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四章
四章ノ壱『愛のカタチ』2
しおりを挟む地面が迫ってくる瞬間にロウは人の姿に変わり、崖を蹴って次に建物の屋根を蹴り、地面に着地した。二回の蹴りで勢いは殺され、地面に着地する時には反動はなかった。
私は二回の軽い衝撃で目を瞑っていたが、「カイナ」と名前を呼ばれると、まだはっきりとしない意識の中で言う。
「誰?あなたはロウ?ロウなの――」
「……カイナ、もう安心だ、もうお前を離しはしない」
音に驚いて出てきた母子が私たちを見て、子どもが指を指して言う。
「かあちゃん、裸の人が――」
男の子がそう言うと、母親は急いで子どもの眼を覆う。
ロウは私を抱いたままその場から走り去るけど、それを崖上から見ていた王子は私の無事にホッと安堵し、舌打ちすると、苛立ちを露にして声を上げた。
「人狼め、カイナを攫うきか!」
立ち上がり駆け足で王宮に戻ると王子は叫んだ。
「侵入者だ!衛兵!衛兵を呼べ!」
一瞬にして王宮内は騒然として、大臣であるウジも部屋から出てくる。
「どうした?何事だ」
メイドを呼びつけて事情を尋ねたウジは事情を聞くと言う。
「女?あぁ薬師の女か……」
娘が助かったのはあの薬師と一緒に届いた薬のおかげだ、どこの薬師かしらんが……。
そう考えたウジはメイドに囁く。
「衛兵に伝えておけ、女が南に逃げて行ったとな」
ウジは私を私と知らずに手助けをした。
そのウジの虚言もあり、ロウと私は追手に追いつかれることはなかった。
街を出たロウは狼の姿に成り、私を背負って風よりも速く駆けて行く。
森の入り口に入った時、私は少し思考を回復し、少しだけ理性的に頭を働かせる様になっていた。
「……ロウ?あぁロウ、私、あなたが好き、あなたが好きなの」
ロウは、足を止めると人の姿になり私を抱きしめて言う。
「俺もカイナが好きだ、この世界の何者にも渡したくない」
抱き合う私はロウが人の姿である事実に驚きはしない。それは私の中でロウが人の姿になれるのではないだろうか?という考えがずっとあったからだ。
「ロウ、私もう我慢できないの、抱いてよ、私我慢したよ?ずっとロウの子をこのお腹に欲しいって思ってたよ、ロウじゃなきゃやだよ」
「人狼は人の姿では子どもができ辛い……、獣の姿の俺は受け入れられないだろ?」
そう言って、ロウは私を一層力強く抱きしめた。
私はロウが狼の姿で隣で寝ている時、頬を舐め始めると、少しづつ自分の顔をずらして口元
へ来るようにし、初めてロウの舌が唇に触れた時は、心臓の鼓動でロウが起きるのではないかと思ってしまうほどに鼓動がうるさくて、満足感なのか幸福感なのか分からない感情で満たされたのを今でも覚えている。
今思えば、その時に初めて想ったのかもしれない、ロウが好きだって。
「バカだな――」
穏やかな表情で私はロウに言う。
「私が好きになったロウは、狼の姿のロウなんだよ」
それが私の嘘偽りのない本音だった。
「例え他人に何を思われようと構わない、それで人の世界から外れても、それでも私が好きなのは狼のロウなんだよ」
ロウの頬に触れ、額と額をくっ付けて私はそう言う。
祠までロウに運ばれ辿り着くと、寝台の上で私はロウに両手を伸ばす。
「ロウ、元に戻って、そして……私を愛して――」
ロウは姿を変える前に私に優しくキスをした。
「カイナ、愛している」
狼の姿に変わったロウはカイナと舌を絡ませる。
ロウの視界には、祠の窓から月明かりに照らされるカイナの姿が艶っぽく見えている。
カイナの視界には、獣姿のロウが息を荒くしてゆっくり覆い被さってくる。
ロウの低い唸り声と、カイナの高い喘ぎ声が森に微かに鳴り始める。
人狼と、片や人間。
二人のそれは愛ゆえの営み。
森も、草も、動物も、虫も、それを見るでもなく、かといって関わらないわけでもなく。
自然に、ただ自然に、二人の行為を見守るでもなく、ただただ自然の一部として受け入れていた。
「ロウ……私、幸せ、こんなに幸せで、こんなに満たされて」
ロウはその言葉を静かに聞いている。
これから待ち受ける困難からカイナの全てを守ると心に刻みながら、もう一度カイナ頬を舐め、気持ちをその身に重ねていく。
『巫子を成す、メイロウの名において、カイナが産む子、その子が産む子、その子の子の子の子が産む頃には我の御霊が人と成っていること願う』
そんな耳障りもロウは気にせず、運命と戦う宿命を受け入れた。
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