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8.(一部暴力行為あり)
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本邸から追い出され、アリーシアは離れで一人過ごしていた。
食事は一日一回。
しかも貧民が食べるような雑多な穀物の混ざるパンのみ。
近くに井戸があるので、水だけはなんとか確保できたのが救いだ。
それでも、栄養の足りない身体は次第にやせていき、動くことすら億劫になっていく。
死なない程度に管理されているアリーシア。
そんな時、ローデンが訪れて夫ヘンリーの言葉を伝言してきた。
いわく、マリアが妊娠した。
産まれた子供は、アリーシアの子供とすると。
その瞬間、産まれた後は殺されるのだと知る。
なにせ、アリーシアの子供が産まれれば、たとえアリーシアが死んだとしても援助は継続されるのだから。
たとえアリーシアの血を引いていなくても分かるわけがない。
むしろ事情を全て知っているアリーシアが生きているほうが都合が悪い。
――ああ、死ぬのか。
栄養不足と精神的疲弊でそんな事ばかりアリーシアは考えていた。
何かする気力もなく、ただベッドで横になる日々。
そんな時、騒々しい足音がアリーシアの耳に届いた。
離れはアリーシア一人で、食事を届けるメイドや用件のみを伝えるために来るローデンしか来ないが、こんな騒々しい歩き方はしない。
まるで、苛立たしい気なその様子に、何事だろうかと身体を起こした。
そして、それと同時に許可もなくバンっと扉が開かれて、怒りの形相でヘンリーが詰め寄り思い切りアリーシアを殴り、ベットの下へと叩き落した。
「ぐっ!」
「お前! お前のせいで!!」
全く理解ができないことを繰り返され、痛みで気が遠くなるアリーシアを引きとめるかのように、髪を鷲掴み顔を無理矢理あげられた。
「うぅ……」
口に端からは衝撃で切った血が滴るが、ヘンリーは全く手加減しない。
「何のためにお前に正妻の座をやったと思っている! 私の運命の相手であるマリアを差し置いてその座に座っておきながら、貴様! ふざけるな!!」
「ぐぅ! あぁ!! や、やめ――」
「下賤な輩が! 生きている価値もないゴミが!! 上級貴族を謀った罪はその身で贖ってもらう!!」
遠ざかる意識が、痛みで何度も戻される。
いっそのこと気を失えたらどれだけ楽だろうと思ってしまう。
そんな暴力の中で、後ろから腹の大きなマリアとローデンが姿を現した。
「お、おやめくださいませ。ヘンリー様」
「マリア、君は今大事な時だ。こんなゴミを見てはいけない!」
「そのような――……、お願いです。こんな女のためにその手をお汚しにならないで」
「ああ、マリア。こんな時でも君は私の心配をしてくれているのだな……、なんて優しいのだ」
「ヘンリー様、この女の事は私がなんとかいたします。どうか、心安らかにしてください」
マリアとローデンの忠言にヘンリーは心を少し落ち着けて、アリーシアを放した。
どさりと床に倒れこみ、指一本動かすことが出来ないアリーシアの耳にマリアの言葉が耳に入った。
「ヘンリー様、ヘンリー様をだましていたこの女を奴隷として娼館で働かせるのはいかがでしょう? せめてもの償いに、その稼ぎは全てヘンリー様に差し出していただきましょう?」
アリーシアは理解できない言葉にぼんやりと三人の足元を見ることしか出来なかった。
「そうだね、マリア。まあ、多少は見れるからきっといい客がつくだろう。ああ、せっかくだ。元貴族夫人として売れば、稼げるのではないか? そのように聞いたことがある」
「ええ、意地汚い商人どもは貴族の血を何よりも欲していますもの。きっと高額でその身体を可愛がってくれますわ」
「いいな、汚れた商人の血筋だ。意地汚い商人を咥えこむことなどきっと造作もない」
――どういう……こと?
一切の説明もなく、今度はローデンが言う。
「そのようにいたします。ヘンリー様を煩わせたのですから、それくらいの罰は必要でしょう。上級貴族であるヘンリー様の御心を乱したのですから、本来なら死んでもおかしくはありません。生かしてやるだけましというものでしょう」
「その通りだな。白い結婚を証明したいが、そんな事をすれば、がめついこの女の実家がきっとうるさく騒ぎ立てる。こんな女と婚姻関係だったことが悔やまれるが、夫の権利で妻の貴族籍の剥奪ができたな? 剥奪後、貴族ではないことを理由に離婚だ」
「はい」
「すぐに手続きしよう。剥奪理由は、そうだな――……当主侮辱罪だ。当主たる私を謀ったのだ、きっと受理されるだろう」
「平民になるのですよね? この女は」
「そうだ、マリア。私の最愛で運命の人であるマリアが平民で、なんの価値もないの女が貴族のはおかしい。だから、貴族である必要もない。そして平民になるのだから、貴族と婚姻関係を維持できない。すべてこの女が悪いのだから、この女の家は何も言えないだろう? むしろ、こちらから慰謝料をとる裁判を起こそうか」
断片的な情報を集めても、頭が上手く動かないアリーシアは次第に瞼が重くなった。
謀る?煩わした?
アリーシアは言われたまま、ただここにいただけだ。
冷遇され、本邸から追い出され、離れ監禁されこんな暮らしをさせられて。
――ああ、どうしてこんな……。
かすれる意識の向こうで、ちらりとこちらを向いたマリアの瞳が冷たく輝いたのだけが分かった。
食事は一日一回。
しかも貧民が食べるような雑多な穀物の混ざるパンのみ。
近くに井戸があるので、水だけはなんとか確保できたのが救いだ。
それでも、栄養の足りない身体は次第にやせていき、動くことすら億劫になっていく。
死なない程度に管理されているアリーシア。
そんな時、ローデンが訪れて夫ヘンリーの言葉を伝言してきた。
いわく、マリアが妊娠した。
産まれた子供は、アリーシアの子供とすると。
その瞬間、産まれた後は殺されるのだと知る。
なにせ、アリーシアの子供が産まれれば、たとえアリーシアが死んだとしても援助は継続されるのだから。
たとえアリーシアの血を引いていなくても分かるわけがない。
むしろ事情を全て知っているアリーシアが生きているほうが都合が悪い。
――ああ、死ぬのか。
栄養不足と精神的疲弊でそんな事ばかりアリーシアは考えていた。
何かする気力もなく、ただベッドで横になる日々。
そんな時、騒々しい足音がアリーシアの耳に届いた。
離れはアリーシア一人で、食事を届けるメイドや用件のみを伝えるために来るローデンしか来ないが、こんな騒々しい歩き方はしない。
まるで、苛立たしい気なその様子に、何事だろうかと身体を起こした。
そして、それと同時に許可もなくバンっと扉が開かれて、怒りの形相でヘンリーが詰め寄り思い切りアリーシアを殴り、ベットの下へと叩き落した。
「ぐっ!」
「お前! お前のせいで!!」
全く理解ができないことを繰り返され、痛みで気が遠くなるアリーシアを引きとめるかのように、髪を鷲掴み顔を無理矢理あげられた。
「うぅ……」
口に端からは衝撃で切った血が滴るが、ヘンリーは全く手加減しない。
「何のためにお前に正妻の座をやったと思っている! 私の運命の相手であるマリアを差し置いてその座に座っておきながら、貴様! ふざけるな!!」
「ぐぅ! あぁ!! や、やめ――」
「下賤な輩が! 生きている価値もないゴミが!! 上級貴族を謀った罪はその身で贖ってもらう!!」
遠ざかる意識が、痛みで何度も戻される。
いっそのこと気を失えたらどれだけ楽だろうと思ってしまう。
そんな暴力の中で、後ろから腹の大きなマリアとローデンが姿を現した。
「お、おやめくださいませ。ヘンリー様」
「マリア、君は今大事な時だ。こんなゴミを見てはいけない!」
「そのような――……、お願いです。こんな女のためにその手をお汚しにならないで」
「ああ、マリア。こんな時でも君は私の心配をしてくれているのだな……、なんて優しいのだ」
「ヘンリー様、この女の事は私がなんとかいたします。どうか、心安らかにしてください」
マリアとローデンの忠言にヘンリーは心を少し落ち着けて、アリーシアを放した。
どさりと床に倒れこみ、指一本動かすことが出来ないアリーシアの耳にマリアの言葉が耳に入った。
「ヘンリー様、ヘンリー様をだましていたこの女を奴隷として娼館で働かせるのはいかがでしょう? せめてもの償いに、その稼ぎは全てヘンリー様に差し出していただきましょう?」
アリーシアは理解できない言葉にぼんやりと三人の足元を見ることしか出来なかった。
「そうだね、マリア。まあ、多少は見れるからきっといい客がつくだろう。ああ、せっかくだ。元貴族夫人として売れば、稼げるのではないか? そのように聞いたことがある」
「ええ、意地汚い商人どもは貴族の血を何よりも欲していますもの。きっと高額でその身体を可愛がってくれますわ」
「いいな、汚れた商人の血筋だ。意地汚い商人を咥えこむことなどきっと造作もない」
――どういう……こと?
一切の説明もなく、今度はローデンが言う。
「そのようにいたします。ヘンリー様を煩わせたのですから、それくらいの罰は必要でしょう。上級貴族であるヘンリー様の御心を乱したのですから、本来なら死んでもおかしくはありません。生かしてやるだけましというものでしょう」
「その通りだな。白い結婚を証明したいが、そんな事をすれば、がめついこの女の実家がきっとうるさく騒ぎ立てる。こんな女と婚姻関係だったことが悔やまれるが、夫の権利で妻の貴族籍の剥奪ができたな? 剥奪後、貴族ではないことを理由に離婚だ」
「はい」
「すぐに手続きしよう。剥奪理由は、そうだな――……当主侮辱罪だ。当主たる私を謀ったのだ、きっと受理されるだろう」
「平民になるのですよね? この女は」
「そうだ、マリア。私の最愛で運命の人であるマリアが平民で、なんの価値もないの女が貴族のはおかしい。だから、貴族である必要もない。そして平民になるのだから、貴族と婚姻関係を維持できない。すべてこの女が悪いのだから、この女の家は何も言えないだろう? むしろ、こちらから慰謝料をとる裁判を起こそうか」
断片的な情報を集めても、頭が上手く動かないアリーシアは次第に瞼が重くなった。
謀る?煩わした?
アリーシアは言われたまま、ただここにいただけだ。
冷遇され、本邸から追い出され、離れ監禁されこんな暮らしをさせられて。
――ああ、どうしてこんな……。
かすれる意識の向こうで、ちらりとこちらを向いたマリアの瞳が冷たく輝いたのだけが分かった。
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