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第一章
第18話
しおりを挟むあれから2ヶ月過ぎたが特に
何も事件や戦争は起きず、
平和な日々が続いた。
「えー、皆さん明後日から長期休暇になりますがハメを外しすぎないようにして下さいねー。それと、明日はチーム決めだけなので終わった人から帰っていいですよー。」
リンダ先生は暑いのかパタパタと
扇子を扇いでいる。
明後日から約2ヶ月、
学校は長い休みに入る。
明日は長期休暇明けにある
魔術大会へのチーム決めらしい。
魔術大会とは全学年合同で
攻撃科と防衛科は実技の部、
研究科は発表の部に参加する。
実技の部は、1チーム1~3人で
実戦形式で戦う。
命を落とすような魔術以外なら
相手に使用して良い。
…先生曰く、魔術大会は
怪我人が続出する日だとか。
発表の部は、1チーム1~10人で
魔術についての発表をする。
長期休暇中に研究をして
それの成果を発表するそうだ。
それぞれ学年は同じでなくても良く、
また実技の部に関しては攻撃科のみ
又は防衛科のみのチームでも良い。
「………。」
正直1人でもいいんだが…
どうしよう。
「では、今日はこれで終わりまーす。解散ですー。」
わらわらと先生の後に続いて
生徒達が教室の外へと出ていく。
「ねぇ、レウ。」
隣の席の声の主へと
顔を向ける。
「…何だ、ルチア。」
ルチアは何故か溜息を吐く。
「…チームの申請書って今日出してもいいのよね?」
「…ああ、そうだが?もう決まったのか?」
「えぇ。1人で出るわ。だから、アイツに捕まる前に受付に提出したいんだけど……レウ、囮になってくれない?」
「囮?」
「このウィッグとフード被って走り回って欲しいの。その間に私は提出するから。」
紙袋から茶髪のウィッグと
フードが付いたコートを取り出した。
…只でさえ暑い中これを着ろと?
「…流石に無理だろ。」
今度は俺が溜息を吐いた。
「……じゃあ、代わりに提出しといて。」
「良いけど………でも、どうやら手遅れの様だぞ。」
「え…?」
俺の目線を辿り、後ろを
振り向くルチア。
そしてピシッと固まる。
「あ、みーっけ☆」
爽やかな声が教室に響く。
声の主…クラト先輩は俺とルチアに
手を振りながら足を教室に踏み入れた。
「…………ッ。」
ルチアはすぐさま教室の窓枠に
手をかけて飛び降りようとする。
…2階だし、"身体強化"魔術を
使えば大丈夫だろう。
しかし、足を窓枠にかけた所で…
「あっぶないなぁー…。」
クラト先輩がひょいっと
ルチアを抱き上げてしまった。
「なっ!?は、離して!!」
「えー?あ、じゃあ、ルチアちゃんの申請書に僕の名前も書かせてくれたら離すよ。」
「~~~~ッッ。」
…これは逃げられないな。
ルチア、ご愁傷様。
「あッ、じゃあレウも一緒の…」
「あ、レウ君と僕は一緒のチームは駄目だって。学校長が強すぎるからーって。」
…だろうな。
「ぅぅ。」
ルチアは悔しそうに
呻き声をあげた。
…さて、そろそろ帰るか。
俺は鞄を持ち、教室の扉へと向かう。
「あ、レウ君帰る?バイバイ~。」
「え、ちょ、普通、置いてく!?」
ルチアを無視して教室を出ると
ちょうど隣の教室からガンドが
出て来た。
「おっ、レウ!!丁度いい!この後空いてるか?」
「空いてはいるが…。」
「なら、着いてきてくれ!」
何故か焦っているガンド。
少し小走りで走る中、
たまにチラチラと周りの様子を
伺っている。
「…ガンド、動きが不審者だぞ。」
「へっ!?あ、いや、き、気にすんな!!」
…いやいや、気になるんだが。
というか、何処に向かってるんだ?
「よし!…失礼します!!」
…ん?ここって。
「んーぁー?…何だレウ達か。」
「…失礼します、ニコレッタさん。」
ニコレッタさんのいる
第5研究室に足を踏み入れる。
しかし、研究室はユリヤさんが
来ていないのか荒れまくっている。
「すまんな。最近、ユリヤの奴が忙しいらしくて掃除されてないんだ。」
確かに最近、ユリヤさんも
そうだが父上も忙しくバタバタしている。
王城や学校を往復しているのを
見たのは数え切れない程だ。
「…ニコレッタさんは掃除をしなくても困らないんですか?」
「ん?ああ、掃除なんてしなくとも物の場所は覚えているからな。必要ないと思っている。」
「えー、いいなぁー!!俺はすぐ物失くすんですよー。」
ガンドがハァーと溜息を吐く。
「それで、2人は今日何の用だ?」
「俺はガンドに連れてこられたんですが…。」
チラリとガンドを見る。
ガンドはガリガリと頭を掻きながら言う。
「えっとですね…。暫く此処に匿って貰っても良いですか?」
「「は?」」
思わずニコレッタさんと
ハモってしまった…。
「ふむ…。取り敢えず理由を聞いていいか?」
「えっと…今日と明日で魔術大会のチームを決めるじゃないですか。それで同じ学年の奴らにしつこく勧誘されるんですよ…。」
はァとガンドにしては
珍しく疲れている顔で言った。
確かにガンドはこの学年では
トップクラスの腕前。
それに、フレンドリーさも
持ち合わせていたら
誘いの話は沢山来るだろう。
「なら、レウとチームを組んで出ればいいじゃないか?」
「うっ…それは考えたんですけど、俺は大会でレウに勝ちたいんです!」
ビシッと俺を指さしながら
答えるガンド。
「なるほどな…。なら良いぞ。という事は、2人とも1人で出場するのか?」
「いや…俺は1人幼馴染の防衛科の奴を誘おうと思っているんですが……レウは?」
「俺は今のところ誘われもしていないし、それに父上的には俺1人の方がいいと思うから…1人だな。」
…ルチアの事は無かった事にしよう。うん。
「「え。」」
今度は何故かガンドとニコレッタさんの
声がハモった。
「えぇ!?お前、凄いのに誘いとか来なかったのか!?」
「え?…ああ。」
「あっ。あー…多分アレだ。容姿端麗、成績優秀、それに父親は学校長…。話しかけにくいし、そもそも諦めてんだろう…。となると、もしかしたら上級生から誘いが来るんじゃないか?」
「あー…なるほどなるほど。それはありますね。」
…よくわからないが何故か納得された。
「ディオンの時はそうだったらしいぞ。寮に帰ったら、ロボットに大量の手紙を渡されたらしい。」
「お、寮に帰ったら楽しみじゃん。」
…断りの返事が大変そうだ。
ー ピピピッ。
「ん?何だ?」
「…ああ、俺のです。」
俺はポケットに入っているADXを
取り出して画面を見る。
「…ヒスティエ?」
何かあったのかと急いで
応答に出る。
ー ピッ。
「…ヒスティエ?」
『あ、レウ君?急にごめんね。今ちょっといいかな?』
「ああ、構わないが…。」
『…えっと、レウ君って魔術大会のチームってもう決まってる?』
「…今のところ1人だが。」
『え?そ、そうなんだ。(良かった…。)』
「ん?何か言ったか?」
『えッ!?な、何でもないよ!』
「そうか。」
「イテッ!!」
…ここで、ニマニマしているガンドの足を
蹴っておいた。
何でそんな顔をしているのかは、
分からないが取り敢えず
何となくムカついた。
『れ、レウ君!!』
「何だ?」
『…………………。』
「…………………。」
長い沈黙が流れた。
…ガンドは足を抱えて悶絶していたが。
『……チームっ、一緒に組んでくれませんか?』
なるほど。誘いの連絡か。
ヒスティエと、か…。もし、魔術大会で
何かあった時に護りやすいし…
丁度いいな。
「魔術大会のか?構わないが……ヒスティエ?」
『…本当に?』
「ん?」
『…ほ、本当にいいの?』
…何故か疑心暗鬼で返された。
「全然いいが…何か問題だったか?」
『う、ううん!ありがとう!!…凄く嬉しい。』
「そうか。申請書は明日でもいいか?」
『あっ、うん!』
「じゃあ、また明日。」
『うん、明日ね!』
ー ピッ。
ふと顔を上げると、
まだ足が痛いのか涙目でニマニマと
やったな!と俺を見るガンドと
これは喜ばしい事態だと言い、
何処かに連絡を入れるニコレッタさんが
目に入った。
「…意味が分からない。」
俺は深い溜息を吐いた。
その後、俺とガンドは
暗くなってきたのでニコレッタさんと
別れて、寮に戻った。
寮に戻るとニコレッタさんが
言っていた通り、大量の手紙を
ロボットが持って来た。
「…はぁ。」
「……断りの返事が大変だな。」
ぽんと俺の肩に手を置くガンド。
「ガンド、手伝ってくれたりは…。」
「……何か奢ってくれるなら、いいぞ。あ、それと約束な!!」
ガンドはニッと笑って言った。
「約束?」
「おいおい…。忘れたのか?合同授業の後、一緒に街に行った時にレウの家に遊びに行ってもいいって話だよ!」
「ああ、その事か。それは別に手伝わなくても来ていいぞ。」
「はは!りょーかい!…では、優しい友達のために手伝うとしますか!!」
「ありがとう、ガンド。」
俺とガンドは俺の部屋で
くだらない事を話しながら
手紙を開封していった。
手紙の中には呼び出しの連絡も
あったので、明日も大変だ…。
その後、一緒に夕食を食べて
ガンドは自分の部屋に帰って行った。
「…ふぅ、疲れた。」
…肉体的疲労ではなく、精神的に疲れた。
ー ピピピッ。
「ん?」
椅子から立ち上がり、
部屋に備え付けられたADXを見る。
「…母上?」
応答先は母上だった。
ー ピッ。
「母上?レウですが、何か……」
『レ~ウ~ッ!!何で連絡くれなかったの!?』
…何故か出た瞬間怒られた。
「え、は、はい?何の……」
『もーぅ!!ニコレッタが知らせてくれてから、随分と時間が経っているのよー!?』
「え、ちょ、母上……。」
…途中で話を遮られる。
これが女性のマシンガントークというものか。
『私っ、レウからいつ連絡が来るか来るかとずっとADXを持ってウロウロしていたのにー!』
「え、あ、すいません。」
…取り敢えずよく分からないが謝っておいた。
父上も女性が何故か怒っている時は
取り敢えず謝っておいた方が
いいと言っていたし…。
『もぅ…。』
「えっと…それで、ニコレッタさんから何を聞いたのですか?」
『魔術大会のチーム決めの話!!ニコレッタが言うには、とーーっても可愛い女の子から、誘いの連絡が来てOK出したのでしょ!?』
「えっと、えぇ。」
…あの時のニコレッタさんの
連絡先は母上だったのか。
『きゃー!!遂に我が子に春がっ!!』
何故か嬉しそうに叫ぶ母上。
「えっ?今は夏ですが…。」
『もーっ!!鈍感なんだからー…。あ、レウ!!絶対に長期休暇中に、その子連れてきてね!!これはそう……任務よ!!』
「え、任務ですか?」
『えぇ、分かった?』
「わ、分かりました。」
『なら、宜しい!!それじゃあ、おやすみ!』
「おやすみなさい、母上。」
ー プツッ。
一方的に慌ただしく切られてしまった。
でも、珍しいな…。
いつもなら、もっと長く話をするのに…。
母上といい、父上もユリヤさんも
忙しいんだな。
「…今日は月が隠れてるな。」
夜空に月は浮かんでいなかった。
厚い雲に覆い隠されていた。
少し胸騒ぎがしてADXを見たが
父上達からは連絡はない。
「…何もないといいが。」
「奥様、お話はもう宜しいので?」
「えぇ、大丈夫よ。」
キッカはふふっと華の様な笑顔を
使用人に見せた。
その笑顔に自然と使用人も笑顔になる。
「そうですか。」
ー ヒュンッ!
「ギャアッ!!?」
外から何者かの叫び声が聞こえる。
それにキッカは溜息を吐く。
憂いを帯びたその表情は
とても色香がある。
「はぁ。…飽きない人達ね。」
「旦那様が多忙な故に、最近は多いですね。」
使用人はティーセットを用意し、
キッカの前で紅茶をカップに注ぐ。
「そうね。あまり家に帰って来ないからといって…。」
キッカは1口、その紅茶を飲む。
「…私を殺せるわけないじゃない。」
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