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第一章
第19話
しおりを挟む「すみません…。もうチームは決まっているので…。」
「そっか…。」
俺は手紙の送り主一人一人に
お断りの返事をしていた。
「…ふぅ。やっとあと20人か。」
朝早くから始まり、2時間が経過した。
今の様にあっさり引いてくれるなら
いいが、かなりしつこく誘ってきた人も
いて大変だった。
「次は……玄関前?」
俺は手紙を見ながら指定場所に向かう。
その間チラチラとすれ違う生徒から
視線が注がれる。
「…あら。おはよう、薄情者のレウ君?」
「……おはよう、ルチア。」
横を見るとルチアが壁に寄りかかって
立っていた。
「昨日はよくも私を見捨ててくれたわね…。」
鋭い目線で俺を睨みつける。
「…その様子だと、ルチアとクラト先輩でチームを組んだのか。」
「えぇ、あなたが私を見捨てたおかげでね!!」
ビシッと指を指された。
というか、クラト先輩の何が不満なんだ?
「そうか。でもまぁ、クラト先輩は強いからいいんじゃないか?」
「え。アイツって強いの?」
「は?」
沈黙が流れた。
ルチアは呆然と固まっている。
「…見た事とかないのか?」
「ないわよ。密偵って言うからある程度は出来ると思ってたけど…。」
「…クラト先輩は強い。もしかしたら、この学校ではトップなんじゃないか?それに…ほら。」
俺は賑やかな方を指さす。
「あんな風に誘いを受けている。」
そこにはクラト先輩がいた。
そしてクラト先輩の周りには
人集りが出来ていた。
「クラトくぅ~ん。私と一緒のチームにしよ?」
「え~私のチームだよね~?」
「おい、クラト!俺らと組もうぜ!!」
「僕達と同じチームは如何でしょうか?」
「…何あれ。」
ルチアはポツリと呟いた。
「…あの様な人集りが出来るくらい、クラト先輩は優秀という事だ。」
「…あんなにいるんだったら、私と組まなくたっていいじゃないの!」
「けど、クラト先輩はルチアを選んだ。それだけクラト先輩はルチアの事を高く評価しているって事だろう。」
…推測でしかないが。
「ごめんねー。僕もう申請済みなんだ。他の人を誘ってね。……あ、知り合いを見つけたから、じゃあね。」
クラト先輩がこちらに歩いてきた。
「やあ、おはようレウ君。それとルチアちゃんも。」
クラト先輩は
相変わらずニコニコと笑っている。
「……あなた、私に誰も誘ってくれないから、同じチームにって言ってたくせに、随分と人気者じゃない。」
そんなクラト先輩に
ツンっとそっぽを向くルチア。
「あれれ?もしかして嫉妬しちゃった?」
「な、な、なっ!!そんな訳ないじゃない!!」
いきなりボンッと赤くなるルチア。
そして俺の後ろに隠れる。
「…何でそっち行くの?」
すると何故かクラト先輩の
顔から笑顔が消えた。
「……気に入らないなぁー。」
ボソリと呟かれた声は冷えていた。
…逃げた方が良さそうだな、これは。
「すみません、クラト先輩。俺、用事があるので失礼します。」
…ここはルチアを生贄にしよう。
「へぇー、そうなんだ!わかった、じゃあねー!」
俺のとった行動はどうやら正解
だったらしく、クラト先輩は笑顔になった。
「それでは。」
俺はルチアが何か言う前に
走り出した。
またルチアに何か言われるだろうが
しょうがない。
あのクラト先輩の圧は精神的に疲れる。
その後、残りの20人に
すみませんとお断りの返事をした。
「…やっと終わった。」
少し休憩しようと思い、
庭のベンチに腰掛けた。
「お。レウ!!」
声に振り返ると、ガンドと
一人の少女が立っていた。
少女は制服から見るに防衛科に
在籍しているようだが…。
「全部終わったか?」
「ああ。あとはヒスティエと合流して申請書を出すだけだ。」
「ん?ヒスティエって、もしかしてヒスティエ・バーデンの事?」
少女が首を傾げながら俺に
問いかける。
「知っているのか?」
「だって同じクラスだから。ヒスティエちゃんなら、さっき…あ、いた!おーーい!!ヒスティエちゃん!!」
少女の目線の先にはヒスティエがいた。
声にキョロキョロと首を動かしていたが、
俺達に気づくと走り寄ってきた。
「お、おはよう。」
「ああ、おはようヒスティエ。」
「ヒスティエちゃんのチームのメンバーってガンドの友達だったんだー!…ふむふむ。イケメンですなぁ~!ガンドと違って(笑)」
少女がニヤニヤとガンドを
見ながら笑う。
「はァー!?一言余分だ!!」
ガンドはひでーと言いながら
むくれている。
「まあ、事実だけどよぉ~…。」
ガリガリと頭を搔くガンド。
「そういえば、ガンド。俺に何か用か?」
「お、そうそう。申請書だしたら、自由解散だろ?この後この4人で街に遊びに行かね?」
ガンドがヒスティエちゃんも
一緒にと笑った。
ヒスティエは照れながら
いいよと言っている。
「…あーすまない。俺は今日、すぐに家に帰らないといけないんだ。」
今日は大事な用がある。
「そっかー…。じゃあ、また今度だな。」
「あぁ、そうだ。…よかったら、ガンドだけでなくヒスティエと…すまないが名前を教えてくれないか?」
ガンドの隣の少女に話しかける。
「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。私はミルスィニ・タナック。ミルって呼んで。よろしく!!」
「レウ・オールディスだ。レウでいい。よろしく。」
「え、オールディスってことは…もしかして、噂の学校長の…。」
じーっと俺を見つめるミル。
「学校長は父だ。」
「そうなんだ!!ちょっと、ガンド。いつの間に凄い子と仲良くなってんのよ!」
ミルがガンドを肘で突く。
「へへッ。なーんとレウと俺は寮の部屋が隣なんだよ!」
自慢気に言うガンド。
そんなガンドにミルは何故か
しみじみとした顔をする。
「そうなの!?まじか~。相変わらず運が良いよねぇ~…。」
「それで話を戻すが…よかったら3人とも長期休暇中に俺の家に遊びにこないか?ガンドはもう来るって決まっているが…。」
「え!?あの雑誌とかでよく取り上げられているオールディス家のお屋敷に!?い、行きたい行きたい!!」
はいはーいとハイテンションで
ジャンプするミル。
「えっと、私もいいの?迷惑じゃないかな…?」
ヒスティエは不安気に聞いてきた。
…というか、
ヒスティエは来てくれないととても困る。
母上からの任務がある…。
もし任務が達成出来なかった時は
どうなるか。
「ああ。全然、大丈夫だ。」
ヒスティエはホッとした顔をする。
「ねぇ!!確かオールディス家の屋敷って、プールがあるんだよね!?泳げる!?」
ミルがキラキラとした目で
質問してきた。
さっきから気になっていたんだが、
オールディス家の屋敷って
雑誌に取り上げられているのか…?
「ああ、泳げるぞ。」
「やったー!じゃあ、水着を買わねば!!ヒスティエちゃん!!一緒に選ぼう!!今から!!」
「え!?う、うん。」
「んで、あんたは荷物持ちね!!」
ミルはニヤリとガンドを見やる。
「な、なにィ~!?俺も付き合うのか!?」
ガンドは頬を引き攣らせて
変な汗を流している。
「当たり前でしょう!乙女2人のボディーガード兼荷物持ちよ!!ふっふっふっ!光栄でしょ?」
「お前にボディガードはいらないだろ。素手で何十人もの男をぶん殴ってきたくせに…。」
「ふんッ!!」
ー グリリッ!!
「痛ッ~~~!?!?」
ミルが足を思い切り
踏んだらしく、蹲って悶絶するガンド。
「デリカシーがなさすぎる!…まぁ、馬鹿なナンパ野郎ぐらいは簡単に半殺…大人しくさせれるけど、一応ヒスティエちゃんが可愛いから男が一人いた方がいいでしょ?」
…半殺しって言おうとしたのか?
「えぇっ!?か、可愛い!?」
ボンッと顔を真っ赤にさせて
あたふたし始めるヒスティエ。
半殺しは気にならないのか…。
「あー…確かにこれは可愛いな。」
「でしょ?クラスでも大変なのよ~。男子の人数は少ないからいいけど…。」
ガンドとミルはしみじみと呟いた。
「んじゃあ、サクッと申請書出しに行って買い物に付き合うか…。」
んー…っと伸びをするガンド。
すると、ミルがこそっと俺に呟く。
「ふふっ、何だかんだ言ってガンドって優しいでしょ?脳筋だけど。」
「そうだな。いつも世話になってる。」
「これからもドンドンこき使っちゃいな。ガンドはレウに頼られるの嬉しいって思ってるから。昨日、手紙を捌くのをガンドに手伝ってもらったんでしょ?それを嬉しそうにさっき話してたから…。」
「そう……なのか?」
驚きすぎて言葉に詰まった。
俺に頼られるのが…嬉しい?
「何で心底驚いた顔してるの?レウとガンドは親友なんでしょ??」
「……親友。」
俺がポツリと呟いた言葉に
今度はミルが驚いた顔をする。
「え?親友なんでしょ?ガンドがあんなに気を許してる相手、自慢じゃないけど私以外に見た事ないよ?」
「…ぃ、や。そうじゃなくて…。」
しんゆう…シンユウ?
…何だ?何故か胸が……。
「……レウ?ねぇ、大丈夫??」
ミルの声に思考が浮上する。
「顔……真っ青だよ?」
「…ぇ?」
ミルの声にガンドとヒスティエが俺を見る。
「ん!?レウ!?顔が真っ青だぞ!?どうした!?」
「本当だっ。レウ君、大丈夫!?」
ガンドに肩を掴まれ揺さぶられる。
「だ、大丈夫だ。」
…というか、揺さぶられると
余計気分が…。
「本当にか!?実は俺が遊びに行くの迷惑だったか!?」
変な方向に誤解された。
「違う違う!本当に大丈夫だ!!」
必死に誤解を解く。
「じゃあ、どうしたんだよ!?」
「何でもない!少し貧血気味なだけだ!!」
「本当に!?」
「ああ。」
「………。」
「………。」
…これは疑われてるな。
「…そうか。今日は申請書提出したら早めに休めよ?」
ガンドは何故かため息を吐きながら
拗ねた顔で言った。
「ああ、そうする。」
「…………。」
「…どうした?ミル??」
「ん。何でもない。早く出しに行こっか!」
ミルは何故か俺をじっと見つめていた。
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