年下の婚約者から年上の婚約者に変わりました

チカフジ ユキ

文字の大きさ
8 / 20

8.迷惑な訪問者と突然の訪問者1

しおりを挟む
 それから数日、時間が空くとあの日の事を思い出してしまう。
 甘いお菓子を食べながら話をした内容はありきたりだったが、切り返しが上手いのか、全く飽きてこなかった。
 会話を楽しませるというのはなかなか難しい。
 それを自然にやっているようなので、もし本気で詐欺師なんかにでもなったらその巧みな話術で人を騙すことくらい簡単にやってのけそうだ。
 それ以前に、彼ほどの整った顔立ちなら、まずは女性が連れそうだだが。
 まあ、騎士団長をやっているのだから、色々と弁がたたなければ上層部の腹黒文官の方々とやり合えないだろうから、そこで鍛えられたのかも知れない。
 そこまで考えて頭を振った。

――あの方の事を考えていると浮気じゃないのに、浮気している様だわ

 あの場にはお互い侍女と侍従がいた。
 それに、御用聞きの店の店員だっていた。
 しかし、そういう問題ではない。
 心が、あの日あの時間を恋しいと思っている。

「駄目だわ……忘れなければ」

 心の裏切りは、結局は浮気――裏切りの行為だとヴィクトリアは思っている。
 クレメンスの噂の中には、女性とのうわさもある。だからこそ自分も同類にはなりたくない。
 ふうと息を吐くのと同時に、慌ただしく扉がノックされて、返事をする前に父が入って来た。
 目が吊り上がり、何か良くない事がおこったのだとすぐに分かった。

「お父様、どうされたのですか?」
「伯爵家の者が婚約破棄に来た」
「えっ?」

 驚きで、座っていた椅子からがたりと立ち上がる。
 父親はその表情だけでなく声まで硬い。
 今さらと思わなくもないが、今まで破談にさえ応じなかった事を考えると色んな意味で前進ともとれるが、父の表情は歓迎できるようなものではないと言っていた。

「何か、良くない条件でも言われたのですか?」
「我が家に有責があると――……、慰謝料の支払いを求めてきている」
「はぁ?」

 むしろ、今までの行いでいえば向こうが支払うべき事だ。
 成人して何年ものらりくらりと結婚を先延ばし、さらには浮気までしているとの噂だ。浮気は違うと向こうは言う。
 ただの遊びだと。
 結婚前の男性には必要な勉強の一貫なのだとおかしな事も言われた。
 下位貴族には分からない上位貴族の付き合いなのだと言われれば、おかしいと思っても父も口を噤むほかない。
 つまり、不誠実な方なのは相手側。
 それなのに、ヴィクトリア側に慰謝料を求めてくるとは一体どういうことなのか。

「お前がほかの男と会っていると言ってきているが、それは本当か?」

 仕事着のままだが、そんな事は言っていられない。
 父と連れだって、応接室に向かう。
 その間に、念のためにとヴィクトリアに事実関係を尋ねる父親に、はっきりと否定した。

「仕事の関係で男性と会う事はありますが、必ず侍女か従業員を同席させています。二人きりで会ったことなど一度だってありません」

 きっぱりとヴィクトリアは言った。
 一瞬、数日前の事が頭をよぎったが目を伏せて否定する。
 あの時だって二人きりではない。

「それは心配していない。お前はいつだって誠実だ」

 子爵家は商人家系。信用第一を常に心がけている。
 一番はじめに教わることもそれだ。そのおかげで多くの人から信頼してもらえているのだ。

「言い分を聞かない事には始まりませんわ、お父様」
「……こんな事になるのなら、無理にでも断れば良かった」
「それこそ今さらです。それに、当時はわたくしもそれが一番いいと思っていましたもの。わたくし自身が納得して受けた話ですから、お父様の責任だけではありませんわ。わたくし、どうやら男を見る目がないようです」

 軽口の様に言えば、多少父親の罪悪感が減らせるかと思ったが、逆効果のようだった。気を使わせたと思われたようで、目じりが下がっていた。

「すまん、わしもお前が決めたのだからと――もう成人したのだからお前の意見を最優先に考えた……実は一目ぼれしたのではないかとも思っていた」
「なぜ、そんな考えに?」
「中身はどうであれ、あれは見てくれだけはまあまあだからな」

 そんな事を考えていたとは知らなかった。
 父親の言う通り、クレメンスはなかなか人気のある若者だった。
 当時は学校の成績も良かったし、なにより明るく人を引き付けるような輝きがあって、同年代の女子には大層人気だった。
 おかげで婚約当初は色々苦労したが、そもそもヴィクトリアは年上で、同じ学校にいた期間は短い。
 そのため、被害は少なかったのが救いだ。
 しかし、まさか一目惚れして婚約したと思われていたとは思わなかったので、ヴィクトリアは苦笑しかない。

「お父様がロマンチストな事を忘れていました」
「運命は信じる方だからな」
「お父様、申し訳ありません。わたくしが至らなかったからこんな事になってしまって……」
「お前のせいではない。わしにも責任があるし、最大に悪いのは、向こうだ」

 そうであっても、結局一番迷惑をかける終わり方になりそうで気が重かった。


しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

差し出された毒杯

しろねこ。
恋愛
深い森の中。 一人のお姫様が王妃より毒杯を授けられる。 「あなたのその表情が見たかった」 毒を飲んだことにより、少女の顔は苦悶に満ちた表情となる。 王妃は少女の美しさが妬ましかった。 そこで命を落としたとされる少女を助けるは一人の王子。 スラリとした体型の美しい王子、ではなく、体格の良い少し脳筋気味な王子。 お供をするは、吊り目で小柄な見た目も中身も猫のように気まぐれな従者。 か○みよ、○がみ…ではないけれど、毒と美しさに翻弄される女性と立ち向かうお姫様なお話。 ハピエン大好き、自己満、ご都合主義な作者による作品です。 同名キャラで複数の作品を書いています。 立場やシチュエーションがちょっと違ったり、サブキャラがメインとなるストーリーをなどを書いています。 ところどころリンクもしています。 ※小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿しています!

婚約破棄ですか? ならば国王に溺愛されている私が断罪致します。

久方
恋愛
「エミア・ローラン! お前との婚約を破棄する!」  煌びやかな舞踏会の真っ最中に突然、婚約破棄を言い渡されたエミア・ローラン。  その理由とやらが、とてつもなくしょうもない。  だったら良いでしょう。  私が綺麗に断罪して魅せますわ!  令嬢エミア・ローランの考えた秘策とは!?

おかえりなさい。どうぞ、お幸せに。さようなら。

石河 翠
恋愛
主人公は神託により災厄と呼ばれ、蔑まれてきた。家族もなく、神殿で罪人のように暮らしている。 ある時彼女のもとに、見目麗しい騎士がやってくる。警戒する彼女だったが、彼は傷つき怯えた彼女に救いの手を差し伸べた。 騎士のもとで、子ども時代をやり直すように穏やかに過ごす彼女。やがて彼女は騎士に恋心を抱くようになる。騎士に想いが伝わらなくても、彼女はこの生活に満足していた。 ところが神殿から疎まれた騎士は、戦場の最前線に送られることになる。無事を祈る彼女だったが、騎士の訃報が届いたことにより彼女は絶望する。 力を手に入れた彼女は世界を滅ぼすことを望むが……。 騎士の幸せを願ったヒロインと、ヒロインを心から愛していたヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:25824590)をお借りしています。

【完結】婚約を白紙にと、言われた直後に一緒に階段から落ち婚約者と入れ替わってしまいました

青波鳩子
恋愛
兄弟である祖父同士が婚約を決めた、カートフォード公爵家のフィンリーとローレンス公爵家のエレノア。 同い年の二人は幼い頃は仲が良かったのに王立学園に入った頃からすれ違い、話もせず目も合わせないという状態だった。 ある日、学園の大階段でフィンリーがエレノアに「婚約を白紙にしたい」と伝える。 その直後、足を踏み外したエレノアをフィンリーが引き寄せ抱きとめたまま階段を転がり落ちた。 フィンリーが目覚めると、婚約を白紙にと伝えたばかりのエレノアの姿に入れ替わっていた。自分の身体はどこにあるのか、どうしたら入れ替わりから元に戻れるのか。 約6万字の中編ですが、中編というカテゴリがないため短編としています。 他サイトでも公開中、そちらで公開したものから加筆・修正が入っています。 ハッピーエンドです。

公爵様の偏愛〜婚約破棄を目指して記憶喪失のふりをした私を年下公爵様は逃がさない〜

菱田もな
恋愛
エルーシア・ローゼにはとある悩みがあった。それはルーカス・アーレンベルクとの婚約関係についてである。公爵令息であり国一番の魔術師でもあるルーカスと平凡な自分では何もかも釣り合わない。おまけにルーカスからの好感度も0に等しい。こんな婚約関係なら解消した方が幸せなのでは…?そう思い、エルーシアは婚約解消をしてもらうために、記憶喪失のフリをする計画を立てた。 元々冷めきった関係であるため、上手くいくと思っていたが、何故かルーカスは婚約解消を拒絶する。そして、彼女の軽率な行動によって、ルーカスとの関係は思いもよらぬ方向に向かってしまい…? ※他サイトでも掲載中しております。

王子に買われた妹と隣国に売られた私

京月
恋愛
スペード王国の公爵家の娘であるリリア・ジョーカーは三歳下の妹ユリ・ジョーカーと私の婚約者であり幼馴染でもあるサリウス・スペードといつも一緒に遊んでいた。 サリウスはリリアに好意があり大きくなったらリリアと結婚すると言っており、ユリもいつも姉さま大好きとリリアを慕っていた。 リリアが十八歳になったある日スペード王国で反乱がおきその首謀者として父と母が処刑されてしまう。姉妹は王様のいる玉座の間で手を後ろに縛られたまま床に頭をつけ王様からそして処刑を言い渡された。 それに異議を唱えながら玉座の間に入って来たのはサリウスだった。 サリウスは王様に向かい上奏する。 「父上、どうか"ユリ・ジョーカー"の処刑を取りやめにし俺に身柄をくださいませんか」 リリアはユリが不敵に笑っているのが見えた。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります 番外編<悪女の娘>

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
私の母は実母を陥れた悪女でした <モンタナ事件から18年後の世界の物語> 私の名前はアンジェリカ・レスタ― 18歳。判事の父と秘書を務める母ライザは何故か悪女と呼ばれている。その謎を探るために、時折どこかへ出かける母の秘密を探る為に、たどり着いた私は衝撃の事実を目の当たりにする事に―! ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

冷徹公爵閣下は、書庫の片隅で私に求婚なさった ~理由不明の政略結婚のはずが、なぜか溺愛されています~

白桃
恋愛
「お前を私の妻にする」――王宮書庫で働く地味な子爵令嬢エレノアは、ある日突然、<氷龍公爵>と恐れられる冷徹なヴァレリウス公爵から理由も告げられず求婚された。政略結婚だと割り切り、孤独と不安を抱えて嫁いだ先は、まるで氷の城のような公爵邸。しかし、彼女が唯一安らぎを見出したのは、埃まみれの広大な書庫だった。ひたすら書物と向き合う彼女の姿が、感情がないはずの公爵の心を少しずつ溶かし始め…? 全7話です。

処理中です...