真紅の殺戮者と魔術学校

蓮月

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第一章

第17話

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レウ達を学校に送っていった後、
ニコレッタはとある屋敷の前に来ていた。
ニコレッタは呼び鈴のボタンに
白く細い指先を当てて止まる。

「……押したくないな。」

ニコレッタはハァーっと
とても長く深い溜息を吐いた。
顔は何かと葛藤しているようで
眉間に皺がよっている。
そのまま数分間、固まっていると…

「…何やってる、ニコレッタ。」

ニコレッタは背後から聞こえた
呆れた声に振り返る。

「…早いな、ディオン。」

「お前への事情聴取があるから早く帰ってくるに決まっているだろう?」

声の主であり、ニコレッタ達が
いる前に建つ屋敷の主でもある
ディオンはジトッとニコレッタを
見つめる。その隣にいるユリヤも
同じようにニコレッタを
見つめている。

「………ぅ。」

「…ディオン様、とりあえず入りましょう。」

ユリヤはそう促しつつ門を開けて
屋敷へと先に歩いていった。
ディオンはクイッと顎で
ニコレッタに早く入れと
促すが、ニコレッタは
動こうとしない。

「……諦めろ。」

「…………。」

ニコレッタは渋々…
本当に渋々オールディス家の屋敷へと
入っていった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

ー サルザット帝国 ー


「…コルネリウス。お前、アルヴィート王国で何かやらかしたそうだな。」

シンと静まり返った王の間にて
重く冷ややかな声が響いた。
その声の主は豪華な椅子に
腰掛けて目の前に跪く1人の少年を
ジッと見ていた。

「…はて。やらかした覚えはありませんが?」

重苦しい空気の中で
少年…コルネリウスは
何処か楽しげな声を上げた。
コルネリウスは、はらりと
顔にかかった紫がかった白い前髪を
スッとかきあげてふっと微笑む。

「……アイツのものに手を出したのは褒めてやるが、はするな。」

ギロりとコルネリウスを
睨むオレンジの瞳。
思わずたじろいでしまう様な瞳にも
関わらず、変わらずアメジストの様な瞳を
細めて悠然と笑うコルネリウス。

「…失礼ながら皇帝陛下。私ははしていませんよ?」

「……どういう事だ。」

「私は陛下のためになる計画をたて、実行し、そしてしたという事です。」

サルザット帝国皇帝、
デムロス・サルザットは成功?と呟く。

「ええ、成功ですよ。何せ目論見通りいったのですから。今日は祝杯を上げなければ。…ドヴォラグ宰相殿もそう思いませんか?」

「………………。」

「…マグリオット、どうなのだ。」

サルザット帝国宰相、
マグリオット・ドヴォラグは
皇帝に促されて閉じていた瞼を
ゆっくりと開けて深い緑色の瞳を
皇帝に向けた。

「…全ては分かりませぬが、少しはコルネリウス殿下の仰るは分かります。」

「……コルネリウス、説明せよ。」

皇帝はマグリオットをチラと見て、
コルネリウスに説明を促した。

「分かりました。……まず、今回の目的はアルヴィート王国宰相であるディオン・オールディスへの精神的な揺さぶりと、アルヴィート王国とヤード王国への宣戦布告、そしてアルヴィート王国とヤード王国のを長引かせる事です。」

「何?……最後はどういう意味だ。」

の事ですね?実は、ヤード王国とアルヴィート王国が同盟を組み、サルザット帝国に攻め込むという話を掴みました。」

「…マグリオット。それは本当か?」

「……ええ。」

「…何故、私に情報がまわっていない?」

返事を聞き皇帝は声を更に
低くさせてマグリオットに問いかけた。
マグリオットは少しの間の後に
口を開く。

「……私も先程知りましたので。どうやら、コルネリウス殿下の部下には、優秀な者が揃っているようです。」

マグリオットがチラリと見ると
ニコッと笑うコルネリウス。

「……ふん。そうか。コルネリウス、続けろ。」

「はッ。……しかし、話を掴んだは良いものの、同盟を破綻させるのは困難です。…それこそ、どちらかの国の中枢を一部壊すくらいやらねば。ですので、せめて延期させようと考えたのです。」

「それが、アルヴィート王国魔術学校でのあの騒動か?」

「いえ、あちらは単に引っ掻き回しただけです。それと、次のですね。延期の為に動いたのは、ヤード王国の古狸を唆した事です。」

「…唆すだと?」

「ええ。内乱…というか、ヤード王国内が荒れるように性能の良い武器を流しただけですよ。代わりに金を貰いましたが…。」

皆さん親切にくれたんですと
笑いながら言うコルネリウス。
実際は武力に脅え、
腰を抜かした古狸が
泣いて金を用意したのだろうと
皇帝とマグリオットは思った。

「…それは成功したのだな?」

「ええ、とても。因みにこちらの売った武器は、ちゃんとようにしてありますから、ご安心を。…ふふっ、楽しみです。」

心底楽しげに細められた
アメジストには仄暗い闇が
佇んでいた。

「…なら、良い。今回の件について褒美をやろう。……何を望む?」

皇帝は口の端を釣り上げて
コルネリウスを見据えた。

「…では、を。私が望むのはそれだけです。」

コルネリウスが軽い口調で言った
言葉にぴくりと反応する皇帝。

「……それは、暫し待て。まだお前は基準を満たしていないのでな。代わりに、金を用意する。」

「……基準とは?」

「それは自分で考えろ。…しかし、そうだな。ヒントはやろう。」

皇帝はそこで獰猛な笑みを浮かべた。

「私がにやったとある一つの事をやれ。…それが次期皇帝の座を手に入れる為のだ。」

「…、ですか。…分かりました。では、早くその基準を満たしましょう。」

そう言うとコルネリウスは
礼をして王の間から出ていった。

「…私を喰らおうとするか。」

皇帝の呟きにマグリオットは
どうされますかと聞く。

「…放っておけ。もし、私を喰らうならばその首刎ねるまでよ。」

下がれと言われマグリオットは
王の間を出た。

「ドヴォラグ宰相殿。」

パタリと扉を閉じた途端に
横から声をかけられる。

「…コルネリウス殿下。」

視線の先には先程出て行った
コルネリウスが立っていた。

「先程の同盟の話ですが…実は私よりも前にのではないですか?」

「……それはどう言う意味ですかな?」

「そのままの意味ですよ。……敢えて、皇帝陛下にお話にならなかったという、ね。」

「……………。」

コルネリウスはふっと笑い、
マグリオットの横をすり抜ける。
マグリオットはコルネリウスの
後ろ姿を見つめる。

「…皇帝よりも、コチラに注意だな。」

去り際に囁かれた言葉……


「…ご相談、お待ちしています。」


あれは皇帝を…と考えつつ、
マグリオットも逆の方向へ
歩き始めた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

「……ぅぅ。」

「きゃー!!似合ってるわよ、ニコレッタ!」

「馬子にも衣装ですね、キッカ姉様。」

あれから屋敷に入ったニコレッタは
ディオンの妻であるキッカにより、
捕獲されて綺麗に着飾れられていた。

「…何故、何故ここで……説教を……。」

とブツブツ言うニコレッタ。
…実はニコレッタはディオンに
説教されるのが嫌で屋敷に
入りたがらなかった訳ではない。
キッカの魔の手によって強制的に
のが嫌だったからであった。
キッカはレウとニコレッタを
着せ替えるのが好きらしい。
…ちなみに姉妹であるユリヤもそうだ。
ただし、ユリヤはレウだけであるが…。

そしてディオンは
ニコレッタが嫌がると分かった上で
屋敷に呼んだわけである。
…つまり、お仕置きという事だ。

「……ちゃんと反省したか?」

「……この屋敷に入る前に既に反省している。」

ディオンの問いかけに
ゲンナリした顔で言うニコレッタ。

「…キッカ。」

「…わかりましたわ。ユリヤは?」

「いいぞ。」

「では、ユリヤ。一緒にお酒でも飲みましょう?」

「はい、キッカ姉様。」

"金の妖精"と呼ばれる美貌を持つ
キッカだが、才女としても名が高い。
ディオンの言わんとする事を
瞬時に理解してユリヤと共に退出した。

「…さて、本題に入ろうか。…何故すぐにシステムがハッキングされている事に気づかなかった?」

ニコレッタはすぐに真剣な顔を
して話し出す。

「…おびき出された。」

「…どういう事だ?」

ディオンは白ワインをグラスに
注ごうとした手を止める。

「私の研究室に発煙弾が投げ込まれた。私はすぐに外へ出て、逃げる人物を追った。追った奴を捕まえて理由を吐かせようとした所で、お前から連絡が来た。」

「…なるほどな。」

「ハッキングされたのを知らせるブザーは、研究室にいたのもあって、その時は持っていなかった。」

「では、今回は私の落ち度だ。緩い警備をしていたという事だからな。……すまない。」

「…いや、私こそ早く気づくべきだった。せめてもの仕返しに逆にハッキングしてやったが…相手も結構な手練れでな。何処の奴だけしか分からなかった。」

「…お前がそれ程しか情報を引き出せないとは。」

ニコレッタは機械に関しては
この国一凄腕だ。
ハッキングなどの操作もかなりの腕である。

「もう分かってると思うが、サルザット帝国の王城からのハッキングだった。」

「ああ。…お前の息子から情報を聞いたか?」

「いや、聞いてはいないがラトに持たせた通信機で会議の話は聞いていた。…そういえば、ログル王はいつの間にこちらへ来たんだ?」

ディオンはワインの入ったグラスを
ニコレッタに手渡す。

「聞いてたのか…。ログル王は少し前から居たぞ。学校でレウ達の合同授業があった日に、こちらに着いたらしい。」

「そうか…。」

ニコレッタはワインを口に含んで
ほぅっと息を吐く。

「良い白だな…。」

「ああ、白ワインはキッカが好きだから良いのを買っている。…何かあったのか?」

ディオンはニコレッタの表情を見て
何かを感じた。
ニコレッタは静かに口を開く。

「…子供達の事だ。」
 
「クラトか?それとも…。」

「いや、ラトもそうだが…レウだ。」

「…レウ?」

ディオンは訝しげな目で
ニコレッタを見た。

「…あの子は今のままじゃあ、ぞ。お前もレウの危うさには気づいているだろう?」

「……ああ。」

ディオンは悲しげに目を伏せた。

「…ラトもレウの危うさに気づいて、今日何か言ったらしいが…駄目だったらしい。」

「…………。」

「でも、ラトが言うには適役がいるから大丈夫らしい。」

「適役?」

「ああ。だから、僕達にできるのはその時まで壊れないように見守る事だけだよ、とラトは言っていた。」

「……そうか。」

ディオンはグイッとワインを煽った。

「……父親失格かな、私は。」

空になったディオンのグラスに
ニコレッタはワインを注いだ。

「…子育ては難しい。いくら最強のお前だって、な。天才と言われる私だって間違えた。…子供に深い傷を負わせてしまった。」

「…ニコレッタ。」

ニコレッタは泣きそうな顔で
窓の外を見た。
月は雲に覆い隠されて見えない。
まるで今の2人の心情を
映しているかのように…。

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