竜帝は番を見つける

紫宛

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本編

竜帝ライオネル

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「竜帝陛下、準備が整ったぞ。何時でも、セスティアへと出発出来る」
「ご苦労。ここ15年の間、小国にも関わらず、近隣の大国が決して侵攻しない国……実り多きセスティア…か」

竜帝と呼ばれたこの男は、黒髪赤目の偉丈夫いじょうふと謳われた最強の竜人だった。

先祖返りにより、竜化する能力を持つ。
先祖返りは滅多にないが、全くない訳では無く、他の竜人にも竜化できる者はいる。
例え竜化出来なくとも、竜人は皆、強靭な肉体を持ち圧倒的な回復力を持っている。

魔力は高く、寿命も長い。
世界に存在する種族の中で、竜人は最強種である。
竜帝ライオネルは、その中でも竜帝国を築いたとされる、7人の始祖竜の1人、最強の攻撃力を持った黒曜竜が先祖だ。

「此度の視察で何か掴めれば良いがな」

……が、保守的な考えを持つ者が大半で、ライオネルもまた顔に似合わず、領土を拡大するよりも、今ある大地を豊かにし守る事に力を注いでいた。

立ち上がったライオネルは、そのままテラスに向かって歩き出した。

竜帝国ドラグニアスは、険しい山々に囲まれた大国だ。帝都も、山を切り崩し一体化した作りになっているため、基本亜人以外は住んでいない。

城も、険しい山の中腹に建てられ一体化していた。

テラスには、視察に同行する兵士と護衛、側近が揃っていた。みな、竜化できる者達で構成されている。

「陛下」
「待たせたな、フェリド」
「いや、……陛下」
「なんだ」
「……番も、見つかると良いな」
「……そっちは期待していない」

今回の視察には、俺の番探しも兼ねている。

番とは、亜人や竜人が感じる特別な絆だ。【生涯の伴侶】と言われ、死んでも消える事の無い、魂で結ばれた絆と言われている。
必ず出逢える保証はなく、出逢えたら奇跡とも言われている。

だが……

その相手が、良き相手ならば良い。
しかし、欲深い女や、体目当ての女が番の可能性もある。その時は、番の呪縛を断ち切る必要があり……俺は、国の為になる女と結婚する。

【生涯の伴侶】と魂が求めても、俺は、国を不幸にする女とは、一緒になりたくはない。

だから、見極める。
逢えたとしても……

「行くぞ」

ライオネルが一声かけて竜化すると、側近、兵士達も竜化する。皆が変化し終わると、空へと飛び上がる。

黒曜竜(ライオネル)を中心に、隣を側近の颯炎龍(フェリド)。2人を囲むように、竜化した兵士という形で隊列を組む。



天気は良く、空の旅は快適で、なんの問題もなく小国 セスティア王国に入った。
このまま行けば、夕方には王都に到着するだろうが、相手国には明日到着と伝えてある。

そのため、セスティアに入った所で野営すると決めていた。何故こうも実りが良く、天候にも恵まれているのか、知りたかったからだ。

「…………」

セスティアに入ってから、ライオネルはずっと無言だった。心配になったフェリドは、ライオネルを捕まえて問い掛けた。

「どうした?具合でも悪くなったのか?」

フェリドの物言いは、王に対する態度では無かったが……竜人は王が相手でもフレンドリーに接する者が多い。王もまた、気にしないからだ。

「いや……」
「?」
「お前に隠しても仕方ないな。……感じるのだ…」
﹣この国に、番がいる﹣

フェリドは、王の言った言葉を飲み込むのに時間がかかった。

(マジか…半分冗談だったが、見つかったなら良かった!これで世継ぎ問題も解決するかも知れん……が、【傾国の美女】でなければ良いがな)


翌日の昼過ぎに王都上空に着いた。下を覗けば、結構な人が行き交っている。

やはり、感じる……番の気配を…。


地上では、無表情の少女が上空を見上げていた。何か、呼ばれた気がしたからだった。ボーッと空を見ていたら……

「──!─!」

名前を呼ばれたので、振り向くと木で作られた鞭で頬を叩かれた。


その瞬間、ライオネルにも異変が生じた。

「……!!」
「陛下?」

なんだ?今のは……、痛み?の様なものを感じた……まさか、番と繋がったのか?

「なんでもない……降りるぞ」


空でライオネルが番の存在を感じている時、地上では……

「ぼさぼさしてんじゃないよ!また、叩かれたくなかったら、さっさと歩きな!」

少女は、頬をさすりながら、怒鳴る女性の後に続いて歩き出した。

ふと見上げた空では、竜人達が城に向かって降下を始めていた。
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