父親からの手紙

青空太郎

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「岩波講座数学」

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福岡のおじいちゃん(曾祖父)の話を、また聞かせて欲しいと父親にLINEすると、こんな返信が来た。


母方の祖父は理系の人間だった。私が中学生のころ家に遊びに行くと、居間の机に座り、広告紙の裏の白紙に円を描き、初等幾何の問題を解いたりしていた。

居間から応接間に続く廊下に、五段組の木製の本棚が二さおほど置いてある。岩波書店の「岩波講座数学」であったのだろう。

古く、外側も赤茶色に焼けた箱の中に三冊ずつにまとめられた数学の辞典が数十冊並んでいた。「偏微分方程式」「級数論」「関数論」など表題の黒い文字が日に焼けてかすれて立っている。

前を通るだけで、その数十冊の群れに圧倒された。そこだけ神聖な空気が流れている。中を開くと、かびたにおいがする。ページも赤茶色で、もうボロボロだった。

所々に、メモが書かれていた。当時はさっぱり意味は分からなかったが、私も数学の教師の道に進むことになった。あの本棚の威圧感がきっかけになっているのかもしれない。

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