【完結】トラウマ眼鏡系男子は幼馴染み王子に恋をする

獏乃みゆ

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6.罪づくりな男

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「無理だって!こんなの俺着こなせない」
「お客様は細身でいらっしゃいますから、きっとお似合いだと思いますよ~」

 店員さんが胡散臭い笑顔で商品を勧めてくる。
 俺はカーディガンを…、通学用の何の変哲もないカーディガンを見に来ただけなのに、なんでこんな上下一式×5着くらい?の服を持たされて、試着室に詰め込まれようとしてるんだ。

「ハル……っ!」
「僕の見立てだから、間違いないと思うよ」

 にっこりと穏やかに美しく微笑む幼馴染みは、揺るがない。

「うう……全部着替えてみるけど、別に見せないからね
 そのまま着替えるだけだからね」
「え、僕がゆうくんのために選んだのに、見せてもらえないの……?」

 今度は、悲しいBGMが流れてきそうなほど、悲壮感漂う表情に変わる。やだ、こんな絶対に似合わないやばい姿を、誰にも見せたくない!!

「じゃあ僕も入ったげる」
「ええ?!」
「あの、着方とか教えるので、一緒に入っていいですよね?」
「ええ!もちろんです!」

 悠斗は有無を言わさず、俺と服を試着室に押し込み、ドアを閉めてしまう。
 このショップの試着室は比較的広めなんだと思う。男二人が入っても、まだ荷物置き場や脱いだ服を置ける棚が余裕で使える広さになっている。
 ドアの対面の壁がすべて鏡になっていて、おろおろと服を抱える俺と、嬉しそうに微笑む悠斗が見える。

「なんでハルまで一緒に入るんだ……っ」
「……勢いで?」
「ぐっ……うぅ……

 はぁ……最初はどれ着ればいいの」

 もう観念した。知ってる。こうなった悠斗は絶対に諦めない。小学校の時の水泳大会もそうだった。金色のメダルが欲しいって言って、絶対に諦めずに毎日練習して、金メダルを取っていた。
 悠斗はこうと決めたら、絶対に諦めない。

「ふふ、ありがと。
 ゆうくんが俺の選んだ服着てくれるの、嬉しいな~」

 鼻歌交じりに、これとこれ着てみて、と服をピックアップしてくれる。それを受け取り、着替えて……え?
 
「いや、この距離で一人だけ着替えは、恥ずかしいよ?!」
「体育の授業と一緒じゃん」
「やだ!ハルは着替えてない!」
「はい、じゃあこうやって目隠すから。
 さぁどうぞ!」

 悠斗が両手を顔の前に覆い被せて、目隠しをする。……うん。なら、仕方ない。いいだろう。
 いそいそと着替え始める。

「はぁ、こんなん似合うわけない……」

 オーバーサイズのブラウンのノーカラージャケットに、オフホワイトのシャツ、ボトムは緩めのシルエットのパンツだ。今日のハルの格好と、リンクするような出で立ちになっている。

「かわいい。ゆうくん、すごく似合ってる。」

 パチパチと手を叩きながら、悠斗が感想を述べる。

「どこが……!豚に真珠ってこういうことを言うんだよ……!もさもさの俺が着て、服にも申し訳ないよ……」

 俺は普通のグレーの通学用のカーディガンを買いたい。それはきっとこの店にはない……っ!

「ゆうくん、次はこれだよ!」

 悠斗は嬉々として次から次へと服を寄越してくる。
 うう……これ、何が楽しいの悠斗。どんどんとHPを削られていく俺に対して、どんどんと悠斗の笑顔は深まっていった。





「お疲れ様でした!
 いかがでしたか?」
「これと、これと、これ、すごく似合ってたよ。
 着回しもしやすいと思うし、どうかな?」

 本当に疲れた。本音を言うとどれも自分に似合ってるかなんてわからない。わからないけど、悠斗はこんなことで嘘を言うやつではないし、きっと悠斗の中では俺に似合っているのだろう。悠斗の中では。
 
「じゃあ、……これと、これと、…これ?は買います。
 お会計お願いします……」
「え!僕が出すよ、僕が選んだのに……」
「何言ってんだよ。ただの幼馴染みの男友達に、服買うなんて!
 彼女できたら、お前どうなっちゃうんだよ」
「……彼女なんて、できない……」
「「んなわけないだろ」」

 俺と声を揃えて店員さんまでがツッコミを入れてしまう。
 
「……失礼しました。」

 店員さんはお詫びを入れた後は、冷静にお会計を進めてくれる。店員さんの気持ちはよくわかる。そんなわけない。悠斗がその気になれば、すぐにでも彼女はできるのだ。
 こんな男友達にまで、服を買ってる場合じゃない。

 きっと。
 高校でもし恋人ができなくても、大学でできるかもしれない。社会人になったら、きっと結婚を前提にお付き合いだってするんだろう。
 そうしたら、
 今日みたいにショップを見て回って、カフェでパンケーキを分け合って、服を着せ替えあって、そうやってデートするんだろうな。
 
 その時は、今よりもっと甘い顔を、彼女に見せるのかも──……
 
「ゆうくん?」
「あ、悪い」

 考え事をしながら、悠斗の顔を見つめてしまった。不思議そうな顔をする悠斗から、急いで視線を外す。
 逸らした先の空は、すっかり日が暮れている。定期的に道を照らしてくれる街灯は、眩しいほどに輝いて俺の影を黒く伸ばしている。

 夕飯も終えて、無事にカーディガンも買えて、肩にはショップの紙袋が揺れている。もう家への帰り道だ。悠斗もいくつか買って、お揃いのショップバッグを肩に提げている。

「今日買った服着てさ、今度映画行こう
 前に見たカーアクションの映画、続編やるんだって」
「そうなんだ!次回はどこ走るんだろうな」
「……ホラーじゃないから見やすいよね」
「やめて、恥ずかしい過去を掘り返さないで」

 穏やかに微笑みながら歩く悠斗を、片手で柔らかく押してやる。悠斗はよろけながらも、まだ笑っている。
 前にアクション映画だと思って観に行った映画は、思い切りスプラッターなホラー映画で、俺は終始悠斗の上着を頭から被って、震えていたのだ。忘れて欲しい。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまう。
 もう家に着いてしまった。

「じゃ、また明日。
 どうする?明日朝メシ食いに来る?」
「昨日ばあちゃんからお漬物届いたから、ゆうくんうちにおいでよ。白ご飯と食べよ」
「じゃあ明日はそっち行って味噌汁作るわ。
 煮干しまだあったっけ?」
「前に置いてってくれたの、減ってないよ」
「ははっ、ハル全然料理しない」
「出汁取らないだけだよ」

 じゃあね、おやすみ、と言い合って家に入っていく。この瞬間が、毎回苦手だ。
 閉じた玄関ドアの向こうに、悠斗と過ごした時間の余韻が漂っている。

「ただいまー」

 誰もいない家に向かって、今日も唱える。
 目の前には暗い廊下だけが静かに伸びている。

 隣の家の中では、悠斗はさっさと部屋に上がってるんだろうな。きっと一人きりの家に向かって、悠斗はただいまなんて言わないだろう。

「はぁーーでも緊張した。
 なんで、あんな……狭いところで…二人きり……」

 うう、試着室でのことを思い出しただけで、顔に熱が集まってしまう。
 ……今日はそれを思い出したら、寂しさなんて感じずに済みそうだ。
 いつからカーディガンを降ろそう。寒くなるのが楽しみだな。今日買った服を着て、映画にも行けるんだな。

 買ってきた服を整理しながら、とめどなく妄想をしてしまう。
 新しく買ってきた服をクローゼットに大切に仕舞った。クローゼットの中の服は、ほとんど悠斗が選んでくれたものだ。
 ……俺にはファッションセンスなんてものはないからね。放っておいたら毎日ジーンズとヨレヨレのTシャツでウロウロするので、見かねた悠斗が定期的に一緒に服を買いに行ってくれる。

 悠斗の中では男友達とのただの買い出しなんだろう、と理解している。
 悠斗との時間は俺の中だけで、きらきらと瞬いているのだ。

 この時間が少しでも長く続けばいい。
 少しでも、長く続けたい。

「気持ち悪がられないように気をつけなきゃ……」

『気持ち悪い!こっち来んなよ』
『げぇ、なんだよその顔、気持ち悪ぃ』

 耳の奥に、子どもたちの鋭い言葉がよみがえる。
 その言葉ごと閉じ込めるみたいに、クローゼットの扉を閉じた。



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