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三章
三章ノ壱『リユイ村』2
しおりを挟む気が付くと祠の前で、私は泣き疲れて走り疲れて祠に入ると、ロウが出迎えてくれた。
ただただロウに抱き付いて、心配そうにしているロウに何度も謝った。
「ごめんね……薬売れなかったの……ロウに櫛を買おうって思ってたのに――」
枯れたと思っていた涙がまた溢れてきて、ロウは抱き付く私をジッと受け入れ続けてくれた。
気が付くと夜になっていて、もう半日以上もロウを同じ体勢で拘束していたんだと思うと申し訳なくて、顔を擦りつけながら謝った。
「ごめんなさい――ご飯にしようか」
私は優しく見つめるロウに励まされながら、米櫃の栓を開けると、お米がサラサラと落ちて来て、お椀に半分くらいでそれが止まる。
米櫃の上の蓋を開けて中を覗き込むと、そこにはまばらに散らばる米粒と米櫃の底が見えて、まるでこれが現実だと突き付けられているような事実を確認した。
グッと悲しみと一緒に溢れようとする涙を堪え、私は最後のお米を洗い、お釜でいつも通りお水多めのご飯を炊き始めた。
ロウはその間に外へ出て、いつものように処理された肉を銜えてくる。
「ありがとう、ロウ」
いつもはそれで終わりだけど、その日はもう一度外へ出て何かを銜えてロウは戻って来た。
「これ、お魚?どうしたのロウ」
ロウが銜えていたのはちゃんと腹を処理した川魚で、私はどうやって――と思ったけど、その時は素直にありがとうって言葉が出た。
「ありがとう」
人生最後になるかもしれないお米を食べながら、何の見通しもない明日に私は戸惑っていた。
でも、そんな時にロウは私の傍にいて、優しく寄り添ってくれたことが、唯一の救いだった。
「……お米は無くなっちゃうけど、ロウがいればいいや――私にはロウさえいれば大丈夫」
自分に言い聞かせるように私はそう口にした。
翌朝、お米の無い朝なんて、荷馬車で過ごしていた時には何度もあったのに、何となく切なさが込み上げてきて食欲が無くなってしまった。
いつも薬草を摘みに行く時間になっても、私は薬が売れないんだと思うと、道具の前で足を止めてしまう。
ロウが拾ってきた鎌にロウが拾ってきたその他道具、それらの意味ももうないのかもしれないと考えると、私はその場に座り込んでしまうしかなかった。
いつもは出かけるロウも、その日は私の傍にいてくれた。
昼頃になると急にロウが立ち上がり、慌てるように祠を出て行った。
ロウ?小用(トイレ)かな、そんな事を考えていると、不意に聞きなれない声が響いた。
「薬師のカイナ~おらんかの~薬師のカイナや~い」
それが村の人だと私にはすぐに理解できた。薬師の~と私を呼ぶ人なんてリユイ村の人しかいない。でも、立ち上がった瞬間、もし、村の人にここを追い出されたら、そう考えると私は不安で、恐る恐る祠の入り口から顔を覗かせた。
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