そのダンジョンの冒険者はダイバーと呼ばれている。

tobu_neko_kawaii

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プロローグ

零話

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 この世界には5つのダンジョンがある。

 一つは塔型のダンジョン【タワー】。

 一つは洞窟型のダンジョン【ケイブ】。

 一つは迷宮型のダンジョン【ラビリンス】。

 一つは森型のダンジョン【フォレスト】。

 一つは天空島型のダンジョン【スカイ】。

 それらダンジョンは古に宇宙人が作ったと言い伝えられている。

 そして、そのダンジョンの殆どがどこかの国の所有地だったり、どこかのギルドの所有地だったりする。

 ギルドとは冒険者が集う組織で、中には国に匹敵するような規模のものもある。

 そんなギルドに集う冒険者たちは、各ダンジョンで特有の呼ばれ方をされていた。

 スカイでは、空の上のダンジョンへ特殊なジャンプで向かうことから【ジャンパー】と呼ばれ。

 フォレストでは、その森の中を連なって移動する姿から【ウォーカー】と呼ばれ。

 ラビリンスでは、迷宮に迷い込むことから【ロストマン】と呼ばれ。

 ケイブでは、一度入ると汚れて出てくる姿から【クリーナー】と呼ばれ。

 タワーでは、ダンジョンから帰還する時に大勢が落下傘で飛び降りることから【ダイバー】と呼ばれている。

 タワーやケイブの周辺には建物が次々に建てられて、ダンジョンと街が一体化している。

 フォレストやラビリンスでは、その周辺の国の許可を得なければ入ることすらできない。

 スカイは、唯一誰でも入れるが、難易度は最高峰で、今のところ誰かがスカイへ入っているとすぐに周知されるほどに誰も近寄らない。

 そんなダンジョンの一つ、タワーの傍に広大な土地を所有する貴族がいた。

 名前はタルトン、その土地の殆どが農地であり、農夫に貸し出して収益の半分を利益として受け取っている。

 収益の半分と言われてば法外な額だと思うかもしれないが、収穫した農作物を販売してでた利益分の半分と考えれば、生きていけるし、のし上がることも可能な取り分として周知されていた。

 レイナルド家、彼らもダルトンから土地を借りて、二代に亘って農家として生計を立てていた。そんなレイナルド家の主、カイザル・レイナルドは三十六歳にして土地を拡張した。
 もちろん勝算のある拡張ではあった。彼自身が生きていればの話だ。

「故カイザル・レイナルドは、不慮な事故により他界した」

 タワーでは時々、ダンジョン内のモンスターが、その横穴などから外へ出てしまい、下界の街へ落下してくることがあった。

 そんな事故とも言える出来事に、卸目的で街へ来ていたカイザルは巻き込まれてしまう。

「だが、契約は故人ではなく、その家族が受け継ぐことになる」

 残されたのは、母一人と子が三人、それに、広大な農地と従業員だった。

「お兄ちゃん、どうしてお父さんは起きないの?」

 次女、ネテル・レイナルド七歳。

「父さんは死んだんだよネテル、ね、そうだよね?お兄ちゃん」

 長女、メイネ・レイナルド十歳。

「……そうだよ、もう働かなくていいんだよ、父さんは」

 長男、カイネル・レイナルド十四歳。

 そして、墓の前で泣き崩れる母、マリア・レイナルド三十歳。

 マリアはその日から家族を守るためにまず従業員を解雇した。

 退職金を四人分払い、手持ちの蓄えを失うと、土地も購入したものをそのまま返して、借金を半分にまで減らした。

 それから彼女は必死に働いた。働いて働いて、カイネルも手伝っていたが、とうとう彼女は重い病気にかかってしまう。

「原因不明の病気ですね……残念ですが、この病気を治せる薬もスキルもありません」

 マリアは絶望した。子どもも幼い、その上頼りになる者が近くにいない。

「カイネル、ごめんね、お母さんもうまともに働けないみたい」
「大丈夫だよ母さん!ボクに任せてよ!」

 カイネルには、父から受け継いだある意味一番この世界で大切なものを持っていた。

「まずは農具を全部売ろう!お家も農地も全部だ!」

 カイネルは農具全て質に入れ、農地も返納し生まれ育った家も売った。

 得たお金で街はずれの静かな場所にある古い古民家を買い付け、彼はまず住む家を整えた。

 レイナルド家で働くことができるのは、もはや自分しかいないと分かっていた彼は、母に内緒である決断をする。

「ダイバーになる!ボクがダイバーになってお金を稼ぐんだ!」

 彼はそう思い立つと直ぐに、街の管理をするギルド協会傘下のギルドに入ろうと考えた。

「ギルドに入りたい?ならスキルを見せな……こいつはだめだな帰んなボウズ」

 カイネルはそう言われて最初のギルドにはそう言って断られた。

 だが、彼はすぐに別のギルドに顔を出して、頭を下げて入会を頼む。しかし、彼のスキルはある意味で戦闘向きではなかった。

「キミがギルドに?スキルは?……だめね。このスキルを持ってちゃどこも入れないと思うわよ」

 彼のスキルは鑑定時に赤く表示されることからレッドスキルと称され、主にパーティーにマイナスな効果を付与するものばかりで、そのスキルを持っている者がギルドに入れることはまずないというのがこの世界の常識だった。

「うちは子どもの冒険者も少なくないけどね、このスキルはだめだね、絶対に冒険者にはなれないと思うよ」

 絶対に冒険者にはなれない――そう言われてもカイネルは諦めなかった。

「お願いします!頑張って働きます!お願いし――ぐっ」

 蹴り飛ばされた後、その身に浴びせられた言葉は、慈悲すらない事実だった。

「テメーのスキルは仲間に迷惑かけるんだよ!ダイバーになりたいってんなら、ノラにでもなるんだな!」

 ダイバーはギルドに入って仲間を作り、ダンジョンへ挑むのが普通で、それが何らかの形でできない人間がノラと呼ばれて孤独に一人ダンジョンへと挑む。

 子どもが一人でダンジョンへ挑む時点で無茶だというものなのに、さらにパーティーを組まず一人でなんて無謀だと普通なら思うはずだ。

「……ノラ、そうか!一人でもダイバーにはなれるんだ!」

 彼が父から受け継いだものは、この楽観的なまでの諦めの悪さだ。

 ギルドに入るのは利点があり、その一つが給与でもう一つが装備一式の支給である。

 剣・槍・斧・弓といった武器や、楯・胸当て・籠手・脛当て等の防具。

 それにタワーから飛び降りる為の落下傘、通称【タコ】がタダで手に入る。

 しかし、ノラはそれらを実費でそろえなければならない。

 カイネルは父の友人で知り合いのブラックスミスのダイルに頼んで格安でそれらを購入することを考えた。

「おん?カイネルじゃねえかどうした?まさか!マリアの容態でも」
「違うよおじさん、今日は買い物に来たんだ」

 格安と言っても借金を返して、当面の生活費を除いた額しかない彼は、胸当てと小さい楯、そしてショートソードを一本身に着けることしかできなかった。

「中古だが、元は十倍の値段だった奴だ、だけどな、ダイバーなんてやめときな、カイザルだってきっとそう言うぜ」

 ダイルの言葉に彼は笑みでこう言う。

「大丈夫!何とかなるよ!おじさん」

 その楽観的な言葉に、ダイルは一層心配そうな表情をした。

 そうして、カイネルがダイバーとして初めて目にするタワーは、雲を突き抜けて全貌が窺えなかった。

 農夫の息子であるカイネルは、タワーを見ても今までは関係のないただの建造物だったのに、いざダイバーとして目の前に立つと、その迫力に脚が棒のようになってしまう感覚に襲われていた。

「大丈夫、何とかなる」

 次々にタワーの入り口であるゲートへダイバーたちがぞろぞろと入って行き、流れに混ざるようにカイネルの体も前へと進む。

 初心者丸出しのカイネルを見て笑うダイバーもいた。

 ワクワクもドキドキもない、期待もしていない。

 ただもう彼は立ち止まることはできない。

 ゲートをくぐった瞬間から、彼は冒険者――いや。

「今日からボクはダイバーだ!」

 カイネル・レイナルド。

 職業。

 冒険者【ダイバー】。
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