Blade Chain Online―ブレイド・チェーン・オンライン―

tobu_neko_kawaii

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第三部

138.65 END

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 唐突な脱力感に襲われ、左手に触れられる温かさを思わずギュッと握り返した。耳に入る音がまるでこの世のものとは思えない、そう思ってしまうほど心地の良いもので、俺はしばらく目を閉じたままだった。

 俺の覚醒とともに、それを察した誰かがほぼ無音の高価な据え置きのHMCを頭から外す。

 現れた髪の毛は紫外線による殺菌で長い事を除けば清潔であり、体も毎日拭いてもらっていただろうと察することができる。

 つまり、この手は彼女のものだと推測する……が、2割の可能性がカイトであるかもしれないと思わせる。

 現れた頭の髪を分け、額を撫でて目元へ指を滑らせる、そんなことを棗さんはしない。

「やぁヤト、おはよう、ボクの顔が見えるかい?」
「……カ――」

「焦らない焦らない、体と脳とがリンクするまではいつものようにはいかないよ」
「……関係ない……俺は、慣れているからな――」

「らしいね、最長記録更新なんでしょ?すごいね、……あぁヤト……、お帰りなさい」

 視界がはっきりして、ようやくカイトが泣いているのに気が付く。

 現実のカイトは黒髪ツインテールだと聞いていたから、想像はしていたが、それを簡単に超えていてついつい見惚れてしまう。カワイイのは当然だが、綺麗でもあり、棗さんにはない幼さもある感じだ。ただ、身長の割に棗さんよりも胸が大きい、メイド服の所為でさらに大きく感じる。

 どうしてメイド服なんて着ているんだカイトは、そんな疑問も一瞬で今はあまりの眩しさにゆっくりもう一度目を瞑る。

「おはよう――いや、ただいま、カイト」


 その日、4000人の帰還でウェブサイトの記事媒体、映像媒体はそのニュースが更新され、テレビラジオでもそれらの事が伝えられた。

 その中で、世界で約数十人程度が今も帰還していないことも伝えられ、世界各所でフルダイブVRの規制の声を上げる集団もまた現れ始めた。

 しかし、どれだけ卑劣な事件が起ころうとも、フルダイブVR自体に罪はないという考えと、まさか自分が事件に巻き込まれるわけがないという感情が、賛否をはっきりとさせていた。

 帰還者のコメントはネガティブなものが多かったが、それでも一つの噂が流れることで日本国内ではそちらへと話が流れていった。

 それは、エージェントの活躍である。最初の約4000名の帰還や、のちの約4000名の帰還がそのエージェントの功績が大きいことが噂で広がると、自然と小野さんの属する関連への問い合わせも増えた。

 そのエージェントの名称は、世間では所属と同じ対策二課で浸透し、活躍したプレイヤーネームは伏せられてはいたが、年齢が十代であることや圧倒的なフルダイブVRスキルの持ち主である、という噂が密に広がる。

 そうして、またフルダイブVRの一つの大きな事件としてBCOは広くその名を刻むことになった。ただ、他の事件との大きな違い、誰が何を目的としてそれらを行ったのかは、今も分からないままである。

 そして、ゲームはクリアされることなく、数名の囚われた者を残したまま、静かにネット上からそのタイトルは消えてしまうのだった。


「あの話は本当なのか?」

 対策二課の小野がHMCを被りフルダイブでそう言う相手、それは金髪で緑色瞳と不釣り合いなジャージ姿をしている。

 小野の言葉に無反応な彼女は仮想世界でマンガを読み、スナック菓子を食べている。

「茶会の者がうちのエージェントと接触してきたぞ、聞いているのか」

 小野がそう言うと、ようやくその視線を彼に向けて言う。

「じゃ、そういうことじゃないの?でも勘違いしないでよね、私と同じような者とは限らないんだから」

 そう言った彼女は、手の指に再現されたスナック菓子の粒を口で舐めとり、小野に鋭い視線を送る。

「エージェントってあの子でしょ?早く会わせてほしいんだけど」

 小野は彼女の言葉に口を閉ざして、しばらく経ってから言う。

「それはできない頼みだ、彼を巻き込むな」

 それを聞いた彼女は、再びマンガに眼を向けると溜息を吐いた。

「おじさん相手ばかりだと、こっちまで老けちゃいそうね」

 その言葉を聞いて溜息を吐いた小野は、その場からログアウトするとHMCを机に放り投げた。そして、彼はそのままARを起動させると、視界にキーボードを起動させて文章を作成し始める。

 茶会に関しAI側である彼女に尋ねたが、彼女と同じ考えの者とは限らないらしい。現状元茶会の一席である彼女が唯一の情報元ではあるが、協力的とは言い難い。

 アリシア、彼女の存在は対策二課の秘匿事項であり、彼女は自身をAIと言うが、それにしてはあまりにできすぎている。人の魂のコピー、そう言われても正直信じられないのが現状だ。

 過去、防衛相が何らかの関係が深かったことを彼女は話してはいるが、そう考えてしまうのは安易なのかもしれない。だが、茶会、アリシア、AI、魂のコピーから導かれるのは防衛相を除いてはほぼないものである。

 これが藪蛇でないことを願う、が、もし私が死んだとなると、そういうことなのだろうから、あなたはこの件から手を引くべきだろう。

 これが最後の報告にならないようにはしますが……。

 宛先にマッドサイエンティストと書かれた文章を保存した小野は、大きく溜息を吐いて夕日を見つめ呟いた。

「アリシア……茶会、アリス……AI――」

 小野はジッとその文字の並びを睨み付けた。


「平千晶さん」

 呼ばれて「はい」と返事をしたナナ、BCOから帰還して約ひと月ほどのリハビリを経て退院し、通っていた学校へ再び通っているナナ。

 BCOサバイバー向けに設けられた精神科に通うことで、以前の学校に通うことを決めた彼女は、精神科に最初のひと月は毎日通い、ふた月目からは週一で、その後はひと月に一回通う義務がある。

 私立中学校や私立小学校以外の小中学生は、都内なら各学校に週一で精神科医が訪問治療を実施する決まりになっている。

 過去の事件では二年という長期間が原因で、特設のサバイバー専用学校が設けられたが、今回の場合は進級試験のある学校は、それを受けることで元々の学校へと通うことになり、希望すれば通信制の学校へと移行することも可能だった。

「千晶、これからどうする?」

 それは、部活をどうするのか?という部活仲間の言葉だった。それに関してナナは一つ答えを出していて。

「部活は辞めようと思うんだ、だから、そっちはがんばって」

 ナナがそう決意した理由は、カイトの言葉が大きい。

「ボクさ、ヤトの役に立てたらいいなって考えたら、これから色々資格を取ろうかなって思ってるんだ、まだ言ってるだけで調べたりしかしてないんだけどさ」

 カイトのその言葉は、ナナ自身がしたいと思っていることで、きっかけとしてはあまりに不純だが、彼女なりに自身も何かをしようと決意したのだ。

「そう言えば聞いたかい?ビージェイ、ヤトに会うなりさ」

 その話は、ヤトたちが現実に帰ってから数週間後の事だ。

「すまねぇヤト!!」

 ビージェイがヤトに会い、最初にしたのが土下座だった。

 ヤトとしては、殴られるなり罵られるなりするのだろうと心構えしていたが、予想外なビージェイの行動に困惑は避けられず、その困惑を鎮めたのは、その流れでマリシャがヤトの頬を叩いたからだ。

 居合わせたカイトは、一瞬止めに入ろうと右足を前に出したが、次の瞬間にマリシャがヤトにしがみ付いたことで足を止めた。

「バカ!本当に!本当に怖かったんだから!!」

 マリシャの言葉にヤトは、「すまない」と彼女の頭を撫でていた。

 アスランやヘイザーと会うことはなかったが、もし会っていたならもう一波乱あっただろうと、後からヤトはナナに話した。

 そして、その日予想外の人物と会うことになったのは、その時一緒にいた小野の考えだった。

「久しぶりだなヤト」

 ヤトの目の前にいたのはマスク姿の筋肉質の男で、ヤトはすぐに「ケージェイか?」と返答した。彼は小野の元でBCO内のことを話し、その後も関わって償いをしていると語った。

 小野としては、帰還できなかった者の中でその死の真相を分かる範囲で家族への説明ができるとして、喜んで彼の事を受け入れていた。

「私は会ってきた、私が殺めた者の家族に……小野さんには会わない方がいいと言われたが、私はどうしても会っておくべきだと考えていた」

 それはケージェイが会ったのはクラウの妻、対面してすぐは彼の話を冷静に聞いていたが、死の話の確信に触れると、急に取り乱して頬を叩き叫んだ。

「出て行って、この人殺し、それが彼女の言葉だ。……私はね、その言葉を重く受け止める必要があると今では分かっているよ、……所詮、私の正義など、自己満足だったとはっきり理解できるきっかけになったからな」

 ケージェイとヤトが会っている様子を見ていたカイトはナナに呟く。

「あれ?あの人対策二課のエージェントのマスクだ……」
「マスクを着けてるからマスク?なんか変わってるよね対策二課って」

 まさか、そのマスクがケージェイであると分かるはずもなく、その一度を除けばケージェイとヤトが会うことはなく、結局ヘイザーやアスランとも会うことはなかった。

 その後、唯一BCO関連でヤトが会えたのはタカキヤミだった。

 連絡を取る手段は、事前に互いのボイスチャットの連絡先を交換しておいたからだ。

 チャットを付けたヤトは、最初のタカキヤミの一言で硬直した。

 声色が明らかにBCO内とは違っていて、マリシャの言葉を思い返した。マリシャの仲間の内、タケオと言うプレイヤーがいて、オネエキャラだと思っていたが、共同アカウントを使っていて、実際にはタケオの妻がダイブしていたのだ。

 見た目は男で口調は女だった理由がそれだった、という話をマリシャがカイトに話していたのをヤトはその瞬間思い返す。

「や、やっぱり困惑するよね、タカキはお兄ちゃんのキャラで私がヤミだったの、共同アカだったから時々アバターの設定を変えないで使ってて」

 このパターンに覚えがあるヤトは、脳裏にカイトを思い浮かべた。

「ようやくお前がシャドーに反応していた理由が理解できた」

 その後、ヤミの希望で会うことになったヤトは、いつものようにスーツを身に纏うと、小野曰く若いホストのような格好でヤミの指定した公園にタクシーで向かう。

 そして、その場でしばらく待つとそこに大型バイクを乗りこなす女性ライダーが公園前に止まり、中までそれを押して入ってきた。

 ライダースーツを着た女性は、ヤトの前までバイクを押して止まる。さすがに察したヤトが声をかけると、彼女は徐にヘルメットを脱いだ。

「ヤミか?」
「こんにちは、ヤト、会いたかったわ」

 二十代後半、グラビアモデルのような体系に凛々しさのある綺麗な女性だった。

 カイトの時ほどではないが、さすがのヤトも気まずそうに名乗った。

「ヤトだ……本当にヤミなのか?」
「あら、まだ私って分からない?男を完璧に演じてたから仕方ないかもだけど」

 二人はその後、二人乗りでラビットの墓へと向かう。

 事前に探しておいた墓には、佐藤の名が刻まれていて、墓に手を合わせて彼の話をして時間を潰した。

 墓参りを済ませて最寄りの駅までヤトを送ったヤミは、別れ際に彼の耳に口を近付ける。

「ラビットには悪いけど、私はヤトの方が好みだから、モテる男ってのはちょっと嫌だけど」

 強引に唇を奪われたヤトは、思考も体もラグってしまったように停止していた。

「バイバイ、またね、ヤト」
「……あぁまたな、ヤミ」

 そして、そんなことがあったとカイトに知られてしまうことになったのは、ヤトの視覚情報をシャドー(本体)が彼女に見せたからだ。

 その時のヤトの一言は、「勘弁してくれ」だった。

 さすがのヤトもカイトの無言の圧力には屈してしまったらしい。

 そして、ややこしいのはシャドーが日笠棗とのキスシーンも保存しているぞ、と言い始めたからで、本気でヤトはシャドーをどうしてやろうかと思いながらカイトを見ると、予想外に泣き出してしまい、ヤトはもちろんシャドーも困ってしまった。

「ヤァァトォのバァァカァァァ」

 その頃、ナナは久しぶりに首に着けた端末の保存領域をARで整理していると、その視覚に見覚えのあるタキシード姿のウサギが現れて口元を押さえた。

「久しぶりだなナナ、君のマスコットが帰ってきたぞ」

 涙を流しながら笑みを浮かべるナナは、「もう、バカ――」とARのシャドーに手を伸ばした。触れられないそのウサギも、その無いはずの口元が笑んでいるようで、ナナはただ一つの心残りをその瞬間埋めることができた。


 9月 某所

「ほらヤト!早く!」

 この日はビージェイ主催の帰還記念パーティーで、ヤトにはサプライズとして行われることになっていた。黒いジャケットに白いワイシャツはいつものパターンで、それが日笠棗の用意しているヤトの私服ではあるが、少し威圧的なファッションであるのはいつもで、パーティーとなると逆に合っていることにカイトは気が付いた。

 まさかそこまで棗さんが考えていることはないかな、などと考えながらとある店の前で足を止めた。

「ここがビージェイが言ってたバーだよ」

 そこは都会の裏路地で少し人気のない怪しげな店。

 外観はビルで鉄扉を開けると、店内は意外と洒落ていた。

「よ!ヤト坊!ようやく主役のお出ましか!」

 少し頬が赤いビージェイの出迎えにヤトは、「飲んでるのか?」と少し眉を顰める。

 ビージェイは、固いこと言うなよ~、と肩を組んできてヤトは少しだけ困った表情になる。

 その少しの変化にカイトは気が付いて、ヤトが困っている――と少し嬉しそうに微笑む。

「ところでさ、あの人は誰なんだろうな?」

 急に声を小さくしてビージェイが、バーの隅で赤いドレスを着た座ってワインを飲む女性を指してそう言う。ヤトはそれが誰か知っているため、「俺が呼んだ」と言うと、ビージェイは再び小さい声で、「誰?紹介して」と言い、誰だよ~紹介しろよ~が永遠と続いた。

 その女性はタカキヤミで、既にカイトやナナにはその素性を説明していたため、二人は動揺しなかったが、ヤトの姿に気が付いたヤミが近づいてヤトの頬にキスすると、「ちょ!」とナナが席から立ち上がり間に割って入る。その後ろでカイトも間に入ろうとしたが、少し不慣れなヒールで出遅れてしまい身長的に見切れてしまっていた。

「興奮しないで、ただの挨拶よ」

 そう言うヤミにナナは、BCO内の姿を照らし合わせて、「本当にあのタカキヤミなの?」と疑いを向ける。

 ナナは興奮して立ち上がってしまったが、自身がドレス姿なのを思い出してヤトの反応を窺う。それを察したヤトが「似合って――」と言ったところで、「ヤト~!」とマリシャが抱き付いて来てせっかくのヤトのセリフを、敵からの攻撃を防ぐインターセプターの様に止めた。

「ね!あの女何?あの女なんなの~」

 カイトがナナを慰めているため、ヤトが酔ったビージェイとマリシャに、ヤミを紹介しろ説明しろと言うのを止める者がいない環境で、彼は一言呟いた。

「だ、誰かこの集まりの主旨を説明してくれ……」

 ようやく落ち着いた頃、ファミリアのメンバーがヤトに挨拶をして、なんだかんだで約20人規模の集まりになっていた。それぞれ話をし、酒を飲み、ジュースを飲み、と楽しむ中、ヤミが唐突にヤトとカイトに話したのはヘイザーの話題だった。

「ヘイザーね、帰還した後レイネシアと入籍したらしいわ。ま、私がまだ男だと思っているらしくてね、友だちとして式に呼ばれたんだけど、ヤトも誘えってしつこいのよね。きっと殴りたいんだろうけどね」

 その話を聞いた女性陣はしみじみと「結婚か~」と言葉を漏らす中、ビージェイは急に泣き出し、「俺も結婚して~」と言い始めてしまう。その様子から周囲の女性陣が、「ビージェイは飲酒禁止」と言ってしまうのには、何となくヤトも賛成する。

「ヤト!飲んでる!」

 ヤトは、マリシャに絡まれてあることに気が付いた。ビージェイと違い酒の臭いがしないのだ。彼女が持っていたグラスの臭いを嗅ぐと、それはお茶の匂いがするため、ようやく察しが付いた。場酔い、彼女はビージェイの醸す雰囲気とお酒の臭いだけで酔っぱらっているのだ。

 内心、どれだけ弱いんだ――と少し心配になるほどだった。

「最後までヤトといたのは私なのよお二人さん」

 挑発的なヤミの言葉に、カイトとナナは不満気に対抗心をむき出す。

「私は帰還して最初にヤトに会ったもん!」
「わ、私は……ヤトと一緒に食事に行ったし」

 食事と言ったものの、ナナは一度ヤトと外で会い、シャドーのことを相談しただけだった。

 シャドーをどうするかを相談したナナに、ヤトは「好きにすればいい」とそれを所持することを認めた。

 マリシャに対するビージェイのように、ナナにシャドーが付いていれば、何となく立ち直れる気がしていた彼にとっては、むしろ父の知らぬままにしておくのが最善と考えた。

 カイトはナナにそのことを聞いていなかったため、袖を引っ張って「いつの間に~」と頬を膨らませた。

 そんなこともありつつ、パーティーは八時前には解散し、結局ヤトはタカキヤミとマリシャを見送り、ナナとカイトを見送って帰路についた。

 帰宅すると日笠棗が玄関先で出迎えて、神谷博――ヤトの父が珍しく声をかける。

「裕人、少しいいか?」

「あぁ」

 日笠棗はジャケットを受け取るとその場を去り、ヤトは父の私室へと入る。

「頼まれていた例の件、ようやく機能したぞ」

 真面目な父の言葉に、「それで?」と返したヤトは話の内容に察しは付いている様子だった。

「鍵は機能している、扉は開かれた、小野くんの許可も得ている」

 父から手渡されるマイクロチップ、それはHMCに接続することで機能する記憶媒体だ。

 ヤトはそれを受け取ると、「助かる」と言う。

 そんなヤトに神谷博は神妙な表情で伝えるのは、意外な言葉だった。

「扉の先は広大な仮想空間の海だ」

 その言葉にはもちろん目を見開いて反応するヤト。

「それも普通に日常的にそこにある仮想世界ではなく、ある意味閉ざされた、もしくは完全に孤立化されている大規模な仮想世界」

 ヤトは、ナタリアに鍵を渡してもらい分かったのがその事実。

「鍵が繋がった場所はどこか分からない、一方通行かもしれないというわけだ。帰れないという意味でなし、一度行った場所に同じように行くのは憶が一の確率になると考えてくれ」

 神谷博はヤトの肩に手を置き、「本当に行くつもりか?」と言う。

 ヤトが迷い無く頷くと、神谷博は肩から手を下した。

「凛ちゃんと千晶ちゃんには私が伝えるが、そうしなくてもいいように早めに――」

 少し間を置いた神谷博は、「早めに帰ってこい」と言う。ヤトはその父の表情から胸中を汲み取って、いつになく真剣な眼差しで言う。

「分かってるよ……父さん」

 そうして自身の部屋に戻ったヤトは、ワイシャツを日笠棗に手渡しHMCを装着するべく体を仰向けに寝かせる。日笠棗が、「いってらっしゃいませ裕人様――」と言うと、ヤトは頷き、HMCで頭を覆うと右手で二回タップして言う。

「シャドー鍵を――」

『オーケージャスティス、起動まで4、3、2、1――』

 カウント終了と同時に、ヤトの意識は仮想世界へとダイブした。

                                 END
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