竜帝は番を見つける

紫宛

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本編

少女の能力

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翌日、少女は日も昇りきらぬ内に起きて支度を始めた。

「……」

竜人さん達の朝ご飯の支度を始めないと……
兵士さん達も含めてだから、50人前ぐらい?かな。

薄汚れたワンピースを着て、部屋の外に出ると……

ポスン

誰かにぶつかった。

「っと、悪いっす!大丈夫ッスか?」
「……?」

見上げると、明るい黄色いぽい眼をした男の人が、目の前に立ってた。
すぐにしゃがんで私と目線を合わせると、太陽のような明るい笑顔で私に?笑いかけた。

「お嬢様が、ライオネル様の大事な方ッスね!」
「??」

お嬢様?

「俺はヨハンって言うッス。よろしくッス」

少女はなぜ自分に「よろしく」なんて言うのか分からなかったけれど、頷いた。

「それより、まだ日は昇ってないッス。どうしたッスか?」
「……ぁん」

少女は咄嗟に口に手を当てた。
声を出してはいけない……そう、されているのを思い出したから。

「ん?」

ヨハンと言った男の人は、私の返事を待ってるようだった。だけど、話せないから……身振り手振りでご飯の支度をしに行く事を伝えた。

「ご飯ッスか……お嬢様が作るっスか?ダメっす、ダメっす!部屋に戻って休むっスよ!」
「?」

なんで、ダメなんだろう?
そして、なんで部屋に戻そうとするの?
……他の人なら、無理やり外に出れるのに…この人にも勝てない?

どうしたら良いのかな?
支度しないと、ご飯ないよ?

「め…ぃ……ぇい」
「命令って言いたいッスか?」

少女は頷く。

「大丈夫ッスよ。ご飯は、うちの兵士が担当するッスから!」
「ぇ…も!」

少女は、変わり始めていた。

竜帝国の人達は、少女の言葉を聞こうとしてくれるから。拙い言葉でも、読み取り返事を返してくれるから。

だから少女は、戸惑いながらも言葉を口にする。『喋るな』と命令されるまでは...命令されたら止めようと。

「何をしてるんだ?」
「陛下!」
「ぁ」

この人に見られると、何故かとても嬉しい気がする...何でか分からないけれど。

少女が、自分の中のよく分からない気持ちに悩んでいる間、ライオネルはヨハンを睨んでいた。

(誤解ッスよ!何もしてないっす!)
(分かってる。ただ、なんで不安になってるのか気になっただけだ...)
(食事の支度するって、早朝から出て来たっす。部屋に戻そうとしたッスけど...)

2人は小声で話す。

「娘」
「?」
「ご飯の支度はいい、来い」
 
呼ばれれば……

﹣行くのよ﹣

誰かに背中を押されるように、この人の傍に行きたい自分がいる。

分からない...なんで?

「……」
「どうした?」
「わ...かぁ...ら……なぃ。そ、ば...ぃく。ぅれ...しぃ」
「俺の傍は、嬉しいのか?」

少女は頷いた。
ライオネルは、喜んだ。

少女には、番と言っても分からないだろうが、それでも俺の傍が娘にとって安らぎになっている事、嬉しいと思ってくれる事が嬉しかった。





その日の昼過ぎ、ライオネルに付いて街や街の入口付近を案内していた少女は、街からだいぶ離れた場所に、枯れた木を見つけた。

普通の人には見えないが、少女は数千キロ先の人も見分けられる。それは、竜人だからなせること...ただ、少女はまだ気付かない。

「行きたい所でもあるのか?」

と、ライオネルが問えば、少女はある方向に指をさした。

「フェリド、ヨハン行くぞ」
「はいよ」
「ハイっす」

ライオネルは少女を抱きかかえ、走り出した。馬を使わなくても、彼らが本気で走れば馬以上のスピードが出る。

急に視界が高くなって驚いた少女だが、その後の光景に目が釘付けになった。
物凄い速さで走ってるのに、揺れが少なくそして景色が面白い。

一瞬で通り過ぎているが、少女の目にはしっかりと景色が映っていた。

「わ...ぁ」

そして……

…………たのだ。

それを見たライオネルが、急に足を止めた。
ズザザッと音がする程に急停止し、ライオネルは少女を見た。

少女を見て固まって、顔を赤くさせた。
ライオネルが止まったので、フェリドもヨハンも止まったのだが、少し先で止まり戻ってきた。そして、2人も固まった。



少女は、笑っていたのだ。
それは、楽しそうに笑顔で……

「?」

固まったまま動かない皆の様子が変で、少女は首を捻った。けれど、少女は楽しそうだった。





そして辿り着いた場所は、枯れた木が多く存在する場所だった。かつては森だったのだろうか、枯れた木に囲まれた濁った泉もあった。

実りの大地セスティアと言われる国で、この光景は珍しかった。

あまり留まりたくない、嫌な空気をライオネルは感じていた。

「あまり長居はしたくないな...」

だが、セスティアの秘密が明らかになるかも知れないと、ライオネルは中に踏み込んだ。
少女も、ライオネルのマントを握り、ついて行った。

その後ろを、フェリドとヨハンが守るようについて行った。

「……ここ」
「これは……」

少女が、マントから手を離し泉に駆け寄る。
濁った泉の中央には、淡く光る何かがあった。

ライオネルは、理解した……ここは、精霊が亡くなった森だと。精霊に守護された森は、精霊が亡くなると、森も追いかけるように枯れてしまうと聞く。

(どういう事だ?セスティアは、実りの大地の筈だ!精霊が死ぬなんて余程の事だぞ?!)

ライオネルとフェリドが周辺を探ろうとした時、ヨハンが声を上げる。

「わぁ!何してるッスか?!危ないッス!ダメっすよ!」
「っ!?どうした!」

ライオネルがヨハンの方に向けば、少女が泉に入ろうとしているのを、ヨハンが必死に止めていた。

「何をしている!」

﹣な お す﹣

「治す?」

少女は頷いて、指をさした...中央で淡く光る精霊の残骸に。

ライオネルは、死んだ精霊を治すなんて聞いたことが無かった。でも少女は、泉に行きたがっている。

「分かった」

ライオネルは深い息をつくと、少女を持ち上げた。自身の肩の上に乗せて、片手で支える。

泉の深さは分からないが、少女を濡らす気は無かったからだ。もし万が一があっても、最強の竜人である自分なら、対処できると思っていたのもある。

バシャバシャと濁った水を掻き分け、中央に向かう。あと少しで、光る場所に辿り着くという所で異変が起きた。

少女が光っていたのだ。

「娘?!」
「嬢ちゃん!」

少女は光り輝き、宙に浮くと……両手を広げ、命の光を泉に注ぐ。

『森を愛し、森に愛されし泉の精霊よ
  森の嘆きに、我が応えん
 我が命の輝きを、汝に分け与えん』

少女が発したとは思えないほど流暢に、そして威厳に満ちた声が響く。
泉に光が満ちて、輝きを取り戻した時、少女は光を失いライオネルの腕に落ちてきた。

「お前...今のは……」

﹣わからない、でも、やらないとって思った﹣

ライオネルが泉から出て向き直ると、泉は本来の姿を取り戻していた。森も精霊が甦ったからか、青々とした葉が茂っていた。






『我らが命の母、黎明竜様。深く感謝を申し上げる。貴方が住まう場所は、我らがお守り致します』

姿は見えなかったけれど、綺麗な声が頭に響いてきた。

だがライオネルは、頭に雷が落ちたように動けなくなっていた。



黎明竜



それは、自分と同じ始祖龍の1人だ。
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