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第一部

25.9 エリアボス

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 9 エリアボス

 BCOにある大陸は5つ。

 一つの大陸は6の大きなエリアに分かれていて、さらに10~12の小さいエリアが存在する。

 一つの大きなエリアに一つの街と、異なる20のボスがいることはヘルプでも確認できる。

 テスト時は、という補足がつくが。

 小さいエリアには、少なくともボスモンスターが必ず一体はいるということになり、複数いる場合もあるということだ。

 大陸最南端の大きなエリア、そのさらに小さい第4エリア、そのエリアボスのフィールドの目の前で、俺は1人でウィンドウを眺める。

 装備は現状最強のもの、アンプルは満タン、負ける気はしない。

 第4エリアのエリアボスの推定攻略水準レベルは、22から24。

 そして、俺のウィンドウにはこう表示されている。

 LV:24
 HP:4371(4896)
 STR:98(203)
 VIT:50(195)
 DEX:60(102)
 AGI:80(138)
 武器
 1:レイブンソード【片手長剣】STR85 HP12%
 防具
 1:バトルアーマー【鎧】VIT125 STR20 AGI3 DEX2
 2:猫の腕輪【腕】VIT5 DEX33
 3:殺人者の足袋【足】AGI30 VIT10
 4:アレインのバンダナ【頭】AGI5 VIT15 DEX5
 装飾
 1:傷に付けるアレ【ユニーク】DEX2
 2:fの系譜【古文書】AGI20
 3:最高級の……【称号】


 見た目装備を付けているため、相変わらずアサシンのような風貌をしている。

 レイブンソードのスキルはツイストストライク。

 ステータスにネガティブでない装備を選び、装飾には現在唯一のユニークアイテム〝傷に付けるアレ〟に、テストの時にボスのレアドロップで手に入れた〝最高級の……〟は称号だ。

 その効果は、おそらく回復アンプル効果をランダムに上げる。殺人者の足袋にもスキルがあり、効果は殺人者の足袋のステータス2倍上昇、時間は1分と短く、リチャージは300秒。

 確認を終えると、戦う前の高揚感からくる武者震いがする。

「敗北は死を意味する――」

 1人声を発するのは虚勢かまた別の何かだろう。

 フィールドラインを越えると、戦闘が開始されるまで基本十秒のカウントが始まる。

 カウントが終わる前までなら、フィールドラインを再び越え、逃げることもできる。

 カウント終了とともに、出現したエリアボスの演出を見終えるといよいよ。

「さて、始めようか――」


 その名はバーバリアン。

 背中に複数の武器、想定STR300~400、AGIが低いと推測。モンスターというより、体格のいいプレイヤーと戦うようだ。

 BCOで、ソロのボス戦において意識する点は4つ。

 一、大振りの隙以外での攻撃は控える。
 二、全方位の強攻撃がスキルの可能性が高い。
 三、ヘルス半減時のステータス変化。
 四、瀕死時の発動スキルの威力が高い。

 今はまだこれだけだが、いずれは変形や複数のボスだってありえる。しかし、モンスターは所詮システムに縛られている。ある一定時間戦っていると、戦闘中にいくつかのルーティンが見て取れる。それらはプレイヤーにとっては隙となり、ヘルスを減らす上で大事なポイントになる。

「単純な攻撃は!防がれてしまう!だから!!」

 BCOのボスは、プレイヤーの攻撃が単調になると高い割合で素手でパリー、もしくは武器でのパリィを行う。その行動は、失敗するとプレイヤーに対しての大きな隙を作ることになる。

 硬直は3秒間、決して長いという訳ではないが、攻撃を与えるには十分すぎる。

 バーバリアンのルーティンである【水平の大回転切り】の後、必ず武器を持ち上げる間に隙ができる。

「ここ!」

 構えから発動まで0,2秒。

「はぁああああ!!」

 白いエフェクトと青いエフェクトが螺旋を描き、バーバリアンに剣先が当たると赤いエフェクトが飛散する。突き抜けた軌道に、TWIST STRIKEの文字が浮かび、バーバリアンの頭部の右上にTOTAL:1076の文字が浮かぶ。

 バーバリアンのヘルス、HPバーの一部を削った証だ。すでに削っていた分を合わせると、丁度半分は切った。

「……っ」

 口の端に刻まれたものが、自身の感情表現で一番多い〝優越感〟のそれだった。

 その時、バーバリアンの体が赤く蒸気を上げる。

 ステータス変化――

 戦士風だった姿が鬼の様に変化し、動き出しが速過ぎて、剣でガードするだけしかできなかった。確実にAGIが上昇している、おそらくSTRもだろう。

 この手のタイプの変化は、何かしら他のステータスがネガティブになる。

 VITであると推測できる、がしかし、武器に何らかのデバフ効果が付与されていた場合は厄介になる。だが、バーバリアンの大剣にそれらしき変化は見られない。

 用心深い俺は、殺人者の足袋のスキルを発動させる。AGIの上昇は、単に移動速度の上昇ではない。

 例えば、野球などのスポーツでバットを振るとする。AGIが低ければ、ボールが投げられてからバットを一度振り、その行為だけで弾が通り過ぎる。だがAGIが高ければ、ボールが投げられてからバットを二度、または複数回振ってしまえるようなものだ。

 その違いは、実際に剣を振らないと体感でしか理解できない。

 次のリチャージまで54秒経過すれば、【ツイストストライク】が再使用可能になる。

 バーバリアンの素早い【なで斬り】が俺の左肩を通過して、赤いエフェクトが飛散するとHPが350ほど減ってしまう。

 視界にある【YATO】の横にあるヘルス表示には、2086の数字が表示され、すでに2810のダメージを受けていることが分かる。

 60%までヘルスが減ったぐらいが、回復のタイミングとしては丁度いい。

 逆にその値が、分かりやすいようにHPバーの色が緑色から黄色へ変色するように設定されていて、それが利に叶っている事だと分かる、実用的という意味でだ。

 左手をスライドさせて、簡易スロットの回復アンプルを出現させ、瞬間的に口に含む。

 780の回復表示と同時にアンプルを投げ捨てる。すると、空になったそれは、空中で黒系統のエフェクトを放って消失する。すでに6回ほどアンプルを消費しているが、計算通りにここまでは戦えている。

 そんな戦闘中にもかかわらず、俺は自身の足元に視線を奪われてしまった。
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