【完結】トラウマ眼鏡系男子は幼馴染み王子に恋をする

獏乃みゆ

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3.数多の手紙

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「あーっ! 居た! 2年3組の青山さん…ですよね?」

 食堂でお昼をとる壮司と一緒に、お弁当を片手に廊下を歩いていると2人組の女子に呼び止められる。
 
「えっ……、そうですけど……」
「あの! この手紙、2年2組の遠野くんに渡してほしくて……放課後、お返事待ってるので!」
「えぇ?! あの! ちょ…」
 
 その子は封筒を俺の胸元に押し付けると、呼び止める声は届かぬまま、一緒に来た友達と走り去ってしまった。
 俺は手紙を持って、立ち尽くしてしまう。
 
「……優李、それ何通目?」
「……4通…目」
「優李はほんと、初対面の人には弱いからな~」
「……誰だってそうじゃない?」
「いや、俺は断る。」
 
 俺はお弁当が二つ入った手提げとは別に、薄い小さな手提げを持っている。
 小さな手提げの中には、今受け取った封筒とは別に封筒が3つ入っているのだ。
 さっきのように、学校へ来ると至る所で悠斗宛の手紙を託されてしまう。登下校ともほとんど俺と悠斗は一緒なため、頼みやすいのだろう。
 大事な手紙だということはわかるから、折れてしまわないように受け取ったら小さな手提げ袋に入れるようにしているのだが、ほぼ毎日のことなのでこの手提げ袋を常に小さく折りたたんで持ち運ぶようになってしまった。
 
「なんで直接本人に渡さないのかねー? 人を伝書鳩扱いするんじゃねぇよ
 大体何の関係もない、会ったこともない奴に好きだって言われて付き合う奴なんていんの?」
 
 再び歩き出しながら、壮司がぶった斬る。
 
「…うーん…やっぱり壮司は発言が過激……
 付き合ってみて、好きになっていくこともあるんじゃない?」
「なに、優李はいきなり告白されて付き合ってみることあるの」
 
 隣を歩いていた壮司が、横から覗き込むようにこちらを見るので、思わず歩みが止まる。

 自分が告白されることを想像してみる……
 キモダサめがねと呼ばれることはあっても、人から好意を示される想像がまったくできない。

「……いや──……そもそも告白されない。」
「なんでだよ!! もっと自信持てよ!! お前はいい奴だよ!」
「『いい奴止まりはモテない』ってこの前壮司が言ってたんだからな!!

 ……あ、」
 
 壮司とじゃれ合ううちに、食堂に着く。
 混み合う食堂の中では、座席の争奪戦が繰り広げられているのだが、一角だけ人垣が割れるように空間ができている箇所が目に入る。
 悠斗だ。悠斗をみんな一定の距離を保って見ているものだから、その周りだけ誰もいなくなっている。
 横で「モーセかよ」と言いながら壮司が舌打ちしてる。……なんでモーセ? あとで調べてみよ。
 
「ハル、ごめん、待った?」
「ううん。今来たところだよ」
 
 悠斗が取っておいてくれた隣の席に腰掛けながら、片方のお弁当を渡す。二つのお弁当のうち、大きい方は悠斗のものなのだ。お弁当を受け取った悠斗は、ふんわりと蕩けるような笑顔を見せる。
 周りで何人か倒れた気がするが、特に確認はしない。気持ちは分かる。
  
「いつもありがとうね、ゆうくん。毎日すごく楽しみなんだ。」
「そりゃあ楽しみでしょうね~
 朝から一生懸命優李が作ってくれたお弁当ですものね~」
 
 壮司は悠斗の向かいに腰掛けながら、揶揄うように突っかかっていく。悠斗と二人だけで裏庭で隠れるようにして食べていた昼食は、2年に上がってから、壮司を加えて3人で食堂で取るようになった。
 壮司が「ええ⁉︎ 俺を一人にしちゃうの⁉︎ 俺さみしい‼︎」と言うもんだから。いざ食堂で食事をとってみると、意外にも悠斗の周りに人が押しかけるようなこともなく、裏庭でコソコソと食べるよりも落ち着いて食べられている気がする。(遠巻きに視線を送られるのは、変わらないけど)
 
「……久生、早く並ばないとA定食売り切れるよ」
「ちっ、 じゃあ優李、ちょっと並んでくるね~」
「え、今、舌打ちした⁉︎ ねぇ、ハル今してたよね⁉︎」
 
 返事もせずに、鼻歌まじりに注文口に去っていく壮司の背中を見ながら、悠斗にも同意を求めるが、悠斗はすでにお弁当に手を伸ばしている。
 なぜか壮司は悠斗の前になると、今のように無駄に絡みに行くことが多い。……好きの裏返しか?ツンデレってやつなのか? (ツンデレも壮司に教えてもらった)

 悠斗は舌打ちをまったく気にしていないのか、壮司と同じく鼻歌でも歌い出しそうな、ご機嫌な顔だ。……このかっこいいのに可愛いという絶妙なバランスはどうやって作り出されているんだろう。この世にハルくんを生み出してくれたご両親、数えるほどしかお会いしてないけど、本当にありがとうございます。
 頭の中でご両親に念を送りながら、俺も隣で同じように、お弁当の包みを解いていく。
 今日のお弁当のメインは茄子のはさみ焼きだ。この間、麻婆茄子を作って余った茄子に、ひき肉をはさんで甘辛いタレを絡めて焼いてみた。その隣には里芋の入った煮物と、玉子焼き、ブロッコリーのごま和え、彩りにミニトマトを添えている。
 ミニトマトは本当にお弁当の中の救世主だ。なんか寂しいな、と思ったらミニトマトを入れたら大体きれいなお弁当に見える。
 
「……今日も美味しそう。」

 カシャ、と悠斗は今日も弁当の写真を撮る。

「煮物は昨日の残りだけどね。」

 カシャ、と弁当の説明をする俺もついでに撮られた。なんだなんだ悠斗、その不思議で可愛い行動は。でも俺の写真はあとで消しといて。それは要らないと思う。 

「煮物は二日目の方が美味しいんでしょ」
「はは、おばあちゃんが言ってたやつ」
 
「うわ、うまそう」
 
 A定食をトレーに載せて、壮司が帰ってきた。今日のA定食はミックスフライらしい。アジフライとコロッケと…あとなんだろう?丸いものがいくつか並んでいる。
 A定食もとても美味しそうだが、壮司は俺のお弁当を興味深げに覗き込んでる。
 
「……なんか交換する?」
「やったー!」
「人のものを欲しがるなんて節操ないね」
「俺は欲しいものを欲しいと言える素直な子なんです!
 なー、優李!」
「ね、壮司、この丸いの何? これと茄子のはさみ焼き交換しよ」
「……聞いてねぇ」
 
 正体不明の丸いフライはなんとチーズフライだった。初めて食べた。サクッとしっかり歯ごたえのある衣を噛むと、中から熱々のとろ~りとしたチーズが溶け出してくる。
 
「壮司、これすんごい美味しい。
 ハル、今度これ家でも作ってみるからな! 一緒に食べよ」
 
 でも熱い、上顎ヤケドしたかも。と言いながら水を勢いよく飲む。これは美味しいけど危険な食べ物だ。上顎の皮がべろべろになりそう。
 なんとなく悠斗と壮司の二人の視線を感じながら、チーズフライをどうやって作ろうか考えつつ残りのお弁当を頬張った。
 
 
 
 
 
 ご飯を食べたら、食堂から3人で移動して廊下の2組と3組の間あたりで話す。教室に入ってしまうと、悠斗を見に来る生徒が出入り口を塞いでしまって、他の生徒の迷惑になってしまうからだ。

「あ、そろそろ予鈴だ。俺先入ってるな~」
 
 そう言って、壮司が教室に入り、俺と悠斗だけになる。廊下には遠巻きに悠斗を見ている人もいるが、予鈴を前にみんなそれぞれの教室に移動し始めた。
 
「じゃあ、そろそろ行こっか」
「……あの、ハル、これ…」
 
 小さな手提げに入れていた封筒を取り出す。
 おずおずと手に持った封筒を、悠斗が受け取る。
 
「……誰から?」
 
 緊張感を伴う悠斗の声だ。悠斗の声はいつも穏やかで落ち着くのだが、この瞬間だけは毎日、胃のあたりがぎゅうと引き絞られるように感じる。
 
「さ、3年2組の山本先輩と……」

 受け取った順に、封筒を指差しながら紹介していく。指差す封筒はどれも凝った可愛らしいデザインで、彼女たちがどれほどこだわって選んだかが伝わってくる。
 
「どれも、可愛い封筒だね。
 ほら、みんな字もきれいだし……」
 
 しかし、手紙について話す間も、悠斗の視線は俺に注がれ続けている。随分上にある悠斗の目がこちらを見下ろしていて、つむじのあたりがジンジンしてくる気がする。
 ちらりと前髪の間から見上げると、いつも僕に向けられる朗らかな微笑みとは全く異なる、感情の読めない無表情でこちらを見つめているのだ。
 ……美人ほど怒ると怖いってきっとこのことだ。
 
「~~ごめん!!
 明日からは頑張って断るから!
 お願いだからそんな目で見ないで! ごめんなさいーーーっ!」
 
 顔の前で両手の平をパチンと合わせて、勢いよく頭を下げる。明日こそはしっかり断る!手紙の受付け停止する!

 頭の上ではぁーーーと盛大なため息が聞こえる。
 
「ゆうくんは人に強く出れないでしょ。
 もういいよ。
 放課後この人たちに会ってくるけど、絶対一人で帰らないでね。
 待ってるんだよ?」
「はい…っ!」
 
 絶対に勝手に帰りません!
 ぽす、と頭に手を載せるだけのチョップをもらい、注意される。
 予鈴が鳴り、悠斗は隣の教室へと入っていった。
 
 
 
 
 
 優しい悠斗。優しいから俺なんかと一緒に居てくれる。
 優しいから、きっとあの手紙を丁寧に読んで、放課後には彼女たちと真摯に向き合うんだろう。
 今日の手紙の中には、悠斗の心を射止めるものはあるんだろうか。
 
 昼下がりの古典の授業は、まったく頭に入らなかった。
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