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結局、ローレンツはアリーシアの衣装を色々買い込んだ。
いらないと言ったところで聞かないのだから、アリーシアにはどうしようもなかった。
しかも、アリスもアンドレも勧めてきて、誰も主の散財を止めようとしないのだから、アリーシア一人で立ち向かったところで無駄なのは分かりきっていた。
困り果てたアリーシアを楽し気に見ているのはザックだ。
アリーシアを見ているというよりも、ローレンツを見ていると言ったほうが正しい。
許可が出れば今すぐにでも大笑いしそうな雰囲気でにやにや見ている。
何がそんなに楽しいのかアリーシアには分からないが、結局彼もローレンツを止める気配はなかった。
「金は腐る程あるから問題ない」
「旦那様はため込むしか能がないので、こうしてたまには経済を動かさなければなりません」
「そうですよ! お金は使ってこそです」
「いいんじゃね? 自分の金をどう使おうが、自分の勝手だろ?」
「しかし、限度と言うものが――……」
アリーシアの言い分もあるが、それは黙殺された。
「金のないどこかの伯爵家と一緒にしてもらっては困る。それこそ、俺に対する侮辱だ」
「そんな事……」
「まあまあ、わたくしとしては、いいと思います? 好きにさせておけばいいんですよ。それに、お断りするのは失礼にあたりますよ」
好きにさせておけばいいとは、それは彼女が商売人だからだ。
金払いのいい相手はさぞ好まれるだろう。
「わたくしは、ただの厄介者です……」
仮縫いの時にそう言えば、ローラはけらけらと笑った。
この場には、さすがにローレンツはいない。
下着一枚で、何枚ものドレスを試着している今は、女性陣だけだ。
「本当の厄介者は、そう言わないものですよ、お嬢様。それに、あの男はそんな小さなことにこだわるような性格じゃないですよ」
「小さなことではないのですが」
「小さなことですよ。戦場で生きてきたあの人たちにとって、こんな日常、ライオンの尻尾にたかるハエ程度でしょう。でも、そのハエも時々気に障る。だから排除する。そんなところでしょうね」
ローレンツを過去を知っていると、そうは思えない。
復讐するのだと言った、瞳は力強い決意に満ちていて、今こうしてアリーシアに関わっているのもそのせいだ。
「わたくしは、ローレンツ様が……いえ、ローレンツがまだこの国にいるときからの知り合いだけど、まあだいぶ変わったと思います。言っておきますけど、いい意味でという事です。色々とあったけど、復讐でもなんでもいいから前向きになってくれてよかったなと」
ローラはローレンツの過去を知っている。
復讐がそんなにいい事なのかと思ってしまう発言に、アリーシアはちらりとローラを見た。
「生きる屍よりかはマシと言うところです。復讐を推奨しているわけではありませんが、目的があって、それで生きて行けるのなら、復讐でもなんでもいいと思うんですよ」
生きると言うのは難しいですね、と苦笑しながらローラは衣装に合わせた装飾品も取り出していく。
「でも、復讐だけで人は生きてもいけません。復讐が終わったら、その次はどうするか、その目的を失えば、結局生きることは難しいのですから。でも、ローレンツはそんな心配必要なさそうでよかったと思います」
「こちらの使用人は、みなさんいい方ばかりですから」
執事のアンドレも、侍女のアリスも、そしてザックや他の傭兵団の傭兵、みんながローレンツを慕っていて、ローレンツも彼らを守るために生きて行ける。
「うーん、そういう意味ではないのですが――……まあ、今はまだいいでしょう。お嬢様は奥様ですしね」
着替えを手伝っていたアリスはうんうんと頷きながら、ローラと分かりあっている。
自分一人だけ、分からないのは、きっとローレンツとの付き合いが短いからだ。
「お嬢様も、もっと幸せになる権利はあるんですよ? 大丈夫。ローレンツに任せておけば、全員殺してくれますから!」
「えっ!? こ、殺す?」
復讐と言っていたからには、ローレンツはそういうことを考えているのだろうけど、争いごとになれていないアリーシアは、直接的な言い方に戸惑ってしまう。
「ローラさん、少し言いすぎですよ。シア様が驚いています。せめて、暗殺くらいにしませんか?」
「アリスちゃんも言うわねぇ。でも、どうせ死ぬならどっちの表現でも同じかしら?」
「わたしの方がまだ平和的じゃないですか?」
どっちもどっちな気がしたが、それを指摘できない。
「シア様、旦那様は狙った獲物は逃がさない方です! ですから安心してください」
とりあえず、何をどう安心すればいいのか分からないが、アリスがローレンツを信じている事だけは分かった。
「さあさあ、おしゃべりはほどほどにして次はこちらをお願いしますね?」
「はい、シア様。これも綺麗ですね。特にこのラインが――……」
アリーシアは、ここ最近特に感じるローレンツの好意に戸惑う事がある。
その好意はいやではなかった。
いやでないからこそ、アリーシアは自覚し始めている思いに蓋を閉じるしかない。
夫のある身で考えてはいけない事。
そして、ローレンツを困らせる結果にしかならないのだから。
いらないと言ったところで聞かないのだから、アリーシアにはどうしようもなかった。
しかも、アリスもアンドレも勧めてきて、誰も主の散財を止めようとしないのだから、アリーシア一人で立ち向かったところで無駄なのは分かりきっていた。
困り果てたアリーシアを楽し気に見ているのはザックだ。
アリーシアを見ているというよりも、ローレンツを見ていると言ったほうが正しい。
許可が出れば今すぐにでも大笑いしそうな雰囲気でにやにや見ている。
何がそんなに楽しいのかアリーシアには分からないが、結局彼もローレンツを止める気配はなかった。
「金は腐る程あるから問題ない」
「旦那様はため込むしか能がないので、こうしてたまには経済を動かさなければなりません」
「そうですよ! お金は使ってこそです」
「いいんじゃね? 自分の金をどう使おうが、自分の勝手だろ?」
「しかし、限度と言うものが――……」
アリーシアの言い分もあるが、それは黙殺された。
「金のないどこかの伯爵家と一緒にしてもらっては困る。それこそ、俺に対する侮辱だ」
「そんな事……」
「まあまあ、わたくしとしては、いいと思います? 好きにさせておけばいいんですよ。それに、お断りするのは失礼にあたりますよ」
好きにさせておけばいいとは、それは彼女が商売人だからだ。
金払いのいい相手はさぞ好まれるだろう。
「わたくしは、ただの厄介者です……」
仮縫いの時にそう言えば、ローラはけらけらと笑った。
この場には、さすがにローレンツはいない。
下着一枚で、何枚ものドレスを試着している今は、女性陣だけだ。
「本当の厄介者は、そう言わないものですよ、お嬢様。それに、あの男はそんな小さなことにこだわるような性格じゃないですよ」
「小さなことではないのですが」
「小さなことですよ。戦場で生きてきたあの人たちにとって、こんな日常、ライオンの尻尾にたかるハエ程度でしょう。でも、そのハエも時々気に障る。だから排除する。そんなところでしょうね」
ローレンツを過去を知っていると、そうは思えない。
復讐するのだと言った、瞳は力強い決意に満ちていて、今こうしてアリーシアに関わっているのもそのせいだ。
「わたくしは、ローレンツ様が……いえ、ローレンツがまだこの国にいるときからの知り合いだけど、まあだいぶ変わったと思います。言っておきますけど、いい意味でという事です。色々とあったけど、復讐でもなんでもいいから前向きになってくれてよかったなと」
ローラはローレンツの過去を知っている。
復讐がそんなにいい事なのかと思ってしまう発言に、アリーシアはちらりとローラを見た。
「生きる屍よりかはマシと言うところです。復讐を推奨しているわけではありませんが、目的があって、それで生きて行けるのなら、復讐でもなんでもいいと思うんですよ」
生きると言うのは難しいですね、と苦笑しながらローラは衣装に合わせた装飾品も取り出していく。
「でも、復讐だけで人は生きてもいけません。復讐が終わったら、その次はどうするか、その目的を失えば、結局生きることは難しいのですから。でも、ローレンツはそんな心配必要なさそうでよかったと思います」
「こちらの使用人は、みなさんいい方ばかりですから」
執事のアンドレも、侍女のアリスも、そしてザックや他の傭兵団の傭兵、みんながローレンツを慕っていて、ローレンツも彼らを守るために生きて行ける。
「うーん、そういう意味ではないのですが――……まあ、今はまだいいでしょう。お嬢様は奥様ですしね」
着替えを手伝っていたアリスはうんうんと頷きながら、ローラと分かりあっている。
自分一人だけ、分からないのは、きっとローレンツとの付き合いが短いからだ。
「お嬢様も、もっと幸せになる権利はあるんですよ? 大丈夫。ローレンツに任せておけば、全員殺してくれますから!」
「えっ!? こ、殺す?」
復讐と言っていたからには、ローレンツはそういうことを考えているのだろうけど、争いごとになれていないアリーシアは、直接的な言い方に戸惑ってしまう。
「ローラさん、少し言いすぎですよ。シア様が驚いています。せめて、暗殺くらいにしませんか?」
「アリスちゃんも言うわねぇ。でも、どうせ死ぬならどっちの表現でも同じかしら?」
「わたしの方がまだ平和的じゃないですか?」
どっちもどっちな気がしたが、それを指摘できない。
「シア様、旦那様は狙った獲物は逃がさない方です! ですから安心してください」
とりあえず、何をどう安心すればいいのか分からないが、アリスがローレンツを信じている事だけは分かった。
「さあさあ、おしゃべりはほどほどにして次はこちらをお願いしますね?」
「はい、シア様。これも綺麗ですね。特にこのラインが――……」
アリーシアは、ここ最近特に感じるローレンツの好意に戸惑う事がある。
その好意はいやではなかった。
いやでないからこそ、アリーシアは自覚し始めている思いに蓋を閉じるしかない。
夫のある身で考えてはいけない事。
そして、ローレンツを困らせる結果にしかならないのだから。
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