聖獣物語~人狼の森のロウとカイナ~

tobu_neko_kawaii

文字の大きさ
42 / 95
四章

四章ノ壱『愛のカタチ』1

しおりを挟む

 私が王宮に囚われて四日が経っていた。

 第一王子のアシムのメイドたちは、廊下の窓を拭きながら噂話をする。

 話題はもちろん私の話。

「聞いてる?あの子、森の民の女の子の話」
「あの子ね、知ってるわよ、毎日媚薬入りの薬湯に入って媚薬入りの食事に飲み物を食べているのに、いつになっても王子がものにできないでいるらしいわね」

 王子のその手の話は、メイドの中ではどうやら既に常識であり、その噂が立つのも必然だった。そして、若い美しいメイドであれば、一度は王子に抱かれているもので、その体験から、四日経っても王子に抱かれていないことに驚きと感心を抱いていた。

 だけど、私自身は何度もアシム王子に抱かれかけているが、最後の一線を王子が何故か越えないようにしているように感じていた。

 女として、ただただ気力で耐えるのももう限界を迎えていた私は、王子の私室で一人、自分の手に噛みついて、布で体を巻いて膝を抱えていた。

 そんな私を、王子はベットの上から楽しそうな笑みを浮かべて眺めている。

「けな気だなカイナ、俺はいつでもお前を受け入れてやるぞ?」
「……したい……」

 その言葉に王子は、ならと身体をベットから起こし私の傍へと向かう。

「この手を握れば後は俺が楽にしてやるぞ」

 私は王子の伸ばした手を虚ろな目で見て、歯型がくっきりと浮かんで血が滲んだ左手をギュッと握りしめてもう一度言う。

「あなたじゃない……私が子どもを作るとしたら、それはあなたじゃない、私はあなたには屈しない」

 別に王子は子どもが欲しかったわけではないと、後から思えばそう分かる、でも、その時の私の性の知識は子どもを創る行為としか認識していなかった。

 その言葉にさすがの王子も不満を露にして、でもすぐにベットに戻ってまた笑みを浮かべる。

「まぁいい、誰も助けにはこないぞ~」

 そう言って視線を私に向ける王子は、再び手を噛み体を震わせる私を見て思う。

 どうしてそこまで、そんなにその男が良いのか?

 そして、ウトウトして王子はそのまま寝てしまう。そして、日が傾いた頃に目を覚ました王子は、視線を周囲に向け私の姿が無いことにようやく気が付く。

「どこへ行ったんだ?」

 その時私は、朦朧とする意識の中で、ロウの遠吠えが聞こえてくる、そんな気がして、王子の私室から布のロープを作り外へと出ていた。王宮は城下街を見下ろすような高い位置にあり、私が歩く場所は、崖のように侵入者を防ぐ反り返る崖になっているところだった。

 フラフラとロウの姿を追って行く、あの尻尾を掴めばもう放さない。

「あなたが獣でもいい、私はあなたが好き、ロウ、待って」

 私は感情の抑制ができないまま、幻覚のロウに愛情の全てを捧げようと後を追っていた。

 そんな私を王子が見つけた時には、もう意識を殆ど保てていなくて、限界を越えて幻を見ながら城下街を見下ろしていた。

「カイナ!馬鹿な真似はよせ!」

 王子が声をかけると、私はフッと我に返った、視界に映る城下町、さっきまで目の前にいたロウが消えた。そして、私は凛とした瞳と表情で振り返ると王子に言う。

「私はあなたの物はならない」

 その表情に、王子は一瞬ゾクゾクと支配欲を擽られる。

 しかし、次の瞬間には私が崖に身を投げると、くっそ!とそれを掴もうと走る。

 だけど、あまりに位置が遠く、私の体は直ぐに落下し始めた。

 王子は崖の上から這いつくばって見下ろしていると、その隣を人影が走り抜けて勢いよく壁伝いに落下していく。

「あ、あれは、人か?いや、狼!人狼か!」

 私は落下しているその瞬間、あまりに切なく、あまりに恋しい、その名を呼んで自身の前に再び現れた幻影を抱きしようとする。

「ロウ……」

 その時、突然頬に何かが触れて、私は自分が目を閉じていることに気が付いて目を開ける。 

 すると、そこには頬を舐めるオオカミが一匹。

 幻影でもなんてもいい、ロウ、大好き。

 私はロウの舌を銜えて、自分の舌で舐め返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...