34 / 138
第一部
34.
しおりを挟む目の前のエネミーは、間違いなく呼吸している。
「プレイヤーになった、とはどういうことだ?」
ケージェイの言葉に、俺はどう説明するか考えた、が、今はそんな暇はない。
のん気に会話しながら戦闘ができる状況じゃない。
「それより、今は戦闘に集中するべきだ」
自分で言っておきながら、こんなことを言うのは本当は間違っているのかもしれない。
だが、そう呟いてしまうほどに現状は危うい。できればただのプログラムされたCPUの敵の方がまだマシだった。
俺の焦りを知ってか知らずか、周りも攻撃に踏み出せずにいる。
『あ!本当にいる!これ本物?本物かな?』
訳の分からない事を言い出すデスピエロ一号に、その場にいる者たちは困惑する。
戦闘中に、突然会話をし始めるモンスターなんて、まずありえないのだから無理もない。
『ヤトさん?ねぇ聞こえてるんでしょ?本物?』
俺の名前を呼ぶその目の前のモンスターは、間違いなく完全に油断していた。
チャンスだ――と俺が思うのも必然なほどだ。
装備を投剣〝アサルトダーツ〟に変更して、最速の奇襲、その攻撃が剣で切り落とされることは想定済みだ。だが、二刀流といえど、間隙を狙えばダメージは与えられる。
駆け出して、最後の投剣が弾かれる瞬間に、再度レイブンソードに持ち替え腰の柄を握る。
側面を衝くためにトップスピードのまま、側宙からの後方宙返り中にデスピエロ一号の横腹に逆さのまま斬り付ける。
斬り付けた勢いのまま体を回転させて着地すると、勢いを殺さずに遠心力で背中へ剣を振る。
隙があったはずのデスピエロ一号は、その最後の一撃を二刀で受け止めると再び話し出した。
『やべー、これ本物だわ~、マジでヤトだ!パネ~』
「……」
左手で操作して装備を変更する。防がれた長剣が手元から消え、次に装備した〝バーバリアンの大剣〟でガードごと斬り伏せる、が、少しだけ刃が当たっただけで防がれてしまう。
STRが高いだけあって、剣によるガードがしっかりとしている。
もしNPCなら完全に通っていただろに、と舌打ちした俺の視界には、ケージェイの姿とアスランの姿が入る。
二人のその背後からの攻撃がいいダメージを与えると、デスピエロ一号がケラケラと笑う。
『やベー、体大き過ぎて戦いにくいやー、これどうやって調節すんの?』
このモンスターを操っているやつは遊びのつもりだ。
そう分かった瞬間に俺は叫んでいた。
「総攻撃だ!スキルを使え!!」
「お、おう!!」
「やってやらー!」
「ふざけやがって!!」
それぞれ思い思いのタイミングで一斉攻撃をする。
『え!うそ!ちょっと待ってよ!まだ設定の途中な――』
俺の思惑通り、全く反撃のないまま、二人ほどのスキルが防がれただけで攻撃が成功する。
HPバーを完全に削り切られたデスピエロ一号は、『あ~あ、やられちゃった~』と呟いてポリゴンにノイズが入りながら、いつもの鮮やかなエフェクトなしに消失した。
こうして俺たちはデスピエロ一号を倒した。
だが、その代償は多くて、多すぎて、誰も歓喜の声は上げなかった。
ケージェイも、アスランも、ナナも、全員がその場に座り呼吸を荒くしている。
数秒すると、すぐに平常な呼吸に戻るも、脳内は未だに戦闘の余韻から抜け出せない様子だった。
俺は大剣を消すと、フィールド内を外へと歩きながら忠告する。
「早くここを出たほうがいい、また何が出てくるか分からないからな」
俺の言葉に、全員が駆け足で戦闘フィールドを後にした。
0
あなたにおすすめの小説
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる