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黎明竜
それは、夜明けを意味し、7人の始祖竜の中でも黒曜竜に並ぶ上位種だった。
精霊を生みだし、命を蘇らせる能力を持つと言われている。
黎明竜は...蘇生の力を持つとされるが温厚で、争いを好まず力もそう強くない。そのため、人間に襲われ始祖竜の中で真っ先に絶滅したと言われていた。
そして、黎明竜の力を受け継ぐ者も、先祖返りをする者もいなかった。そもそも、黎明竜を先祖にもつ者が竜帝国にはいなかった。
甦った森を後にして、竜帝ライオネルは国に帰る準備に入っていた。
もう、この国にいる理由が無くなったからだ。
小国、実り多きセスティア……その正体は、黎明竜を先祖に持つ少女の力だと気付いたから。自然界の精霊が多く存在するのも、黎明竜の傍に居たいから。
「グラート国王に話をつける。フェリド、ヨハン付いて来い!」
「はいよ」
「はいっス」
「?」
「お前も来い」
ライオネルは、少女の手を引き謁見室に向かった。
謁見室では、セスティア国王グラートがライオネルを見据え、名無しに目を移した。
「コレが、其方の番だと?」
「そうだ、故に連れて帰りたい。俺に譲ってはくれぬか?」
グラートは、信じられなかった。まさか、自分が所有する奴隷が竜帝の番だとは……
だが、これは使えると、瞬時に頭を働かせた。
アレは役に立たぬ、欲しいというのならくれてやるのは構わぬ。だが…
「タダでか?」
その瞬間、ライオネルの瞳に剣呑な光が宿った。グラートは怯んだが、一応は国王なので周りの目を気にして何とかライオネルの視線に耐えた。
「いくら欲しい……?番が手に入るならば、いくらでも出そう。だが、これっきりだ。当然、同盟も維持しよう。この国が豊かであるうちはな」
そう言ってライオネルは、ニヤリと笑った。
(どういう意味だ?まるで、この豊かさが長く続かぬと言っておるような……)
ライオネルのマントを握りしめる少女は、彼らが何を言っているのか理解出来なかった。だが、王様がチラチラと少女を見てるので、自分の事なのかな?ぐらいしか思ってなかった。
ライオネルが少女を抱き上げると、少女は顔が赤くなるのを感じた。理由は分からないけれど、ライオネルに自分を見ないで欲しいと思ってしまったのだ。
だから、少女はライオネルの胸に顔を埋めた。
すると、ライオネルがすかさず少女の顔を覗き込み「どうした?」と問いかけた。
少女は、ライオネルの胸に顔を埋めながら…
「な…んで、も…なぃえす」
彼女の言葉は拙いが、ちゃんと伝わる。
そして、その思いも……自分が抱き上げることによって、恥ずかしがっているのだとライオネルは理解していた。
少女を片手に持ち替えて、もう片方の手で頭をぽんぽんと撫でる。そして、そのまま自分の胸に優しく押さえ付けた。
その姿を、憎々しげに見つめていたグラートは、大金を要求する事を決めた。
アレに、そんな価値は一切無いが、竜帝にとっては大事らしい。
ならば、大金を要求すれば、アレにそんな価値は無いと、流石に激怒するだろうとグラートは思っていた。さすがの竜帝も顔を歪ませて減額を要求するだろうと。
(まぁ、そうしたら少し要求額を少なくしてやるか)
「ふむ、ならば10,000ハクトルでどうじゃ?」
「なに?!」
ほっほっほ!愉快じゃ……奴の歪んだか……おが…?
「そんなに安くていいのか!!? フェリド、直ぐに用意しろ!これで、お前は俺の嫁だ!」
「…………」
怒りで顔を歪めると思っていたグラートは、拍子抜けて、表情が抜け落ちたように固まって動かなくなった。
その間に竜帝は部下に指示すると、本当に直ぐにお金を用意してきた。元々、用意してたのかというほどの大金だ……。
「ここに、15.000ハクトルある!少し多いが、番が手に入るなら安いものだ!そもそも人の命に値段など、本来なら付けられんからな!」
「わ……たち、すて、らぇるのぉ?」
「違う、俺に貰われるだけだ。一緒に竜帝国に行こうな」
ライオネルは、もう用はないと言わんばかりに謁見室を後にした。後方でグラートが呆気にとられている間に……。
少女の秘密を伝える必要も無い。
ここに残す理由も必要性も無い。
「ぃいの、かな?」
「「良いんだ!」」
「良いんスよ」
3人が肯定すると、少女は微笑み
「ぃく!」
と答えた。
とうとう少女は、自分の意思を持ち始めた。
それは、ライオネルを始めとする、フェリドやヨハンが根気よく話しかけ続けた賜物だった。
『黎明竜様……この国を離れるのですか?』
前に聞いたのとは違う、少し高い声が頭に響いた。「ぃく!ぉうさま、と、ぃっしょ!」と少女がその声に返事を返すと。
『ならば、私達も共に参ります。黎明竜様のいないこの国に価値はありませんから』
翌日、慌ただしく、少女を連れてさっさとセスティアを離れた一行だった。
ただ、行きよりも少し賑やかで、穏やかで楽しげだったのは言うまでもない。
────
※1
ハクトル……この世界のお金の通貨。
1ルート→日本円で10、銅貨
1シックル→日本円で100、銀貨
1ガルド→日本円で1.000、金貨
1ハクトル→日本円て10.000、白金貨
と思って下さいませ。
だいたいです、だいたいこんな感じだと思って下さい。
それは、夜明けを意味し、7人の始祖竜の中でも黒曜竜に並ぶ上位種だった。
精霊を生みだし、命を蘇らせる能力を持つと言われている。
黎明竜は...蘇生の力を持つとされるが温厚で、争いを好まず力もそう強くない。そのため、人間に襲われ始祖竜の中で真っ先に絶滅したと言われていた。
そして、黎明竜の力を受け継ぐ者も、先祖返りをする者もいなかった。そもそも、黎明竜を先祖にもつ者が竜帝国にはいなかった。
甦った森を後にして、竜帝ライオネルは国に帰る準備に入っていた。
もう、この国にいる理由が無くなったからだ。
小国、実り多きセスティア……その正体は、黎明竜を先祖に持つ少女の力だと気付いたから。自然界の精霊が多く存在するのも、黎明竜の傍に居たいから。
「グラート国王に話をつける。フェリド、ヨハン付いて来い!」
「はいよ」
「はいっス」
「?」
「お前も来い」
ライオネルは、少女の手を引き謁見室に向かった。
謁見室では、セスティア国王グラートがライオネルを見据え、名無しに目を移した。
「コレが、其方の番だと?」
「そうだ、故に連れて帰りたい。俺に譲ってはくれぬか?」
グラートは、信じられなかった。まさか、自分が所有する奴隷が竜帝の番だとは……
だが、これは使えると、瞬時に頭を働かせた。
アレは役に立たぬ、欲しいというのならくれてやるのは構わぬ。だが…
「タダでか?」
その瞬間、ライオネルの瞳に剣呑な光が宿った。グラートは怯んだが、一応は国王なので周りの目を気にして何とかライオネルの視線に耐えた。
「いくら欲しい……?番が手に入るならば、いくらでも出そう。だが、これっきりだ。当然、同盟も維持しよう。この国が豊かであるうちはな」
そう言ってライオネルは、ニヤリと笑った。
(どういう意味だ?まるで、この豊かさが長く続かぬと言っておるような……)
ライオネルのマントを握りしめる少女は、彼らが何を言っているのか理解出来なかった。だが、王様がチラチラと少女を見てるので、自分の事なのかな?ぐらいしか思ってなかった。
ライオネルが少女を抱き上げると、少女は顔が赤くなるのを感じた。理由は分からないけれど、ライオネルに自分を見ないで欲しいと思ってしまったのだ。
だから、少女はライオネルの胸に顔を埋めた。
すると、ライオネルがすかさず少女の顔を覗き込み「どうした?」と問いかけた。
少女は、ライオネルの胸に顔を埋めながら…
「な…んで、も…なぃえす」
彼女の言葉は拙いが、ちゃんと伝わる。
そして、その思いも……自分が抱き上げることによって、恥ずかしがっているのだとライオネルは理解していた。
少女を片手に持ち替えて、もう片方の手で頭をぽんぽんと撫でる。そして、そのまま自分の胸に優しく押さえ付けた。
その姿を、憎々しげに見つめていたグラートは、大金を要求する事を決めた。
アレに、そんな価値は一切無いが、竜帝にとっては大事らしい。
ならば、大金を要求すれば、アレにそんな価値は無いと、流石に激怒するだろうとグラートは思っていた。さすがの竜帝も顔を歪ませて減額を要求するだろうと。
(まぁ、そうしたら少し要求額を少なくしてやるか)
「ふむ、ならば10,000ハクトルでどうじゃ?」
「なに?!」
ほっほっほ!愉快じゃ……奴の歪んだか……おが…?
「そんなに安くていいのか!!? フェリド、直ぐに用意しろ!これで、お前は俺の嫁だ!」
「…………」
怒りで顔を歪めると思っていたグラートは、拍子抜けて、表情が抜け落ちたように固まって動かなくなった。
その間に竜帝は部下に指示すると、本当に直ぐにお金を用意してきた。元々、用意してたのかというほどの大金だ……。
「ここに、15.000ハクトルある!少し多いが、番が手に入るなら安いものだ!そもそも人の命に値段など、本来なら付けられんからな!」
「わ……たち、すて、らぇるのぉ?」
「違う、俺に貰われるだけだ。一緒に竜帝国に行こうな」
ライオネルは、もう用はないと言わんばかりに謁見室を後にした。後方でグラートが呆気にとられている間に……。
少女の秘密を伝える必要も無い。
ここに残す理由も必要性も無い。
「ぃいの、かな?」
「「良いんだ!」」
「良いんスよ」
3人が肯定すると、少女は微笑み
「ぃく!」
と答えた。
とうとう少女は、自分の意思を持ち始めた。
それは、ライオネルを始めとする、フェリドやヨハンが根気よく話しかけ続けた賜物だった。
『黎明竜様……この国を離れるのですか?』
前に聞いたのとは違う、少し高い声が頭に響いた。「ぃく!ぉうさま、と、ぃっしょ!」と少女がその声に返事を返すと。
『ならば、私達も共に参ります。黎明竜様のいないこの国に価値はありませんから』
翌日、慌ただしく、少女を連れてさっさとセスティアを離れた一行だった。
ただ、行きよりも少し賑やかで、穏やかで楽しげだったのは言うまでもない。
────
※1
ハクトル……この世界のお金の通貨。
1ルート→日本円で10、銅貨
1シックル→日本円で100、銀貨
1ガルド→日本円で1.000、金貨
1ハクトル→日本円て10.000、白金貨
と思って下さいませ。
だいたいです、だいたいこんな感じだと思って下さい。
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