幼い妹をもつぼっち、実は世界一。

雀の涙

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きっかけとはじまり

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「まさかこの英才科にいて赤点取ったやつなんていないだろうなぁ~?」

 赤点を取っていない俺はそれを言われても何とも思わない。
 なので無視すると、そいつは自分の席を離れて俺のところまでやってきた。

「おい! 無視してんじゃねーよ!」

 こいつはまだホームルーム中だということを忘れてるのか? 

「上条、まだホームルーム終わってないぞ? 席に戻れ」

 先生も俺と同じことを思ったのか、それとも俺に助け舟を出してくれたのか。上条と呼ばれる生徒を注意した。

 ……あっそうだ。こいつ上条直也かみじょうなおやだ。俺にとって普段関わりのない奴だからすっかり名前を忘れてた。ってか体育の時俺に助け求めてきたのこいつだったわ。あの噂の件といい全くどこまで恩知らずな奴なんだ。

 先生に言われた通り自分の席に戻った上条だがまだ俺に突っかかってくる。

「お前みたいなバカは夏休みに毎日補習しなきゃいけないんだよ! なぁみんな」

 上条の言葉に便乗して煽ってくる奴らが現れ、クラス内はざわざわと騒がしくなった。その中で静かにしてる人はさぞかし迷惑だと思っているだろう。俺もその一人である。
 そしてもう一人――

「まだホームルーム中だと言わなかったか?」

 教卓のところで少しイライラしている先生がそう言葉を発すると一瞬で教室が静まり返った。

「そんなに東野に補習をさせたいのか?」

 先生が俺を裏切るようなことを投げかけると、上条が嬉しそうに返事をした。

「もちろんですよ! こんなバカ俺だけじゃなくてみんなも鬱陶しく思ってますから!」

 そして先ほど騒いでいた奴らも上条に賛同するように次々と先生にそうだそうだと言い始めた。

 すると先生がある提案をした。

「なるほどな。それじゃあこうしよう。東野より順位が下の人は補習を受けるってことでどうだ?」

「いいですよ! というよりあいつが最下位でしょ」

「夏休み前にこんな楽しいイベントがあるなんてな!」

「みんな可哀想だからやめてあげたら~?」

「とか言いながらお前も楽しんでるじゃねーかよ!」

 この提案に上条たちは大いに盛り上がっているが、もし俺より順位が下だったら一体どうするのだろうか。
 俺は一人静かに期待してその時を待つ。

「騒いでいるお前らはわかった。他はどうだ? 賛成の人は手を挙げてくれ」

 先生がそう言うとちらほら手が挙がるが全員ではなかった。

「満場一致じゃないからこの提案はなしだな」

「え⁈ いやいや今更なしはないですよ!」

「そうですよ! これだけ盛り上がってるのに」

 全く引こうとしない上条たちに今まで我慢していたであろう先生がついに攻撃をはじめた。

「そうか。上条らがそれだけ言うならしょうがないな。それじゃあ今から名前を呼ばれた人は夏休み補習だからなー。今田、斉藤、近藤、鮫島、山崎、中村、井上、松本、清水」

「………………」

 呼ばれたのが俺だけじゃないどころか俺じゃなかったこと、みんなの想像していたよりも多く呼ばれたことに驚きを隠せないのだろう。クラスは再び静寂に包まれた。
 しかしそれは上条によって打ち破られる。

「お前らあいつよりも下だったのかよ! 笑えるねぇ~!」

「うるせーよ! 先生! あいつは何位だったんですか」

「人数見る限り23位じゃねーのか?」

「上条お前は黙ってろ! 俺は先生に聞いてんだ!」

 上条たちが言い争っている中先生は俺に目配せをしてきたので静かに頷いた。すると先生はわざとらしく思い出したように言った。

「あ、上条お前もだぞ」

 突然のことに俺も含めてクラス中が驚いた。

「は? え? 俺は20位でしたよ? 呼ばれたのは9人だからあいつは23位でしょ? 俺は補習になりませんよ~」


 俺は気づいていた。

 先生が上条の意見に賛同しなかった人の中で俺より順位が下の人の名前は呼んでいなかったことを。

 だが俺は知らなかった。

 上条が俺よりも順位が下だったということを。


「上条の意見に賛成しなかった人の名前は呼ばなかっただけだぞ?」

「そんなの聞いてないですよ!」

「そりゃそーだ、言ってないからな。こんなことはわざわざ言うことじゃないし言わなくてもわかるだろ」

「そんなの反則ですよ!」

「反則? 何を言ってるんだお前は。お前の勝手に何故関係のない人を巻き込まなきゃいけないんだ?」

「それは………… なら! ならあいつは何位なんですか!」

「18位だ」

 俺をバカにしていた奴らは一斉に俺を見てきて驚いた顔を見せてくれた。未だに信じられない上条は俺のところに来て乱暴に結果の書かれた紙を取り上げるとその成績を見て、やっと事実を受け入れたのかガックリとうなだれてしまった。

 そしてとぼとぼと自分の席へと戻っていった。

 先生はこの悪い雰囲気をかき消すように先程とは違い、明るい声で話し始めた。

「と、まぁ補習の件は冗談だ! 学校の規則では赤点者のみとなっているし、俺の一存で補習にすることはできないからな。さて結果も渡したことだし後は連絡事項を伝えて終わる。
 まずみんなも気になっているだろう夏休みの課題についてだが英才科はない。英才科は他学科に比べてかなり難易度の高い試験を合格しているため夏休みは自主学習ということになっている。よかったな。
 次に海外に旅行に行く際は学校にて届け出を提出すること。
 そして最後に節度を守って大いに夏休みを楽しめ! 以上! 解散だ」

 席を立ち、帰ろうとしたところで先生から声がかかる。

「東野! 少しいいか?」

 おそらくさっきのことだろう。先生が教室を出て行ったので俺も急いで追いかけようと荷物を持ち教室を出ようとした時上条に腕を掴まれた。

「よくも恥をかかせてくれたな。お前のせいでこれから俺は笑い者にされるんだぞ? 俺は今日のことを一生忘れないからな」

 上条、お前は自分で醜態を晒しただけだろ。何でもかんでも俺のせいにするのはやめてくれ。
 と俺は心の中で思うだけに留めた。もし口に出してしまったら再び面倒なことになりかねないからな。

 クラスの中を見渡すと俺のことをバカにしていた奴だけが残っていた。相当ショックだったのだろう。
 頭の中でシャッターを切ってその光景を記憶した俺は教室を出て先生のところへ向かう。

「さっきは悪かったな。あそこまでしないとあいつは満足しないと思ってな」

 満足どころかそれを飛び越えて先程俺に殺意剥き出しでしたけど。

「俺は構いませんが…… あの、先生って性格悪いんですか?」

「ん? なんだ突然。俺って性格悪いのか?」

「いや、俺が聞いてるんですが」

「分からんがたまに言われることはあるぞ」

「そうですか」

 この人自覚していないのか? いや、でもあの時明らかにわざとらしかった。……分からないな。

「もういいか? 俺もこれで話は終わりだから」

「はい」

「それじゃあ夏休み楽しんでな~」

 先生は職員室へと向かって歩き出した。

「先生、あんたは最高のエンターテイナーだよ」

 俺はその後ろ姿に向かって聞こえないくらい小さな声で呟いた。
 一学期は最後は厄介事ではあったが、俺としては笑いあり驚きありの最高の出来事であった。


 しかし後に俺は思うのだった。

 この出来事があの事件のきっかけだったのではないかと。

 そしてこの時から全てが始まったのではないかと。
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