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魔界編(本編)
177.家出姫を探せ
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キツネの耳に、九本の尻尾……。彼女がこの国を治める存在、獣人の頂点に立つ者か。予想より随分と若いな。
確かエレナの話だと、ガストニアの巫女は四十代の女性だったはずだが……。知らないうちに世代交代でもしたのか。
「どのようなご用件で参られたのでしょうか」
「巫女様、先日あった空からの宣言は、お聞きになられたでしょうか」
「はい、もちろん存じております。あの天命の所為で、我が国でも混乱が続いておりますので」
そうは見えなかったけど……まぁいいか。
「その件について、私から補足することがあります」
「補足?」
「はい。ゼロの真の目的と、私のことを」
俺はゼロの目的が、全世界の生命を根絶することだと伝えた。加えて自分正体についても。シオンは終始無言でその話を聞いていた。
「このまま行けば近い将来、奴らはこの国を攻め落としにきます。その前に手を打ちたい。だからお願いします。私達と一緒に戦ってもらえないでしょうか」
「……わかりました」
シオンはあっさりと肯定した。
そのあっけなさに、アリスは心の中で疑問を感じる。
こんなにあっさり……今の話を信じるなんて。
審判の加護、シオンが持つ加護の一つである。
この加護を持つ者は、相手が発した嘘がわかる。だから俺の話も、全て嘘ではないとわかったのだ。彼女の一族は代々、この加護を受け継いでいて、巫女と呼ばれる所以はそこにあった。
「ですが、それには一つだけ条件がございます」
「条件ですか」
「はい。あなた方に協力するかわりに、私どもにも協力していただきたいのです」
「協力? 一体なにに」
「私には妹がおります。名はスズネ、年は十と三つになりました。そのスズネが先日から行方不明になっています」
シオンの話はこう続けられた。
ゼロの宣言以降、国中では混乱がおきていた。その混乱を収めるため、シオンの部下達は街中を駆け回り対処していたのだ。その隙をつくように、スズネは家出してしまったらしい。
「居場所に心当たりは?」
「街の中はくまなく捜索しましたが、見つかっておりません。おそらく……」
「外、ですか。その妹さん戦う手段を持っていますか?」
「普通の獣人よりは強いです。ですがこの近辺には強力な魔物もいます。もし出くわしていたら……」
シオンの顔が青ざめていくのがわかった。
「なら急ぎましょう。必ず見つけてみせます」
「よろしくお願いします」
シオンの表情を見て、事態が急を要すると察した俺は、すぐに屋敷を後にした。
早足で門へと向かう俺に、アリスも頑張ってついてくる。
「どうされるおつもりですか?」
「どうって、探しに行くんだよ」
「それはわかっています。ですが塀の外は広すぎます」
「安心しろ。宝探しは得意だから」
不安そうなアリスに、俺は微笑みかけてそう言った。
堀の外には薄暗い森が広がっている。そこには強力な魔物達も生息していた。ガストニアを隔てている塀は、それらの魔物から民を守るために造られたものだ。
そんな危険な森を、一人の少女が歩いている。
シオンと同じ黄色いキツネの尻尾と耳をたずさえ、肌を露出した軽い着物を纏っている。アリスと同じくらいの髪に、蒼い瞳をした彼女こそ、シオンの妹スズネである。
「どうしよう……迷ったな~」
スズネは絶賛迷子中だった。
周囲を見回しても、見えるのは怪しく揺れる木々だけである。
「まっ、なんとかなるよね!」
スズネは能天気に歩き出した。
今の発言や行動を見るだけで、彼女の性格が読み取れる。気分屋で自由気まま、ほとんどを屋敷で過ごしていた彼女は、文字通りの箱入り娘だった。
そして、この危機感の薄さは、外の世界では致命的だった。
「えっ……――」
彼女の目の前には、巨大なケルベロスが立っていた。
ケルベロスは、三つの首を持つオオカミの魔物である。賢さと獰猛性を兼ね備え、狩猟を得意としている。そんな魔物の前に、スズネという餌が転がり込んできた。
これは運がいい……。そうケルベロスは感じただろう。
「わ、私なんて食べても……美味しくないよ?」
ケルベロスは涎をたらしながら歩み寄ってくる。
能天気なスズエも、これに恐怖を感じないはずが無い。一歩一歩近寄ってくる足音が、自らの寿命を縮めているように感じる。
恐怖は身体中を麻痺させ、膝から崩れ落ちるように尻餅をつく。
「いや……来ないで……来ないで!!」
スズネは叫んだ。しかし当然のごとく、ケルベロスの足は止まらない。
遂にケルベロスの口が、彼女の眼前まで迫り来る。口からは野生の匂い漂い、たれる涎が彼女の生足にかかる。
「誰か……誰か助けてぇ!!」
彼女は祈るように叫んだ。
直後にケルベロスが顎を大きく開き、そして閉じた。
――食らった感覚が無い。
ケルベロスは口元を見た。
そこにスズネの姿は無く、代わりに空から気配を感じた。
「えっ……私、生きてる?」
スズネはゆっくりと目を開けた。
最初に映ったのは、見知らぬ人間の顔だった。
「見つけたぜ――お姫様」
スズネはレイブにお姫様抱っこをされていた。
確かエレナの話だと、ガストニアの巫女は四十代の女性だったはずだが……。知らないうちに世代交代でもしたのか。
「どのようなご用件で参られたのでしょうか」
「巫女様、先日あった空からの宣言は、お聞きになられたでしょうか」
「はい、もちろん存じております。あの天命の所為で、我が国でも混乱が続いておりますので」
そうは見えなかったけど……まぁいいか。
「その件について、私から補足することがあります」
「補足?」
「はい。ゼロの真の目的と、私のことを」
俺はゼロの目的が、全世界の生命を根絶することだと伝えた。加えて自分正体についても。シオンは終始無言でその話を聞いていた。
「このまま行けば近い将来、奴らはこの国を攻め落としにきます。その前に手を打ちたい。だからお願いします。私達と一緒に戦ってもらえないでしょうか」
「……わかりました」
シオンはあっさりと肯定した。
そのあっけなさに、アリスは心の中で疑問を感じる。
こんなにあっさり……今の話を信じるなんて。
審判の加護、シオンが持つ加護の一つである。
この加護を持つ者は、相手が発した嘘がわかる。だから俺の話も、全て嘘ではないとわかったのだ。彼女の一族は代々、この加護を受け継いでいて、巫女と呼ばれる所以はそこにあった。
「ですが、それには一つだけ条件がございます」
「条件ですか」
「はい。あなた方に協力するかわりに、私どもにも協力していただきたいのです」
「協力? 一体なにに」
「私には妹がおります。名はスズネ、年は十と三つになりました。そのスズネが先日から行方不明になっています」
シオンの話はこう続けられた。
ゼロの宣言以降、国中では混乱がおきていた。その混乱を収めるため、シオンの部下達は街中を駆け回り対処していたのだ。その隙をつくように、スズネは家出してしまったらしい。
「居場所に心当たりは?」
「街の中はくまなく捜索しましたが、見つかっておりません。おそらく……」
「外、ですか。その妹さん戦う手段を持っていますか?」
「普通の獣人よりは強いです。ですがこの近辺には強力な魔物もいます。もし出くわしていたら……」
シオンの顔が青ざめていくのがわかった。
「なら急ぎましょう。必ず見つけてみせます」
「よろしくお願いします」
シオンの表情を見て、事態が急を要すると察した俺は、すぐに屋敷を後にした。
早足で門へと向かう俺に、アリスも頑張ってついてくる。
「どうされるおつもりですか?」
「どうって、探しに行くんだよ」
「それはわかっています。ですが塀の外は広すぎます」
「安心しろ。宝探しは得意だから」
不安そうなアリスに、俺は微笑みかけてそう言った。
堀の外には薄暗い森が広がっている。そこには強力な魔物達も生息していた。ガストニアを隔てている塀は、それらの魔物から民を守るために造られたものだ。
そんな危険な森を、一人の少女が歩いている。
シオンと同じ黄色いキツネの尻尾と耳をたずさえ、肌を露出した軽い着物を纏っている。アリスと同じくらいの髪に、蒼い瞳をした彼女こそ、シオンの妹スズネである。
「どうしよう……迷ったな~」
スズネは絶賛迷子中だった。
周囲を見回しても、見えるのは怪しく揺れる木々だけである。
「まっ、なんとかなるよね!」
スズネは能天気に歩き出した。
今の発言や行動を見るだけで、彼女の性格が読み取れる。気分屋で自由気まま、ほとんどを屋敷で過ごしていた彼女は、文字通りの箱入り娘だった。
そして、この危機感の薄さは、外の世界では致命的だった。
「えっ……――」
彼女の目の前には、巨大なケルベロスが立っていた。
ケルベロスは、三つの首を持つオオカミの魔物である。賢さと獰猛性を兼ね備え、狩猟を得意としている。そんな魔物の前に、スズネという餌が転がり込んできた。
これは運がいい……。そうケルベロスは感じただろう。
「わ、私なんて食べても……美味しくないよ?」
ケルベロスは涎をたらしながら歩み寄ってくる。
能天気なスズエも、これに恐怖を感じないはずが無い。一歩一歩近寄ってくる足音が、自らの寿命を縮めているように感じる。
恐怖は身体中を麻痺させ、膝から崩れ落ちるように尻餅をつく。
「いや……来ないで……来ないで!!」
スズネは叫んだ。しかし当然のごとく、ケルベロスの足は止まらない。
遂にケルベロスの口が、彼女の眼前まで迫り来る。口からは野生の匂い漂い、たれる涎が彼女の生足にかかる。
「誰か……誰か助けてぇ!!」
彼女は祈るように叫んだ。
直後にケルベロスが顎を大きく開き、そして閉じた。
――食らった感覚が無い。
ケルベロスは口元を見た。
そこにスズネの姿は無く、代わりに空から気配を感じた。
「えっ……私、生きてる?」
スズネはゆっくりと目を開けた。
最初に映ったのは、見知らぬ人間の顔だった。
「見つけたぜ――お姫様」
スズネはレイブにお姫様抱っこをされていた。
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