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第一部
30.
しおりを挟むただ、ケージェイ自身、本当はこの戦闘に参加して戦いたい気持ちだった。
この戦闘に参加するためには、彼が留めている2つの秘策を使わなくてはならない。
自身のストレージに存在するレアアイテム。時間限定でステータスの底上げができるアイテムを使えば、効果時間内ならまともに遣り合えるかもしれない。
もう一つはレベルだ。
現行のVRMMOにおいて、すでにこのシステムは殆どが採用しているもので、レベルを自身の意思で止めることができる。これはレベル制のVRMMOが、ステータスの振り分けで全てか決まることが普通になってしまった現状で、将来を見越して好きなタイミングでレベルを上げられるよう留めることができるシステム。
それによって自身の装備や戦い方に応じたステータスの振り分けを行える。留めたレベルに対して、経験値はそのまま蓄積させることが可能で、蓄えた経験値を消費してレベルを一気に上げ、必要時に必要なステータスを得ることができる。
本来は高価な課金系アイテムで再振りすれば済む話だが、現行タイトルにこの手の課金アイテムは存在しないのが普通で、加えてこの世界はゲームだがゲームではない。
コンバートは、チート性能を引き継ぐ要素としてあまり広く受けいれられていないため、一度ステータスの振り分けを間違えば、二度とそのキャラでは振り直しできない。
しかし、プレイヤーにとって、キャラは自身の分身と言ってもいい。何時間もそのタイトルでプレイしてきたのに、ステータスの振り分けで先に見込みがなくなってしまう。そんなことを許容できるプレイヤーは少ない。ゆえに、このシステムが作られてユーザーにも好まれた。
もちろんデメリットもある。
本来レベルアップする時に停止する場合は、その後の経験値稼ぎに苦労する。
同レベルのモンスターから仮に、20の経験値を稼げていたとして、1レベルで18、2レベルで16という風に経験値が得にくくなる。逆に言うと、モンスターから得られる経験値で、今自身がどれくらいレベルの余剰を抱えているのかも分かる。
経験値は、自身のレベルにあったモンスターと戦えば、本来もらえる同じ値で入手できる。
ゆえに本当なら22のレベル同士では楽とまでは行かなくとも、不利無く戦えるが、留めているとレベルが1高い敵と戦うことになり、ステータスに差が出てしまうために、本来同レベルの相手でも苦戦を強いられることになる。
だから、いくらでも溜められるという訳ではない。
現在、ケージェイはレベル4分を上げずに留めている。本来ならデスシザーとの闘いも、スキルで600のダメージを弾き出すことは可能だったのだ。
リザルトでの経験値入手も、本来ステータス画面上のレベルが偽りでなければ、1000以上得られたはずだった。
しかし、この世界のステータス振り分けの間違いは命取りにもなりかねない。
先を見据えておくのは当然で、レベルアップ時にステータスを振り分けるのは素人のすること。現状の装備に対して必要なステ振りをできれば、後は留めて置くのがむしろセオリーなのだ。
そう考えている間にも、仲間は傷付き、時間は過ぎていく。
「敵はチート級のモンスター」
私が入った所でどうなる?戦闘が長引けばメンバーも減っていき、最終的な段階で一対一になりかねない。例えその状態で戦い続けられるヘルスであったとしても、仲間無しに自身が戦う姿が想像できない。
ケージェイがそう考えてる目の前で、オーダーのメンバーの1人がデスピエロ一号の攻撃によって、胴体に赤いエフェクトを放ちながら消失する。
フィールドの端に当たったその欠片が、虚しく塵じりに散って逝く。
『WWWWWWAわ、わわん、ワンヒット~!!』
「ダステル!!やりやがったな!!」
「先行しすぎるな!敵の攻撃は常に大振りだぞ!」
戦いを指揮するアスランはまだ諦めていない。いや、彼らが諦めれるはずがないのだ。
諦める=ゲームオーバーならそれでもいい、だがしかし、諦める=実際の死では誰だって諦められない。
アスランを中心に戦っていた内側のメンバーは、漸くデスピエロ一号のHPバーを一本削りきった。内も外も〝もしかすると倒せるかもしれない〟という思いが湧く。しかし、またも響き亘るその声は理不尽を体現する。
『UUUUUUUUUううエポン、チェンジィィイイ!!』
放り投げた釘バットが消失すると、チェーンソーが現れる。
モーター音を響かせて回転するそれは、もはや武器というより凶器である。
「さ、三分の一で形態変化……」
「ってこたーこのまま戦ってたら、後一回は武器チェンジするってことかよ!」
内側に広がる悪い空気。
外側に広がる絶望的な雰囲気。
「……これはどういう状況だ――」
ナナはその声に反応して振り返った。
鋭い目付き。
口元を隠すストール。
上半身を覆い隠すボロボロのマント。
足元のミリタリーブーツ。
上から下まで黒尽くめの男。
「ヤト!」
「さっさと状況を説明しろ」
そう言ったヤトに、ナナの隣にいたケージェイが口を開く。
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