幼い妹をもつぼっち、実は世界一。

雀の涙

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立場逆転

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「なぁ、お前らって会話できねーの? 俺が聞いてんだから答えろよ」

 目の前のヤンキーが上条らがすでに英才科の生徒だと分かっている以上嘘をつくことはできない。
 これ以上何も言わなかったら終わりだと思った上条はビビリながらも答えた。

「……はい。俺たちは英才科です」

「それでさー、ぶつかってきたのはお前だよなぁ? それなのにお前は俺になんて言ったっけ?」

「き、気をつけて歩けよって……」

「そうだな。おかしいよな?」

「はい。すみませんでした……」

「お前がぶつかったせいで俺の持ってた食い物が地面に落ちたんだよ。どうしてくれるんだよ」

 このヤンキー――西島修也にしじましゅうやはニヤニヤしていて、一緒に来ていた彼女ともう一組のカップルは後ろでクスクスと笑っていた。
 上条は後ろ向きで歩いていたため西島が言ったことが正しいのかどうか分からなかった。確認するため地面を見るが食べ物どころかゴミ一つ見当たらない。

「さっきスタッフが回収してたから下見ても何もねーよ? ってかそもそもお前のせいでこうなってんだからな? どうしたらいいか分かるだろ?」

 西島らの態度を見る限り嘘であると思うが、上条のせいであることは確かだ。
 後ろではクラスメイトがずっと怯えていた。この状況を早く切り抜けるために上条は西島が望んでいるであろうことをしようと決めた。

「ぶつかったことと食べ物を落としてしまったことを謝罪して、食べ物の分のお金を払います」

「それじゃあ食べ物の分だけだよな? ぶつかった分はどうするんだ?」

「……みなさんの昼食分のお金を俺が払います」

「しょーがねーなぁ~! それで許してやるよ! みんな行こーぜ!」

 そう言って西島は彼女とカップルと先に歩いていった。その後を上条らがついていく。

「もしかして一日中一緒じゃないよな?」

「あれ彼女っぽいし、ダブルデートだろ? おれたちは邪魔になるから昼で終わりだよ」

「あんなに楽しかったのに最悪の展開だよ」

 未だに怯えているクラスメイトが西島に聞こえないように小声で話す中、上条だけは黙ったままあることを考えていた。

 それから歩くこと10分、目的の場所に到着したらしく足を止めた。西島らの選んだのはファンタジーランドの中でも特に値段が高く、一人当り一万二千円もする高級バイキングの店だった。

「俺らはここで食べようと思ってたんだ。いいだろ?」

 西島らはニヤニヤが止まらなかった。本気でここを奢らせるつもりはなく、上条らが本気で怯えて困り果てる姿を見たかっただけなのだ。
 しかしそんな期待は裏切られることとなった。

「いいよ。早く入ろうか」

「は……?」

 平気な顔であっさりと了承されたことに驚いた西島らは呆気にとられた。上条はそんな西島らを放っておいてクラスメイトと店の中へと入っていった。

「……どういうことだよ。俺らだけで5万くらいかかるよな?」

「かかるよ! 払えるわけないでしょ!」

「あいつらやばいことしたりしねーよな……?」

「犯罪に巻き込まれるなんて嫌だよ!」

 残された西島らは上条を追い詰めすぎてしまったのではないかと不安でいっぱいになっていた。
 しかし言った手前行かないわけにもいかない。西島らは重い足取りで店の中へと入った。

 


「あいつらの顔見たか? ビビってたぜ?」

「自分から言っておいてなぁ~」

「あの顔たまらなかったわ~」

 店に入ったクラスメイトは西島らの反応を面白がっていた。上条も何も言わなかったがニヤけていた。

 たかが高校一年生がお昼だけで5万円、自身の分も含め6万円も払えるなんて信じられないだろう。それに加えファンタジーランドのチケットの代金8千円や交通費もすでに払っている。普通なら何とかしてでも許してもらえるようにするだろう。
 だが上条らは普通ではないのだ。上条の親は世界進出しているような日本を代表する大企業の社長であり、今一緒にいるクラスメイトの親はその大企業の社員である。言うまでもなく社長は莫大なお金を持っているし、社員とは言っても超一流企業のであるため給料はすごいものだ。
 クラスメイトのもらっているお小遣いも中々だが、上条のそれは比にならない。月に貰うお小遣いは中学までは20万円、中学からは40万円である。
 つまりこの昼食を奢るくらいなんてことないということだ。普段から外食する時はここのバイキングの倍以上の値段のところばかり。
 上条からすればここはファンタジーランドの中高い店という認識なのだ。また、上条までとはいかなくともクラスメイトも似たような生活を送っており、上条と同様の認識である。
 よってこのことを知らない西島らが呆気にとられるのは当然である。そしてこの時にすでに上条は先程考えていたのために動き出していたのだった。

 後から店の中に入ってきた西島らは店の雰囲気に圧倒されていた。テーマパークとはいえ、ここはファンタジーランドの中では高級店。客層に合わせて内装はとても豪華で西洋の城の一室のようになっている。バイキングといえば家族や友達と楽しくおしゃべりしたりと賑やかなイメージで実際そういうところが多いが、ここは割と静かで落ち着いていた。客の話し声は小さく、食べ方もとても上品であった。
 完全に場違いだと思った西島らはこの雰囲気を壊さないようにと席に座って静かにしていた。そして食事が始まっても一言も喋ることなく黙って食べるだけであった。
 一方、上条らはこういう所に慣れているため普通に食事を楽しむのだった。
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