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第二部
66.29 帰還を急く者
しおりを挟む29 帰還を急く者
カイトを残し、俺は独りで、マリシャはファミリアのメンバーとそれぞれビージェイを探す。
なんとなくだが、ビージェイは圏内にいるのではないかという勘から、できるだけ人気のない、がスペースが確保できる場所を俺は捜索していた。
始まりし街は現状2分化されていて、南の転移ポート近くはオーダーが占拠。
北側商業地区、簡易ホーム部分、非戦闘員の区域である低価格ホームがファミリアやその他多数のギルドが集まっている場所になる。
俺は、商業地区のさらに上を見ていてあることに気が付く。
「……チュートリアルルーム――」
テスト時には転移ポートの近くにあったが、オープン後は北側の街と通常の戦闘エリアとの間に移り、オープン後すぐには閉鎖されていたが、後々どうやらアクティブになっていて、今現在は普通に入れるようだった。
得られるものもないため誰も近寄らない、誰も近寄らないからブラックプレイヤーなどの隠れ家としては最適なのかもしれない。
「盲点だった」
街中を駆けてチュートリアルルームへと向かう。
チュートリアルルームは、アスレチックコースのようになっていて、上に向かって広くなっている。
かといって、視界上にあるミニマップにも入りきらない広さは確保されていることから、直径でも1㎞四方はあることになる。
入り口のポートから現れると、すぐにそれが視界に入った。
人影――それがビージェイであることは、装備から察することができた。
が、ビージェイは何かのアイテムで拘束されていて、身を隠して様子を窺うことにした。
「どうしてお前らがこんなことしてんだよ、俺の仲間はどこだ!無事なのか?」
ビージェイの言葉に3人の男のうち一人が話す。
「もう限界なんだ……こんな世界間違ってる。俺はただ毎日働いて2歳になる子どもがいて嫁さんがいて、ちょっとした息抜きで仮想世界って奴を味わいたかっただけなんだ」
ビージェイを拘束するアイテムは、ユニークアイテムに違いない。
「その気持ちは分かる、だけど、こんなことをしても!」
「ビージェイさん……あんたには世話になったが、俺は現実に帰りたいんだ!毎朝モモをだるくして電車に揺られて、会社で上司にいびられて、疲れて帰って嫁さんの愚痴聞いて、娘の寝顔見るんだ……」
ビージェイ以外に立っているのは3人。その奥にさらに3人、だが、奥の3人はビージェイとは違うアイテムで拘束されている様子で、見た目からファミリアのメンバーでもない。
「だからって、こんなことするのかよ」
「ビージェイさんが10ポイント、あっちの女の子たちが合計4ポイント、捕らえているファミリアのメンバーが12ポイント、あとはその辺のギルドマスターとメンバーで4ポイント。……コレで合計30ポイントだ」
クエスト目的のPK、それが彼らの目的なのは理解した。
「他の奴はまだ無事なんだな!」
「ああ、今はな、でもあんたをPKしたらすぐに後を追うことになる」
「お前ら!!」
最初に話していた男とは違う別の奴がビージェイにそう言う。
おそらくあの3人は、普段はビージェイと仲のいいソロプレイヤーか何かだったのだろう。
奥の女の子たち3人が人質にされて、ファミリアの見回り組と他ギルドのメンバーが捕まってしまったわけだ。そして、その捕まった仲間を助けるためにビージェイも抵抗しない。
そう推測した俺は、壁を蹴って上へ上へと上る。
すると、上の層にアイテムで拘束された人影を数名見つける。
近づくと俺は静かに声をかけた。
「おい、あんたファミリアのサブマスターの〝オツイチ〟だな?」
「そういうあんたは、ヤト……頼む助けてくれ」
「ジッとしていろ……すぐに解く――」
彼の拘束を解くと、他の者も解くように言い。
拘束しているアイテム自体は耐久さえ減らせば簡単に外せた。
そうして、ビージェイの前にいる男たちの様子を上から見下ろす。
装備の見た目からも、3人のレベルがあまり高くないことはすぐに理解できる。
このまま拘束するか――と俺は考えていた。
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