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4.ハルの特別
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「なに? なんか悩みごと?」
心地よい風が吹く昼下がり、今日は悠斗にお弁当だけ渡して、壮司と二人で昼食を終えた。
風に当たりながら、校庭をぼんやり眺める俺の顔を、壮司が覗き込む。
「ううん、なにもないよ」
教室の校庭側には、外に出て人が2人やっと行き交えるくらいの幅のバルコニーが作られている。クラスごとに境界がないから、廊下の代わりにバルコニーを通って移動する人もいる。
バルコニーでは昼食を終えた生徒が、友人たちとそれぞれに楽しい時間を過ごしている声が聞こえてくる。
「何もない割に、今日はすごく言葉少ない気がするけど」
「………」
組んだ腕をバルコニーの手すりに載せてもたれかかった、だらりとした姿勢で、顔だけを壮司に向ける。
思いの外すぐ近くに、にや~っと悪戯っぽい壮司の笑顔がある。
「あそこで女の子と話してる遠野が気になってるんでしょ」
「………」
図星だ。校庭の脇にある大きな木の下に、ここからは男女の足元だけが見えている。
女子は学年で一番人気だという斎藤さん(壮司に聞いた)、男子は悠斗だ。
まだ青い葉が残る枝が、すっぽりと男女の体を隠してしまっているため、二人の様子は窺えない。
「今回は優李を通さず、直接呼び出しだもんね~
斎藤さん、自信あるんだろうな」
思わず、組んだ腕をぎゅ、と握りしめる。
「実際どうなの?
高校入ってから遠野、誰とも付き合ってないけど、今まで恋人っていたの?」
「……いたよ。中学の時。
すっごい可愛い女の子と付き合ってた。」
そう。悠斗は女子と付き合ってたことがある。
その時のことはよく覚えている。
朝玄関を開けても、目の前に悠斗は待っておらず。下校の時間には、仲よさげに腕を組んで悠斗と彼女が帰っていく背中を見る。
美男美女の2人は、みんなから羨望の眼差しで見られていた。
俺も、きれいだな、と思った一人だ。
まるで、映画のワンシーンみたいに感じていた。スクリーンの中の、美しい二人。
俺はその一視聴者で、決してスクリーンの中の登場人物にはなれない。
家族で、親友で、近くに感じていた悠斗が、絶対に越えられないスクリーンの向こう側の人間なんだ、と突きつけられて、俺は光の届かない暗い場所に一人で立たされているような気持ちになっていた。
「でも別れちゃったんだ?」
「え、……あ、うん。
なんか、高校に入って自然消滅? したらしい」
「ふ~ん」
話を振ってきたはずの壮司は、それほど興味がないように返事とも言えない返事をして、校庭をぼんやりと見つめている。
俺も視線を校庭にやると、もうすでに木の下に見えていた男女の足元は去っていた。もう、告白は終わったようだ。
「ね、優李、もしまた王子に彼女ができたら、俺と一緒に登下校しよ」
「壮司、自転車通学じゃん」
手すりにもたれかかったまま、壮司に答える。壮司は、すぐ近くに顔を寄せて、内緒話のように話を続ける。
「自転車は押せばいいし。帰りに一緒にクレーブ食べたり、パンケーキ食べに行ったりしようぜ
うまいところ連れてってやるから」
「ふ、甘いとこばっか」
「妹が連れていけってうるさいんだよ」
二人して顔を寄せ合って、ふふふ、と笑い合う。
「何やってんの」
よく通る、低めの声が背後からかけられる。
「ハル」
「お疲れ様、色おとこ!
どうなったの、恋人できた?」
悠斗は壮司に一瞥をくれるが返事は返さず、そのまま俺へと視線を移す。
珍しく、悠斗の顔に笑顔が浮かべられていない。
教室から、こちらへと一歩一歩近づいてくる。
「何やってんの
こんなとこで、二人でくっついて」
「いや、クレープとかパンケーキ食べに行くかって話をしてて……」
「……で?」
「いや、それだけだけど……」
トン、と悠斗の上履きのつま先と、俺の上履きのつま先が当たる。
目の前が暗くなる。すぐ近くに悠斗が覆い被さるように立っているからだ。
俺を囲うように、手すりに悠斗の両手が置かれる。……圧が強い。
「……久生と距離近すぎるんじゃない?」
真上から綺麗な顔で凄まれる。思わず後ずさりしそうになるが、バルコニーの手すりに背をつけている状態で、それは許されない。
真っ直ぐに見上げて悠斗の目を見つめる。
「……壮司は大丈夫だよ。友達だ。いい奴じゃんか。」
「えー、優李、俺嬉しい~
俺も優李大好きだからなー」
隣で俺と悠斗を見守る壮司から声がかかる。その表情は心底面白いものを見ているといった、晴れやかなものだ。
「……壮司面白がってんじゃん」
「だって面白いんだもん~
なぁ遠野」
壮司が横から悠斗の肩を組みに行く。悠斗は一瞬眉間にしわを寄せたように見えたが、諦めたようにため息を一つ吐いた。
俺の両隣に伸びていた長い腕が去っていく。
「久生、ゆうくんに迷惑かけるなよ」
「かけてないよ~ なぁ? 優李。」
「……ハルはちょっと過保護過ぎるんじゃない」
悠斗が見たことのない、む、という表情を浮かべる。……言いすぎた。
「……俺はもう大丈夫だよ。ありがと」
悠斗はなんとも言えない複雑な表情を浮かべたが、「うん」と言いながら、肩に乗った壮司の腕を払って教室へ入って行った。
「厄介な奴」
隣の壮司がそう呟くのを耳にしながら、悠斗の背中を見つめた。
結局、悠斗は学年で一番人気の斉藤さんの告白も断ったため、サイボーグ説や人の心がない説が囁かれ始めた。言うまでもなく、悠斗の強火担の俺は荒れに荒れ、その横で壮司が腹を抱えて笑っていたのは言うまでもない。
心地よい風が吹く昼下がり、今日は悠斗にお弁当だけ渡して、壮司と二人で昼食を終えた。
風に当たりながら、校庭をぼんやり眺める俺の顔を、壮司が覗き込む。
「ううん、なにもないよ」
教室の校庭側には、外に出て人が2人やっと行き交えるくらいの幅のバルコニーが作られている。クラスごとに境界がないから、廊下の代わりにバルコニーを通って移動する人もいる。
バルコニーでは昼食を終えた生徒が、友人たちとそれぞれに楽しい時間を過ごしている声が聞こえてくる。
「何もない割に、今日はすごく言葉少ない気がするけど」
「………」
組んだ腕をバルコニーの手すりに載せてもたれかかった、だらりとした姿勢で、顔だけを壮司に向ける。
思いの外すぐ近くに、にや~っと悪戯っぽい壮司の笑顔がある。
「あそこで女の子と話してる遠野が気になってるんでしょ」
「………」
図星だ。校庭の脇にある大きな木の下に、ここからは男女の足元だけが見えている。
女子は学年で一番人気だという斎藤さん(壮司に聞いた)、男子は悠斗だ。
まだ青い葉が残る枝が、すっぽりと男女の体を隠してしまっているため、二人の様子は窺えない。
「今回は優李を通さず、直接呼び出しだもんね~
斎藤さん、自信あるんだろうな」
思わず、組んだ腕をぎゅ、と握りしめる。
「実際どうなの?
高校入ってから遠野、誰とも付き合ってないけど、今まで恋人っていたの?」
「……いたよ。中学の時。
すっごい可愛い女の子と付き合ってた。」
そう。悠斗は女子と付き合ってたことがある。
その時のことはよく覚えている。
朝玄関を開けても、目の前に悠斗は待っておらず。下校の時間には、仲よさげに腕を組んで悠斗と彼女が帰っていく背中を見る。
美男美女の2人は、みんなから羨望の眼差しで見られていた。
俺も、きれいだな、と思った一人だ。
まるで、映画のワンシーンみたいに感じていた。スクリーンの中の、美しい二人。
俺はその一視聴者で、決してスクリーンの中の登場人物にはなれない。
家族で、親友で、近くに感じていた悠斗が、絶対に越えられないスクリーンの向こう側の人間なんだ、と突きつけられて、俺は光の届かない暗い場所に一人で立たされているような気持ちになっていた。
「でも別れちゃったんだ?」
「え、……あ、うん。
なんか、高校に入って自然消滅? したらしい」
「ふ~ん」
話を振ってきたはずの壮司は、それほど興味がないように返事とも言えない返事をして、校庭をぼんやりと見つめている。
俺も視線を校庭にやると、もうすでに木の下に見えていた男女の足元は去っていた。もう、告白は終わったようだ。
「ね、優李、もしまた王子に彼女ができたら、俺と一緒に登下校しよ」
「壮司、自転車通学じゃん」
手すりにもたれかかったまま、壮司に答える。壮司は、すぐ近くに顔を寄せて、内緒話のように話を続ける。
「自転車は押せばいいし。帰りに一緒にクレーブ食べたり、パンケーキ食べに行ったりしようぜ
うまいところ連れてってやるから」
「ふ、甘いとこばっか」
「妹が連れていけってうるさいんだよ」
二人して顔を寄せ合って、ふふふ、と笑い合う。
「何やってんの」
よく通る、低めの声が背後からかけられる。
「ハル」
「お疲れ様、色おとこ!
どうなったの、恋人できた?」
悠斗は壮司に一瞥をくれるが返事は返さず、そのまま俺へと視線を移す。
珍しく、悠斗の顔に笑顔が浮かべられていない。
教室から、こちらへと一歩一歩近づいてくる。
「何やってんの
こんなとこで、二人でくっついて」
「いや、クレープとかパンケーキ食べに行くかって話をしてて……」
「……で?」
「いや、それだけだけど……」
トン、と悠斗の上履きのつま先と、俺の上履きのつま先が当たる。
目の前が暗くなる。すぐ近くに悠斗が覆い被さるように立っているからだ。
俺を囲うように、手すりに悠斗の両手が置かれる。……圧が強い。
「……久生と距離近すぎるんじゃない?」
真上から綺麗な顔で凄まれる。思わず後ずさりしそうになるが、バルコニーの手すりに背をつけている状態で、それは許されない。
真っ直ぐに見上げて悠斗の目を見つめる。
「……壮司は大丈夫だよ。友達だ。いい奴じゃんか。」
「えー、優李、俺嬉しい~
俺も優李大好きだからなー」
隣で俺と悠斗を見守る壮司から声がかかる。その表情は心底面白いものを見ているといった、晴れやかなものだ。
「……壮司面白がってんじゃん」
「だって面白いんだもん~
なぁ遠野」
壮司が横から悠斗の肩を組みに行く。悠斗は一瞬眉間にしわを寄せたように見えたが、諦めたようにため息を一つ吐いた。
俺の両隣に伸びていた長い腕が去っていく。
「久生、ゆうくんに迷惑かけるなよ」
「かけてないよ~ なぁ? 優李。」
「……ハルはちょっと過保護過ぎるんじゃない」
悠斗が見たことのない、む、という表情を浮かべる。……言いすぎた。
「……俺はもう大丈夫だよ。ありがと」
悠斗はなんとも言えない複雑な表情を浮かべたが、「うん」と言いながら、肩に乗った壮司の腕を払って教室へ入って行った。
「厄介な奴」
隣の壮司がそう呟くのを耳にしながら、悠斗の背中を見つめた。
結局、悠斗は学年で一番人気の斉藤さんの告白も断ったため、サイボーグ説や人の心がない説が囁かれ始めた。言うまでもなく、悠斗の強火担の俺は荒れに荒れ、その横で壮司が腹を抱えて笑っていたのは言うまでもない。
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