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第二部

59.26 バースデー

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 26 バースデー

 2053年3月

 Blade Chain Online、ブレイド・チェーン・オンラインと呼ばれる世界に囚われた者たちがいる。それも、世界で何万人もだ。

 この囚われてしまった者たち、彼らを助けるために現実でも色々と活動がされていた。

 だが、どこの誰が、何のためにこの事件を犯したのか誰にも理解されていなかった。

 始まりし街、そこは仮想世界の始まりの場所で、初心者や死に恐怖する者たちが集う場所でもあった。

 ヤトの頭を撫でるナナは、不意にモコモコした物体が彼女の手元に近づいてくると、彼女は優しい視線をそれへ向けた。

 ウサギの人形がタキシード姿で動いている。BCOのレアドロップアイテムである〝紳士なウサギ〟、それを動かしているのは、ヤトのHMCの記憶領域に刻まれているAIであるシャドー、そのコピーでシャドーの本体曰く〝置き土産〟と呼ばれたものだ。

 そのアイテムをヤトの記憶を垣間見たナナが、彼のストレージから出現させた。

「心配せずともいずれ起きるさ」

 ウサギの紳士はその小さい体で精一杯気取ってみせるものの、その姿ゆえにナナにはカワイイとしか感じてはいない。

「……心配するよ、だってヤト……私に嘘付いてた……でも、それは仕方ないことって分かってる――私だって話してないことも多いし」

 ナナの言葉にウサギは軽快なステップを踏みながら、彼女の顔がよく見える位置へと移動する。

「言っておくが、ジャスティスがキミに嘘を吐いたのだとしたら、それは彼なりの優しさだったんだと思うぞ」

 ジャスティスとはシャドーなりのヤトの呼び名で、ウサギが格好をつけてそう言うと、ナナは口元を緩める。

「シャドー、お気遣いありがとう、でも――」

 どう見てもヤトの顔を踏んづけているシャドーを抱き上げるナナ。

「顔を踏むのは止めてあげようね」

 シャドーは、「おっと!それは気が付かなかった」と言うが、悪びれている様子はない。

 椅子に腰掛けるマリシャに、ナナの反対側でヤトの顔を覗きこむのはカイト。

 そんな三人に不意に訪れる静寂は、最近より多くなった習慣ともいえるもので、空気に耐えかねたシャドーは唐突に言う。

「そう言えば、ナナがここへくる一時間ほど前に、カイトが街中を見て回っていた時だ、マリシャがこんなことをジャスティスにしていた」

 シャドーの言葉にナナとカイトは眉を顰める。

 マリシャはすぐに止めようとするが、深く椅子に腰掛けていたために立ち上がれなかった。

「こう、マリシャがジャスティスの頬を突いて、〝つんつん、返事がない……ただの屍のようだ〟と言って、唇をこう、くきゅ~――がはっ!」

 マリシャの投剣がシャドーに当たって、その衝撃で吹っ飛んだウサギがベットから落ちる。

 ナナとカイトは笑顔でマリシャに歩みよると、苦笑いのマリシャをナナが押さえつけてカイトがその唇に唇を重ねた。その後、3人は少しピリピリした雰囲気でその場は緊張に包まれる。

 そうしていると、再びその空気を呼んで……いや、むしろ読めずにシャドーが口を開く。

「そう言えば――」
「……少し静かにしていようか」

 シャドーの頭を鷲掴みすると、カイトが凄い形相で睨みつける。それは、おそらくシャドーが言おうとすることをカイトが察したからだ。

 毎日装備という装備を外して、ヤトと添い寝していることをシャドーが言う前に止めたのだ。

「しかし、私としては皆に素直になってほしくて――ピィ!」

 シャドーの口に指を突っ込んだナナは、言葉のない微笑みで睨む。

 おそらく、ナナが時々ヤトと二人きりになった時に、彼の匂いを嗅いでいることを言わすまいとしたのだ。

「ほふへまふ――ぱぁ!……クンカクンカしてい――」

 次の瞬間には、シャドーの口元の指が2本に増えていた。ナナの手によって玩ばれるシャドーは、最後に一番肝心なことを口にする。

「そう言えば……今日はジャスティスのバースデーだな――」

 3人は一瞬のフリーズから声を上げる。

「ちょっと!うさちゃん!?」
「何でもっと早く言わないのさ!」
「私今、少しだけ殺意を覚えた――」

 3人の言葉にシャドーは、「そんなに怒ることかい?」と短い両腕を上げる。

 ナナはすぐに寝ているヤトに声をかける。

「誕生日おめでとうヤト」

 すると、カイトも反対側から声をかける。

「ハッピーバースデー、ヤト」

 そして、カイトは左手の操作でアイテムを取り出すとヤトの左手に持たせる。

「レアドロップの強化アンプルだよ」

 左手に持たせたアンプルは、数秒後ヤトのアイテムストレージ内に収納された。

 マリシャも左手を操作して、なにやらアイテムを取り出す。

「ヤト誕生日おめでと~、はい、これユニークの〝物干し竿〟」

 おそらく武器であろうそれを寝ているヤトの左手に持たせる、が、その光景はあまりにシュールだった。そのおかげで、ピリピリしていた3人は笑みを溢して声を出して笑った。

 シャドーは、ヤトのその姿を後で本人に見せようと、その身に無理やり取り付けたCUI(キャラクターユーザインターフェース)を操作して画像を取る。

 きっとそれを見たヤトが眉を顰めるのは間違いないだろうと、シャドーは1人確信していた。
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