かないかと誘ってきたけど、危ないから、兄様が代わりに断っているんだよ。」

「いや、自己紹介はしたんだ「そうなんですね。私も家族と離れて旅行なんて行きたくないので、兄様が断ってくれていたのですね。兄様ありがとうございます。それとルビー公子、僕の外出は父の許可が出て、家族の誰かが付き添わないと出かけられないのです。だからごめんなさい。」…あ、はい、こちらこそ突然のお誘いで申し訳ないです。」

僕はきちんとお断りをした。しかもセリフを被せて。次兄は笑いを堪えているし。
将来断罪するような奴と仲良くなったりなんかはしない。その点次兄は大丈夫だ。次兄は僕が道を踏み外すことがない限りは断罪することはない。しかも、次兄ルートのバッドエンドに処刑はなかった。
追放した理由は、ルテウスの殺人計画が明るみに出たからだったって、姉が言っていていたし。リアムが何かする度に庇っていたとも言っていたから、兄弟仲は悪い訳ではなかったらしいし。それに血の繋がりがある以上、処刑なんて目覚めが悪くなるだけだしね。
実際に目が見えないし、まだまだ子供の僕は、知らない場所に行くのは本当に怖かった。今日だって王宮に行くのも怖かったが、次兄が隣にいてくれるから心落ち着かせて、人と話せていられるんだから。

「ププッ。」

と誰かの笑い声が漏れた。声からして多分王子だ。

「カミル、フラれたな。」

「~~煩いですよ、フレデリック様。」

「確かにエドワードの弟にしては擦れてないし、エドワードより可愛いからな。気持ちはわかるぞ。」

キシシと王子は笑いながら言う。王子としてその笑い方はありなんだと明後日な方向に感心をしてしまった。
また次兄のイラつくオーラを感じた。
そこで僕が可愛いって?と思い、まだ次兄の服を掴んでいたままだったので、クイクイと引っ張る。

「リアム、どうしたの?」

「僕って兄様より可愛いのですか?(小声)」

「リアムは自分の顔を覚えていない?(小声)」

「全く覚えていないです。」

小声で話しているけど、2人には聞こえている。自分の顔がわからないと言うリアムの言葉に、2人はなんとも言えない気持ちになる。
わからないと僕はブンブンと首を横に振る。前世も悪役令息なんて格闘ゲームに登場しなかったから、顔が全くわからなかった。

「自分の顔を覚えるより、みんなの顔を見てばかりいましたから。」

「そうだったね。みんなの肖像画ばかり描いていたね。」

「はい。でもたしか…髪は父様と同じ金髪で、瞳の色は、母様と同じ紫色だったような…?あれ?」

「それは合っているよ。でも父様か母様のどちらに似ているとか覚えてないの?」

「エド兄様は母様似です。ルー兄様は父様似です。僕は……どっち似ですか?」

次兄はクスクス笑うけど、本当に覚えていないんだから仕方ないじゃないか。父似なのか、母似なのかもわからないんだから。
僕はぷんと怒ったら、次兄は更に笑い出す。

「帰ったらみんなに聞いてみようね?」

「……はい。」

「もう拗ねないで。」

と、僕の頭を撫でる。父はカッコいい美形で、母はキレイな美形だから、多分どちらに似ても美形なはず…なんだけど、やっぱり自分の顔が思い出せない。
それに次兄は母似だから、今より幼い時は可愛かったはずなのに、王子はなんで次兄に突っかかるような言い方をするのかわからない。
……あっ、コレって姉の言っていたツンデレってやつなのかな?

「なんで、殿下はエド兄様を可愛くないって言うんですか?」

と、僕は唐突に聞いてみた。

「「えっ!!」」

次兄と王子の声が重なる。

「エド兄様は母様に似ているから可愛いはずなのに。なんでですか?」

「えっ、あっ、いや、……可愛くないとは、言って、いないぞ。」

「リ、リアム、少し、黙ろうかな?」

「…あっ、わかった!好きな子には素直になれ、むぐっ!!」

と、ここで次兄の手により口を塞がれた。
険悪な雰囲気は感じない。寧ろ、側近から生温い雰囲気を感じる。
なんだっけ?片思いっていうやつ?
多分王子の顔が真っ赤になっているはずだよね。見れない僕の想像でしかないけど。
誰かが茶器を荒めにカチャンと置く音がしたら、

「…カミル、他のテーブルを回るぞ。」

「はい、フレデリック様。」

と、王子は側近を他のテーブルへと連れて行った。
側近の声は少し笑いそうな声だったから、王子の気持ちがバレバレになったみたいだ。
2人がいなくなって、次兄は手を離してくれた。

「もう、リアム。余計なことを言わないの。」

「…ごめんなさい。でも、優しい兄様に突っかかる人がいるなんて、不思議だと思って。」

「…父様達には内緒にしてね。…恥ずかしいから。」

「はい。きちんと申し込まれるまで、父様達には内緒にします。」

「もう!そういうこと言わないの!」

次兄の照れ隠しの怒ったような声は、僕には可愛く聞こえた。
多分王子が次兄に一目惚れだったけど、王子が距離の取り方を初手から間違えて、拗らしてしまったんだろう。
なんて、僕は呑気にそう思った。

何もしないって決めたのに、お節介をして、次兄が王子の婚約者になるかもしれない展開にしてしまったのだ。
リアムの前世で知っているゲームのストーリーから、現実では離れつつあったのに気付き、断罪の可能性が少なくなってきたかなと思った。
でも次兄が断罪されたら嫌なので、これ以上は何もしないようにすると、心に決めた。












「リアム・サファイア。…あれが悪役令息なんだ。ふーん、実物はまぁ、可愛いんじゃない?……僕には負けるけどね。」

ルテウスのそんな呟きは、誰の耳には入らなかった。



ーーーーーーーーーー

長兄の名前はルーフェスです。
作中で出していませんでした。すみません。
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