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34.ローレンツサイド
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「で? 本当のところどうなんだ?」
興味津々といった感じでザックがローレンツににやにや笑いかけた。
無視したところでしつこいその追及に、ローレンツの方が観念する。
「どうもこうも、彼女は人妻だ」
「離婚予定の、な」
「それでもだ。彼女は俺に対して特別どうも思っていない。思っていたとしても、刷り込みのようなモノだろう。そもそも、年も離れているしな」
「そういう言い訳聞きたい訳じゃないんだけどな。アンドレも気にしてそうだけど? 軟禁状態にしておきながら理由を言わないとか、むしろそれで全部わかりそうなもんだろ?」
「いちいち、うるさい。別に俺の事はいいだろ」
「ふーん、じゃあドレス作らせてるのは、本当に純粋な謝罪の気持ちだと? 馬鹿言ってんじゃねーぞ? そんな言い訳通じんのは、そこら辺のガキだけだ」
むしろ、そこらへんのガキですらそんな言い訳通じないけどなと最後に付け加えるザックに、睨むことしか出来ないローレンツは、ふいと視線を外して外を眺めた。
「別にいいじゃねーか。はっきり言えよ。誰も、反対しないだろ?」
「……そういう問題じゃない」
ローレンツの頑なな態度に、ザックの方が盛大なため息を吐いた。
「いやだいやだ、こんな堅物に育っちまって、オレは悲しいよ」
「誰も、お前に育てられてない」
「傭兵の心得教えてやったのは誰だと思ってる? まあ、お前超生意気だったけど。今もだけど」
それは感謝しているが、それでも特別ザックに育てられたと言われるほどではない。
「で? 結局どうなの?」
「しつこい! いいだろ別に!」
「気になって仕方ないくせに、意固地だなぁ」
「出ていけ」
しつこい相手に最終的にそう命じ、ザックは大人しくへいへいと言いながら出て行く。
一人になると思い出すのは、アリーシアの事だ。
はじめは、巻き込んだことへの罪悪感と、伯爵家の変わらない様子に怒りがわいた。
その次に、日の光の中どこか寂し気に遠くを見る様子が気になった。
こちらを見る瞳が不安げに揺らぎ、その度にどうしようもない気持ちが押し寄せて、気にせずにはいられない。
『出て行く』と辛そうに語る言葉に、それが望みだと思えず、苛立ちが先に立ったのは数日前の事だ。
直観的に行動することはあれど、衝動的に行動したことは覚えている限りはない。
しかし、なぜか彼女の様子が気になって、拒否されたような否定された気分になったあの時、何も考えられ、ただ閉じ込めることだけを選択していた。
あれはまずかった。
今思っても、訴えられてもおかしくない。
周りはまるではれ物を触るかのようにしばらく放置していたが、そのうちしびれを切らせたアンドレに、彼女の部屋に放り込まれた。
お互い気まずい空気の中、ローレンツはいつの間にか自分の過去を語っていた。
語らずとも、適当な言い訳できっとアリーシアは納得してくれたはずだ。
それなのに、正直にすべてを話していた。
きっと嫌われる。
どことなく潔癖な感じのあるアリーシアに、復讐を語れば、嫌悪されるのではないかと思った。
しかし、彼女は全てを聞いてもローレンツを嫌悪することもなく、そして巻き込んだことを怒るわけでもなく、ただ感謝の言葉を紡いでくれた。
出て行くと言ったのは、ここが嫌なわけではなく、ローレンツに迷惑がかかると思っているからだと気づいたとき、彼女の憂いを取り除きたいと強く思った。
伯爵家は心から憎んでいる。
滅ぼしたいほどに。
その気持ちは、アリーシアへの扱いでさらに深くなった。
「感謝されたい訳じゃない。ただ、笑ってほしいだけだ」
出会ってまだ一か月。
思いを自覚するには短く、しかし否定するほど、鈍くもない
「本当のところどうなのか、俺の方が知りたい」
定まっていない気持ちを誰かに言うつもりはない。
勝手に話を進めようとするやつらはただ、睨んで黙らせている状態だ。
今は、それでいい。
少なくとも、アリーシアが落ち着くまでは。
その先の未来など、今考えても仕方がない。
どう進むのかは分からないが、それでもローレンツは自分への誓いは忘れない。
伯爵家に復讐し、アンナの仇をとる。
それが終わるまで、安息は訪れない。
そしてやっと、その時が来るのだ。
ローレンツはぐっと手を握りしめた。
興味津々といった感じでザックがローレンツににやにや笑いかけた。
無視したところでしつこいその追及に、ローレンツの方が観念する。
「どうもこうも、彼女は人妻だ」
「離婚予定の、な」
「それでもだ。彼女は俺に対して特別どうも思っていない。思っていたとしても、刷り込みのようなモノだろう。そもそも、年も離れているしな」
「そういう言い訳聞きたい訳じゃないんだけどな。アンドレも気にしてそうだけど? 軟禁状態にしておきながら理由を言わないとか、むしろそれで全部わかりそうなもんだろ?」
「いちいち、うるさい。別に俺の事はいいだろ」
「ふーん、じゃあドレス作らせてるのは、本当に純粋な謝罪の気持ちだと? 馬鹿言ってんじゃねーぞ? そんな言い訳通じんのは、そこら辺のガキだけだ」
むしろ、そこらへんのガキですらそんな言い訳通じないけどなと最後に付け加えるザックに、睨むことしか出来ないローレンツは、ふいと視線を外して外を眺めた。
「別にいいじゃねーか。はっきり言えよ。誰も、反対しないだろ?」
「……そういう問題じゃない」
ローレンツの頑なな態度に、ザックの方が盛大なため息を吐いた。
「いやだいやだ、こんな堅物に育っちまって、オレは悲しいよ」
「誰も、お前に育てられてない」
「傭兵の心得教えてやったのは誰だと思ってる? まあ、お前超生意気だったけど。今もだけど」
それは感謝しているが、それでも特別ザックに育てられたと言われるほどではない。
「で? 結局どうなの?」
「しつこい! いいだろ別に!」
「気になって仕方ないくせに、意固地だなぁ」
「出ていけ」
しつこい相手に最終的にそう命じ、ザックは大人しくへいへいと言いながら出て行く。
一人になると思い出すのは、アリーシアの事だ。
はじめは、巻き込んだことへの罪悪感と、伯爵家の変わらない様子に怒りがわいた。
その次に、日の光の中どこか寂し気に遠くを見る様子が気になった。
こちらを見る瞳が不安げに揺らぎ、その度にどうしようもない気持ちが押し寄せて、気にせずにはいられない。
『出て行く』と辛そうに語る言葉に、それが望みだと思えず、苛立ちが先に立ったのは数日前の事だ。
直観的に行動することはあれど、衝動的に行動したことは覚えている限りはない。
しかし、なぜか彼女の様子が気になって、拒否されたような否定された気分になったあの時、何も考えられ、ただ閉じ込めることだけを選択していた。
あれはまずかった。
今思っても、訴えられてもおかしくない。
周りはまるではれ物を触るかのようにしばらく放置していたが、そのうちしびれを切らせたアンドレに、彼女の部屋に放り込まれた。
お互い気まずい空気の中、ローレンツはいつの間にか自分の過去を語っていた。
語らずとも、適当な言い訳できっとアリーシアは納得してくれたはずだ。
それなのに、正直にすべてを話していた。
きっと嫌われる。
どことなく潔癖な感じのあるアリーシアに、復讐を語れば、嫌悪されるのではないかと思った。
しかし、彼女は全てを聞いてもローレンツを嫌悪することもなく、そして巻き込んだことを怒るわけでもなく、ただ感謝の言葉を紡いでくれた。
出て行くと言ったのは、ここが嫌なわけではなく、ローレンツに迷惑がかかると思っているからだと気づいたとき、彼女の憂いを取り除きたいと強く思った。
伯爵家は心から憎んでいる。
滅ぼしたいほどに。
その気持ちは、アリーシアへの扱いでさらに深くなった。
「感謝されたい訳じゃない。ただ、笑ってほしいだけだ」
出会ってまだ一か月。
思いを自覚するには短く、しかし否定するほど、鈍くもない
「本当のところどうなのか、俺の方が知りたい」
定まっていない気持ちを誰かに言うつもりはない。
勝手に話を進めようとするやつらはただ、睨んで黙らせている状態だ。
今は、それでいい。
少なくとも、アリーシアが落ち着くまでは。
その先の未来など、今考えても仕方がない。
どう進むのかは分からないが、それでもローレンツは自分への誓いは忘れない。
伯爵家に復讐し、アンナの仇をとる。
それが終わるまで、安息は訪れない。
そしてやっと、その時が来るのだ。
ローレンツはぐっと手を握りしめた。
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