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婚約破棄(国王夫妻)
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「では、我らも行くとするかね?」
「ええ、あなた…でないと、ルーナちゃんが1人で可哀想ですもの」
妻の肩に手を置き抱き寄せながら歩き出す。
ルーナ嬢は、ソレイユの婚約者だ。今日はソレイユが外に出ており、ルーナ嬢は1人で会場入りしたはずだ。
もう1人の息…いや、娘シエルは、ルーナ嬢が心配だからと、さっさと会場に向かっていたな。
今回は、息子の婚儀の日取りが決まった祝いのパーティだ。各地の名産品を持ち寄り、皆に楽しんで欲しく無礼講という事にした。
私は貴族然とした雰囲気のパーティも悪くは無いが、こういった和気あいあいとした雰囲気の方が好きだ。
なので、私たち王族も、大々的に入場するのではなく、普通に入ることにした。
中々に良い感じだな、と思いながら妻と楽しみながらルーナ嬢を探していると……
少し離れた所で大きな声が響いた。
「あなた、あそこにいるの、ルーナちゃんじゃなくて?」
「うむ、……前にいる女性は確か…」
「アイナと言ったわ、トラント伯爵家の妖精姫よ」
あれか……
【妖精姫】
トラント伯爵家の前妻の忘れ形見。伯爵に喋よ花よと育てられ、善悪の判断が出来ない幼子。言動に難あり。
と言われている。
騒動の中心に向かう途中、宰相を捕まえる。
「---念の為だ…頼んだぞ」
「あなた、シエルが来ましたわ」
宰相には、トラント伯爵を捕まえておくことと、給仕係への指示を頼んでおいた。
「ほぅ、シエルか。やるな」
「さすが、私の娘ですわ!やはり……あの計画も進めなければなりませんね」
「そうだなぁ、いい加減、シエルに無茶をさせ続けたからなぁ」
シエルがルーナ嬢の前に立ち、両手を広げ「何を馬鹿なことを……」と言っているを陰ながらコソッと聞く。
そうそう、周りの貴族達が、我らに気付かないのは、変装しておるからだな!
王族の姿で参加をすれば、彼らは楽しめんだろうからな!
発表までは、姿を隠すつもりだった!
……が、この騒ぎじゃ無理かも知れんな。
「あら?あなた、来ましたわよ?」
「ん?」
「ソレイユだわ!あの子、ルーナの前じゃ本性を表してこなかったけど…どうするのかしらね?」
妻は、目元を細め、扇で口元を隠しソレイユを射抜く程に見つめている。
……うむ
これは、かなり怒っておるな。
ソレイユの態度に1番怒っていたのは、妻だったかなぁ。
「全くあの子ったら!ルーナちゃんに愛想を尽かされたら、廃嫡にするからね!」
ミシミシと音がなりそうな程に扇を握りしめ、射殺さんばかりに睨みつける。
こうなった妻を止めることは誰にも出来ん。
無論、我にもの……
して、向こうはどうなったかな?
「いい加減にしてくれないか!君を好きになることは無いし、ルーナと婚約破棄する気もない!俺はルーナを愛してるのでな!」
珍しい!言い切ったな……
-やるじゃないっ……それでこそ、我が息子!-
息子は、ルーナ嬢の髪をかきあげ、額にキスをする。赤くなったルーナ嬢が「私もです、ソレイユ様」と言っているのが、辛うじて聞こえた。
アイナ嬢が何やら騒ぎ始めたので、流石に出ぬ訳にも行くまいな。
妻に手を差し出せば、意を理解した妻が私の腕に手を添えてくれる。
変装を解き(カツラを取るだけ)、前に進みでる。その時には、ソレイユが衛兵を呼びアイナを連れ出された後だった。
他意はないぞ?偶然だ。
「ん?どうした?何かあったのか?」
「あらまぁ、何かありましたの?」
シエルが遅いと怒り、ソレイユは……疑いの眼差しを向けてきた。
あっはっは
やはりバレておるか!
まぁ、許せ!お前たちの成長を少し見ていただけだ!
「問題はありましたが、解決致しました」
「そうか、なら良かった!」
ソレイユは、何かしら思う所があるであろうが何も言わなかった。
うんうん、大人になりおったな。
「では、仕切り直しだ!」
「そうね!さぁ皆さん、グラスをお持ちになって!」
私の意図を理解した妻が、グラスを手に取った。給仕係も、宰相が話を通していてくれたお陰で動きがスムーズだな。
「皆に報告がある。ソレイユ、ルーナ、こちらへ」
「「はい」」
2人が我と妻の間に立つ。
「ソレイユとルーナ嬢が婚約して早10年、ルーナ嬢の王妃教育も完了したと王妃が断言した!」
隣を伺うと、ソレイユが驚いた顔をして妻を見やった。すると妻は、ルーナ嬢の後ろで親指を立てて笑っていた。
「そのため、2人の婚儀を来年の春と定め皆に報告とする!今夜は無礼講である!存分に楽しむと良い!」
再び隣を見ると、嬉しそうに破顔しルーナ嬢と見つめ合っていた。
会場からは、ルーナ嬢とソレイユを惜しむ声が響いていた。
パーティは、遅くまで続き翌日……
「陛下、お連れしました」
「通せ」
昨日騒ぎを起こした張本人……アイナ・トレント伯爵令嬢が両脇を衛兵に押えられ入ってきた。
その目には息子とシエルのみを映し、現実から逸らされていた。
この場には、他に宰相とトレント伯爵がいる。私たちの存在に、気付いているのかいないのか……
「アイナ・トラントよ。此度の騒動に対する処罰を申し伝える」
我の言葉に漸くこちらに顔を向けたアイナ嬢だが、その目に光はなく暗く澱んでいた。
「トラント伯爵よ」
「はっ…アイナょ……」
トラント伯爵の目には涙が溢れ、言葉も震えていた。だが、王族の婚約者に対する事実無根な発言や暴言を看過することは出来ぬ。
処罰は免れん!
「私は、お前を可愛がり過ぎたようだ……まさか、この様な事態を引き起こすとは…」
「なに、を言ってますの?」
「アイナは、我がトラント家より勘当とし、修道院に入りなさい」
本来ならば、修道院では済まなかった。国外追放も視野に入れていた……
だが!ルーナ嬢がアイナ嬢を許した。
「なぜ?ソレイユさまのおよめさんは?」
この期に及んで、また訳の分からぬことを喋りだしたアイナ。
「なぜ貴様を、俺の妻に迎えねばならん。俺が愛しているのは、婚約者のルーナだと何度も言っているだろう!」
「君は王太子の婚約者に、言われのない罪を着せ暴言を吐いた。犯した罪の重さを知れ!」
するとアイナは俯き、カタカタと震え出した。やっと、罪の重さに気が付いたのかと思ったが……違った。
彼女が急に叫び出したからだ。
「ああぁぁぁ!ああぁ、ぁぁぁぁ!」
「「「!!」」」
っ!
どうしたというのだ!急に叫び出し、髪を振り乱し錯乱するアイナ。
すると、それまで黙っていたシエルが動いた。片手を上げ衛兵に命じた。
「連れて行け」
低く底冷えするような声に、我もソレイユも驚き顔を見合せた。流石の宰相も驚いて言葉を失っていたようだ。
アイナも、一瞬叫びを止めた。
その隙に、衛兵が彼女の腕を取り、立ち上がらせる。そして、シエルの横を通り過ぎようとした時……シエルは、今まで見たことも無い表情で、アイナを睨みつけた。
「……俺の姉上を傷付けた事は、絶対許さないから」
シエルの顔を見たアイナは、絶望したのか、また叫びだした。ソレイユに助けを求めながら。
「たすけてぇ!助けてよ、ソレイユさまぁ!夢の中じゃ、あんなに愛を囁いてくれたじゃないですかぁ!あれは、嘘だったのぉ!?」
「「「「夢?」」」」
ゆめ?まさか……夢の中の出来事が、現実にも起きると思ったのか?
伯爵を見ると、目を逸らされた。
正してこなんだな……子の教育も出来ぬとは……
「トラント伯爵よ、アドラス侯爵家に慰謝料を払うように!」
「はっ……はい」
ふー、これで終わったな……
妻に逢いに行くか……疲れたし、癒しが欲しい。
それから数ヶ月後、ソレイユとルーナは結婚し、無事初夜も迎えた。
……孫の顔が見れるのも早いかも知れん。
妻と2人で待ち望んでいたのだが、中々、懐妊の話が来ぬ!
妻はルーナ嬢にそれとなく話をしているそうだが……公務が忙しく、時間が取れぬと言っておったらしい。
我もソレイユに話をしたが、まだまだ忙しく自分もルーナ嬢と話せぬとイライラしておったわ。
仕方ないから、暫く我と妻で公務をするから、2人はのんびりと旅行にでも行ってこい!と送り出した。
旅行から数ヶ月後……孫が誕生したと、ソレイユが息子と娘を抱いて報告に来たのだった。
~完~
出てこなかったので……ここで報告します。
国王陛下の名前は、エルピス(希望)です。
王妃陛下の名前は、リーベ(愛)です。
「ええ、あなた…でないと、ルーナちゃんが1人で可哀想ですもの」
妻の肩に手を置き抱き寄せながら歩き出す。
ルーナ嬢は、ソレイユの婚約者だ。今日はソレイユが外に出ており、ルーナ嬢は1人で会場入りしたはずだ。
もう1人の息…いや、娘シエルは、ルーナ嬢が心配だからと、さっさと会場に向かっていたな。
今回は、息子の婚儀の日取りが決まった祝いのパーティだ。各地の名産品を持ち寄り、皆に楽しんで欲しく無礼講という事にした。
私は貴族然とした雰囲気のパーティも悪くは無いが、こういった和気あいあいとした雰囲気の方が好きだ。
なので、私たち王族も、大々的に入場するのではなく、普通に入ることにした。
中々に良い感じだな、と思いながら妻と楽しみながらルーナ嬢を探していると……
少し離れた所で大きな声が響いた。
「あなた、あそこにいるの、ルーナちゃんじゃなくて?」
「うむ、……前にいる女性は確か…」
「アイナと言ったわ、トラント伯爵家の妖精姫よ」
あれか……
【妖精姫】
トラント伯爵家の前妻の忘れ形見。伯爵に喋よ花よと育てられ、善悪の判断が出来ない幼子。言動に難あり。
と言われている。
騒動の中心に向かう途中、宰相を捕まえる。
「---念の為だ…頼んだぞ」
「あなた、シエルが来ましたわ」
宰相には、トラント伯爵を捕まえておくことと、給仕係への指示を頼んでおいた。
「ほぅ、シエルか。やるな」
「さすが、私の娘ですわ!やはり……あの計画も進めなければなりませんね」
「そうだなぁ、いい加減、シエルに無茶をさせ続けたからなぁ」
シエルがルーナ嬢の前に立ち、両手を広げ「何を馬鹿なことを……」と言っているを陰ながらコソッと聞く。
そうそう、周りの貴族達が、我らに気付かないのは、変装しておるからだな!
王族の姿で参加をすれば、彼らは楽しめんだろうからな!
発表までは、姿を隠すつもりだった!
……が、この騒ぎじゃ無理かも知れんな。
「あら?あなた、来ましたわよ?」
「ん?」
「ソレイユだわ!あの子、ルーナの前じゃ本性を表してこなかったけど…どうするのかしらね?」
妻は、目元を細め、扇で口元を隠しソレイユを射抜く程に見つめている。
……うむ
これは、かなり怒っておるな。
ソレイユの態度に1番怒っていたのは、妻だったかなぁ。
「全くあの子ったら!ルーナちゃんに愛想を尽かされたら、廃嫡にするからね!」
ミシミシと音がなりそうな程に扇を握りしめ、射殺さんばかりに睨みつける。
こうなった妻を止めることは誰にも出来ん。
無論、我にもの……
して、向こうはどうなったかな?
「いい加減にしてくれないか!君を好きになることは無いし、ルーナと婚約破棄する気もない!俺はルーナを愛してるのでな!」
珍しい!言い切ったな……
-やるじゃないっ……それでこそ、我が息子!-
息子は、ルーナ嬢の髪をかきあげ、額にキスをする。赤くなったルーナ嬢が「私もです、ソレイユ様」と言っているのが、辛うじて聞こえた。
アイナ嬢が何やら騒ぎ始めたので、流石に出ぬ訳にも行くまいな。
妻に手を差し出せば、意を理解した妻が私の腕に手を添えてくれる。
変装を解き(カツラを取るだけ)、前に進みでる。その時には、ソレイユが衛兵を呼びアイナを連れ出された後だった。
他意はないぞ?偶然だ。
「ん?どうした?何かあったのか?」
「あらまぁ、何かありましたの?」
シエルが遅いと怒り、ソレイユは……疑いの眼差しを向けてきた。
あっはっは
やはりバレておるか!
まぁ、許せ!お前たちの成長を少し見ていただけだ!
「問題はありましたが、解決致しました」
「そうか、なら良かった!」
ソレイユは、何かしら思う所があるであろうが何も言わなかった。
うんうん、大人になりおったな。
「では、仕切り直しだ!」
「そうね!さぁ皆さん、グラスをお持ちになって!」
私の意図を理解した妻が、グラスを手に取った。給仕係も、宰相が話を通していてくれたお陰で動きがスムーズだな。
「皆に報告がある。ソレイユ、ルーナ、こちらへ」
「「はい」」
2人が我と妻の間に立つ。
「ソレイユとルーナ嬢が婚約して早10年、ルーナ嬢の王妃教育も完了したと王妃が断言した!」
隣を伺うと、ソレイユが驚いた顔をして妻を見やった。すると妻は、ルーナ嬢の後ろで親指を立てて笑っていた。
「そのため、2人の婚儀を来年の春と定め皆に報告とする!今夜は無礼講である!存分に楽しむと良い!」
再び隣を見ると、嬉しそうに破顔しルーナ嬢と見つめ合っていた。
会場からは、ルーナ嬢とソレイユを惜しむ声が響いていた。
パーティは、遅くまで続き翌日……
「陛下、お連れしました」
「通せ」
昨日騒ぎを起こした張本人……アイナ・トレント伯爵令嬢が両脇を衛兵に押えられ入ってきた。
その目には息子とシエルのみを映し、現実から逸らされていた。
この場には、他に宰相とトレント伯爵がいる。私たちの存在に、気付いているのかいないのか……
「アイナ・トラントよ。此度の騒動に対する処罰を申し伝える」
我の言葉に漸くこちらに顔を向けたアイナ嬢だが、その目に光はなく暗く澱んでいた。
「トラント伯爵よ」
「はっ…アイナょ……」
トラント伯爵の目には涙が溢れ、言葉も震えていた。だが、王族の婚約者に対する事実無根な発言や暴言を看過することは出来ぬ。
処罰は免れん!
「私は、お前を可愛がり過ぎたようだ……まさか、この様な事態を引き起こすとは…」
「なに、を言ってますの?」
「アイナは、我がトラント家より勘当とし、修道院に入りなさい」
本来ならば、修道院では済まなかった。国外追放も視野に入れていた……
だが!ルーナ嬢がアイナ嬢を許した。
「なぜ?ソレイユさまのおよめさんは?」
この期に及んで、また訳の分からぬことを喋りだしたアイナ。
「なぜ貴様を、俺の妻に迎えねばならん。俺が愛しているのは、婚約者のルーナだと何度も言っているだろう!」
「君は王太子の婚約者に、言われのない罪を着せ暴言を吐いた。犯した罪の重さを知れ!」
するとアイナは俯き、カタカタと震え出した。やっと、罪の重さに気が付いたのかと思ったが……違った。
彼女が急に叫び出したからだ。
「ああぁぁぁ!ああぁ、ぁぁぁぁ!」
「「「!!」」」
っ!
どうしたというのだ!急に叫び出し、髪を振り乱し錯乱するアイナ。
すると、それまで黙っていたシエルが動いた。片手を上げ衛兵に命じた。
「連れて行け」
低く底冷えするような声に、我もソレイユも驚き顔を見合せた。流石の宰相も驚いて言葉を失っていたようだ。
アイナも、一瞬叫びを止めた。
その隙に、衛兵が彼女の腕を取り、立ち上がらせる。そして、シエルの横を通り過ぎようとした時……シエルは、今まで見たことも無い表情で、アイナを睨みつけた。
「……俺の姉上を傷付けた事は、絶対許さないから」
シエルの顔を見たアイナは、絶望したのか、また叫びだした。ソレイユに助けを求めながら。
「たすけてぇ!助けてよ、ソレイユさまぁ!夢の中じゃ、あんなに愛を囁いてくれたじゃないですかぁ!あれは、嘘だったのぉ!?」
「「「「夢?」」」」
ゆめ?まさか……夢の中の出来事が、現実にも起きると思ったのか?
伯爵を見ると、目を逸らされた。
正してこなんだな……子の教育も出来ぬとは……
「トラント伯爵よ、アドラス侯爵家に慰謝料を払うように!」
「はっ……はい」
ふー、これで終わったな……
妻に逢いに行くか……疲れたし、癒しが欲しい。
それから数ヶ月後、ソレイユとルーナは結婚し、無事初夜も迎えた。
……孫の顔が見れるのも早いかも知れん。
妻と2人で待ち望んでいたのだが、中々、懐妊の話が来ぬ!
妻はルーナ嬢にそれとなく話をしているそうだが……公務が忙しく、時間が取れぬと言っておったらしい。
我もソレイユに話をしたが、まだまだ忙しく自分もルーナ嬢と話せぬとイライラしておったわ。
仕方ないから、暫く我と妻で公務をするから、2人はのんびりと旅行にでも行ってこい!と送り出した。
旅行から数ヶ月後……孫が誕生したと、ソレイユが息子と娘を抱いて報告に来たのだった。
~完~
出てこなかったので……ここで報告します。
国王陛下の名前は、エルピス(希望)です。
王妃陛下の名前は、リーベ(愛)です。
応援ありがとうございます!
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