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第一部
46.
しおりを挟むチートというものを持ち出す以上、所詮そいつらと同列に並ぶことになる。だが、それでも、悪のチーターなんかより、正義のチーターの方を俺は選ぶ。
「コマンドIDシャドー、【YATO―0031―9218】オブジェクトSを――ジェネレート」
囁くように言葉を詠唱したそれは、コールコマンドと呼ばれるものだ。
HMC側からコマンドをコールするだけで、チートのアイテムがBCO内に生成される。
その突き出した右手に全体が黒い長剣が現れる。
「……殺されたくなければ、カイトと他の捕らえてるプレイヤーを解放しろ」
男は武器を構えて、「な、なんだよ!!」と叫ぶ。
「お前もチーターじゃねーかよ!!しかもプレイヤーキラー?!そっちの方がタチが悪いぜ!」
カイトは、俺が今からすることに察しが付いているだろう。俺と視線を合わすとゆっくりと頷いた。このBCO内でPKは、そのまま殺人と同意になる、が、俺は今から……。
「い、いいのか!俺がログアウトすれば頭に付けられた爆弾が爆発して!だ、誰かを巻き込むかもしれないぞ!」
男の言葉に俺は右手を下げる。男はその様子を見て笑みを浮かべた、が、次の瞬間には素早く男の横を通過して剣を払った。
「悪いが、もう決めたことだ――」
男がバタリと音を立てて倒れてしまい、その頭上には強制ログアウトの表示。
周りにいた仲間が軽い悲鳴を上げる。
「向こうの世界で誰かが傷つくかもと、俺が迷っていたら誰も救えはしない。そう言った意味では、俺はその誰かにとっては悪なのかもしれないな」
鋭い視線に、男たちは慌ててその場から去っていく。騒ぎに集まったプレイヤーも、その場を脱兎の如く逃げていく。
周りのプレイヤーの目には、街中――圏内でPKが行われたに等しいため、逃げてしまうのも仕方が無いことだ。
へたり込むカイトに近づくと、その首に付いているMODアイテムを黒い長剣で斬る。
すると、そのアイテムは首から外れ落ち、無色のエフェクトとノイズを混じらせて消えた。
「ヤト……キミは、ボクなんかのために――」
カイトは、自身のために俺が人を殺したと涙を流す。
泣き止まない彼女の頭を撫でながら、待っていたが、いつまでも泣き止まないカイトを人目を避けて狭い路地へと抱えて移動した。
「ボク、……毎日毎日怖くて、自分の心が壊れる寸前で――」
「あぁ」
しばらくして、ようやく泣き止んだカイトは、すぐに話を聞こうとする。
「……ヤト――キミ、チートを――」
すでに黒い長剣は消えていているが、カイトは俺の右手を見ながらそう言う。
が、その言葉を俺は肯定した。
「チートMODの破壊、そして、チーターの強制ログアウト機能が付いている……言ってしまえばチートでしかなくて、俺はチーターということになる」
「……でも、それでもボクは、ボクにとっては正義のチーターだよ」
「いや、ただのチーターだ、で、今は人殺しでもある……実感はないが、覚悟はもうした」
「……ごめん……本当は、ヤトを巻き込みたくなかったのに、そんなつもりでキミに声をかけたわけじゃないのに――」
カイトはそう言ってまた泣きそうになる、仕方なく、そっと抱き寄せて言葉をかける。
「いや、俺はよかったと思ってる、カイトが俺に助けを求めてくれれば、間違いなく何度でも俺はカイトを助ける。女の子を助けられないなんて、そんな選択肢は存在しない」
「ヤトは、カッコイイなぁ……そして、いい男だ」
カイトは、そっと俺の頬に顔を近付け、唇を頬に当てると、顔を離して赤面しながら俺の様子を見ている。どう反応するべきか、迷った俺は、別段オドオドすることもなくカイトに微笑んだ。
俺の反応がご不満だったのか、カイトはジッと見ながら言う。
「ヤト……こういうの慣れてるの?現実で?それとも仮想現実でかい?」
眉を顰めた俺は、カイトの顔に顔を近付けてそのままキスをした。
「!…………」
俺は子どもじゃない、それに初心でもない。カイトにキスが何たるかを教えようとも考えたが、頬にキスで照れている彼女に、これ以上はしない方がいいと考えて顔を離した。
「カイト、俺は男だから、こういう事に対してそれなりに欲求はあるんだぞ」
「……そうだね、ごめん、からかったりして」
「……他にも捕らわれている人がいるんだろ?」
「そうだね……彼女たちを解放しないと――」
そう言って顔を隠すカイトは、少しだけ黙ったままでいると、徐に立ち上がって、道案内をし始めた。
本来ホームは購入者に権限が与えられるが、その購入者がアカウントを削除した場合に限り、自動でストックルーム内のアイテム破棄され、売却物件に指し換わる。
BCOでは、入室申請に許可された者以外は誰でも入れない、が、今回はすんなりカイトが中に入れて俺に許可も出せた。中に入ると、再びあの黒い剣で5人の女性プレイヤーの首輪を外した。その際に1人の女がその首輪を外すことに抵抗する。
「コレに囚われている必要はない」
と、俺はその人に言って無理矢理に消し去った。
カイトの話では、彼女は望んでそうなった人――と言っていた。
この仮想世界に囚われた絶望から逃げ出そうと、そういった行動をとってしまうのは、言い方はどうあれ仕方のない事なのかも知れない。
だが、このままではダメだと思い、もう一度そのプレイヤーに声をかける。
「世界は誰も縛ったりしない、世界は自由なのだから……、今後を決めるのは、これから進むアンタ自身だ――」
そこまで言い切ることで、女は漸く1人で立ちその部屋を後にした。
その後、この件は誰の耳にも入ることは無く終息した。しかし、俺の一件が広く広まることになったのは必然だった。
圏内でPKをした、黒のプレイヤーキラーとして。
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