竜帝は番を見つける

紫宛

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本編

同胞

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部屋の前には、先程会った少女がいた。

「お前……どうした?なぜここにいる?」

少女を怖がらせないよう気をつけながら、なるべく優しく聞こえるように話しかけた。
 
だが少女は何も語らず、手に持っていたタオルや石鹸を見せてきた。そして、廊下の方を指さし、体を拭く仕草をする。

「ライ……この子は、まさか…」
「あぁ、そういう事か……」

話せないのだろうと、直ぐに分かった。
そして、あの王に命令されて、俺の世話係にでもされたのだろうと。

「??」

少女は首を傾げて、まるで『行かないの?』と、聞いてきているような感じに読み取れた。

「少し待て、準備してくるから」

少女は頷き、扉の横…兵士の隣に避けた。扉の前には、俺が国から連れてきた兵士が立っている。この国の人間は信用出来ないから。

静かに扉を閉めて、マントや装飾品を外す。

「フェリド、少女の護衛に誰かいるか?」
「う~ん、ヨハンはどうだ?人懐っこいし、影としても優秀。隠れて護衛するには最適だ」
「そうか、後で俺の元に連れて来てくれ」
「了解だ。じゃ、行くか。待ってるしな」
「ああ」

少女の顔や体に真新しい傷跡はないし、血の匂いもしない……虐待を受けている感じでは無いようだが…護衛のヨハンに観察も頼むか。

部屋の外に出ると、座っていたのか少女が立ち上がり、廊下の奥を指さした。

「あぁ、行くか」

少女は、無表情で頷く。

「ね、キミさ、名前は?」
「?」

おいっ……と思ったが、名前が分からないと不便なのも事実なのだが…話せないんじゃなかったか?

「??」

少女は、荷物を持った手を交差させ‪✕‬を作った。

「……」
「……」

つまり、名前は無いという事か?
フェリドと顔を合わせ、奴は悲しそうに少女の頭を撫でた。

「?」



「っ!!」
「どうした?ライ」
「……お前の名前は、名無しナナシと言うのか?」

冷たく底冷えするような声で、少女に問いかけたライオネル。少女は、首を傾げながらもコクッと頷いた。

「名無しって……!何だよっそれ!」

フェリドも、怒りを顕にした。
ライオネルは、番である少女と少しずつ繋がりが深くなっているのを感じた。

彼女の考えてる事が、少しだけ分かるようになったのだ。




その後、風呂場に着いて服を脱ごうとしたら……少女がスカートを上げ、腕捲りもしていた。

「なにを、している?」
「?」

少女はタオルを持って上下に動かした。
それは、ライオネル達の背中を流すと言っているようだ。

「!!しなくていい!!」
「!……?」

少女は、ライオネルがいきなり発した大きな声に驚いて、頭を傾げた。
そして、ゆっくりと首を振った。

﹣め い れ い﹣

っ!!

少女の心の声が聞こえ、クソッと悪態を付きながらも、カーテンの内側に入り服を脱いだ。腰にタオルを巻き、フェリドを振り返り目線で指示し風呂に向かった。

「……入る!フェリド!」
「はいはい」

少女も付いて行こうとしたら、フェリドに止められた。

「悪いな、ウチの王はシャイなんだ」
「馬鹿言ってんじゃねぇっ!」
「おっとっ。まっ、そういう事だ、悪いな、嬢ちゃん」
「ぁ」
「ん?」

少女は、口をパクパクと動かし手も上下に動かして何かを訴えている。

「怒られると思ってんのか?」

フェリドがそう聞くと、少女はコクコクと頷く。やっぱりなと、フェリドは思ったが…とりあえず、少女に怒られない事を伝えてやった。寧ろ、風呂の中にまでついて行ったらそれこそ怒られるぞ、っと。

少女は、また首を傾げたが、今度は素直に頷いて風呂の外に出て行った。


ガッシャーーン

だが直後、物凄い大きな音が響いた。
次いで、女の金切り声が響く。

「なんで、化け物が、こんな所にいんのよ!!?最低最悪だわ!!私が穢れちゃうじゃない!!あっち行きなさいよっ!!」

ライオネルが、血相を変えて頭を押え、風呂場から出てきた…がフェリドに止められ、着替えてるあいだ彼が代わりに外に出た。

すると、頭から血を流し蹲る少女。

「嬢ちゃん!!?」
「……?」

フェリドの声に反応し振り向いた。顔に血が伝い、とても痛々しい。

なぜ、この人は、こんな辛そうな顔をしているのだろう。わたしは物……替えのきく物なのに……

﹣……なのに﹣
 


少女の声は、ライオネルに届いていた。

替えのきく……物だと!?
  

急いで、シャツを着て外に出て……

怒りで我を忘れないように気を付けながらも、少女の傍らに膝を着く。少女の近くには、大きな花瓶が落ちていた。普通の令嬢なら、持てないだろうが、女の近くには使用人と思しき男がいた。恐らくこの男がやったんだろう。

鋭い視線を送るも、少女を優先する事にしたライオネル。だが、女は状況を判断出来ないのか、媚びへつらうように、ライオネルに撓垂れ掛かる。

「まぁ!!ライオネルさまぁ!」

だが、それをかわして、少女を抱き上げると無言で歩き出した。

フェリドは、主の怒りに気が付いていた。強い殺気を必死に抑え、暴れないように理性を総動員し耐えている事に。

そして、宙に浮く監視球に目を止めた。俺たちの行動は、常に監視されている。それはつまり、主が不当な理由で手を出してないことの証明にも繋がる。

番に手を出されれば、危険な事は彼らもよく知っているだろう。


部屋に戻ったライオネルは、少女の頭に触れた。……だが、傷跡が無かった。

﹣だいじょうぶ、いたくない、へいき﹣

隅々まで調べたが、どこにも傷がないのだ。
彼女の心の声も、痛みを感じているようには聞こえない。

だが、顔や服に着いたおびただしい血が大怪我だったことを物語っていた。






「お前……まさか、……同胞、なのか?」

「??」
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