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第二部
84.
しおりを挟む「死んでしまえよ!!小日本が!!」
振りぬかれた剣がゆっくりと目の前を下がってゆく。
どうとでも避けられる、が、取りあえず剣で弾いてみる。
「ぐぅ!!」
さすがは俺と同ステータス、吹き飛ぶということはない。
会ったことのない目の前のプレイヤーは、俺のHPバーが無くなると俺が死ぬことを理解しているのだろうか、理解してここに立っているとすると、彼は〝悪〟となるのだろうか。
「お前は悪か?」
「……あ?何を言っている?死ね小日本!」
「お前は日本人だから俺を殺そうとしているのか?」
「だったら!なんだ!」
「なら日本人の何が悪なんだ?」
「うるさい!小日本!!」
言葉が通じても理解し合える訳じゃない、理解できたとしても納得し合えるとは限らない。
そして、こいつは〝悪〟なんかじゃない、ただの……ただの子どもだ。
払われた剣をかわし、切り上げからの振り下ろし。もう一度剣を振り上げたところに突きを当てれば、赤いエフェクトと黒系統のエフェクトが飛散し消失する。
「悪とはなんだ――」
俺の正義は――今もそこにあるのか?
視界が歪み、もといた場所に転送され、目を開ける前に横から衝撃がくる。
「ヤト!お帰り!体、大丈夫?」
目を開けると左にカイトが立っていた。
いつの間にか拠点となったこのホームも、どこに何があるかぐらいは把握できるほど時間を重ねた。
「ただいまカイト」
マリシアスゲームの期間がどれぐらいになるか今は分かっていない。しかし、今の俺には自身の正義と悪というものの正体を見定めるにはいい機会になりそうだ。
「どうやら全員無事勝っているようだな」
ウィンドウに表示されたリスト表に目を向けると、10人の名前が書かれている。
以前と変わらないことから、誰も負けていないことが見てとれる。
始まりし街の雰囲気は、このクエスト開始後よくなった。帰還への希望が濃厚となって、いつ終えるとも分からない恐怖の執着地点が見えたことがそうさせるのだろう。
しかし同時に、テスターたちは戸惑っている者も少なくない。
非戦闘員たちは〝帰れる〟と信じて疑わないが、今まで戦ってきた者たちだって帰還することが望みであることは間違いないのだ。だが条件次第で、頑張って攻略するためにレベルを上げた者が帰れない可能性が高くなる。
ヘイザーなどは、テスターたちの帰還を謳ってトップを狙っている。
アスランも、自身のギルドのメンバーの帰還を優先している。
ケージェイがどういう考えかは分からないが、クラウ曰く、オーダーは〝邪魔な人材の帰還を優先する〟という、よく分からないことを言っているらしい。
だから、他の奴にトップは譲れない、が、かといって彼らの意見を無視してもいいものかが悩みどころだ。俺の考えを察しているのか、カイトは心配しているようだった。
「ね、ヤトは誰を帰すつもりでいるの?」
「……子ども、女性、レベルの低い非テスターの順かな」
俺の答えにカイトは小さい声で言う。
「子どもには入らなくても、女性とレベルの低い非テスターには、ボクはどうしても入っちゃうんだよね……」
グッとカイトの握る手に力が入る。
「ヤトやビージェイ、マリシャやナナたちを残して帰りたくはないな……」
「そうは言ってもジョーカーが言っていただろ、選択できるのは曖昧なワードだけだ、それに俺はカイトだけでも先にリアルに戻ってほしいと思っている」
俺の言葉にカイトの表情が少し強張る。
「それはボクが弱いから?」
「……いいや、違う、本当ならカイトもビージェイもマリシャもナナも、それにファミリアのメンバーも、優先して返したい……けどそうもいかない」
「あの囚われていた期間の遅れがなかったら、ボクもそれなりのレベルで、ゲームの攻略に加われたんだけどね……」
確かにカイトのゲームセンスは中々のもので、肩を落として机に額を当てた彼女は、「くやしいな~」と言う。上げたその表情には笑顔を浮かべているが、目には涙が滲んでいた。
カイトはこのBCOで辛い経験をした。
だからだろうか、俺は彼女に常々BCOの中で何か良い記憶を持ってほしかった。
「……カイト、これから少し出かけようか――」
「出かける?どこへ?」
首を傾げるカイトを連れて、始まりし街の外へと出る。
向かう先は第2エリアの天岩戸と称される場所だ。
「ここはボスモンスターが護っていたボックス部屋……財物庫」
「こんなところへ連れてきて一体何をするんだい?」
少しだけワクワクしているのか、カイトの声が楽しそうだ。
「今日はカイトに気持ちよくなってもらおうと思っている」
その言葉にカイトは、「ヤ、ヤト!一体ボクに何するつもりなのさ!」と赤面して慌てている。俺は、普段なら絶対にそんな考えには至らないが、その慌て方が可愛く見えて何故かイタズラしたくなってしう。
「俺はカイトが、俺に何をされると思っているのかを聞きたいところだ」
「な―――――」
耳まで真っ赤に染めたカイトが、「ヤトの意地悪――」と言ったところであの男がやってくる。
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