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三章

三章ノ壱『リユイ村』3

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「……どちら、様でしょうか」
「ほぅ、薬師のカイナはキミだね、可愛らしいの、ワシはリユイ村の村長じゃ」

 お爺ちゃん、見た目通りの歳を重ねられた男の人が私の前にいた。

「カイナは私です……」
「うん、いや、様子を見に来たんじゃ、本当に森に一人で住んでおるんじゃの」

 祠の中を覗いた村長さんは笑顔でそう言うと、私は中に手を向けて祠の中へ招いた。

「お話なら中で、お水しかないですけど……」
「いやいや、たいして手間はかからん、ただ、薬を売ってくれと言いに来ただけじゃて」
「え?」

 村長さんは頭を下げると、私はそんな事をして欲しくなくて、少し慌てて止めに入った。

「止めて下さい!頭なんて下げなくてもいいんですよ」
「いや、ワシではなくヒノの謝罪じゃ、もちろんあいつ自身が今度謝罪もするだろうが、あいつがの、カイナちゃんの薬を村で買ってやってくれと頭を下げにきたんじゃよ」
「ヒノさんが?どうして……」

「ヒノが言うとった、最初は親の使いで押し売りしに来たと考えて、いくらで買うか、そう問われた瞬間試されてると勘違いしてしもうての、親がいないと泣いて帰って行ったカイナちゃんをずっと心配して、後悔しておったよここ二日」

 その瞬間私はハッとした。私は村から帰って一晩しか経っていないと思っていたけど、実際にはいつの間にか丸一日の記憶がなかったのだ。ロウの傍でいた時か、寝ていた間なのかはわからないけど、精神的にそれだけ追い詰められていたのかもしれない。

「ワシはカイナちゃんと同じ森の民での、その場にワシがいたら詳しく話は聞いたんじゃが、ヒノは元々根っからの商人での、悪気があったわけじゃないんじゃよ」

 村長さんは両手を前に出して私に笑いかける。

「ところで~薬を見せてくれんかいの」
「待ってて下さい!すぐに持ってきます!」

 葉っぱのカバンに入れっぱなしだった薬をそのまま村長さんへ渡す。

「これは良い薬だ」

 中身を自分の持っていた袋に入れ、何か指折り計算し始める。

「お腹の痛み止めが銅貨一枚、堕熱(風邪)用の熱冷ましが銅貨一枚に、傷薬も銅貨一枚に、季節病の薬も銅貨一枚で傷に効く止血薬がそうだの……銅貨二枚かの」

 そう言うと村長さんは銅貨十五枚を私に手渡して、カバンにあった全部を買ってくれると言う。

「今マトの国じゃ薬の制作や売買が商人の間で禁止されていての、村で常備薬が不足しておったところじゃ、定期的にこの量を売りに来てくれるとありがたいの」
「は、はい!ありがとうございます!」

 私はただただ頭を下げ感謝した。

「後の、ヒノからの言伝だがの、一度顔を見せろと言うとった、何でも薬師としてやっていくなら必要なもん全部揃えちゃる、そう言うとったぞ、かかかっ、詫びのつもりなんじゃろうがの」

 そう言うと村長さんは私の頭を撫でて、いつでも村にきんさい、そう言ってくれた。

「行きます!今日の昼前に行きます!」
「かかかっきんさい、きんさい、じゃ、ワシは帰るでの――」

 そうして、村長さんが帰るとロウが祠へ戻ってきて、私はロウに抱き付いて鼻にキスして喜びを表した。

「売れたよ!お薬が売れたんだよ!ロウ!ありがとう!ロウ!」

 私がそう言うとロウは、組み付くように前足を肩に乗せてきて、私はその重さで尻もちをついてしまったけど、それが抱き締められている感じがしてとても嬉しかった。
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