大国に売られた聖女

紫宛

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第18話

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目が覚めるとベッドの上で、丁度侍女の方がカーテンを開けたところでした。

「あら、もうお目覚めですか?メシア様。モーニングティは何になさいますか?」
「本日のオススメは、アールグレイ、アッサム、アップル…どれになさいますか?それとも、ミルクを加えてミルクティーになさいますか?」

他の侍女の方が、カートを引いてベッド脇に来ました。カートの上には、紅茶のセットだけじゃなく、スコーンやクロワッサン等も置いてあった。

「陛下から、本日はお部屋でゆっくりとお過ごしになるようにと。昨日の疲れもあるだろうからと伺っております」

理由は分からないけれど、今日は食堂じゃなくて部屋で食べるみたいですね。ゆっくりと食事をして、顔を洗って、着替えて……部屋でのんびりと日向ぼっこして……







「何もする事がない……」

どうしましょうか……、ゆっくりって、やっぱり何もする事ないんですよね。今回は、街に出ることも禁止されてしまいましたし……

思い出すのは、ナファール様の執務室での出来事。


✾✾✾✾✾

食事を食べ終えて、ゆっくり過ごしてから、やっぱり暇すぎて……街に行く許可を貰いにナファール様の執務室に向かった。もちろん私の隣には、ロクさんが一緒です。

執務室の前には兵士さんが2人立っていて、ナファール様に会いたいと言ったら直ぐに取り次いでくれました。

「メシア、ゆっくり休めたか?」
「はい」
「それで、どうした?」
「街に出る許可……「ダメだ!」え?」

許可が欲しいと言う前に、ナファール様は声を荒らげて、凄く怖い顔で「ダメ」と言いました。その上、いつもは感じない圧力も感じます。いつも、私には優しく威圧も和らげて接して下さるのに……

「ど、うして…」

咄嗟に声が出なくて、掠れた感じになってしまいました。ナファール様が怖い訳じゃないけど……でも、そんな私の態度に、悲しげな表情を浮かべるナファール様。

「あ、っ……すまない。だが、暫くは街に出るのは控えてくれないか?」
「えっと、何故ですか?」
「…………」
「もしかして、病でも流行ってますか?それなら、私が治しますけど……?」

ナファール様は何も仰いませんでした。ダメな理由も、何時から街に出られるのかも。何も……

「すまない。今は、我慢してくれ…」

✾✾✾✾✾

何か……あったのでしょうか?
街に危険な人が居るとか……?

でないと……この状況の説明も出来ませんよね。
チラッと横目で、扉の前に陣取る人影を見る。言わずもがな……ゾファロ様です。
そしてもう1人……チラッと横目で、今度は扉と反対の窓に目を向ける。そこには、ゾファロ様の弟さんのザファジ様が物凄く良い笑顔で立っていました。

「ずっと、兄さんかナジュルミばかりが護衛で羨ましかったんだ!」

でも今回は、ナジュルミは任務で出てるから俺が代わりに護衛に来たんだよと、ザファジ様は言いました。

ナジュルミ様が……任務?
確か、ナジュルミ様の仕事は諜報って聞いた気がします。それも男性相手担当だと……やっぱり、何かあったんだ…

私が魔獣討伐に行く前は普通だったから、帰ってくるまでの数時間の間に何かあったってこと……

……何があったんでしょうか……
私を街に出さないって事は、私に関係ある事だと思うんです。

……まさか
……いいえ、そんな筈ない……
だって……私は無能で役立たずだって、毎日言ってきた人達だもの。今更、連れ戻すなんて事するはずない。

それに私は、私を必要としてくれる人達のそばに居たい。王様や王妃様、将軍様達のそばに……

……この国の人は、王様も貴族も教会の人も民達も私を無能と言わない。
それどころか、怪我や病気を治すと感謝してくれる。薬を作って提供すれば、お礼だって採れたての野菜や魚、パンやお菓子を沢山持たせてくれる。

優しい人達……私は、この人達を守りたい。

「私は、この国に居たい。この先も、ずっと……」
「ん?居ればいいよ!メシア様が望む限り、ずっとね♪俺達が、必ず守ってあげる」
「俺も居るッス!……何か心配事ッスか?大丈夫ッスよ!ここには、化け物並の将軍様も居るッスからね」
「私も、私の力で皆さんを守ります」
「「「?!」」」

私が決意を胸に言葉に出せば、ロクさんとザファジさんが言葉をなくしたみたいに、口を開けたり閉じたりを繰り返していた。ゾファロ様までもが、口を開いたまま固まっている。

どうしたのでしょうか?

「か」
「か?」
「可愛い!」「可愛いっス!」
「え?」

可愛い?誰がでしょうか…ってもしかしなくても、私でしょうか?!流石にゾファロ様に言わないでしょうし、ロクさんも…可愛いと言えなくもないかも知れませんが……多分、違うと思いますし。
なんと言っても、ザファジ様は女性好きなので男性に対して「可愛い」という発言は無いと思います。

……いえ、やっぱり自意識過剰でしょうか……そんな気もしてきました。
私が可愛いなんてある訳ないですものね…

「なに、このちょー可愛い生き物!!」
「きゃっ」

プルプルと震え出したと思ったら、いきなり叫んで私を抱きしめるザファジ様。私を抱き上げて、頬と頬をくっつけてスリスリとしてくる。ザファジ様の髪が頬にあたり擽ったい。

「擽ったい、です……ザファジ様」
「だって、メシアってば、超可愛い顔で笑うんだもん!おれ、ときめいちゃったよ」
「え?笑う?私が……?」

本当に?
私が笑ったのでしょうか?

ロクさん、ゾファロ様と視線を交わせば、2人とも頷いて……ロクさんは、親指も立てて、「可愛かったッス!」と言いました。

可愛い。

初めて言われた言葉です。
何だか、顔が熱いです…
……嬉しい、という感情でしょうか。心がポカポカと温かくて、泣きたくて、でも悲しい訳じゃなくて……上手く言えないけれど、何だか心が騒がしいです。けれど、嫌な感じじゃありません。
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