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アリーシアは、金の力で成り上がった子爵家の娘だ。
父親である子爵は権力欲が強く、娘は上級貴族とつながるための道具でしかない。
その扱いが平等であるのなら、アリーシアは何も思わなかったかも知れない。
しかし、親としての愛情の偏りをはっきり知ってしまった瞬間に、愛されたいという思いが芽生えてしまった。
それが不幸だったのかは分からない。
でも、その愛されたい思いが、結婚という形に向かったのもまた事実だった。
結婚すればこの家から出て行ける。
そして、夫となる人とお互い尊重して暖かな家庭を築いていけたら……。
そう思いながら過ごし、十五になったばかりの頃、社交界デビューを果たしすぐに結婚が決まった。
当然政略結婚だ。
相手の事など良く分からない。
ただ、その名を聞いて、噂話に疎いアリーシアでも驚くくらいには名家だった。
しかも、なかなかの美男子としても有名な人。
アリーシアよりも十歳年上だけど、だからこそ守ってもらえるような安心感があった。
そんな人がなぜ結婚していないのか、というのはさすがにすぐにわかる。
名家とはいえ、落ちぶれ始めているからだ。
お金のない家に嫁ぎたいと思うような上級貴族のご令嬢がいなかった。
それでも伯爵ではなく侯爵くらいになればそこそこの旨味もあるが、伯爵家程度では満足しなかったのだ。
実際持参金が豊富にあるような家の娘は、引く手数多。
結局、アリーシアのような下級貴族出身の女性しか残っていなかった。
その中でも、なぜアリーシアだったのかと言えば、もちろん持参金の多さに加え、その後の援助金も莫大だったからだ。
何度か会う予定も立ててはいたが、その全てを当日キャンセルされ、結局アリーシアが夫となるヘンリーに会ったのは結婚式当日だった。
社交界デビューしたのが十五歳。
婚約やら結婚式の準備やらで一年を費やし、アリーシアは十六歳で結婚した。
初めてみたヘンリーは無表情で、この結婚をよく思っていないことは分かったが、それも仕方がない事だとアリーシアは思った。
この先の人生は長いのだから、少しずつお互いを知っていいと。
今思えば、なんとも子供らしい楽天的な考えだった。
そして無事に結婚し、その初夜でアリーシアは打ちのめされる。
「お前のような、子供に欲情できるとでも本気で思っているのか? そもそも、お前は金で脅されて結婚してやっただけだ。下級貴族の女を上級貴族の仲間に入れてやっただけでもありがたく思え」
「私には愛する人がいる。しかし、お前の父親のせいで結婚することが出来なかった。三年後にお前から父親に子供ができないことを理由に、私の愛する人を迎え入れる説明をしろ」
「いいか、くれぐれも私に媚びるな。お前の財産はすべて私のものになるのだから、贅沢はするな」
「ああ、女主として振る舞うことも許さん。まあ、最低限の扱いはしてやるさ」
それだけ言うと、新妻となったアリーシアを放置し、ヘンリーはさっさと部屋を出て行った。
正直アリーシアは何を言われたのか良く分からなかった。
いや、理解したくなかった。
どこかで、きっと夢なのだと。
でも、夢でもなんでもなかったには、すぐに理解した。
伯爵邸では、誰もアリーシアを当主であるヘンリーの嫁として女主として認めたいなかった。
上級貴族と下級貴族では何もかも違う。
アリーシアは上級貴族とつながるために育てられたので、礼儀作法は完璧だ。
それでも、何をするにも品がないと、何も分かっていないと陰で言われ続けた。
夫であるヘンリーにもだ。
これだから下級貴族はと言われ、馬鹿にされ続ければ、下の人間は従うもの。
なんとか認めてもらいたくて、一年目は必至で努力もしてみた。
それでも認められることなく、二年目には伯爵家の恥だからと外出を禁じられ、軟禁状態となった。
そして三年目。
実家からはまだ子供ができないのかと問い詰められ、しかし事情を説明することも出来ず、無能と罵られる。
結婚から三年たち、四年目――……。
ついに、ヘンリーは昔から肉体関係のある女性を邸宅に連れてきた。
すでに結婚は破綻し、実家以上に冷たい婚家。
暖かい家庭を夢見ていたアリーシアは、疲れ切っていた。
離婚したら、きっと父親には散々言われるだろう。
もしかしたら身一つで追い出されるかもしれない。
そうだとしても、その方がまだましだとも思った。
しかし、離婚は認められなかった。
マリアの進言だと言っていたが、その理由は明らかだ。
金。
それに尽きる。
結婚が継続されている限りアリーシアの実家からの援助金が年間を通して支援される。
それが目当てだ。
目当てなのはおそらくマリアの方。
女性の方が現実的なところがある。
アリーシアももっと大人だったら、きっと違う未来もあった。
しかし、もう遅い。
逃げ出す機会を失い、軟禁から監禁になった。
「このまま、ここで死ぬのかしら……」
椅子の上で行儀悪く膝を抱えて丸くなる。
食事を持ってくるとは言っていたが、その気配はない。
死んでも支援が打ち切られるから、死なない程度には生かされるとは思う。
しかしその苦痛を考えると、まだ冷たい関係でありながらも生活の不自由を感じなかった実家の方がましだ。
言葉通り、ヘンリーはアリーシアを抱くことはなかった。
子供体形と言われた三年前よりも女性として成長しても、細身なのは変わらなかった。
マリアを見れば、ヘンリーの好みが豊満な体形なのは見て取れる。
三年の間白い結婚なら離婚――というよりも結婚解除を女性側から申請できるが、それは監禁状態のアリーシアには難しい。
もし、感情的にヘンリーが離婚を言い出してくれたのなら話が早いのにと思ってしまうが、頭の回るマリアがきっとその考えを留めるだろう。
「子供ができても、きっとわたくしとの子供と偽るのね……。嘘を重ねて、わたくしを生かさず殺さず。これが上級貴族のやり方……」
アリーシアは膝に顔をうずめて、どこにも逃げ場のない状況にすべてを諦めた。
父親である子爵は権力欲が強く、娘は上級貴族とつながるための道具でしかない。
その扱いが平等であるのなら、アリーシアは何も思わなかったかも知れない。
しかし、親としての愛情の偏りをはっきり知ってしまった瞬間に、愛されたいという思いが芽生えてしまった。
それが不幸だったのかは分からない。
でも、その愛されたい思いが、結婚という形に向かったのもまた事実だった。
結婚すればこの家から出て行ける。
そして、夫となる人とお互い尊重して暖かな家庭を築いていけたら……。
そう思いながら過ごし、十五になったばかりの頃、社交界デビューを果たしすぐに結婚が決まった。
当然政略結婚だ。
相手の事など良く分からない。
ただ、その名を聞いて、噂話に疎いアリーシアでも驚くくらいには名家だった。
しかも、なかなかの美男子としても有名な人。
アリーシアよりも十歳年上だけど、だからこそ守ってもらえるような安心感があった。
そんな人がなぜ結婚していないのか、というのはさすがにすぐにわかる。
名家とはいえ、落ちぶれ始めているからだ。
お金のない家に嫁ぎたいと思うような上級貴族のご令嬢がいなかった。
それでも伯爵ではなく侯爵くらいになればそこそこの旨味もあるが、伯爵家程度では満足しなかったのだ。
実際持参金が豊富にあるような家の娘は、引く手数多。
結局、アリーシアのような下級貴族出身の女性しか残っていなかった。
その中でも、なぜアリーシアだったのかと言えば、もちろん持参金の多さに加え、その後の援助金も莫大だったからだ。
何度か会う予定も立ててはいたが、その全てを当日キャンセルされ、結局アリーシアが夫となるヘンリーに会ったのは結婚式当日だった。
社交界デビューしたのが十五歳。
婚約やら結婚式の準備やらで一年を費やし、アリーシアは十六歳で結婚した。
初めてみたヘンリーは無表情で、この結婚をよく思っていないことは分かったが、それも仕方がない事だとアリーシアは思った。
この先の人生は長いのだから、少しずつお互いを知っていいと。
今思えば、なんとも子供らしい楽天的な考えだった。
そして無事に結婚し、その初夜でアリーシアは打ちのめされる。
「お前のような、子供に欲情できるとでも本気で思っているのか? そもそも、お前は金で脅されて結婚してやっただけだ。下級貴族の女を上級貴族の仲間に入れてやっただけでもありがたく思え」
「私には愛する人がいる。しかし、お前の父親のせいで結婚することが出来なかった。三年後にお前から父親に子供ができないことを理由に、私の愛する人を迎え入れる説明をしろ」
「いいか、くれぐれも私に媚びるな。お前の財産はすべて私のものになるのだから、贅沢はするな」
「ああ、女主として振る舞うことも許さん。まあ、最低限の扱いはしてやるさ」
それだけ言うと、新妻となったアリーシアを放置し、ヘンリーはさっさと部屋を出て行った。
正直アリーシアは何を言われたのか良く分からなかった。
いや、理解したくなかった。
どこかで、きっと夢なのだと。
でも、夢でもなんでもなかったには、すぐに理解した。
伯爵邸では、誰もアリーシアを当主であるヘンリーの嫁として女主として認めたいなかった。
上級貴族と下級貴族では何もかも違う。
アリーシアは上級貴族とつながるために育てられたので、礼儀作法は完璧だ。
それでも、何をするにも品がないと、何も分かっていないと陰で言われ続けた。
夫であるヘンリーにもだ。
これだから下級貴族はと言われ、馬鹿にされ続ければ、下の人間は従うもの。
なんとか認めてもらいたくて、一年目は必至で努力もしてみた。
それでも認められることなく、二年目には伯爵家の恥だからと外出を禁じられ、軟禁状態となった。
そして三年目。
実家からはまだ子供ができないのかと問い詰められ、しかし事情を説明することも出来ず、無能と罵られる。
結婚から三年たち、四年目――……。
ついに、ヘンリーは昔から肉体関係のある女性を邸宅に連れてきた。
すでに結婚は破綻し、実家以上に冷たい婚家。
暖かい家庭を夢見ていたアリーシアは、疲れ切っていた。
離婚したら、きっと父親には散々言われるだろう。
もしかしたら身一つで追い出されるかもしれない。
そうだとしても、その方がまだましだとも思った。
しかし、離婚は認められなかった。
マリアの進言だと言っていたが、その理由は明らかだ。
金。
それに尽きる。
結婚が継続されている限りアリーシアの実家からの援助金が年間を通して支援される。
それが目当てだ。
目当てなのはおそらくマリアの方。
女性の方が現実的なところがある。
アリーシアももっと大人だったら、きっと違う未来もあった。
しかし、もう遅い。
逃げ出す機会を失い、軟禁から監禁になった。
「このまま、ここで死ぬのかしら……」
椅子の上で行儀悪く膝を抱えて丸くなる。
食事を持ってくるとは言っていたが、その気配はない。
死んでも支援が打ち切られるから、死なない程度には生かされるとは思う。
しかしその苦痛を考えると、まだ冷たい関係でありながらも生活の不自由を感じなかった実家の方がましだ。
言葉通り、ヘンリーはアリーシアを抱くことはなかった。
子供体形と言われた三年前よりも女性として成長しても、細身なのは変わらなかった。
マリアを見れば、ヘンリーの好みが豊満な体形なのは見て取れる。
三年の間白い結婚なら離婚――というよりも結婚解除を女性側から申請できるが、それは監禁状態のアリーシアには難しい。
もし、感情的にヘンリーが離婚を言い出してくれたのなら話が早いのにと思ってしまうが、頭の回るマリアがきっとその考えを留めるだろう。
「子供ができても、きっとわたくしとの子供と偽るのね……。嘘を重ねて、わたくしを生かさず殺さず。これが上級貴族のやり方……」
アリーシアは膝に顔をうずめて、どこにも逃げ場のない状況にすべてを諦めた。
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