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本編
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しおりを挟むリアム達のいるテーブルに近づく足音が聞こえた。2人分の足音。
僕は視覚がない分、聴覚、嗅覚が鋭くなっていたから、その内の1人が誰かはすぐにわかった。
「ルー兄様だ。」
僕が呟くと、
「正解!」
と、後ろから抱きしめられた。
ルー兄様は最近香水を使い始めた。柑橘系の香りで、長兄にぴったりの香りだ。
でも、僕が間違えてからだよね。本当に何遍でも謝ります。ごめんなさい、ルー兄様。
ルビー公子達は席を立ち、礼をしている。
ルー兄様と一緒に来た方が、
「よい。ルーフェスの弟の顔を見に来ただけだ。」
と、言った。
長兄が僕を席から立たせてくれた。
「私は、アレクサンドライト公爵が嫡男ライオルだ。」
「サファイア公爵が三男リアムです。」
僕はボウ・アンド・スクレープをする。
長兄が立たせて挨拶をさせたと言うことは、それなりの相手ということになる。
名前を聞いて、王弟殿下の嫡男とわかった。長兄より低めの声だが、聴き取りやすい声だった。
そう言えば、王子には座ったままで礼をした。今更ながら、どうしようと焦りだした。そんな僕に気がついた長兄は、
「リアムどうした?」
「ルー兄様、お耳を貸してください。」
と、近づいてもらった。
「王子殿下には、座ったまま挨拶をしてしまいました。僕、不敬罪で投獄されるのでしょうか?」
と、またしても小声でない小声で長兄に伝えた。みんなの耳にはしっかりと聞こえたみたいで、みんなが笑い出した。長兄に至っては大笑いだ。
「リアム、お茶会の時は、きちんと座ったままの礼をしたんだろ?それなら大丈夫だよ。母様に何回も見てもらっていただろう?」
「はい。何度もお辞儀の角度の練習をしました。」
「フレデリック様は怒っていませんよ。それにリアム様はお手本のような礼をされてましたよ。」
と、側近にそう言ってもらえて、僕はやっと一安心できた。笑いながら言われたけど。
「そのフレデリックは何処に?」
と、ライオル様が聞いてきた。
「エドワードもいないね。」
と、長兄も。
「御二方とも少し所用で、席を外しております。私がエドワード様の代わりに護衛を務めさせていただいております。」
ルビー公子が答える。
「全く、王子よりリアムの方が大事なのに。」
と、ぼそっと長兄は言う。
それこそ不敬では?
「あっ、ルー兄様、僕、お友達ができました。リオネル様とサイラス様です。お二人とも読書家で、面白い本を教えてくださいました。それと、今度、うちにお招きしてもよろしいですか?読書の意見交換会をするのです。それで、」
「リアム、少し落ち着こうかな?」
「はっ!つい、興奮してしまいました。初めてお友達ができたので、浮かれてしまいました。」
みんなから生温かい視線に気付き、顔が真っ赤にしてしまい、両手で覆い隠す。
「ルーフェス、本当にお前の弟か?リアムは可愛いな。こんな弟欲しいな。」
「やらんぞ!」
と、ライオル様と長兄はそんな会話をする。
長兄に抱っこされ、そのまま席に座る。
ライオル様も空いている席に座ったようだ。
リオネル様とサイラス様はもうすでに長兄達とは顔見知りのようで、僕を抜かして、5人で話し出した。
僕は長兄の胸に顔を埋めたまま、顔の熱が冷めるのを待った。
王子と次兄が戻ってきて、ガーネット・アクアマリンの両侯爵家の馬車の準備ができたと連絡が来たので、リオネル様とサイラス様と次回の約束をして別れた。また2人に会えるのが今からの楽しみになった。
会うまでに『勇者の冒険譚』は絶対に読むぞ!と意気込む。
「ルー兄様は、ご用事は終わったのですか?一緒に帰れるんですか?」
「一緒に帰ろうと思って迎えに来たんだよ。エドワードも戻って来たし、帰ろうか。」
「はい!兄様達、手を繋いでください。」
「抱っこしようか?」
「3人で歩きたいんです。」
2人に手を繋いでもらって、にっこにこの僕。
「んんっ、リアムは可愛いなぁ。私に弟はいないけど、弟みたいなのは捻くれて可愛げがないし。」
「私に可愛げを求めないでほしい。」
ライオル様と王子が言い合う。
「ルー兄様、そう言えば、ルビー公子がリアムを口説いていました。」
と、次兄が長兄に今日の出来事を言う。
「何?!…カミル、剣術の対戦でもするか?大事な弟は簡単にはやらんぞ。」
「しませんよ!ルーフェス様に敵うわけないですし!」
「ルー兄様、僕、きちんと断りましたよ。それに対戦はダメです。兄様が怪我したら、僕泣きますよ。」
「リアムが泣いたら困るから、対戦はしないよ。」
「ならいいです。」
「どちらかと言えば、大怪我をするのはカミルだよな?」
との王子の声は、みんなは聞こえなかったことにする。
側近が大怪我するほど、長兄は強いんだと初めて知った。
王子達と別れて、僕達は帰宅の途に着いた。
馬車の中で長兄に、
「リアムは今日探査魔法は使ってないな?」
と確認して来た。
「はい。使ってません。」
王宮で魔法を使えるのは許可が降りている魔術師だけで、許可がない者は使えない。使ってしまった場合は有無を問わず捕まってしまう。練習場もあるが事前登録が必要らしい。それに街中でも一緒で、探査魔法をしながら街歩きはできないのだ。
「ルー兄様、どうかされたのですか?」
「いや、内密なんだが、お茶会の中庭で一瞬だけ魔法を使用した反応があったらしい。」
「…リアムでないのは確かです。一応父様が、今日は魔力封鎖のアンクレットをつけましたから。」
「父様が?そこまでしたのか?」
「はい。リアムは魔力量が多いので、万が一がないようにと。」
「そうだね。うっかり魔法を使ってしまったら、捕まってしまうからね。一瞬だったから、本当にうっかりと誰かが発動させようとしただけかもね。」
「明日父様が帰ってきたら、アンクレットを取ってもらうまで、エド兄様から面倒を見てもらうんです。一緒にお風呂を入る約束もしました!」
「ええ!それは狡いぞ!私も一緒に入るぞ!」
「やったぁ!ルー兄様も一緒だ!」
僕は大喜びする。
普段は学園で帰りが遅いから、兄様達と一緒になることはない。
今は入学式前の長期休みだが、何かと2人は忙しくて、一緒にいられる時間があまりないのだ。
「そうだ、エド兄様。殿下に攫われたあと、酷いことされませんでしたか?」
「は?攫われた?」
「いえ、ちょっと話し合いをしただけです。」
「怪しい。」
「怪しいです。」
「それは……父様達が帰って来てから、お話します。」
「もしかして、エド兄様、王子殿下に口説かれましたか?」
「ちょっ!リアム!」
「ほぉ。なんだやっとか。」
「えっ!ルー兄様知っていたんですか?!」
「気付いていないのは、エドワードくらいなものだぞ。お前達の学年も一歳違いの上下の学年も、誰も婚約者のいない殿下に言い寄ってはいなかっただろう?」
「……言われてみれば、確かに?」
「みんな、殿下の気持ちがわかっていたから、学園中で温かく見守っていたんだよ。」
「それって、すっごい恥ずかしいことですよね。(殿下が)」
「確かに恥ずかしいな!(殿下とエドワードが)でも、いつまでも、もだもだしている殿下にみんながヤキモキしてな。しかし、仲を取り持とうとすると、殿下は素直になれない。しかも、お前はお前で気が付かない上に、すぐに口喧嘩に発展する。本当に殿下の初恋が実る日は来るか来ないかで、賭けが始まるところだったぞ。」
「は?」
「王太子殿下が面白がって、『見ていてヤキモキするくらいなら、もういっそのこと賭けるか!』って、言い出されて。それで生徒会メンバーは今日王宮に集合となったんだ。」
「いやいや、何しているんですか、本当に。」
どうやら王太子殿下は愉快な方らしい。学園行事も堅苦しいイメージを楽しいものに変えていっているって、前に長兄が言っていた。でも弟の恋を賭け事にするなんてと、ちょっとだけ王子に同情をしてしまう。
「しかし、今日の話し合いが無駄になってしまったな。明日辺り王宮から手紙が来るのかもな。」
「ルー兄様、…面白がっていません?」
「ん?いや?(面白いに決まっているじゃないか)…しかし、リアムが知っているってことは、リアムのおかげか?」
「そうなのです。王子殿下はエド兄様だけに突っかかるから、なんでかな?って思って聞いてみました。」
「そうか、偉いぞ!今日は良い仕事したな!」
と長兄は僕の頭をわしゃわしゃ撫でてくれた。
話を聞いて、次兄の鈍さにはこっそりと呆れたけど、学園中が応援をしていた恋が実ったみたいで良かった。
王子が2年も片想いしていたんなら、次兄が断罪されることはなさそうだな、と思った。
僕の初めてのお茶会は、こうして無事に終了した。
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