30 / 42
第一章
第21話
しおりを挟む※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(クラトが建物に潜入した時、レウは…)
「…裏路地に入ったな。」
俺はポツリと呟く。
それまで表通りを歩いていた男達は
急に裏路地へと入った。
裏路地は人が滅多に通らない。
つまり、彼等は人目を避けなければ
ならないような事をしようとしている
という事だ…。
「…ちょうどいい。此処で片付けるか。」
俺は3人の男達の前へ屋根から
飛び降りた。
「うおッ!?」
「ッ!?」
「な、何だ!?」
男達はそれぞれ驚きの声をあげる。
「…こんにちは。」
俺はスッと魔銃ホルダーから
黒い魔銃を取り出して男達に向ける。
「な、何者だッ!?」
「ま、魔銃を持ってやがる!」
男達は焦った表情で俺を見ている。
「とりあえず…大人しくして下さいね。」
ー パンパンパンッ!!
"貫通"魔術で男達の脚を撃ち抜く。
撃たれたと気づいたと同時に男達は
脚を抱えて叫び出した。
「ぎ、ギィヤァァア!?」
「いぃ、痛てぇよぉお!!」
「し、死んじまう!!」
「…大袈裟ですね。」
俺はコツコツとわざと足音を
たてながら男達に近づく。
「く、くるなぁ!!」
「ひ、ひぃぃ!!」
「…………。」
ー カツンッ。
俺は男達の目の前で止まると
にっこりと笑う。
「さぁ、これからゆっくりとお話しましょうか?…え?嫌ですか?…なら、うっかり先程のように手が滑ってしまうかもしれませんね。」
男達の一人が失禁する。
男達はただガタガタ震え、
泣きながら俺を見ていた。
「…ご協力、してくれますか?」
ーピピピピピッ
数十分後、ADXのコール音が鳴った。
「…ん。先輩か。」
俺は耳に付けているADXの応答ボタンを
カチッと押す。
「先輩?どうかしましたか?」
『レウ君!!急いで男達のいた建物に来てくれ!!』
クラト先輩にしては珍しく焦りを
含んだ声音だった。
「…どうしてです?」
『瀕死状態の一般市民を見つけた!!レウ君は"治癒"魔術が使えるよね!?』
「…わかりました、すぐに向かいます。」
ー ピッ。
俺は床に転がる男達を見る。
男達から大体の情報は得た。
3人なら抱えて行ける事もないが、
生憎急がなければならない。
「……………。」
カチャと魔銃を握り締めた。
ー パンッ!!
裏路地に1発の銃声が鳴り響いた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「…今のところ、大丈夫そうね。」
街中のベンチに座っている少女は
ポツリと呟いた。
少女は深くキャスケットを被り直し、
慣れない眼鏡をクイッと触る。
少女の目線の先には
3人の男女がいた。
そのうちの一人をじっと見つめて
少女はふぅっとため息を吐き、
語りかけるように呟く。
「…お互い大変ね。」
少女…ルチアは楽しそうに笑い合う
3人を羨ましそうに眺めた。
「私もあの国で産まれなかったら……。」
ー ピピピッ。
耳につけているADXが、
ルチアの言葉をまるで否定する様に鳴った。
それにルチアは自嘲気味に
笑って応答ボタンを押した。
ー ピッ。
「…何?」
『そっちの状況は?』
彼にしては珍しく真剣な声音が
ルチアの耳に届く。
「…変化なし。そっちは?」
『こっちは、集団のアジトを制圧済み。レウ君は、外で3人組を沈静化。』
「…そう。なら、こっちにレウをまわしてくれない?ちょうど3人を不自然に見ている2人組を見つけたんだけど。」
『……あぁ、本当だ。そっちにいるね。追跡装置が反応している。けど、レウ君はそっちにまわせない…。変わりに僕がレウ君がこちらに着き次第、向かうから。もし、2人組が3人に接触する動きを見せたら…。』
「潰せばいい?」
『……あぁ。』
ルチアはその肯定に戸惑いながら言う。
「…何かあった?」
『……………。』
しかし彼からは沈黙が
返ってきた。
「…じゃあ、引き続き監視してるわ。」
『…宜しく。』
ー ピッ。
「…何なのよ。」
ルチアはムッとした顔をする。
彼の方で何かあったのは明白だ。
それにいつもはどうでもいい事も
報告してくる。
「…考えてもしょうがないわね。」
ルチアはとりあえず、
楽しそうに笑う3人と2人組に
意識を集中した。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
クラト先輩のいる建物に着いた。
玄関の扉を開けて中へと入り、
一階を見回すが誰もいない。
「上か…。」
階段を上がるとクラト先輩がいた。
「クラト先輩。」
「レウ君!良かった、こっちだ。」
クラト先輩に案内されて部屋へと
入った。
「…ッ。」
そこには血塗れの老夫婦と
ボロボロの少年がベットに
横たわっていた。
「…彼等を治癒して欲しい。」
「クラト先輩、老夫婦は…」
2人はもう……。
「………お願いだ。」
悲痛な声で言うクラト先輩。
「…わかりました。」
俺は頷き、3人に近寄る。
「…僕はルチアちゃんのところに行ってくるよ。…レウ君、3人組はどうしたの?…もしかして、殺した?」
「いえ、殺さずに気絶させて近くのゴミ箱に入れておきました。今日はゴミの回収日ではないので、誰も蓋を開けないと思って。」
「わかった。3人組も回収する。」
クラト先輩はすぐに部屋を出て行った。
俺は3人を見る。
少年は微かに短い呼吸を繰り返していた。
"魔力増幅"魔術を父上の許可なく
発動してしまうが、緊急事態だ。
「……"魔力増幅"魔術発動。」
ー ドクンッ。
「…ッ…ハァッ。」
俺は胸の痛みと熱くなる身体を
無視して"治癒"魔術を発動する。
キラキラと綺麗なエフェクトを
纏いながら少年の身体から傷が
元から無かったかのように消えて行く。
「…ぅぅ。」
少年は微かに身動ぎしたが、
目は開かない。
少年の呼吸と心音が正常なのを
確かめてから老夫婦にも
"治癒"魔術を発動した。
「…………。」
しかし、傷は癒えたがやはり、
2人の心臓は止まったままだ。
…身体が冷たかったから、
クラト先輩が来た時にもう既に
死んでいたのだろう。
「"魔力増幅"魔術…解除。」
ー ドクンッ。
「…ッ…ぅ…ぐッ。」
"魔力増幅"魔術を解除した途端に
鋭い痛みが全身に走る。
暫く蹲って痛みに耐える。
「……ッ…ァッ……ハァッ。」
漸く痛みが治まり、
ふらつきながらも立ち上がる。
ー カタッ。
下の階から微かな物音がした。
すぐさま痛みで痺れた頭を
クリアにし、足音をたてずに階段まで走る。
キシッと耳を澄まさなければ
聞こえないような音とともに
階下へと魔銃の銃口を向けた。
「ッ!!レウ君、私達だ!!」
階下に居たのは父上の指揮下の
救護部隊だった。
安心してゆっくりと銃口を下ろす。
「…すみません。」
「いや、君の判断は正しいよ。それよりも、クラトに聞いてなかったのかい?私達が来るって。」
「…いえ。」
救護部隊の人は5人いたが、
全員が驚いた顔をした。
「…珍しいな。クラトが伝えそびれるなんて。まあ、とりあえず後は私達に任せて欲しい。」
「わかりました。…老夫婦は死亡、少年は傷を治しましたが、目を覚ましてません。」
「"治癒"魔術を使ったのかい?ディオン様に許可は…。」
「貰ってません。」
俺は魔銃をホルダーに仕舞いながら
答えた。
「……緊急事態だったのかい?」
「えぇ。あと少し処置が遅れていたら、少年は死んでました。」
「そうか…。なら、私の方からもディオン様に言っておくよ。」
救護部隊の隊長は苦笑しながら
階段を上ってきた。
「…ありがとうございます。」
俺がお礼を言うとニコッと
笑ってポンポンと頭を軽く撫でられた。
「身体は平気か?」
隊長は心配して俺の身体が
大丈夫か聞いてきた。
「…えぇ。大丈夫です。」
「そうか。今日はゆっくり休みな。ユリヤ補佐官が街の入り口で待っているそうだから。」
「わかりました。…失礼します。」
俺は救護部隊が部屋に入っていくのを
見た後に階段を下りていく。
扉を開けて外に出る。
街は人が数人…死んでいるにも
関わらず、何も変わらず賑やかだ。
「…………。」
俺はゆっくりと歩き出して、
街の裏路地に入る。
そして立ち止まり、壁に
頭と肩を押し付けて体重をかけた。
…外へ出た瞬間に段々と頭痛がしてきた。
(「……ジジッ……ジッ…。」)
頭に濁ったノイズが走る。
意識が朦朧とする…。
「…や、ば…ぃ…な。」
(「…ジジッ……ぉ…ぃ。」)
ノイズの中に人の声が聞こえた。
しかし、途切れ途切れで何を
言っているのかはわからない。
(「…ジッ……だ……た……な…だ。」)
…何だ?
(「…ぃ…さ……れをつ…ったって。」)
…?
(「……ぁの…こは……。」)
…あの子?
(「……生き…返らないのに。」)
「…え?」
(「…バチンッ!!」)
ショートした音とともに俺の意識は
途切れた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「…何故こんなところで倒れている?」
男はそう呟きながら、
倒れているレウを担いだ。
レウの顔色は真っ青だった。
「…お前を探しにこっちまで来たのに、まさか街の裏路地に落ちてるとはな。」
男は、よいせっと言いながら
レウより小柄な身体なのに
軽々とレウを背負う。
「…取り敢えず、ユリヤちゃんに連絡するか。」
男が歩き出すと同時に
ぶつぶつと何かレウが呟いた。
「……全部……が悪い……。」
「…何言っとるんだ?何が悪い?」
「………ぁの子を……こ……た。…ぉ前を……。」
「…レウ?」
訝しげに男がレウを見るが
レウは何も喋らなくなった。
「…ハァッ。世話のかかる奴だ。」
男はため息を吐きながら
レウを抱えてその場からフッと消えた。
0
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる