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第1章/1-36
30 ▼レンブルフォート領地自然環境調査所▼
しおりを挟む俺とエレノアは御用馬車に乗って、帝都の外れに建設中の研究所の視察に向かう。レンブルフォートの気候や生態系の研究のための施設、というのが名目だが、主に皇鉱石とそれを原料とした恐ろしい爆弾の研究開発のための施設だ。そう教えられたわけではないが、それ以外ありえない。
「兵器の研究所だろうねえ…ぼうやは設立計画には関わってるのかい?」
エレノアも承知済みだ。まあ当然だ。主たる業務は自然環境の調査と報告書には書いてあるが、そんな研究にこんなにも早くこれだけの予算が割り当てられるわけがない。
「いや。このプロジェクトは俺は一切触らせてもらってない」
「そうか。王国の本心の部分ってわけね…」
「エレノアは王立科学戦術兵器研究所の連中から何か聞いてるのか?」
「…あの連中はねえ、何かと軍に指示されるのが気に食わないみたいだからねえ…アタシはあんまり関わってないのさ」
知ってる。
「何か無理な研究でも軍が強要してるとかじゃないのか?」
「まあ上の方はね、そういうことも…アタシは相棒のクリムゾン・シャークが調子良ければ満足だけど」
海の上で初めて会った時に、エレノアが乗ってた全面赤い塗装の船だな。見た目完全に海賊船の実質軍艦。今思うと、けっこう男心くすぐるデザインだった。
「アタシらは武器が無いと戦えないし、しょぼい武器使っててもさ、メンツがあるだろう?」
「まあな、分からなくないけど」
軍部の方の事情もいろいろあるらしい。エレノア自身はそれほど兵器には興味無いようだ。
▼ ▼ ▼
建設現場に到着。すでに本棟の基礎的な工事は済んでいる。あとは内装とか備品の納入、防災措置、その他もろもろ。仕事が早いな。よっぽどさっさと皇鉱石の分析を始めたいんだろう。
本棟の正面玄関には『レンブルフォート領地自然環境調査所』と書かれたプレートが掲げられている。カモフラージュでそのような平和的な名称にしたようだ。
「中はまだ工事中です。危ないのでこれを」
俺とエレノアはヘルメットを渡される。丸っこくて地味、実用性全振りの極めてダサいデザインが逆に硬派でかっこいい、と思い込めばだんだんかっこよく見えてくる…ということはなかった。とりあえずそのダサいヘルメットを被って工事中の本棟の中に入る。
「…こちらが、資材保管庫、実験棟は幾つかの種類に分かれてまして…」
俺は係の作業員から退屈な説明を受ける。聞いても意味分からんので正直眠くなる。さっさと帰りたい…
「おや? 来てたのかい?」
ぼーっと油断していたところに急に話しかけられる。聞き覚えのある声、嫌な予感…声のした方を向くと、通路の曲がり角からクロノスが歩いてこちらに向かってくるところだ。
「…いたのか…」
クロノスもダサいヘルメットを被っている。この中で唯一着こなしているかもしれん。
「そりゃそうさ。私はここの調査所の主任研究者の一人に就任したよ」
「でしょうね」
「第五研究室だ。向こうの区画を貰ったよ、一番大きな実験室だ」
「良かったですね」
「相変わらずつれないね」
クロノスは苦笑する。ここで何をするつもりなのかは分かっているが…しかし、こいつにレンブルフォート内をあちこち調べられたら、皇鉱石の詳細が知られてしまうのも時間の問題だ。
「ぼうや、そのオッサン知り合いかい?」
エレノアが話に割って入る。
「まあな」
「オッサンか…まだ若いつもりなんだが。キャプテン殿、あなたは?」
「海軍のエレノア」
「海軍?」
「まあこんな格好してるけどね。あんた、兵器の学者?」
「兵器はそれほどでも。ここではレンブルフォートの地質の調査を担当するよ」
何をでまかせを。
「…ところで、ルシーダ。例のことは、そろそろ教えてくれるかい?」
クロノスが俺の近くに寄って、少し声を落として話す。
「…まだ何も分からないんだ」
「そうかな? そんなはずはないけどね」
「なんで分かるんだ」
「分かるさ。赤い皇鉱石、君たちはリコリス皇鉱石と呼ぶらしいね? 私も戦争が終わってから、王国が押収したレンブルフォートの資料を読ませてもらったよ」
「それなら俺も読んだ」
「いろいろ新しい発見があったね。あとはやはり、実物だ。リコリス皇族なら知っているんだろう?」
「それについては手がかり無し。俺も探してみてはいるんだが」
クロノスは俺の顔を見つめて少し黙る。
「…まあ、今言うつもりがないのならそれでもいいさ。でもそう遠くないうちに頼むよ」
「…どうかな」
「ちょっとあんたら、何の話だい?」
エレノアが俺たちのひそひそ話しを中断する。
「おっと失礼したね。レンブルフォートの地層から発掘される特殊な鉱物についての話だよ」
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