一人語り

青葉めいこ

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わたくしの愛する王太子殿下

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 王太子殿下。申し訳ありませんが、もう一度仰っていただけますか?

 わたくしの聞き間違いではなかったようですね。

 わたくしと婚約破棄して、殿下が真に愛する今傍らにいる男爵令嬢と新たな婚約をすると仰るのね。

 はあ、お馬鹿さんなのは理解しているつもりでしたが、まさかこんな公衆の面前で婚約破棄宣言するとは。わたくしが想定していた以上に馬鹿で愚かだったのね。

 そういう俺を馬鹿にする所が気に食わなかった?

 まあ、馬鹿になどしておりませんわ。わたくしは、ただ事実を申し上げているだけです。こんな公衆の面前で、筆頭公爵家の令嬢むすめであるわたくしとの婚約破棄宣言するなど愚かの極みでしょう。

 わたくしと婚約破棄したい理由は、わたくしが気に食わないからと、殿下が愛する男爵令嬢に、わたくしが嫉妬にかられて、さまざまな嫌がらせをしたからだと仰るのね。

 そんな性根の腐った女との結婚などできないから、わたくしと婚約破棄したいと?

 まず、これだけは言っておきます。殿下。

 わたくしは、男爵令嬢その方に嫌がらせなどしておりませんわ。

 嘘を吐くなと仰られても。

 わたくしが本気で嫌がらせなどしていたら、男爵令嬢は、今ここにおりませんもの。

 お分かりになりませんか?

 わたくしは王太子殿下の婚約者で筆頭公爵家の令嬢むすめですよ。

 潤沢にある金と絶大な権力を使えば、男爵令嬢の命どころか、男爵家そのものを潰す事も可能ですわ。

 現在男爵家が存在していて、彼女が今ここに正気で五体満足で立っている事実が、わたくしがやっていない証明になりますわ。

 でも、実際に多くの嫌がらせを受けたと言うのね。男爵令嬢。

 それは仕方ないと思うわよ。

 どういう事だ、ですか?

 公爵令嬢わたくしを慮ってという大義名分を掲げて、王太子殿下の寵愛を受ける男爵令嬢あなたを憂さ晴らしに嫌がらせをしようという方はいるでしょう。

 ふふ、心身にダメージを与えない嫌がらせで済ませるなんて、まだ彼らのほうが、わたくしよりもずっと優しいですわね。

 気付いていたのなら、どうして止めないと仰られても。

 彼女が嫌がらせを受けたそもそもの原因は、王太子殿下、貴方ですわ。貴方が男爵令嬢を寵愛するから、こうなたのです。彼女への嫌がらせに気づいて対処すべきだったのは、貴方でしょう。

 男爵令嬢も王太子殿下に好意を持たれて迷惑しているのなら、婚約者である公爵令嬢わたくしに、どうにかしてくれと泣きつけばいい。それもせず、王太子殿下の寵愛をただ享受していただけのあなたを守ってあげなければいけない義務はないでしょう?

 ああ、そうそう、わたくしとの婚約破棄は、殿下が廃太子になる事ですが、それでも構いませんの? 

 怪訝そうなお顔をされていますが、当然ではありませんの。

 正妃腹ではなく妾妃腹の殿下が王太子になれたのは、ひとえに、筆頭公爵家の令嬢で、自分で言うのも何ですが、有能なわたくしと婚約したからですわ。

 王子は自分しかいないから、王太子になれるのは自分だけだ、ですか?

 確かに、王子は貴方一人しかいませんが、王妃様がお産みになられた王女様、貴方の異母妹いもうと様がいらっしゃいますわよ。

 王女様も、王女様の婚約者の侯爵令息も、とても優秀な方々ですから、王女様が女王、侯爵令息が王配になるのに、何の支障もありませんわ。

 この国で王になれるのは王子だけだ。王女いもうとが女王になるなどありえない?

 無能な王子あなたが即位するより、よっぽどマシだと思いますけど。

 王女様が女王になれなくても、王家の血を引く筆頭公爵家の男子、わたくしの有能なお兄様が代わりに即位すればいいだけですわ。

 お分かりになりましたか?

 つまり、わたくしを切り捨てれば、貴方は王太子に、ひいては、国王になれないのだと。

 それでも、彼女を愛している。別れるなどできない。

 殿下はそう仰っているけど、男爵令嬢、あなたは、どうなの?

 殿下が廃太子になっても、お傍にいる?

 傍におります。自分が愛しているのは、王太子という地位ではなく彼個人だから?

 まあまあ! すごいわ! あなた本当に彼を愛しているのね!

 わたくしもよ。

 わたくしも彼を愛しているの。

 だから、国王陛下が、貴方の父君がそうしているように、わたくしを正妃、彼女を妾妃として傍に置けば万事うまく収まりますわね。

 男爵令嬢、二人で、愛する王太子殿下をお支えしましょうね。

 王太子殿下を自分と共有しても構わないのか?

 構わないわよ。

 わたくしは王太子殿下の全てを愛しているの。その容姿だけでなく、馬鹿で愚かな所も。殿下の愛する方なら、わたくしも愛するわ。

 あなたに今後も嫌がらせがあるなら、、わたくしが守ってあげるわ。

 あらあら、どうして、そんな青ざめて引きつった顔をしているの? 男爵令嬢。

 王太子殿下とはお別れします! もう二度と近づきません! ごめんなさい!

 そう叫んで、男爵令嬢は、すごい勢いで走って会場を出て行きましたわね。

 あら、王太子殿下まで、どうして、そんな青ざめて引きつったお顔をされているのですか?

 廃太子になってもいい。お前とは婚約破棄し別れたい?

 あらあら、愛する男爵令嬢はいなくなったのに、なぜ、わたくしと別れる必要が?

 別れたりなどしませんわよ。

 わたくしを嫌悪していても、廃太子になっても。

 それこそ、貴方がおかしくなっても――。

 絶対に逃がしませんわ。

 わたくしの愛する王太子殿下。

 

 
 
 
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