4 / 20
4.ご破算になった約束と新たな提案1
しおりを挟む
「お久しぶりでございます、ヴィクトリア様」
「本当に久しぶりね、グレイ。まあ、あなたはクリメンス様付の侍従ですもの。あの方とお会いすることがなければ会う事もないでしょうけど……あなた一人?」
一瞬、グレイの顔が強張った。
その瞬間、ヴィクトリアは全てを悟る。後ろに控えているロザリーは今すぐにでも噛みつかんばかりにグレイを睨みつけた。きっと口を開け相手を罵倒するような言葉が飛び出してくることは想像できた。
「申し訳ありません。クリメンス様は本日別のご予定が入りまして、こちらに伺う事ができなくなりました」
「また!? 一体何度目だと――!!」
「ロザリー」
窘める様に名を呼べば、忠実な侍女は口を閉じた。
まだまだ言い足りない彼女は、きっとこの後散々文句と愚痴が出てくるだろう。
それもヴィクトリアを思っての事だと知っているので、叱ることも出来ない。
「まだ、マシだと思うしかないわね。いつぞやかは、鐘二つ分も待たされた挙句、凍死しそうになった記憶もあるもの。今日は熱中症になる前に来てくれて助かったわ。そう思う事にしましょう、ロザリー」
「お嬢様……」
「グレイもいつも嫌な役目押し付けられて大変ね。もう分かったから行っていいわよ」
グレイは心底申し訳なさそうにしながら、頭をきっちりと下げて去っていく。
彼はクリメンス付きになってから、いつもこんな役回りばかりさせられている。
他の侍従は横柄な態度があからさまに出ているのに対し、彼だけはいつも申し訳なさそうに頭を下げてくれていた。
そのせいで、なんだか申し訳なく思ってしまうのだ。
自分とクリメンスが上手くいっていないこともあって、気を使わせてしまっていると。しかもここ最近、こんな役回りが多い。主従の間で何があったのかは分からないが、グレイがクリメンスに冷遇されているように感じた。
相手はクリメンス側の人間ではあるが、流石に同情してしまうところがあった。
「お嬢様は優しすぎます」
「そうかしら? それほどでもないわよ。少なくとも、クリメンス様には言いたいことはたくさんあるけど、グレイにそれを言っても仕方がないでしょう?」
「グレイさんも、早く辞めればいいのに」
「ロザリー、言い過ぎよ。きっと何か思うところがあるのでしょう」
ロザリーは納得できないようではあったが、それでもグレイの置かれている立場には思うところがあるようだで、それ以上何も言わなかった。
しかし、これからどうしようかと軽く息を吐いた。
このまま帰れば自宅内でまたかという空気になり、両親にも心配かけてしまう。
だからと言って、この暑さの中外をうろつく気にもなれなかった。
心配されるのは仕方ないが、ここ最近はそれが過剰になりがちなので、それもまた負担だったが、帰るしかないかとベンチから立ち上がろうとした。
その時、待ち人が来たと言って離れていったルドヴィックがこちらを見ていた。
向こうも、待ち人との話は終わったのに、こちらを気にしているようだった。
メイドが待ち人というのもおかしな話だったので、もしかしたらヴィクトリアのように予定がキャンセルされたのかも知れないと思い至る。
目が合うと苦笑されて、ヴィクトリアも困ったように笑うしかない。
そのまま去ってくれればよかったのに、ルドヴィックは何を思ったのかヴィクトリアの方に戻ってきて、すっと手を差し出した。
どうやら、立ち上がるために手を貸してくれるようだ。
なんとも、紳士だ。昔は何をするにも男性が女性に手を貸すのは良くある行為ではあったが、最近ではそういう文化もなくなってきている。
理由は、どちらも煩わしいから、らしい。
男性側は、やってもらって当たり前という女性に辟易して、女性側は、頼んでもいないのにそんな事されたくない、という自立心旺盛な女性が増えてきたせい――とは言われているが、結局は良く分からない。
女性側の立場からすれば、確かに全く知らないような男性からそんなことされたら怖いが、彼の様に顔の整った男性にしてもらえるとやはり少し心が浮き足立ったりする。もちろん、勘違いするようなことはないが。
「ありがとうございます」
「いえ、男として当然の――……」
一瞬しまったという顔になり、言葉に詰まるルドヴィックに、ヴィクトリアは首を傾げた
「どうされましたか?」
ヴィクトリアは差し出された手の上に自分の手を重ねながら聞くと、彼は少し戸惑いながらヴィクトリアの手を引く。
「いえ、最近の若い女性はこういう事は好まないと聞いていたのですが、うっかりと手を差し伸べてしまったので、嫌な気持ちにさせてしまったかと思いまして……」
「若い女性って……」
そっきからその言い回しにヴィクトリアは思わず口元が緩んでしまった。
おそらく相手は至極真面目に返したのに、失礼かと思って口元を隠すように手を当てるが、おそらく見られている。
「あなたは十分、若いと思いますよ。私の婚約者と同じくらいでは?」
「まさか! そんなに若くはないですよ。おそらく若く見えているのはこの化粧のせいかもしれません。それともドレスでしょうか? 自分でも年のわりに痛い恰好していると思っているのですけど」
ルドヴィックの婚約者はヴィクトリアでも良く知っている相手だ。
特別かかわりはないが、社交界では有名な美少女。
今年十八になり、今が花の盛りで社交界の華として君臨している少女の事を知らない人はいない。
そんな相手と結婚適齢期から数年たったヴィクトリアとでは全く違う。
「わたくしは本来の見た目は随分年上なんですよ。少なくとも、ルドヴィック様のご婚約者様よりは年上です」
「そうでしょうか? そうは見えません」
社交辞令でも、そんな風に真面目に返されると照れてしまう。
日傘で顔を隠す様に傾けた。
「本当に久しぶりね、グレイ。まあ、あなたはクリメンス様付の侍従ですもの。あの方とお会いすることがなければ会う事もないでしょうけど……あなた一人?」
一瞬、グレイの顔が強張った。
その瞬間、ヴィクトリアは全てを悟る。後ろに控えているロザリーは今すぐにでも噛みつかんばかりにグレイを睨みつけた。きっと口を開け相手を罵倒するような言葉が飛び出してくることは想像できた。
「申し訳ありません。クリメンス様は本日別のご予定が入りまして、こちらに伺う事ができなくなりました」
「また!? 一体何度目だと――!!」
「ロザリー」
窘める様に名を呼べば、忠実な侍女は口を閉じた。
まだまだ言い足りない彼女は、きっとこの後散々文句と愚痴が出てくるだろう。
それもヴィクトリアを思っての事だと知っているので、叱ることも出来ない。
「まだ、マシだと思うしかないわね。いつぞやかは、鐘二つ分も待たされた挙句、凍死しそうになった記憶もあるもの。今日は熱中症になる前に来てくれて助かったわ。そう思う事にしましょう、ロザリー」
「お嬢様……」
「グレイもいつも嫌な役目押し付けられて大変ね。もう分かったから行っていいわよ」
グレイは心底申し訳なさそうにしながら、頭をきっちりと下げて去っていく。
彼はクリメンス付きになってから、いつもこんな役回りばかりさせられている。
他の侍従は横柄な態度があからさまに出ているのに対し、彼だけはいつも申し訳なさそうに頭を下げてくれていた。
そのせいで、なんだか申し訳なく思ってしまうのだ。
自分とクリメンスが上手くいっていないこともあって、気を使わせてしまっていると。しかもここ最近、こんな役回りが多い。主従の間で何があったのかは分からないが、グレイがクリメンスに冷遇されているように感じた。
相手はクリメンス側の人間ではあるが、流石に同情してしまうところがあった。
「お嬢様は優しすぎます」
「そうかしら? それほどでもないわよ。少なくとも、クリメンス様には言いたいことはたくさんあるけど、グレイにそれを言っても仕方がないでしょう?」
「グレイさんも、早く辞めればいいのに」
「ロザリー、言い過ぎよ。きっと何か思うところがあるのでしょう」
ロザリーは納得できないようではあったが、それでもグレイの置かれている立場には思うところがあるようだで、それ以上何も言わなかった。
しかし、これからどうしようかと軽く息を吐いた。
このまま帰れば自宅内でまたかという空気になり、両親にも心配かけてしまう。
だからと言って、この暑さの中外をうろつく気にもなれなかった。
心配されるのは仕方ないが、ここ最近はそれが過剰になりがちなので、それもまた負担だったが、帰るしかないかとベンチから立ち上がろうとした。
その時、待ち人が来たと言って離れていったルドヴィックがこちらを見ていた。
向こうも、待ち人との話は終わったのに、こちらを気にしているようだった。
メイドが待ち人というのもおかしな話だったので、もしかしたらヴィクトリアのように予定がキャンセルされたのかも知れないと思い至る。
目が合うと苦笑されて、ヴィクトリアも困ったように笑うしかない。
そのまま去ってくれればよかったのに、ルドヴィックは何を思ったのかヴィクトリアの方に戻ってきて、すっと手を差し出した。
どうやら、立ち上がるために手を貸してくれるようだ。
なんとも、紳士だ。昔は何をするにも男性が女性に手を貸すのは良くある行為ではあったが、最近ではそういう文化もなくなってきている。
理由は、どちらも煩わしいから、らしい。
男性側は、やってもらって当たり前という女性に辟易して、女性側は、頼んでもいないのにそんな事されたくない、という自立心旺盛な女性が増えてきたせい――とは言われているが、結局は良く分からない。
女性側の立場からすれば、確かに全く知らないような男性からそんなことされたら怖いが、彼の様に顔の整った男性にしてもらえるとやはり少し心が浮き足立ったりする。もちろん、勘違いするようなことはないが。
「ありがとうございます」
「いえ、男として当然の――……」
一瞬しまったという顔になり、言葉に詰まるルドヴィックに、ヴィクトリアは首を傾げた
「どうされましたか?」
ヴィクトリアは差し出された手の上に自分の手を重ねながら聞くと、彼は少し戸惑いながらヴィクトリアの手を引く。
「いえ、最近の若い女性はこういう事は好まないと聞いていたのですが、うっかりと手を差し伸べてしまったので、嫌な気持ちにさせてしまったかと思いまして……」
「若い女性って……」
そっきからその言い回しにヴィクトリアは思わず口元が緩んでしまった。
おそらく相手は至極真面目に返したのに、失礼かと思って口元を隠すように手を当てるが、おそらく見られている。
「あなたは十分、若いと思いますよ。私の婚約者と同じくらいでは?」
「まさか! そんなに若くはないですよ。おそらく若く見えているのはこの化粧のせいかもしれません。それともドレスでしょうか? 自分でも年のわりに痛い恰好していると思っているのですけど」
ルドヴィックの婚約者はヴィクトリアでも良く知っている相手だ。
特別かかわりはないが、社交界では有名な美少女。
今年十八になり、今が花の盛りで社交界の華として君臨している少女の事を知らない人はいない。
そんな相手と結婚適齢期から数年たったヴィクトリアとでは全く違う。
「わたくしは本来の見た目は随分年上なんですよ。少なくとも、ルドヴィック様のご婚約者様よりは年上です」
「そうでしょうか? そうは見えません」
社交辞令でも、そんな風に真面目に返されると照れてしまう。
日傘で顔を隠す様に傾けた。
71
あなたにおすすめの小説
差し出された毒杯
しろねこ。
恋愛
深い森の中。
一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。
「あなたのその表情が見たかった」
毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。
王妃は少女の美しさが妬ましかった。
そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。
スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。
お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。
か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。
ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。
同名キャラで複数の作品を書いています。
立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。
ところどころリンクもしています。
※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
王子に買われた妹と隣国に売られた私
京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。
サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。
リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。
それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。
サリウスは王様に向かい上奏する。
「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」
リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした
<モンタナ事件から18年後の世界の物語>
私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―!
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~
白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…?
全7話です。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。
久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」
煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。
その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。
だったら良いでしょう。
私が綺麗に断罪して魅せますわ!
令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?
婚約者に好きな人がいると言われ、スパダリ幼馴染にのりかえることにした
みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり――――――
🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる