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8.迷惑な訪問者と突然の訪問者1
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それから数日、時間が空くとあの日の事を思い出してしまう。
甘いお菓子を食べながら話をした内容はありきたりだったが、切り返しが上手いのか、全く飽きてこなかった。
会話を楽しませるというのはなかなか難しい。
それを自然にやっているようなので、もし本気で詐欺師なんかにでもなったらその巧みな話術で人を騙すことくらい簡単にやってのけそうだ。
それ以前に、彼ほどの整った顔立ちなら、まずは女性が連れそうだだが。
まあ、騎士団長をやっているのだから、色々と弁がたたなければ上層部の腹黒文官の方々とやり合えないだろうから、そこで鍛えられたのかも知れない。
そこまで考えて頭を振った。
――あの方の事を考えていると浮気じゃないのに、浮気している様だわ
あの場にはお互い侍女と侍従がいた。
それに、御用聞きの店の店員だっていた。
しかし、そういう問題ではない。
心が、あの日あの時間を恋しいと思っている。
「駄目だわ……忘れなければ」
心の裏切りは、結局は浮気――裏切りの行為だとヴィクトリアは思っている。
クレメンスの噂の中には、女性とのうわさもある。だからこそ自分も同類にはなりたくない。
ふうと息を吐くのと同時に、慌ただしく扉がノックされて、返事をする前に父が入って来た。
目が吊り上がり、何か良くない事がおこったのだとすぐに分かった。
「お父様、どうされたのですか?」
「伯爵家の者が婚約破棄に来た」
「えっ?」
驚きで、座っていた椅子からがたりと立ち上がる。
父親はその表情だけでなく声まで硬い。
今さらと思わなくもないが、今まで破談にさえ応じなかった事を考えると色んな意味で前進ともとれるが、父の表情は歓迎できるようなものではないと言っていた。
「何か、良くない条件でも言われたのですか?」
「我が家に有責があると――……、慰謝料の支払いを求めてきている」
「はぁ?」
むしろ、今までの行いでいえば向こうが支払うべき事だ。
成人して何年ものらりくらりと結婚を先延ばし、さらには浮気までしているとの噂だ。浮気は違うと向こうは言う。
ただの遊びだと。
結婚前の男性には必要な勉強の一貫なのだとおかしな事も言われた。
下位貴族には分からない上位貴族の付き合いなのだと言われれば、おかしいと思っても父も口を噤むほかない。
つまり、不誠実な方なのは相手側。
それなのに、ヴィクトリア側に慰謝料を求めてくるとは一体どういうことなのか。
「お前がほかの男と会っていると言ってきているが、それは本当か?」
仕事着のままだが、そんな事は言っていられない。
父と連れだって、応接室に向かう。
その間に、念のためにとヴィクトリアに事実関係を尋ねる父親に、はっきりと否定した。
「仕事の関係で男性と会う事はありますが、必ず侍女か従業員を同席させています。二人きりで会ったことなど一度だってありません」
きっぱりとヴィクトリアは言った。
一瞬、数日前の事が頭をよぎったが目を伏せて否定する。
あの時だって二人きりではない。
「それは心配していない。お前はいつだって誠実だ」
子爵家は商人家系。信用第一を常に心がけている。
一番はじめに教わることもそれだ。そのおかげで多くの人から信頼してもらえているのだ。
「言い分を聞かない事には始まりませんわ、お父様」
「……こんな事になるのなら、無理にでも断れば良かった」
「それこそ今さらです。それに、当時はわたくしもそれが一番いいと思っていましたもの。わたくし自身が納得して受けた話ですから、お父様の責任だけではありませんわ。わたくし、どうやら男を見る目がないようです」
軽口の様に言えば、多少父親の罪悪感が減らせるかと思ったが、逆効果のようだった。気を使わせたと思われたようで、目じりが下がっていた。
「すまん、わしもお前が決めたのだからと――もう成人したのだからお前の意見を最優先に考えた……実は一目ぼれしたのではないかとも思っていた」
「なぜ、そんな考えに?」
「中身はどうであれ、あれは見てくれだけはまあまあだからな」
そんな事を考えていたとは知らなかった。
父親の言う通り、クレメンスはなかなか人気のある若者だった。
当時は学校の成績も良かったし、なにより明るく人を引き付けるような輝きがあって、同年代の女子には大層人気だった。
おかげで婚約当初は色々苦労したが、そもそもヴィクトリアは年上で、同じ学校にいた期間は短い。
そのため、被害は少なかったのが救いだ。
しかし、まさか一目惚れして婚約したと思われていたとは思わなかったので、ヴィクトリアは苦笑しかない。
「お父様がロマンチストな事を忘れていました」
「運命は信じる方だからな」
「お父様、申し訳ありません。わたくしが至らなかったからこんな事になってしまって……」
「お前のせいではない。わしにも責任があるし、最大に悪いのは、向こうだ」
そうであっても、結局一番迷惑をかける終わり方になりそうで気が重かった。
甘いお菓子を食べながら話をした内容はありきたりだったが、切り返しが上手いのか、全く飽きてこなかった。
会話を楽しませるというのはなかなか難しい。
それを自然にやっているようなので、もし本気で詐欺師なんかにでもなったらその巧みな話術で人を騙すことくらい簡単にやってのけそうだ。
それ以前に、彼ほどの整った顔立ちなら、まずは女性が連れそうだだが。
まあ、騎士団長をやっているのだから、色々と弁がたたなければ上層部の腹黒文官の方々とやり合えないだろうから、そこで鍛えられたのかも知れない。
そこまで考えて頭を振った。
――あの方の事を考えていると浮気じゃないのに、浮気している様だわ
あの場にはお互い侍女と侍従がいた。
それに、御用聞きの店の店員だっていた。
しかし、そういう問題ではない。
心が、あの日あの時間を恋しいと思っている。
「駄目だわ……忘れなければ」
心の裏切りは、結局は浮気――裏切りの行為だとヴィクトリアは思っている。
クレメンスの噂の中には、女性とのうわさもある。だからこそ自分も同類にはなりたくない。
ふうと息を吐くのと同時に、慌ただしく扉がノックされて、返事をする前に父が入って来た。
目が吊り上がり、何か良くない事がおこったのだとすぐに分かった。
「お父様、どうされたのですか?」
「伯爵家の者が婚約破棄に来た」
「えっ?」
驚きで、座っていた椅子からがたりと立ち上がる。
父親はその表情だけでなく声まで硬い。
今さらと思わなくもないが、今まで破談にさえ応じなかった事を考えると色んな意味で前進ともとれるが、父の表情は歓迎できるようなものではないと言っていた。
「何か、良くない条件でも言われたのですか?」
「我が家に有責があると――……、慰謝料の支払いを求めてきている」
「はぁ?」
むしろ、今までの行いでいえば向こうが支払うべき事だ。
成人して何年ものらりくらりと結婚を先延ばし、さらには浮気までしているとの噂だ。浮気は違うと向こうは言う。
ただの遊びだと。
結婚前の男性には必要な勉強の一貫なのだとおかしな事も言われた。
下位貴族には分からない上位貴族の付き合いなのだと言われれば、おかしいと思っても父も口を噤むほかない。
つまり、不誠実な方なのは相手側。
それなのに、ヴィクトリア側に慰謝料を求めてくるとは一体どういうことなのか。
「お前がほかの男と会っていると言ってきているが、それは本当か?」
仕事着のままだが、そんな事は言っていられない。
父と連れだって、応接室に向かう。
その間に、念のためにとヴィクトリアに事実関係を尋ねる父親に、はっきりと否定した。
「仕事の関係で男性と会う事はありますが、必ず侍女か従業員を同席させています。二人きりで会ったことなど一度だってありません」
きっぱりとヴィクトリアは言った。
一瞬、数日前の事が頭をよぎったが目を伏せて否定する。
あの時だって二人きりではない。
「それは心配していない。お前はいつだって誠実だ」
子爵家は商人家系。信用第一を常に心がけている。
一番はじめに教わることもそれだ。そのおかげで多くの人から信頼してもらえているのだ。
「言い分を聞かない事には始まりませんわ、お父様」
「……こんな事になるのなら、無理にでも断れば良かった」
「それこそ今さらです。それに、当時はわたくしもそれが一番いいと思っていましたもの。わたくし自身が納得して受けた話ですから、お父様の責任だけではありませんわ。わたくし、どうやら男を見る目がないようです」
軽口の様に言えば、多少父親の罪悪感が減らせるかと思ったが、逆効果のようだった。気を使わせたと思われたようで、目じりが下がっていた。
「すまん、わしもお前が決めたのだからと――もう成人したのだからお前の意見を最優先に考えた……実は一目ぼれしたのではないかとも思っていた」
「なぜ、そんな考えに?」
「中身はどうであれ、あれは見てくれだけはまあまあだからな」
そんな事を考えていたとは知らなかった。
父親の言う通り、クレメンスはなかなか人気のある若者だった。
当時は学校の成績も良かったし、なにより明るく人を引き付けるような輝きがあって、同年代の女子には大層人気だった。
おかげで婚約当初は色々苦労したが、そもそもヴィクトリアは年上で、同じ学校にいた期間は短い。
そのため、被害は少なかったのが救いだ。
しかし、まさか一目惚れして婚約したと思われていたとは思わなかったので、ヴィクトリアは苦笑しかない。
「お父様がロマンチストな事を忘れていました」
「運命は信じる方だからな」
「お父様、申し訳ありません。わたくしが至らなかったからこんな事になってしまって……」
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