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第二部
96.
しおりを挟む薄手のシャツを腕捲りして、ヤトは食器棚の前で立ち止まっている。
「ヤト、淵が青いお皿取って――」
「……」
「ヤト?」
「ん?この大きいのでいいか?」
「ん?違うよ~それじゃ鯛の尾頭付きの刺身が載せられちゃうよ~」
「ああ、こっちのか」
「ありがとー」
カイトは手際よく料理用アイテムを使って、調理したおかずを盛る。
「はーい!なんだか分からないお魚の煮付け完成!よくわからない副菜と汁物も入れれば全部完成だよ」
エプロン姿の彼女は、それを外そうと腕を後ろに持っていく。
「……カイトは――いいお嫁さんになるな」
突然ヤトがそう呟くと、カイトは顔を真っ赤にして両手を振る。
「なななな何をい、言っているのかな!いいお嫁さんなんて柄じゃないよ~」
「いいや、向いているよ……普通に家庭を持って、いい旦那さんや沢山の子どもに恵まれて、幸せな家庭を築ける」
「ヤト?どうしたの?……何か変だよ――」
「いや、折角作ったご飯をロストしたら勿体ない、早く食べよう」
「う、うん……」
様子のおかしいヤトにカイトは心配を懐いて、食事中も普通に会話してカイトの作った夕飯を全て平らげたヤトだが、食器を片付けると彼はカイトに、「話がある」と言って寝室に呼び出した。
「寝室で話って……緊張するな~」
カイトは独り言でそう言うと、意を決して部屋に入った。部屋に入るとヤトが目を閉じて正座で床に座っていた。
咳払いしたカイトはヤトの目の前に正座する。
「……」
「……」
「……ヤト?」
「……」
しばらく沈黙していたヤトは、目を開いてカイトに話し出す。
カイトは密かにソワソワして話を聞く準備をした。
「これはカイトだけに話すことだ……」
「……この前の話?」
「いや、この前の話はアレで終わりだ、今日話すのはマリシアスゲームの報酬に関してだ」
「それって、帰還させる人のこと?」
頷いたヤトは言う。
「帰還する人を子ども、非戦闘員、女性プレイヤー、非テスター、テスターの順に〝30分間の選択時間を与えて自分で選べる〟ようにしたいんだ」
「……この世界に残るのか、帰るのかを個人に任せるってこと?でも、それって帰りたがらない人も出てくるよきっと」
「俺は残るつもりだ、ビージェイも多分残るだろうな、マリシャやナナだってその選択をする可能性が高い」
「じゃ、ボクも残るよ――」
ヤトはカイトの言葉に首を横に振る。
「約束しただろ?カイトは帰るって……」
「……ずるいよ……あんな約束させて、皆は残るなんて――」
目を潤ませるカイトがヤトとした約束が何かは分からない。
しかし、彼女がその約束を守ることをヤトは知っていた。
知っていたからこそ、ヤトは膝を突いたままカイトを正面から強く抱きしめて言う。
「きっと、皆が帰ることができる、カイトは先に帰って待っていて欲しいんだ……俺やビージェイやマリシャやナナ、他のプレイヤーが帰るのを――」
カイトはヤトの体を強く抱きしめて、胸に顔を埋める。
「ずるいよ――ヤトはボクが断れないって知ってたからあんな約束させたんだ……、ずるい、ずるいよ――」
とうとう泣き出したカイトにヤトは、「すまない」と一度だけ囁いて頭を撫でた。
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