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本編
隠されたリアムの真実
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サファイア公爵の三男リアム。
元皇族の父方の祖母の高貴な顔立ち、祖父・父の白金の髪、アメジスト侯爵家出身の母の珍しい紫電の瞳を引き継ぐ。
また、末っ子という立場もあり、周りは存分に甘やかした。リアムの願いは、何でも叶った。
3歳になった頃、簡単な礼儀作法の教育が始まる。貴族である以上は身につけないといけないことだけど、リアムはじっとしていられない性格だった。
『僕は自由を愛する男だ』なんて、何かの本の台詞を引用して、礼儀作法の教育から逃げる。逃げてもすぐ捕まり、結局のところ作法を学ぶ羽目になるのだ。
家族が揃う夕食で、1人音を立てて、ぐちゃぐちゃに食べてしまう。リアムはまだ一人で上手に食べれなかった。
父達も顔を顰めても怒らない。ただ『リアムは仕方ないなぁ』としか言わなかった。
兄達は、父達がそんなリアムだけ許す姿をみて、リアムと関わりを持たなくなっていく。末っ子だからと許されるリアムに対して、良い感情を持てなくなっていった。
実際は、成長が遅いリアムを両親は見守っていただけに過ぎなかったが、兄達としては、それが面白くなかった。
5歳になり、一般教育が始まる。
この頃には、家族も使用人達もリアムの言動に呆れ果て、父である公爵に度々話が伝わっていた。
父かて領地経営で忙しいため、その都度リアムを呼んで怒ってばかりもいられない。母も父の補佐や家の切り盛りをしているので、リアムだけを構うわけにいかない。兄達も自分のことで忙しく、誰もリアムに寄り添う事はなくなった。
リアムも5歳になれば、流石にある程度の分別は付き、我儘も言わず、勉強、礼儀作法、剣術と家庭教師の言われるままをこなす日々だった。
そんな中、一人の家庭教師が『兄君達は優秀なのに』と言い出した。
リアムは決して頭が悪くないのだが、覚えるまでに時間を要する。兄達がすぐに覚えたことを、リアムは時間がかかるだけで、覚えられないわけではないのだが、人は比べたがるもので、一人が兄達と比べ出したら、周りも比べだした。
根っこの部分は素直なリアムにとって、その言葉は悪意の塊でしかなかった。
勉強を学んでも、剣術を学んでも、6歳から魔法を学んでも、いつも兄達と比べられる。
テストで良い点数を取っても褒められることはない。剣で騎士に一撃を入れても、魔法で強い攻撃魔法が打てても、それは当たり前で、しかも『上の兄君なら』『下の兄君の方が』と枕詞のように言われる。
家庭教師のそのような評価に、父達も『三男だから甘やかしし過ぎたか』と、何も言わなくなったし、報告を聞くこともなくなった。
勉強の時間は、物覚えの悪いとリアムは鞭で叩かれる。剣術の時間は、必要以上に剣で打たれる。
使用人には、我儘だったリアムの世話をしたがるものはおらず、傷は服に隠される部分のため、誰もリアムの怪我には気付かない。魔法が使えるようになってから、お風呂も魔法でお湯を入れ、一人で入っていたから、尚更傷やアザだらけの身体は、誰も気が付かなかった。
食事も家族と一緒の夕食以外は、朝食、昼食の準備はされなくなった。
誰もリアムを見ていないので、どんなにマナーが良くなっていたかも、気付かないままだった。
そんな環境で、リアムが笑わなくなるのは早かった。
8歳の顔見せのお茶会で、王子を見て、僕を救ってくれるって思った。
絵本に出てくる王子様な容姿で、困っている主人公を助ける王子様だと、リアムは勝手に思った。だから父に無理を言って、婚約者にしてもらった。王子が自分を家庭教師から、使用人にから、なによりも無関心な家族から救ってくれると思い込んだ結果だった。
でもリアムの悪い噂を聞いていた王子は、リアムには対応が悪かった。王子は、王子様でなかった。リアムを助けるどころか、更に奈落へと突き落としていった。
側近も済まなそうな顔をするが、助けてくれることはなかった。王子の護衛騎士を目指している次兄に至っては、リアムをいない者として扱かった。
王子妃教育が始まると、更に身体中の傷は増えた。努力して覚えても誰にも褒められない。王宮でも鞭が振るわれ、鞭の傷は腕だけでなく、背中や脚にまで及ぶようになった。
しかも、王宮の者の嫌がらせで、お茶やお菓子には毒物でなくても、異物を入れられることも多々あった。クッキーにガラス片が入っていたことがあり、口の中がズタズタに切れてしまった。
この時は、王子とのお茶会であったが、いつものように王子は来なかった。
夕食しか食べれないリアムは、王子を待ち切れずに一枚のクッキーを食べた。
その中にガラス片が入っていたのだ。
口から血を流すリアムを見た王宮の使用人達は大騒ぎをした。
リアムは急ぎ救護室へと運ばれた。
医師が診察を行い、魔術師に治癒魔法で治ったが、リアムはこれ以降食べることがあまりできなくなった。
父達の元にも連絡はいったが、誰もリアムを迎えに来ることはなかった。
婚約者が王宮で怪我をしたのに、王子も見舞いに来ることなかった。
ガラス片を混入した犯人は見つかり処罰されたが、いつの間にか、リアムが王子の気を引くための自傷行為だと噂されるようになった。
日に日に痩せ細っていくリアムを見ても誰も何も言わなかった。
学園では、王子、側近、次兄達はルテウスと仲を深めていく。
家でも王宮でも学園でも、リアムの居場所はなかった。
食事をあまり取れないリアムは、養護室で度々身体を休ませてもらうが、その度に養護教諭はイヤな顔をした。
教師の耳にも届くくらいリアムの噂は、良くないものばかりになっていた。
そんな時に、裏庭で過ごしていたリアムと魔術師志望の彼は出会う。
あまりに痩せ細ったリアムを見て、彼は飴を一つくれた。
目の前で彼が舐めたから、リアムも口に入れざるをえなかった。
久しぶりの飴はとても甘く、美味しかった。リアムは思わずポロリと涙を溢した。
それから時々彼と話をするようになった。
彼は国一番の魔術師になるっていう目標を持って学園に入学してきたって言っていた。
今のリアムは、目標も夢もなかった。生きる気力さえも。だから、キラキラした瞳で語る彼はとても眩しかった。
そんなある日、いつものように裏庭にいたリアムの元に彼がやって来た。しかも何か怒っているようだった。
彼は『お前は、やっぱり最低な奴だ!』といきなり言われて、彼は走り去って行った。
リアムは何故彼にそんなことを言われたのか、わからなかった。わからないけど、彼に嫌われたことは理解した。
リアムがルテウスをイジメているという噂が流れ始め、学園中が知ることになったが、親しい友人もいないリアムには直接噂を耳にすることはなかった。
このことにより、リアムは全てを捨てた。家族も婚約者も感情も涙も全てを捨てた。
学園の最高学年になった年に、特級の災厄がアダマス王国を襲った。ルテウス、王子、側近、騎士の次兄、魔術師志望の彼、養護教諭らで、災厄である魔物を倒したと話を聞いた頃、ルテウスは教会から聖者に認定された。
そして、王宮で開かれた祝いのパーティーで、学園でリアムがルテウスを害していたとして断罪された。
王子達や家族から、自分に向けられる憎しみの眼を見て、リアムは微笑んだ。久しく笑った姿を見せていないリアムの心からの笑顔は、人を魅了するほどだった。
しかし王子達はリアムの微笑みで、何故か背筋が寒くなる。微笑む理由がわからなかったから。
リアムは微笑んだあと、隠し持っていた即効性の高い猛毒をゆっくりと口に含んだ。
甘い香りの毒だが、とても苦い毒だった。でもこの頃のリアムは、もう味覚も痛覚もなかった。そして解毒薬はない。いや、解毒薬はいらない。
リアムはわかっていた。みんなの嫌われ者だから、今日この場で断罪されることを。
もう体力は限界だったし、それなら、他人の手でなく、自らの手で幕を降ろしたいと、これがリアムの最後の望みとなる。
リアムが血を吐くまで、周りはリアムが何を飲んだのか分からなかった。
リアムは血を吐きながら、倒れる。
そして最後に、『やっと…、×××。』の言葉を残して死んでいった。最後の言葉は誰も聞き取れなかった。
リアムの死で、祝いのパーティーが、阿鼻叫喚の場と変わった。
その後リアムの飲んだ毒を調べる為に医師達が検死を行なった。そして、毒の成分と共に身体中の至る所にある傷痕も確認された。食事をあまり取れていないことで栄養失調状態も確認され、医師達はこの身体付きで日常生活を送れていたことを不思議がった。
王子はもちろんのこと、家族もリアムがそんな状態だったことは知らなかった。いや知ろうとはしなかった。
遺体をよく見れば、頬はこけていて、爪はボロボロ、髪に艶はなかった。手を握れば掌の肉はなく、すぐに折れそうな骨でゴツゴツしていた。
高位貴族の、しかも公爵家の子息とは思えないほど痩せ細っている姿に、家族は、王子や側近達は、言葉も出なかった。
5歳までの我儘なリアムがそのまま成長していたと思い込んでいた。
父である公爵が蔑ろにしているからと、それに倣った使用人や家庭教師達。悪い噂を鵜呑みにした王子に倣った王宮の者達。
学園では、王子達に気に入られているルテウスが気に入らない者達が、リアムの名を語って、ルテウスに酷い行いをしていた。そして、犯人以外の誰もが、我儘なリアムがやったことだと思っていた。
ルテウスさえも王子と仲良くなっていくほど、嫌がらせは苛烈になっていくので、婚約者であるリアムが犯人だと決めつけていた。
実際のリアムは何もしていない。リアムの最後の我儘は、8歳の時に王子との婚約を望んだことだけだった。あれから我儘を言う事はおろか、お願いすらリアムは誰にも言わなかった。
リアムの死後、見つかった日記で、家庭教師や使用人からの仕打ち、家族の放置、王子からの心ない対応、学園の日常など、リアムの真実がわかった。
日記の最後には、『ごめんなさい』とだけ書かれてあった。何に対しての謝罪なのかは永遠にわからないままとなる。
真実がわかったところで、謝罪する相手がもうこの世にはいない。今更ながら、公爵達は後悔をした。しかし嘆き悲しんだところで、リアムは生き返るわけではない。
誰に罪があるのか調べれば調べるほど、リアムに関わった者で全く罪がないと言える者は、一人もいなかった。
幼い頃は本当にやんちゃで我儘だったけど、天使のように屈託なく笑うリアムは、もういないのだ。
ただ彼の死に顔は、臓腑を焼くような痛みや吐血等で苦しかったはずなのに、とても穏やかな顔だったと言われている。
何もしていないのに、悪役令息に仕立て上げられたリアム・サファイアは、17歳という短い生涯に自ら幕を降ろした。
ー【宝石の交響曲】ファンブックより 《ゲームでは隠されたリアムの真実》より抜粋ー
元皇族の父方の祖母の高貴な顔立ち、祖父・父の白金の髪、アメジスト侯爵家出身の母の珍しい紫電の瞳を引き継ぐ。
また、末っ子という立場もあり、周りは存分に甘やかした。リアムの願いは、何でも叶った。
3歳になった頃、簡単な礼儀作法の教育が始まる。貴族である以上は身につけないといけないことだけど、リアムはじっとしていられない性格だった。
『僕は自由を愛する男だ』なんて、何かの本の台詞を引用して、礼儀作法の教育から逃げる。逃げてもすぐ捕まり、結局のところ作法を学ぶ羽目になるのだ。
家族が揃う夕食で、1人音を立てて、ぐちゃぐちゃに食べてしまう。リアムはまだ一人で上手に食べれなかった。
父達も顔を顰めても怒らない。ただ『リアムは仕方ないなぁ』としか言わなかった。
兄達は、父達がそんなリアムだけ許す姿をみて、リアムと関わりを持たなくなっていく。末っ子だからと許されるリアムに対して、良い感情を持てなくなっていった。
実際は、成長が遅いリアムを両親は見守っていただけに過ぎなかったが、兄達としては、それが面白くなかった。
5歳になり、一般教育が始まる。
この頃には、家族も使用人達もリアムの言動に呆れ果て、父である公爵に度々話が伝わっていた。
父かて領地経営で忙しいため、その都度リアムを呼んで怒ってばかりもいられない。母も父の補佐や家の切り盛りをしているので、リアムだけを構うわけにいかない。兄達も自分のことで忙しく、誰もリアムに寄り添う事はなくなった。
リアムも5歳になれば、流石にある程度の分別は付き、我儘も言わず、勉強、礼儀作法、剣術と家庭教師の言われるままをこなす日々だった。
そんな中、一人の家庭教師が『兄君達は優秀なのに』と言い出した。
リアムは決して頭が悪くないのだが、覚えるまでに時間を要する。兄達がすぐに覚えたことを、リアムは時間がかかるだけで、覚えられないわけではないのだが、人は比べたがるもので、一人が兄達と比べ出したら、周りも比べだした。
根っこの部分は素直なリアムにとって、その言葉は悪意の塊でしかなかった。
勉強を学んでも、剣術を学んでも、6歳から魔法を学んでも、いつも兄達と比べられる。
テストで良い点数を取っても褒められることはない。剣で騎士に一撃を入れても、魔法で強い攻撃魔法が打てても、それは当たり前で、しかも『上の兄君なら』『下の兄君の方が』と枕詞のように言われる。
家庭教師のそのような評価に、父達も『三男だから甘やかしし過ぎたか』と、何も言わなくなったし、報告を聞くこともなくなった。
勉強の時間は、物覚えの悪いとリアムは鞭で叩かれる。剣術の時間は、必要以上に剣で打たれる。
使用人には、我儘だったリアムの世話をしたがるものはおらず、傷は服に隠される部分のため、誰もリアムの怪我には気付かない。魔法が使えるようになってから、お風呂も魔法でお湯を入れ、一人で入っていたから、尚更傷やアザだらけの身体は、誰も気が付かなかった。
食事も家族と一緒の夕食以外は、朝食、昼食の準備はされなくなった。
誰もリアムを見ていないので、どんなにマナーが良くなっていたかも、気付かないままだった。
そんな環境で、リアムが笑わなくなるのは早かった。
8歳の顔見せのお茶会で、王子を見て、僕を救ってくれるって思った。
絵本に出てくる王子様な容姿で、困っている主人公を助ける王子様だと、リアムは勝手に思った。だから父に無理を言って、婚約者にしてもらった。王子が自分を家庭教師から、使用人にから、なによりも無関心な家族から救ってくれると思い込んだ結果だった。
でもリアムの悪い噂を聞いていた王子は、リアムには対応が悪かった。王子は、王子様でなかった。リアムを助けるどころか、更に奈落へと突き落としていった。
側近も済まなそうな顔をするが、助けてくれることはなかった。王子の護衛騎士を目指している次兄に至っては、リアムをいない者として扱かった。
王子妃教育が始まると、更に身体中の傷は増えた。努力して覚えても誰にも褒められない。王宮でも鞭が振るわれ、鞭の傷は腕だけでなく、背中や脚にまで及ぶようになった。
しかも、王宮の者の嫌がらせで、お茶やお菓子には毒物でなくても、異物を入れられることも多々あった。クッキーにガラス片が入っていたことがあり、口の中がズタズタに切れてしまった。
この時は、王子とのお茶会であったが、いつものように王子は来なかった。
夕食しか食べれないリアムは、王子を待ち切れずに一枚のクッキーを食べた。
その中にガラス片が入っていたのだ。
口から血を流すリアムを見た王宮の使用人達は大騒ぎをした。
リアムは急ぎ救護室へと運ばれた。
医師が診察を行い、魔術師に治癒魔法で治ったが、リアムはこれ以降食べることがあまりできなくなった。
父達の元にも連絡はいったが、誰もリアムを迎えに来ることはなかった。
婚約者が王宮で怪我をしたのに、王子も見舞いに来ることなかった。
ガラス片を混入した犯人は見つかり処罰されたが、いつの間にか、リアムが王子の気を引くための自傷行為だと噂されるようになった。
日に日に痩せ細っていくリアムを見ても誰も何も言わなかった。
学園では、王子、側近、次兄達はルテウスと仲を深めていく。
家でも王宮でも学園でも、リアムの居場所はなかった。
食事をあまり取れないリアムは、養護室で度々身体を休ませてもらうが、その度に養護教諭はイヤな顔をした。
教師の耳にも届くくらいリアムの噂は、良くないものばかりになっていた。
そんな時に、裏庭で過ごしていたリアムと魔術師志望の彼は出会う。
あまりに痩せ細ったリアムを見て、彼は飴を一つくれた。
目の前で彼が舐めたから、リアムも口に入れざるをえなかった。
久しぶりの飴はとても甘く、美味しかった。リアムは思わずポロリと涙を溢した。
それから時々彼と話をするようになった。
彼は国一番の魔術師になるっていう目標を持って学園に入学してきたって言っていた。
今のリアムは、目標も夢もなかった。生きる気力さえも。だから、キラキラした瞳で語る彼はとても眩しかった。
そんなある日、いつものように裏庭にいたリアムの元に彼がやって来た。しかも何か怒っているようだった。
彼は『お前は、やっぱり最低な奴だ!』といきなり言われて、彼は走り去って行った。
リアムは何故彼にそんなことを言われたのか、わからなかった。わからないけど、彼に嫌われたことは理解した。
リアムがルテウスをイジメているという噂が流れ始め、学園中が知ることになったが、親しい友人もいないリアムには直接噂を耳にすることはなかった。
このことにより、リアムは全てを捨てた。家族も婚約者も感情も涙も全てを捨てた。
学園の最高学年になった年に、特級の災厄がアダマス王国を襲った。ルテウス、王子、側近、騎士の次兄、魔術師志望の彼、養護教諭らで、災厄である魔物を倒したと話を聞いた頃、ルテウスは教会から聖者に認定された。
そして、王宮で開かれた祝いのパーティーで、学園でリアムがルテウスを害していたとして断罪された。
王子達や家族から、自分に向けられる憎しみの眼を見て、リアムは微笑んだ。久しく笑った姿を見せていないリアムの心からの笑顔は、人を魅了するほどだった。
しかし王子達はリアムの微笑みで、何故か背筋が寒くなる。微笑む理由がわからなかったから。
リアムは微笑んだあと、隠し持っていた即効性の高い猛毒をゆっくりと口に含んだ。
甘い香りの毒だが、とても苦い毒だった。でもこの頃のリアムは、もう味覚も痛覚もなかった。そして解毒薬はない。いや、解毒薬はいらない。
リアムはわかっていた。みんなの嫌われ者だから、今日この場で断罪されることを。
もう体力は限界だったし、それなら、他人の手でなく、自らの手で幕を降ろしたいと、これがリアムの最後の望みとなる。
リアムが血を吐くまで、周りはリアムが何を飲んだのか分からなかった。
リアムは血を吐きながら、倒れる。
そして最後に、『やっと…、×××。』の言葉を残して死んでいった。最後の言葉は誰も聞き取れなかった。
リアムの死で、祝いのパーティーが、阿鼻叫喚の場と変わった。
その後リアムの飲んだ毒を調べる為に医師達が検死を行なった。そして、毒の成分と共に身体中の至る所にある傷痕も確認された。食事をあまり取れていないことで栄養失調状態も確認され、医師達はこの身体付きで日常生活を送れていたことを不思議がった。
王子はもちろんのこと、家族もリアムがそんな状態だったことは知らなかった。いや知ろうとはしなかった。
遺体をよく見れば、頬はこけていて、爪はボロボロ、髪に艶はなかった。手を握れば掌の肉はなく、すぐに折れそうな骨でゴツゴツしていた。
高位貴族の、しかも公爵家の子息とは思えないほど痩せ細っている姿に、家族は、王子や側近達は、言葉も出なかった。
5歳までの我儘なリアムがそのまま成長していたと思い込んでいた。
父である公爵が蔑ろにしているからと、それに倣った使用人や家庭教師達。悪い噂を鵜呑みにした王子に倣った王宮の者達。
学園では、王子達に気に入られているルテウスが気に入らない者達が、リアムの名を語って、ルテウスに酷い行いをしていた。そして、犯人以外の誰もが、我儘なリアムがやったことだと思っていた。
ルテウスさえも王子と仲良くなっていくほど、嫌がらせは苛烈になっていくので、婚約者であるリアムが犯人だと決めつけていた。
実際のリアムは何もしていない。リアムの最後の我儘は、8歳の時に王子との婚約を望んだことだけだった。あれから我儘を言う事はおろか、お願いすらリアムは誰にも言わなかった。
リアムの死後、見つかった日記で、家庭教師や使用人からの仕打ち、家族の放置、王子からの心ない対応、学園の日常など、リアムの真実がわかった。
日記の最後には、『ごめんなさい』とだけ書かれてあった。何に対しての謝罪なのかは永遠にわからないままとなる。
真実がわかったところで、謝罪する相手がもうこの世にはいない。今更ながら、公爵達は後悔をした。しかし嘆き悲しんだところで、リアムは生き返るわけではない。
誰に罪があるのか調べれば調べるほど、リアムに関わった者で全く罪がないと言える者は、一人もいなかった。
幼い頃は本当にやんちゃで我儘だったけど、天使のように屈託なく笑うリアムは、もういないのだ。
ただ彼の死に顔は、臓腑を焼くような痛みや吐血等で苦しかったはずなのに、とても穏やかな顔だったと言われている。
何もしていないのに、悪役令息に仕立て上げられたリアム・サファイアは、17歳という短い生涯に自ら幕を降ろした。
ー【宝石の交響曲】ファンブックより 《ゲームでは隠されたリアムの真実》より抜粋ー
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