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29.ヘンリーサイド
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ヘンリーはその日イライラしながら、執務室を行ったり来たりしていた。
ここ最近は特にそうだ。
なにもかもが上手くいかない。
いつもはまあまあ買っている賭博の負け続き。
そのせいで、いつも金がない。
マリアはマリアで、平民のくせにまるで貴族の女主人の様に振る舞い、家の金を勝手に使って買い物ばかり。
たしかにヘンリーの子供を身籠っているから寛大に許しているが、それにも限度がある。
文句を言えば、最近は言い合いになる事が増えた。
あの可愛らしい従順なマリアはいない。
やはり、これだから平民の血筋はと悪態をついた。
きちんと求婚すれば、マリアを貴族にするとマリアの兄である現当主からも言われていたので、三年後にきちんと求婚して、名実ともに貴族として嫁いでもらおうと思っていた。
しかし、今はもうそんな気がしてこなかった。
なんとも、下品に金を使って宝石やらドレスやらを買い込む姿はまるで成金の娘のようだ。
貴族になれて気が大きくなっている、そんな馬鹿女と同じに見えた。
「ローデン、もう我慢ならない! あの女、ただの居候のくせにまるで女主人のようじゃないか。平民の分際で、わきまえる気持ちがないようだ。これなら、まだあの女の方が弁えていた」
「どうされますか? 追い出すことも可能ですよ。なにせ、あの女は平民。貴族に無礼を働いたと言えば、誰も同情はしないでしょう」
「もう、それでいい。私がばかだった。あんな娼婦に引っかかってしまうなど……いい経験だったな」
「失敗を次に生かせばよろしいのですよ、ヘンリー様」
なぜ、娼婦と貴族の間に生まれた汚れた血を持つマリアを運命の相手などと勘違いしたのか。
きっと怪しげな薬を使われたに違いない。
そうでなければ、ヘンリーの様に選ばれた人間が平民なんて選ぶわけないのだから。
「ああ! 今考えても腹が立つ!! きっとあの男は知っていたに違いない! だから、あの女を押し付けてきたのだ。そうだ、きっとあいつが薬を盛った! そうでなくては出会いが不自然だ!!」
伯爵家の現当主でマリアの兄。
思い返せば、あまり仲が良くないマリアの兄から招待状をもらったのも作為を感じる。
「マリアの性格を知って、追い出したかったはずだ! あんなものに金をかける我儘女だ。全く騙された! 訴えたいくらいだ!!」
「ヘンリー様、きっと人をだました罰が下ると思います。神はきっとヘンリー様の味方ですから」
「ローデン、やはりお前しか私の味方はいないのだな。お前こそが忠臣という存在だと心から思う」
「過分な評価、このローデン嬉しく思います」
全く、女というのはどうしてこうも、手を煩わせる存在なのだろうか。
いや、きっと身分が低すぎるせいだ。
もっと高貴な血筋の女なら、すべて弁えているはずだ。
「ローデン、離婚訴訟の方はどうなっている?」
「ええ、あの金づる子爵家は絶対に認めない構えですね。浮気した上に当主を侮辱した恥知らずの女の一族です。本当に厚顔無恥とはこの事ですよ」
「恥知らずな女は逃げ出したままなのか?」
「ええ。しかし、朗報がございます。どうやら、あの金づるは本当に男に家にいるようですので」
それを聞いたヘンリーが歪んだ笑みでローデンへ振り替える。
「あははは、あんな女に手をだすような男がいるとは! どうやら私とは趣味が合わないようだ! それで? 一体どこのどいつだ? そいつからも慰謝料を払ってもらおう!」
「どうやら、なかなか大物でございます。かの方を嫌っている方々は大勢いるので、きっと多くの方がヘンリー様のお味方につくでしょう」
ローデンが、手紙をヘンリーに渡してきた。
そこに書かれている名は、さすがに知っていた。
むしろ、嫌悪している名だと言ってのおかしくはない。
なるほど、とヘンリーは納得した。
ローデンが敵が多いと遠回しに言ってきたが、敵が多いどころか上級貴族の大半から嫌われている存在だ。
確かに大物ではある。
しかし、裁判は力関係が大きい方が勝つ。
そして、今回は負ける要素は全くない。
「面白い、きっとお歴々は私の味方に付くだろうな。なにせ、この男を追い落とせるチャンスだ。きっと多くの金を援助してくださるだろう」
「早速、方々にお知らせいたします。平民しか味方のいない、下等血統に貴族とはどういう事は教えてあげねばなりませんね?」
「全く。せっかく上級貴族の仲間になったんだ、私が親切に教えてやらなければな。きっとこれからも長い付き合いになるのだから」
向こうがすべての責になるようにする事は造作もない。
わざわざ、男のところにいるのだから。
男と女が同じ邸宅にいれば、事実がどうであれ、人々は想像し、面白おかしく広めていく。
貴族は自分の都合のように、事実を捻じ曲げることもできる。
「なあ、ローデン。どれくらいが慰謝料の相場だろうか?」
ヘンリーの脳裏には勝利しかない。
そして、上級貴族の中では英雄になれる。
なにせ、傭兵などという下劣な人間が上級貴族にふさわしくないと公的に非難できるのだから。
王族とて、貴族になってそうそう不倫するような男の後ろ盾になっているなどという事になったら権威の失墜だろう。
即座に手を切るはずだ。
金で正妻の地位を買った女と離婚でき、慰謝料もとれ、さらには上級貴族の中では英雄となれる。
「一石二鳥どころか一石三鳥だな。私は天才だと思わないか?」
「素晴らしいとしか言いようがありません。さすが、ヘンリー様です」
持ち上げられて、ヘンリーはまんざらではにように笑う。
そうだ、自分は誰よりもすごいのだと誇示して、ふとマリアの事に考えが至った。
「ああそうだローデン、今思ったのだが、あの娼婦はきっと私意外と肉体関係があるんじゃないかと思う。つまり、あの腹の子は私の子供ではない。思えば、高貴な私の子供があんな女に宿るはずがない。そう思わないか?」
「ええ、私もそう思っておりました」
「やはり、そう思うか。では、私を騙した罰を与えねばな。まあ、私が手を下すほどではない。お前に任せる」
ローデンに任せておけば何も問題はない。
それはヘンリーが子供の時分よりいつもどうだったから。
マリアの事などすでにヘンリーはどうでもよくなっていた。
ここ最近は特にそうだ。
なにもかもが上手くいかない。
いつもはまあまあ買っている賭博の負け続き。
そのせいで、いつも金がない。
マリアはマリアで、平民のくせにまるで貴族の女主人の様に振る舞い、家の金を勝手に使って買い物ばかり。
たしかにヘンリーの子供を身籠っているから寛大に許しているが、それにも限度がある。
文句を言えば、最近は言い合いになる事が増えた。
あの可愛らしい従順なマリアはいない。
やはり、これだから平民の血筋はと悪態をついた。
きちんと求婚すれば、マリアを貴族にするとマリアの兄である現当主からも言われていたので、三年後にきちんと求婚して、名実ともに貴族として嫁いでもらおうと思っていた。
しかし、今はもうそんな気がしてこなかった。
なんとも、下品に金を使って宝石やらドレスやらを買い込む姿はまるで成金の娘のようだ。
貴族になれて気が大きくなっている、そんな馬鹿女と同じに見えた。
「ローデン、もう我慢ならない! あの女、ただの居候のくせにまるで女主人のようじゃないか。平民の分際で、わきまえる気持ちがないようだ。これなら、まだあの女の方が弁えていた」
「どうされますか? 追い出すことも可能ですよ。なにせ、あの女は平民。貴族に無礼を働いたと言えば、誰も同情はしないでしょう」
「もう、それでいい。私がばかだった。あんな娼婦に引っかかってしまうなど……いい経験だったな」
「失敗を次に生かせばよろしいのですよ、ヘンリー様」
なぜ、娼婦と貴族の間に生まれた汚れた血を持つマリアを運命の相手などと勘違いしたのか。
きっと怪しげな薬を使われたに違いない。
そうでなければ、ヘンリーの様に選ばれた人間が平民なんて選ぶわけないのだから。
「ああ! 今考えても腹が立つ!! きっとあの男は知っていたに違いない! だから、あの女を押し付けてきたのだ。そうだ、きっとあいつが薬を盛った! そうでなくては出会いが不自然だ!!」
伯爵家の現当主でマリアの兄。
思い返せば、あまり仲が良くないマリアの兄から招待状をもらったのも作為を感じる。
「マリアの性格を知って、追い出したかったはずだ! あんなものに金をかける我儘女だ。全く騙された! 訴えたいくらいだ!!」
「ヘンリー様、きっと人をだました罰が下ると思います。神はきっとヘンリー様の味方ですから」
「ローデン、やはりお前しか私の味方はいないのだな。お前こそが忠臣という存在だと心から思う」
「過分な評価、このローデン嬉しく思います」
全く、女というのはどうしてこうも、手を煩わせる存在なのだろうか。
いや、きっと身分が低すぎるせいだ。
もっと高貴な血筋の女なら、すべて弁えているはずだ。
「ローデン、離婚訴訟の方はどうなっている?」
「ええ、あの金づる子爵家は絶対に認めない構えですね。浮気した上に当主を侮辱した恥知らずの女の一族です。本当に厚顔無恥とはこの事ですよ」
「恥知らずな女は逃げ出したままなのか?」
「ええ。しかし、朗報がございます。どうやら、あの金づるは本当に男に家にいるようですので」
それを聞いたヘンリーが歪んだ笑みでローデンへ振り替える。
「あははは、あんな女に手をだすような男がいるとは! どうやら私とは趣味が合わないようだ! それで? 一体どこのどいつだ? そいつからも慰謝料を払ってもらおう!」
「どうやら、なかなか大物でございます。かの方を嫌っている方々は大勢いるので、きっと多くの方がヘンリー様のお味方につくでしょう」
ローデンが、手紙をヘンリーに渡してきた。
そこに書かれている名は、さすがに知っていた。
むしろ、嫌悪している名だと言ってのおかしくはない。
なるほど、とヘンリーは納得した。
ローデンが敵が多いと遠回しに言ってきたが、敵が多いどころか上級貴族の大半から嫌われている存在だ。
確かに大物ではある。
しかし、裁判は力関係が大きい方が勝つ。
そして、今回は負ける要素は全くない。
「面白い、きっとお歴々は私の味方に付くだろうな。なにせ、この男を追い落とせるチャンスだ。きっと多くの金を援助してくださるだろう」
「早速、方々にお知らせいたします。平民しか味方のいない、下等血統に貴族とはどういう事は教えてあげねばなりませんね?」
「全く。せっかく上級貴族の仲間になったんだ、私が親切に教えてやらなければな。きっとこれからも長い付き合いになるのだから」
向こうがすべての責になるようにする事は造作もない。
わざわざ、男のところにいるのだから。
男と女が同じ邸宅にいれば、事実がどうであれ、人々は想像し、面白おかしく広めていく。
貴族は自分の都合のように、事実を捻じ曲げることもできる。
「なあ、ローデン。どれくらいが慰謝料の相場だろうか?」
ヘンリーの脳裏には勝利しかない。
そして、上級貴族の中では英雄になれる。
なにせ、傭兵などという下劣な人間が上級貴族にふさわしくないと公的に非難できるのだから。
王族とて、貴族になってそうそう不倫するような男の後ろ盾になっているなどという事になったら権威の失墜だろう。
即座に手を切るはずだ。
金で正妻の地位を買った女と離婚でき、慰謝料もとれ、さらには上級貴族の中では英雄となれる。
「一石二鳥どころか一石三鳥だな。私は天才だと思わないか?」
「素晴らしいとしか言いようがありません。さすが、ヘンリー様です」
持ち上げられて、ヘンリーはまんざらではにように笑う。
そうだ、自分は誰よりもすごいのだと誇示して、ふとマリアの事に考えが至った。
「ああそうだローデン、今思ったのだが、あの娼婦はきっと私意外と肉体関係があるんじゃないかと思う。つまり、あの腹の子は私の子供ではない。思えば、高貴な私の子供があんな女に宿るはずがない。そう思わないか?」
「ええ、私もそう思っておりました」
「やはり、そう思うか。では、私を騙した罰を与えねばな。まあ、私が手を下すほどではない。お前に任せる」
ローデンに任せておけば何も問題はない。
それはヘンリーが子供の時分よりいつもどうだったから。
マリアの事などすでにヘンリーはどうでもよくなっていた。
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