30 / 43
30.マリアサイド
しおりを挟む
あの日、離れで見た光景をマリアは忘れられなかった。
マリアにとっても、ただその辺にいる平民は取るに足らない存在だと思っている。
自分も平民ではあるが、選ばれた人間なのだと思っていた。
貴族になれば、絶対に王妃にだってなれる美貌が自分にはある。
貴族の娘になれば、その家に素晴らしい栄光を約束してやれたのに、そんなことすら分からない正妻に怒りしかない。
そのせいで、今マリアはこんな生活しか送れていない。
本当なら、憧れと称賛のを集め、社交界の華として君臨できるはずだったのに。
まさか、こんな家だったとは思わなかった。
はじめの頃は良かった。
ただの金づるの子爵令嬢の家からの援助金がたくさんあったから。
それが打ち切られ、ヘンリーは怒り狂ったように、あの女をまるでモノのように扱った。
そこまでするかと思わなくは無かったが、あの女の家のせいでマリアが使える金が一気に減ったのだから、多少やりすぎても当然の結果だとも思った。
しかし、その後だ。
――平民を雇って、教育して、貴族への不敬で奴隷にしていたなんて……。
明らかに犯罪だ。
しかし、ばれることはほぼない。
貴族には免責がある。
しかも、ほかの貴族も多かれ少なかれ、平民に対してそれなりに酷いことを行ってきている。
それに、どうやらローデンはかなり慎重に選んでいるらしい。
身内のいない、孤児。
そして、それなりに見た目のいい女。
金がないはずなのにいつの間にか金が出来ている。
そこにはこんなカラクリがあったのだ。
「……まさかわたしも。でも、あの男の子供がいるのだし……」
そうだ。
マリアの腹の中にはヘンリーの子供がいる。
ローデンの態度は、マリアの事はどうでもいいが、腹の子供はヘンリーの子供であるから慎重になっている。
つまり、この子供がマリアの身を守る存在。
しかし、それでも安心はできない。
何をするのか分からない恐ろしさが、ローデンにはある。
それに、ヘンリーも。
馬鹿な男だとは思っていたが、馬鹿を通り越している。
まるで、自分こそが最も偉く、それ以外は取るに足らない存在だとでも言うように。
それこそおかしな話だ。
たかが伯爵家の人間のくせに。
これが公爵ならば分かる。
「ああ、本当に嫌な男を選んでしまったわ」
母が見たらきっと心から馬鹿にするだろう。
お前は見る目がないと。
「何もかも、あの女が悪いんだわ。たかが子爵の血筋の分際で、伯爵家の高貴な血の流れるわたしを侮辱して! 見つかったらただじゃおかないわ!」
この邸宅で初めて会った時、すごく貧相な姿に優越感が沸いた。
肉付きも見た目も何もかも平凡以下。
少なくとも、マリアには格段に劣る。
それなのに、あっちは貴族でこっちは平民である事が、なおさら憎く思えた。
何もかも勝るマリアが平民で、あの劣る女が貴族なのかと。
不公平すぎて、めちゃくちゃにしてやりたかった。
だから、ヘンリーがあの女を見限ったときやりすぎではと思いながらも清々したし、あんな提案もした。
あれは我ながらいい案だと思った。
色んな男を咥えこんで、浮気している有責として慰謝料を取りながら、娼館で働かせて売り上げを全部マリアのものにできると。
逃げたと聞いたときは、腸煮えくり返ったが、それ以上に今はヘンリーとローデンに怒りがわく。
あんなことが仕事だと、堂々という姿。
いかれているとしか思えない。
「もしもの時のために、色々準備しておく必要があるわ」
マリアは、そう考え様々な宝石商から買いあさった。
金はないが、ツケで買い物は出来る。
それに持ち出すなら金よりも宝石の方が楽だ。
なにより金はこの国でしか使えないが、宝石はどの国でも換金できる。
「ああ、これも綺麗だわ! そっちも!」
宝石はそれなりに見ていて心が癒される。
こういう輝きこそマリアにはふさわしい。
宝石商も、お得意様のマリアに次々と進めてくる。
こちらは希少価値が原石、こちらはかの有名な細工師がカットした指輪などと売り込み、これらの宝石は奥様のような方にこそふさわしい、と言われればマリアもまんざらじゃない。
「全部買うわ。ああ、代金は執事にでも言ってちょうだい。わたくしの好きなように買い物していいとおっしゃたのはご当主様なの。わたくしに着飾って綺麗にしてほしいんですって」
向こうはどうせ金を支払ってくれれば誰だっていいのだろう。
マリアを持ち上げ、交わせる商談相手。
まあ、褒められるのは嫌いじゃないし、なにより、相手の見た目が極上ならば、気分がいい。
――ヘンリーの方がいいと思ったけど、お金ならきっとこの男の方が持っていそうだわ。それに、見た目だってわたしに釣り合う。商人なら貴族の血を引くわたしの事がきっと欲しいはずだわ!
いづれ貴族になる予定のマリアとは釣り合いが取れないが、まあ愛人くらいには加えてやってもよさそうだ。
そんな評価を下し、愛想よく別れた。
「ふふふ、やっぱりわたしにはきれいなものが似合うわ」
マリアは満足げに宝石をとる。
しかし、そんな幸せな気持ちもすぐに失せた。
ローデンが会いに来ているというのだ。
会いたくないが、ローデンは執事だ。
いざとなれば、ヘンリーにマリアの事をある事ない事吹き込める。
あの単純な男はそれだけで、マリアを疑うだろう。
「通しなさい」
面倒な相手に憂鬱になりながら、会うことにする。
ローデンを招き入れると、ローデンは侍女をお茶の準備をさせるために部屋から追い払った。
「本日はお話が合ってまいりました」
そんな言葉と同時に、正直どうでもいい話をされ、マリアは次第に退屈になり眠くなる。
妊娠中はやたらと眠くなるのだから仕方がない。
全く、早く終わらないかしらなどと考えながら、自然と目を閉じた。
マリアにとっても、ただその辺にいる平民は取るに足らない存在だと思っている。
自分も平民ではあるが、選ばれた人間なのだと思っていた。
貴族になれば、絶対に王妃にだってなれる美貌が自分にはある。
貴族の娘になれば、その家に素晴らしい栄光を約束してやれたのに、そんなことすら分からない正妻に怒りしかない。
そのせいで、今マリアはこんな生活しか送れていない。
本当なら、憧れと称賛のを集め、社交界の華として君臨できるはずだったのに。
まさか、こんな家だったとは思わなかった。
はじめの頃は良かった。
ただの金づるの子爵令嬢の家からの援助金がたくさんあったから。
それが打ち切られ、ヘンリーは怒り狂ったように、あの女をまるでモノのように扱った。
そこまでするかと思わなくは無かったが、あの女の家のせいでマリアが使える金が一気に減ったのだから、多少やりすぎても当然の結果だとも思った。
しかし、その後だ。
――平民を雇って、教育して、貴族への不敬で奴隷にしていたなんて……。
明らかに犯罪だ。
しかし、ばれることはほぼない。
貴族には免責がある。
しかも、ほかの貴族も多かれ少なかれ、平民に対してそれなりに酷いことを行ってきている。
それに、どうやらローデンはかなり慎重に選んでいるらしい。
身内のいない、孤児。
そして、それなりに見た目のいい女。
金がないはずなのにいつの間にか金が出来ている。
そこにはこんなカラクリがあったのだ。
「……まさかわたしも。でも、あの男の子供がいるのだし……」
そうだ。
マリアの腹の中にはヘンリーの子供がいる。
ローデンの態度は、マリアの事はどうでもいいが、腹の子供はヘンリーの子供であるから慎重になっている。
つまり、この子供がマリアの身を守る存在。
しかし、それでも安心はできない。
何をするのか分からない恐ろしさが、ローデンにはある。
それに、ヘンリーも。
馬鹿な男だとは思っていたが、馬鹿を通り越している。
まるで、自分こそが最も偉く、それ以外は取るに足らない存在だとでも言うように。
それこそおかしな話だ。
たかが伯爵家の人間のくせに。
これが公爵ならば分かる。
「ああ、本当に嫌な男を選んでしまったわ」
母が見たらきっと心から馬鹿にするだろう。
お前は見る目がないと。
「何もかも、あの女が悪いんだわ。たかが子爵の血筋の分際で、伯爵家の高貴な血の流れるわたしを侮辱して! 見つかったらただじゃおかないわ!」
この邸宅で初めて会った時、すごく貧相な姿に優越感が沸いた。
肉付きも見た目も何もかも平凡以下。
少なくとも、マリアには格段に劣る。
それなのに、あっちは貴族でこっちは平民である事が、なおさら憎く思えた。
何もかも勝るマリアが平民で、あの劣る女が貴族なのかと。
不公平すぎて、めちゃくちゃにしてやりたかった。
だから、ヘンリーがあの女を見限ったときやりすぎではと思いながらも清々したし、あんな提案もした。
あれは我ながらいい案だと思った。
色んな男を咥えこんで、浮気している有責として慰謝料を取りながら、娼館で働かせて売り上げを全部マリアのものにできると。
逃げたと聞いたときは、腸煮えくり返ったが、それ以上に今はヘンリーとローデンに怒りがわく。
あんなことが仕事だと、堂々という姿。
いかれているとしか思えない。
「もしもの時のために、色々準備しておく必要があるわ」
マリアは、そう考え様々な宝石商から買いあさった。
金はないが、ツケで買い物は出来る。
それに持ち出すなら金よりも宝石の方が楽だ。
なにより金はこの国でしか使えないが、宝石はどの国でも換金できる。
「ああ、これも綺麗だわ! そっちも!」
宝石はそれなりに見ていて心が癒される。
こういう輝きこそマリアにはふさわしい。
宝石商も、お得意様のマリアに次々と進めてくる。
こちらは希少価値が原石、こちらはかの有名な細工師がカットした指輪などと売り込み、これらの宝石は奥様のような方にこそふさわしい、と言われればマリアもまんざらじゃない。
「全部買うわ。ああ、代金は執事にでも言ってちょうだい。わたくしの好きなように買い物していいとおっしゃたのはご当主様なの。わたくしに着飾って綺麗にしてほしいんですって」
向こうはどうせ金を支払ってくれれば誰だっていいのだろう。
マリアを持ち上げ、交わせる商談相手。
まあ、褒められるのは嫌いじゃないし、なにより、相手の見た目が極上ならば、気分がいい。
――ヘンリーの方がいいと思ったけど、お金ならきっとこの男の方が持っていそうだわ。それに、見た目だってわたしに釣り合う。商人なら貴族の血を引くわたしの事がきっと欲しいはずだわ!
いづれ貴族になる予定のマリアとは釣り合いが取れないが、まあ愛人くらいには加えてやってもよさそうだ。
そんな評価を下し、愛想よく別れた。
「ふふふ、やっぱりわたしにはきれいなものが似合うわ」
マリアは満足げに宝石をとる。
しかし、そんな幸せな気持ちもすぐに失せた。
ローデンが会いに来ているというのだ。
会いたくないが、ローデンは執事だ。
いざとなれば、ヘンリーにマリアの事をある事ない事吹き込める。
あの単純な男はそれだけで、マリアを疑うだろう。
「通しなさい」
面倒な相手に憂鬱になりながら、会うことにする。
ローデンを招き入れると、ローデンは侍女をお茶の準備をさせるために部屋から追い払った。
「本日はお話が合ってまいりました」
そんな言葉と同時に、正直どうでもいい話をされ、マリアは次第に退屈になり眠くなる。
妊娠中はやたらと眠くなるのだから仕方がない。
全く、早く終わらないかしらなどと考えながら、自然と目を閉じた。
48
あなたにおすすめの小説
能力持ちの若き夫人は、冷遇夫から去る
基本二度寝
恋愛
「婚姻は王命だ。私に愛されようなんて思うな」
若き宰相次官のボルスターは、薄い夜着を纏って寝台に腰掛けている今日妻になったばかりのクエッカに向かって言い放った。
実力でその立場までのし上がったボルスターには敵が多かった。
一目惚れをしたクエッカに想いを伝えたかったが、政敵から彼女がボルスターの弱点になる事を悟られるわけには行かない。
巻き込みたくない気持ちとそれでも一緒にいたいという欲望が鬩ぎ合っていた。
ボルスターは国王陛下に願い、その令嬢との婚姻を王命という形にしてもらうことで、彼女との婚姻はあくまで命令で、本意ではないという態度を取ることで、ボルスターはめでたく彼女を手中に収めた。
けれど。
「旦那様。お久しぶりです。離縁してください」
結婚から半年後に、ボルスターは離縁を突きつけられたのだった。
※復縁、元サヤ無しです。
※時系列と視点がコロコロゴロゴロ変わるのでタイトル入れました
※えろありです
※ボルスター主人公のつもりが、端役になってます(どうしてだ)
※タイトル変更→旧題:黒い結婚
殿下、今回も遠慮申し上げます
cyaru
恋愛
結婚目前で婚約を解消されてしまった侯爵令嬢ヴィオレッタ。
相手は平民で既に子もいると言われ、その上「側妃となって公務をしてくれ」と微笑まれる。
静かに怒り沈黙をするヴィオレッタ。反対に日を追うごとに窮地に追い込まれる王子レオン。
側近も去り、資金も尽き、事も有ろうか恋人の教育をヴィオレッタに命令をするのだった。
前半は一度目の人生です。
※作品の都合上、うわぁと思うようなシーンがございます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【4話完結】 君を愛することはないと、こっちから言ってみた
紬あおい
恋愛
皇女にべったりな護衛騎士の夫。
流行りの「君を愛することはない」と先に言ってやった。
ザマアミロ!はあ、スッキリした。
と思っていたら、夫が溺愛されたがってる…何で!?
傲慢な伯爵は追い出した妻に愛を乞う
ノルジャン
恋愛
「堕ろせ。子どもはまた出来る」夫ランドルフに不貞を疑われたジュリア。誤解を解こうとランドルフを追いかけたところ、階段から転げ落ちてしまった。流産したと勘違いしたランドルフは「よかったじゃないか」と言い放った。ショックを受けたジュリアは、ランドルフの子どもを身籠ったまま彼の元を去ることに。昔お世話になった学校の先生、ケビンの元を訪ね、彼の支えの下で無事に子どもが生まれた。だがそんな中、夫ランドルフが現れて――?
エブリスタ、ムーンライトノベルズにて投稿したものを加筆改稿しております。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる