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第一部
33.13 仮想現実と現実
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13 仮想現実と現実
あれがフルダイブの何ってタイトルだったか、もう思い出せないが、それで知り合った同じ歳くらいの男のアバターのプレイヤーがいて、そいつとよく仮想現実の話をしていた。
「仮想現実の世界と現実の違いってなんだろうね」
「仮想現実と現実の違い?多分……色々あると思うけど、俺にとっては〝想い〟かな」
「〝想い〟?ヤトは、スピリチュアルな側面で違うって思っているのかな?」
「スピリチュアル?違う、質量とかそういったデータ量とかもそうだけど、現実は産まれたその瞬間から始まるけど、仮想現実はどうしても中途半端なスタートになるだろ」
「なるほど……想いって言うから勘違いしてたけど、つまりは現実では赤ん坊の無垢で無知な状態からだけど、仮想現実でそれはない……なるほど、なるほど」
「知識の有無よりも、そこが〝自分の世界〟だって思えるかどうかなんだよな」
「産まれた瞬間から仮想現実で育った人間は、間違いなくそっちが本物と思うだろうね」
「違う違う!両方本物だ!だから〝想い〟って言ってるだろ……ったく、お前は――」
「ごめんごめん、そうだったね、偽物か本物かは、前に結論が出ていたんだっけ、本人が偽物って思っちゃうと、現実でも仮想現実でも偽物だし、その逆もまたって」
「たとえどれだけ人間が進化しても、それだけは変わらないと思う、何せ〝人間〟だから」
「ん~じゃーさヤト、……仮想現実で人間、プレイヤーとNPCを見分けるためにはどうすればいい?あ!この時、触ったり話しかけたり、長時間観察したりしちゃだめだよ」
「NPC……やっぱ〝アレ〟かな」
「ほ~もう見当が付いた顔だね、それじゃ、キミの答えを聞かせてもらおうかな」
「俺の答え?いいぜ、答えは――」
答えは〝呼吸〟だ。
『もう瀕死状態からか~、向こうで遊びすぎちゃった所為だなこれ』
目の前のエネミーが、そんな独り言を呟く。
その口元が、この世界のプログラムには組み込まれない行為を繰り返し行う。
口から空気を吸う吐くという行為を、酸素なんてものが存在しない仮想現実で確かに息を吸って吐いてを定期的にしている。
HMCの感覚遮断は、現実の脳から仮想現実のアバターを動かす上で必要なことだ。そうでもしなければ、アバターを動かそうとする度に、現実で体が動いてしまうことになる。
現実の〝におい〟や〝感触〟などの五感、それらを遮断しなければ現実で振れている服や室温によって、仮想現実にいるのに自室の空気感満載で台無しになってしまう。
感覚を遮断することは、脳が臓器などに送る生命維持に必要な部分も遮断してしまうが、それはHMCが脳から出る信号を~と難しい話を親父によく聞かされた。
人間は複雑に臓器などへ脳から命令を出しているように感じられるが、実際に生命維持に必要な命令を出すのは単純なことの繰り返しで、それに関して言えばHMCでも問題なく区別ができる。
そうすることで、仮想現実と現実で繋がっているのは脳だけということになる。現実でHMCが脳の身体を直接動かす信号を遮断して、仮想現実で脳がアバターを動かす。
現実の体に針を刺しても、仮想現実の方では何も感じないし、寒さ熱さも感じない。
だが、互いに干渉しないはずの現実の体と仮想現実の体で、唯一あることで一致することがある。それが仮想現実のアバターの〝呼吸〟だ。
名前は忘れたが感覚再生エンジンの核であるシステムは、脳が勘違いで生成する本来ないはずの痛みを緩和する感覚再生エンジンでもあるが、脳の勘違い、つまり〝錯覚〟は五感だけに留まらない。
現実にある体が呼吸するように、仮想世界でも呼吸をするのが人間の脳だ。心臓を常に安静な状態で動かす、仮想現実でいくら脳を使って走っても、疲労するのは脳だけでそれもかなり最小の疲労だ。何せ、仮想世界の体は疲れる事を知らないから。
仮想現実に空気を作り出すのは無理ではないのだろうが、わざわざ脳に負担がかかる仕様が追加されることはまずないだろう。酸素や窒素などそういったものを再現できないし、またそのメリットもない。
仮想のアバターに実際に肺は存在するもののそれは、息をするためではなく、ニオイを嗅ぐ仮定で生じる鼻呼吸の時に、それらが動いた方がリアルだというだけで、本来は呼吸する必要がないため、それはいらない機能なんだ。
しかし、日常で〝無意識に呼吸する〟ということを、人の脳は仮想世界でも間違いなく行い、それによって、脳は正常を保とうとする。
仮想のアバターに、脳は呼吸するための命令を送り続けることになるのだが、それを〝止める〟または〝できない状態〟だと脳はどうなるだろうか?という疑問も自然と浮かぶ。
呼吸はできないが脳に酸素は届いている、この矛盾に対し、脳はストレスを感じて〝セロトニン〟を分泌する。その結果、脳内の〝セロトニン〟の量が増えていき、そのストレスが解消されないままでいて、危険状態になると〝セロトニン症候群〟に陥る。
そうならないための対策は、現状ではHMCの強制ログアウトしかなく、今後の課題として今も研究されている。
あれがフルダイブの何ってタイトルだったか、もう思い出せないが、それで知り合った同じ歳くらいの男のアバターのプレイヤーがいて、そいつとよく仮想現実の話をしていた。
「仮想現実の世界と現実の違いってなんだろうね」
「仮想現実と現実の違い?多分……色々あると思うけど、俺にとっては〝想い〟かな」
「〝想い〟?ヤトは、スピリチュアルな側面で違うって思っているのかな?」
「スピリチュアル?違う、質量とかそういったデータ量とかもそうだけど、現実は産まれたその瞬間から始まるけど、仮想現実はどうしても中途半端なスタートになるだろ」
「なるほど……想いって言うから勘違いしてたけど、つまりは現実では赤ん坊の無垢で無知な状態からだけど、仮想現実でそれはない……なるほど、なるほど」
「知識の有無よりも、そこが〝自分の世界〟だって思えるかどうかなんだよな」
「産まれた瞬間から仮想現実で育った人間は、間違いなくそっちが本物と思うだろうね」
「違う違う!両方本物だ!だから〝想い〟って言ってるだろ……ったく、お前は――」
「ごめんごめん、そうだったね、偽物か本物かは、前に結論が出ていたんだっけ、本人が偽物って思っちゃうと、現実でも仮想現実でも偽物だし、その逆もまたって」
「たとえどれだけ人間が進化しても、それだけは変わらないと思う、何せ〝人間〟だから」
「ん~じゃーさヤト、……仮想現実で人間、プレイヤーとNPCを見分けるためにはどうすればいい?あ!この時、触ったり話しかけたり、長時間観察したりしちゃだめだよ」
「NPC……やっぱ〝アレ〟かな」
「ほ~もう見当が付いた顔だね、それじゃ、キミの答えを聞かせてもらおうかな」
「俺の答え?いいぜ、答えは――」
答えは〝呼吸〟だ。
『もう瀕死状態からか~、向こうで遊びすぎちゃった所為だなこれ』
目の前のエネミーが、そんな独り言を呟く。
その口元が、この世界のプログラムには組み込まれない行為を繰り返し行う。
口から空気を吸う吐くという行為を、酸素なんてものが存在しない仮想現実で確かに息を吸って吐いてを定期的にしている。
HMCの感覚遮断は、現実の脳から仮想現実のアバターを動かす上で必要なことだ。そうでもしなければ、アバターを動かそうとする度に、現実で体が動いてしまうことになる。
現実の〝におい〟や〝感触〟などの五感、それらを遮断しなければ現実で振れている服や室温によって、仮想現実にいるのに自室の空気感満載で台無しになってしまう。
感覚を遮断することは、脳が臓器などに送る生命維持に必要な部分も遮断してしまうが、それはHMCが脳から出る信号を~と難しい話を親父によく聞かされた。
人間は複雑に臓器などへ脳から命令を出しているように感じられるが、実際に生命維持に必要な命令を出すのは単純なことの繰り返しで、それに関して言えばHMCでも問題なく区別ができる。
そうすることで、仮想現実と現実で繋がっているのは脳だけということになる。現実でHMCが脳の身体を直接動かす信号を遮断して、仮想現実で脳がアバターを動かす。
現実の体に針を刺しても、仮想現実の方では何も感じないし、寒さ熱さも感じない。
だが、互いに干渉しないはずの現実の体と仮想現実の体で、唯一あることで一致することがある。それが仮想現実のアバターの〝呼吸〟だ。
名前は忘れたが感覚再生エンジンの核であるシステムは、脳が勘違いで生成する本来ないはずの痛みを緩和する感覚再生エンジンでもあるが、脳の勘違い、つまり〝錯覚〟は五感だけに留まらない。
現実にある体が呼吸するように、仮想世界でも呼吸をするのが人間の脳だ。心臓を常に安静な状態で動かす、仮想現実でいくら脳を使って走っても、疲労するのは脳だけでそれもかなり最小の疲労だ。何せ、仮想世界の体は疲れる事を知らないから。
仮想現実に空気を作り出すのは無理ではないのだろうが、わざわざ脳に負担がかかる仕様が追加されることはまずないだろう。酸素や窒素などそういったものを再現できないし、またそのメリットもない。
仮想のアバターに実際に肺は存在するもののそれは、息をするためではなく、ニオイを嗅ぐ仮定で生じる鼻呼吸の時に、それらが動いた方がリアルだというだけで、本来は呼吸する必要がないため、それはいらない機能なんだ。
しかし、日常で〝無意識に呼吸する〟ということを、人の脳は仮想世界でも間違いなく行い、それによって、脳は正常を保とうとする。
仮想のアバターに、脳は呼吸するための命令を送り続けることになるのだが、それを〝止める〟または〝できない状態〟だと脳はどうなるだろうか?という疑問も自然と浮かぶ。
呼吸はできないが脳に酸素は届いている、この矛盾に対し、脳はストレスを感じて〝セロトニン〟を分泌する。その結果、脳内の〝セロトニン〟の量が増えていき、そのストレスが解消されないままでいて、危険状態になると〝セロトニン症候群〟に陥る。
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