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『白い結婚』
これは貴族間の間で、貴族女性が公的に結婚を執り行う神殿に申し入れ、結婚解消を求めることの出来る権利だ。
しかし、当然、このような事は不祥事でしかない。
男側にとっても女側にとっても。
特に女性側は、夫となる男性に触れてもらえることさえできない程魅力がないと見られ、再婚することはまずできない。
ただでさえ、離婚訴訟を起こされているのに、白い結婚を申し出た場合、本当に貴族社会では生きていく事はできない。
「いいんです、どちらにしても貴族社会で生きていく事は難し事は分かっていますから」
アリーシアは大神官が帰った後で、吹っ切れたようにローレンツに言った。
「不名誉であろうと、少なくとも結婚した事実が無くなるほうが、わたくしとしてはうれしいのです」
困惑したようにアリーシアを見る相手に、どうってことない様に話す。
事実、アリーシアは本気でどうも思っていなかった。
むしろ、清々した気分にもなっていた。
こんな風に考えられたのはローレンツのおかげだと感謝もしている。
一人だったら、きっと言われるままにすべての泥をかぶって死んでいたかもしれないから。
「ローレンツ様、気にしないで下さい。本当にわたくしは大丈夫です」
「いや……それは――」
口元を手で覆いながら、ローレンツは何を言っていいのか分からないようだった。
「こんなに良くしていただいて、一つくらいはわたくしにも手伝わせていただきたいのです。こんな方法でしか、ローレンツ様の名誉を守ることが出来ませんが」
ローレンツは沈黙したままだ。
今までにない反応に、もしかして勝手なことをした事を怒っているのではないかと心配になる。
神官がきても全部ローレンツに任せるように言われていたのに、最後の最後で口を挟んだから。
それでも、あの大神官のいい様に、アリーシアも思うところがあった。
公平と言いながらも、どこかでローレンツを見下したような言い方だった。
確かに、ローレンツは平民だったかも知れないが、今は国王陛下が、王家が認めた貴族だ。
一方的な言い分は、我慢できなかった。
「すみません……わたくしは余計な事をしましたか?もし、わたくしの発言のせいでローレンツ様を困らせてしまったのなら謝罪します」
はっとしたかのように、ローレンツは顔を上げた。
しかし、その視線は揺らいで、いつもまっすぐアリーシアを見ている瞳がすぐに逸らされる。
「その、別に俺は困っていない……君の方が社会的に不利になる……」
「社会的に不利になっても、貴族でなくなれば、どうってことはありませんよ。平民になれば、こんな貴族の不祥事など誰も気にしませんから」
「そうだが……いや、その……でも、本当なのか?」
ちらりとアリーシアに投げかけられる視線に、ぱちぱちと目を瞬いた。
「あの……」
「『白い結婚』ということは、つまり、そういう事だろう?」
「そういう……?――えぇ、つまり夫とは一度も身体を重ねたことはないと――……」
「本当に?」
「お疑いなのでしょうか? 検査を受ければすぐに分かることで――」
その時、なぜローレンツがこんなに動揺したように視線を逸らしているのかようやく理解した。
まさか、結婚しているのに乙女だと――処女だとは思っていなかったのだろう。
アリーシアは困ったように微笑んだ。
「わたくしは、旦那様の好みではないそうです。当時、すでに愛している方がいらっしゃたようでして、そちらの方とお過ごしで……。わたくし、貧相ですから、殿方からしたらやはり魅力が乏しいのでしょうね」
「そんな事はない!」
ローレンツがきっぱりと否定した。
驚いたようにアリーシアが目を見開く。
「こんな事を言うと、その、所謂性的な目で見ていると非難されるかもしれないが……少なうとも、俺は魅力的だと思う。女性として魅力がないと言っている男の方が、特殊な趣味でもあるのかと思うくらいには、美的感覚がおかしいと思う」
「あ、ありがとうございます」
真面目にそう返されると、耐性のないアリーシアの頬を自然と赤くなる。
しかも、それを口にしたのは、顔の整ったそれこそ、誰が見ても魅力的な男性だと特にだ。
恥ずかしそうに、今度はアリーシアの方が俯く番になった。
とても冷静にローレンツを見る事が出来なかった。
お世辞だとしても、破壊力は抜群の言葉だった。
これは貴族間の間で、貴族女性が公的に結婚を執り行う神殿に申し入れ、結婚解消を求めることの出来る権利だ。
しかし、当然、このような事は不祥事でしかない。
男側にとっても女側にとっても。
特に女性側は、夫となる男性に触れてもらえることさえできない程魅力がないと見られ、再婚することはまずできない。
ただでさえ、離婚訴訟を起こされているのに、白い結婚を申し出た場合、本当に貴族社会では生きていく事はできない。
「いいんです、どちらにしても貴族社会で生きていく事は難し事は分かっていますから」
アリーシアは大神官が帰った後で、吹っ切れたようにローレンツに言った。
「不名誉であろうと、少なくとも結婚した事実が無くなるほうが、わたくしとしてはうれしいのです」
困惑したようにアリーシアを見る相手に、どうってことない様に話す。
事実、アリーシアは本気でどうも思っていなかった。
むしろ、清々した気分にもなっていた。
こんな風に考えられたのはローレンツのおかげだと感謝もしている。
一人だったら、きっと言われるままにすべての泥をかぶって死んでいたかもしれないから。
「ローレンツ様、気にしないで下さい。本当にわたくしは大丈夫です」
「いや……それは――」
口元を手で覆いながら、ローレンツは何を言っていいのか分からないようだった。
「こんなに良くしていただいて、一つくらいはわたくしにも手伝わせていただきたいのです。こんな方法でしか、ローレンツ様の名誉を守ることが出来ませんが」
ローレンツは沈黙したままだ。
今までにない反応に、もしかして勝手なことをした事を怒っているのではないかと心配になる。
神官がきても全部ローレンツに任せるように言われていたのに、最後の最後で口を挟んだから。
それでも、あの大神官のいい様に、アリーシアも思うところがあった。
公平と言いながらも、どこかでローレンツを見下したような言い方だった。
確かに、ローレンツは平民だったかも知れないが、今は国王陛下が、王家が認めた貴族だ。
一方的な言い分は、我慢できなかった。
「すみません……わたくしは余計な事をしましたか?もし、わたくしの発言のせいでローレンツ様を困らせてしまったのなら謝罪します」
はっとしたかのように、ローレンツは顔を上げた。
しかし、その視線は揺らいで、いつもまっすぐアリーシアを見ている瞳がすぐに逸らされる。
「その、別に俺は困っていない……君の方が社会的に不利になる……」
「社会的に不利になっても、貴族でなくなれば、どうってことはありませんよ。平民になれば、こんな貴族の不祥事など誰も気にしませんから」
「そうだが……いや、その……でも、本当なのか?」
ちらりとアリーシアに投げかけられる視線に、ぱちぱちと目を瞬いた。
「あの……」
「『白い結婚』ということは、つまり、そういう事だろう?」
「そういう……?――えぇ、つまり夫とは一度も身体を重ねたことはないと――……」
「本当に?」
「お疑いなのでしょうか? 検査を受ければすぐに分かることで――」
その時、なぜローレンツがこんなに動揺したように視線を逸らしているのかようやく理解した。
まさか、結婚しているのに乙女だと――処女だとは思っていなかったのだろう。
アリーシアは困ったように微笑んだ。
「わたくしは、旦那様の好みではないそうです。当時、すでに愛している方がいらっしゃたようでして、そちらの方とお過ごしで……。わたくし、貧相ですから、殿方からしたらやはり魅力が乏しいのでしょうね」
「そんな事はない!」
ローレンツがきっぱりと否定した。
驚いたようにアリーシアが目を見開く。
「こんな事を言うと、その、所謂性的な目で見ていると非難されるかもしれないが……少なうとも、俺は魅力的だと思う。女性として魅力がないと言っている男の方が、特殊な趣味でもあるのかと思うくらいには、美的感覚がおかしいと思う」
「あ、ありがとうございます」
真面目にそう返されると、耐性のないアリーシアの頬を自然と赤くなる。
しかも、それを口にしたのは、顔の整ったそれこそ、誰が見ても魅力的な男性だと特にだ。
恥ずかしそうに、今度はアリーシアの方が俯く番になった。
とても冷静にローレンツを見る事が出来なかった。
お世辞だとしても、破壊力は抜群の言葉だった。
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