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第一章
第16話
しおりを挟む「…何か飲むか?ココアと紅茶、コーヒーがあるけど。」
「…じゃあ、ココアを貰える…かな?」
俺とヒスティエはあれから
場所を移動して学校長室の隣の会議室にいる。
誰かに聞かれず、尚且つ
話しやすい場所だからだ。
俺はココアとコーヒーを
カップに注ぎ、ヒスティエに
ココアを手渡す。
「ありがとう。」
俺は席に座ってコーヒーを
1口、口に含んだ。
「……何から話せばいいかな。」
ヒスティエは湯気の立つココアに
映る自分を見つめる。
「…私ね。病気なんだ。」
「…病気?」
見たところは健康に見える。
「うん。私はとても珍しい病気を患っていて、その性で命を狙われているの。…この病気を研究して軍事活用するとか言ってた。」
「軍事活用?」
…まさかまたサルザット帝国か?
研究となると…まさかアイツが…
「レウ君?どうしたの?急にとても怖い顔をして…。」
ヒスティエの声にハッとすると
彼女は首を傾げてこちらを見ていた。
「すまない。少し考え事をしていた。…えっと、軍事活用、だったか?」
「そう。そんな事を言ってたよ。」
考え事はあとにして、
ヒスティエの話を聞こう。
「…レウ君は……『モーヴの瞳』って知ってる?」
『モーヴの瞳』?
「…それが病気の名前か?」
「うん。…この病気はね、先天的なものなの。」
ヒスティエはカップの縁を
つつっと細い指先でなぞった。
「…『モーヴの瞳』は、詳しい事はまだ不明だけど…脳の欠陥による病気だよ。…症状は、たった一つの魔術しか使えないというもの。」
「…一つ…だけ…。」
俺の呟きにヒスティエは
軽く頷く。
「…私の場合は"防御"の魔術のみ。たったそれだけ。」
…"防御"の魔術だけ。
「けど、たった一つの魔術しか使えない代わりに、その魔術を自在に使うことができるの。…魔銃がなくても頭の中で自動的に計算式が一瞬で思い浮かんで式に組み込まれるから。」
「それは凄いな…。」
つまり、誰よりも早く魔術を
発動する事ができるという事だ。
少し前にニコレッタさんから
聞いた話によるといくら魔銃が
素早く自動計算してくれると言っても
やはり誤差があるらしい。
スーパーコンピュータの方が
早く尚且つ正確に計算できると
言っていた。
しかし魔銃のサイズ的に
そのスーパーコンピュータのポテンシャルを
魔銃に組み込むことはできないらしい。
「そうかな?…一つしか魔術が使えないし。」
ヒスティエの場合、敵が"攻撃"魔術を発動する
よりも先に、さも当たり前のように
"防御"魔術を発動できる。
…この前のように奇襲される以外だったら、
ヒスティエはとても頼りになるだろう。
「ああ、凄いと思う。…なるほど、それは狙われるな。」
『モーヴの瞳』がより研究されて…
例えば、この病気の一つしか魔術が
使えないという点を使って、
魔術を封じる魔術が考えられたり、
一瞬で計算できる点を使って、
魔銃にその脳の仕組みを取り入れたり
して、魔術発動速度を格段に
上げたりできるかもしれないのだ。
…研究者や権力者にとっては
ヒスティエは宝石箱のようなものだ。
「…うん。…お母様の話によると私以外にも、確認されているだけでは、約三十名ぐらいの人が『モーヴの瞳』を患っているらしいの。みんな安全に暮らしているか心配…。」
確かにそうだ。
きっとヒスティエ以外にも
同じく狙われている人はいるだろう。
「…私は、こんな病気になりたくてなったんじゃない。ただ、静かに幸せに暮らせたら良かったのに…。お父様とお母様と3人で…。」
ヒスティエはくしゃっと
顔を歪めた。
「…ヒスティエのご両親は?」
「………………。」
ヒスティエは何処か焦点の合わない目で
話し出す。
「…最初、私は優しいお母様とお父様のもとでスクスクと育ってた。お母様と一緒にパンを作ったり、お父様と一緒に森を探索したり。…あの時はとても幸せだった。」
ヒスティエは微かに目を細めた。
…まるで昔の思い出をその瞳に
映しているように。
「…けど、13歳の時にその幸せは簡単に崩れたの。…ある日家に武装した5人組がやって来た。私を寄越せと言って。お父様達は怒って私を背に庇った。そしたら、あの人達はッ…お母様とお父様を…ッ。」
ヒスティエは言葉を区切り
顔を俯かせた。
…多分、ヒスティエのご両親は
殺されたのだろう。
「…ッ………お父様は魔術を使うのがとても上手だったから、5人の内3人を殺…して…お母様も残りの内の1人の片足を使えなくしたの。そして、お父様とお母様の最後の言葉通り、生きている残りの2人から必死で逃げた。…お父様達を残して。」
ヒスティエのスカートに
雫がポツリ…ポツリと落とされた。
俺は飲みかけのコーヒーを置いて、
ヒスティエの肩を引き寄せる。
ヒスティエは俺の胸に額を当てて
抑えきれなかった泣き声を吐き出した。
「…辛かったな。」
そう言いながら右手でポンポンと
背中を撫でてやる。
自分の病気の性で両親が
目の前で殺された悲しみは
想像できないほど辛いだろう。
暫くして、少し落ち着いてきた
ヒスティエが続きを掠れた声で言う。
「……グスッ。……スン。あの人達に私が『モーヴの瞳』を患っているとバレたのは…きっと私のせい。私ッ、お父様達に褒められたくてこっそり、家の近くの森で魔術の練習をしてたの。だから、それがきっと見つかってッ……。うぅっ…。」
「…ヒスティエは悪くない。褒められたかっただけなんだろう?…ご両親に。ヒスティエの病気を利用しようとした奴らだけが悪い。」
俺は顔を顰めた。
…弱い者を食い物にして、
楽しいか?お前らは。
そんなお前らを俺は……
「…ぅん。ありがとう、レウ君。」
ヒスティエの言葉に思考が浮上する。
いつの間にか左手を思い切り
握りしめていたのか、爪が食い込んで
少し血が出ていた。
ヒスティエに気づかれないように
ポケットに左手を突っ込み、
"治癒"魔術を発動させて治す。
「……それから、どれくらい走ったのかわからなくなるぐらい走り続けて…いつの間にか気を失って…気がついたら、優しいお爺さんに保護されてたの。」
…不幸中の幸いだろうか。
気を失っている間に追いつかれ、
連れてかれなくて良かった。
「お爺さんには本当に感謝してる…。この学校に来るまでの2年間、私を育ててくれたの。そして、あの学校に入ればきっと安全だろうと言って、お金を払って私をこの学校に入れてくれた…。」
きっと、父上がいるからだろう。
この国一強いと言われてる父上だ。
たとえヒスティエが学校にいる事が
バレても、父上の管理下で
好き勝手するような…出来るような奴は
愚か者しかいない。
……そういえば、入学式の翌日に
馬鹿な奴らが来たな。
「…良かったな。とても良い人に会えて。」
「うん。本当に良い人なの。私がお爺さんに私と一緒にいると命を狙われると言ったら、笑って大丈夫だって。これでも私は強いんだぞって。」
その時の事を思い出したのか
ふふっと笑うヒスティエ。
「…お爺さんは元気か?」
「うん。毎日、連絡を取ってるよ。朝と寝る前に。」
「そうか…。」
俺はヒスティエの頭を撫でた。
ヒスティエは気持ちよさそうに
目をゆっくりと閉じた。
暫く、心地の良い時間が俺を包んだ。
ー ピリピリピリッ。
その時間に終わりを告げたのは
ADXの着信音だった。
2人でハッとなって慌てて
ADXを取り出す。
「…私じゃないよ?」
「ああ。俺だ。…どうやら、父上のようだ。」
ー ピッ。
「はい。レウです。」
『…話は終わったか?』
事前に父上には会議室を使わせて
貰えるように連絡を入れてあった。
「はい。終わりました。…何か、急用ですか?」
『いや、無いよ。ただ…寝る前にキッカに連絡しておけ。……心配していたぞ。』
胸がじんわりと温かくなった。
「…はい。」
『…じゃあ、ちゃんと女子寮前まで彼女を送り届けるように。…おやすみ。』
「はい。おやすみなさい。」
ー ピッ。
「…そろそろ帰ろうか。」
「うん。……話、聞いてくれてありがとう。」
「…ああ。」
俺とヒスティエは校舎を
出て歩いた。
「…そういえば、何故『モーヴの瞳』っていう名前なんだ?」
先程から疑問に思っていた事を
ヒスティエに聞く。
「えっとね…魔術を発動する時に、瞳の色が紫色になるからだよ。…色が変わるせいで、『モーヴの瞳』だってわかっちゃうの。」
なるほど。
俺の"魔力増加"魔術と同じか。
俺の瞳がグレーから赤へと変わるように
ヒスティエの瞳も青から紫へと変わるのか。
「そうなのか…。」
「うん。…あ、着いたね。送ってくれてありがとう。」
女子寮の前まで着いた。
それぞれ寮は異性の立ち入りを
禁止しているため、玄関前で止まる。
「ああ。」
「…おやすみ。」
「…ヒスティエ。」
名前を呼ばれて首を傾げる
ヒスティエ。
「……話してくれて、ありがとう。おやすみ。」
ヒスティエは一瞬、
びっくりした顔をしたが
すぐにふわっと笑う。
「うん!…おやすみ、レウ君!」
ヒスティエはタタタッと
寮の中へ入っていった。
俺はヒスティエの姿が見えなくなってから
男子寮へ向かおうと足を動かす。
「わ~☆なになに?あれから二人っきりで、イチャイチャ過ごしてたのかい?…僕らみたいに?」
声に驚きつつ振り返ると、
そこにはげんなりしたルチアと
ニマニマしたクラト先輩が立っていた。
「…何言ってるの!?私とあなたがいつイチャイチャなんかしたのよ!!」
ルチアが真っ赤になりながら怒る。
「…仲がいいですね、先輩。」
「ふふっ。でしょ?」
「レウも何言ってんの!?」
「…もーさぁ?からかうと可愛…面白い反応してくれるからさぁ~。プッ。」
「~~~~~!!」
…本当に仲がいいな。俺、邪魔かな?
ここは気をきかせて立ち去ろう。
「どうやら、俺はお邪魔みたいなので先に失礼しますね。…おやすみなさい。」
「え!?ちょ、えっ!!?」
「あ、うん。おやすみ~。」
何か言ってるルチアをスルーして
俺は自分の部屋へと帰った。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「…あなたの所為で、変な誤解が生まれたんですけど?」
こめかみをぴくぴくさせながら、
ルチアは目の前でニコニコ笑ってる男に言う。
まさかレウが颯爽と去っていくとは
思わなかったとルチアは思っていた。
きっと、レウとこいつで2人で
帰ってくんだろうと。
「え?何か困るの?…あ、もしかしてヒスティエちゃんとルチアちゃんとレウ君とで…三角関係!?うわぉ!」
ニマニマと笑うクラト。
しかし、全く下品に見えない。
むしろ、色気があるくらいだ。
ルチアは全力で否定しようと叫ぶ。
「ちぃーがぁーぅッ…んん……!!!?」
不意にルチアの叫びが途切れた。
「……ルチアちゃん、もう夜遅いからあんまり大声出しちゃダメだよ?」
ルチアの叫びを止めたのは
白く細長いクラトの指だった。
今、ルチアはクラトに顎を
クイッと持ち上げられ、
親指で唇を軽く塞がれている。
ルチアは今自分に何が起きているか
理解出来ず、ただ目を大きく
見開いていた。
そんなルチアを見て
クラトはいつもの胡散臭い笑みを
消して自然な笑顔でルチアへ
徐々に近づき、
耳元へ自分の唇を寄せた。
そして、ポツリと呟く。
「…可愛いね、ルチアは。」
「ひぅッ!!?」
耳にクラトの吐息があたり、
尚且つ甘い声で囁かれてしまい、
ルチアは膝がカクンッとなりそうになる。
ルチアが慌ててクラトから
距離を取ると口元に手を当てて
笑っているクラトがいた。
何故か色気が漂っていた。
「あははっ。真っ赤だよ?ルチアちゃん。」
「ッ!!」
ルチアは肩をぷるぷる震わせた。
そして…
「ぅぅぅあぁぁー!!」
と、若干声の大きさを抑えて
声にならない声を上げつつ、
女子寮へと走って行った。
「ふふふっ。………ちょっと、危なかったかな。」
クラトはルチアが見えなくなった後に
ふうっと溜息を吐く。
「…あんまり、可愛い反応を見せないでよ。」
クラトは親指をペロリと舐めた。
まるでお菓子の生クリームを
舐めるように。
「……ふふっ。甘いなぁ。」
さて、明日はどうやって
あの可愛いツンデレをいじめようかと
楽しそうに笑いながら、
クラトは夜の闇に消えていった。
~作者コメント~
更新遅れてすみません…。
今回は最初シリアスだったので、
最後にクラトを入れてみました(笑)
初のドキドキ?な展開を…。
個人的には主人公のレウは勿論
好きですが、ガンドやクラト、
ルチアも好きなので…。
てか、みんな好きです(笑)
そのうち番外編も
書き始めていきたいと思ってます。
これからもぜひ読んでください!!
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