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14.疑念
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「え、うまぁ 何これ」
「やばい、本格的じゃん。何入ってんの」
「かわいー!!すっごきれい!撮って撮ってー!」
開店直後から、2年3組の『喫茶すみれ』は大盛況だ。レースのクロスに、手作りのメニュー表。手狭な教室が、レトロな喫茶店みたいに見違えていた。
店名は文化祭実行委員の田村さんの名前が使われた。田村さんは心底嫌がっていたが壮司が、「いいじゃん!可愛い名前じゃん!これでいこ!!」とゴリ押ししていた。(しばらく壮司は田村さんに口を利いてもらえなかった)
「大川くん、4番さんにこれお願い。あと、山川さんには2番の片付け終わったらお会計って伝えて」
「はいよ!」
調理をしながら、席の様子を確認する。
接客のアルバイトをしている人もちらほら居て、ほぼ満席状態が続く中でもスムーズに回してくれている。みんなすごいな。
「青山くん、すごいね。めちゃめちゃお客さん見てるね」
オーダーを取ってきてくれた山川さんが声をかけてくれる。
「はは、今同じこと思ってた。山川さんたちも接客すごい。めちゃめちゃスムーズ」
手元で作業しながら、山川さんに答える。? 返事がない。聞こえなかったかな……
出来上がったサンドイッチを山川さんに渡そうとすると、山川さんが意外に近い距離でこちらを見つめてた。
「!? え、あの、5番さんのミートサンド…です?」
「青山くん、君、メガネ取ると超美形になる系男子?」
「は?」
「いや、絶対美形でしょ君。なんで黙ってた。」
え、ちょっと怖い。山川さんは、こちらを見つめたままサンドイッチを手に取り、5番テーブルにサンドイッチを運んでいく。……いや、前向いて……危ないから…。
「青山っちお疲れー!交代だよー」
「あとは任せろ」
調理スペースに郷さんと佐藤くんが来てくれる。
「ありがとー。フルーツサイダーすごい人気。やっぱスプーン入れて良かったみたいだよ」
「よかった」
「郷さん、結構ミートサンド出てたから、鶏ハム新しいの切った方がいいかも」
「ほいほーい」
「もう包丁余裕になったね」
「先生が良かったからね♪」
あはは、と笑いながら、休憩に入らせてもらう。
休憩スペースでエプロンを取り、椅子の上に置いておく。流石に朝から準備と調理で立ちっぱなしだったので、疲れてしまった。水のペットボトルとスマホを持って、教室の外へ出る。
あちこちからBGMや、生徒たちの楽しそうな声が聞こえる。飾り付けられた校舎の中は、見知った学校とはまったく違って、非日常感があって賑やかだ。
去年は悠斗と一緒に、あんな風に笑い合いながら文化祭を楽しんでいたのにな。きらきらした空間を見ていると、胸の奥にぽっかり穴が空いたみたいで。ああ、今の俺は一人なんだって実感してしまう。
賑やかな場所を避けて、B棟へ向かって行く。文化祭のメイン会場はA棟で行われているから、家庭科室や理科室のあるB棟は今日あまり人気がないのだ。B棟の裏の扉を開けて外の空気を吸い込む。廊下の窓の下あたりに座り込めば、今日は誰にも見つかることはないだろう。
しばらく、誰の視界にも入らないでほっとしたい。
ポケットに入れていたスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
『ハル』と名前が書かれたメッセージ欄は、『今日の夕飯、グラタン作ったよ 何時頃食べに来る?』の俺からのメッセージで終わっている。なぜか悠斗からの連絡は自宅からスマホへの通話で、『ご飯食べた?』『まだしばらく忙しそう』『おやすみ』と、一言二言声を交わして終わることが多い。
はぁ、と思わず深く息を吐き出してしまう。
結局、文化祭で一緒に回ろうという予定もまったく立てられていない。……悠斗は彼女と一緒に回るから。大丈夫なのかもしれないけど。
けど、気になってしまう。
何度か学校で見かける悠斗は……どこかしら疲れているように見えるのだ。
……付き合い始めって、楽しくて堪んないんじゃないのか?
「ほんと信じらんない!」
突然、頭上から女の子たちの声がし始める。驚いて思わず身を縮めてしまうが、女子たちは廊下で集まって話してるらしい。おそらく動かなければあちらから俺は見えない。バクバクいう胸を抑えつつ、すぐに歩き去るだろうと思って、そのまま大人しく座り込んでおく。
が、彼女たちは一向にそこを動く気配がないらしい。
……聞き耳立てるのも嫌だし。見つからないうちに移動しよ……
四つん這いになって、移動しようとしたが、女の子たちの次の言葉に動けなくなってしまった。
「絶対遠野くん、なんか小西に脅されてるんだって。」
えー、まじで?という声が上がる。俺も同じだ。心の中でなにそれ、と声を上げる。
「だってさ、去年付き合ってた3年のサッカー部主将だって、結局そうだったじゃん?
小西が付き合わなかったら最後の試合出させないって言って、脅したんでしょ?」
「確か主将の弟か誰かが万引きで捕まったんだよね。
で、それを学校にバラすとか脅してたんだって」
「でも結局弟の万引きも小西が仕組んでたって噂じゃん。
弟くん、無実だったんでしょ~!」
「え、こわぁ~ ドラマじゃん」
聞き間違いであってほしかった。これ以上、聞いてはいけない気がする。でも……耳が勝手に続きを拾ってしまう。
「まじで小西だけはありえないんだって。
遠野くんだって買い出しの日までは、小西のことかなり敬遠してたじゃん」
「だよねぇ! あの日も相当嫌そうだった!」
「まぁ王子は誰にだってそうなんだけどさ」
「だからこそ、おかしいんだよね。あの日以降、あんなベッタベタしてさ。」
「王子はずっと心底無表情だしね。だが、顔がいい」
「まじでそれ。あの真顔でどの角度で見ても顔がいいのはやばい まじで国宝」
女の子たちはそのまま、悠斗の顔への賛辞を唱えながらどこかへ行ってしまったようだ。
俺は、地面に四つん這いの状態で身動きが取れずに固まっている。
……ハルが脅されてる?
まさかそんな。あの悠斗が何か脅されるようなこと、あるはずがない。弱みになるものなんて何一つないはずだ。
でも、
すれ違うたびに、疲れ切っているあの顔。
悠斗、今、お前どうなってるの?
何が起こってるんだ?
……この日を境に、俺は悠斗と小西さんの仲を、見守るだけじゃいられなくなってしまった。
「やばい、本格的じゃん。何入ってんの」
「かわいー!!すっごきれい!撮って撮ってー!」
開店直後から、2年3組の『喫茶すみれ』は大盛況だ。レースのクロスに、手作りのメニュー表。手狭な教室が、レトロな喫茶店みたいに見違えていた。
店名は文化祭実行委員の田村さんの名前が使われた。田村さんは心底嫌がっていたが壮司が、「いいじゃん!可愛い名前じゃん!これでいこ!!」とゴリ押ししていた。(しばらく壮司は田村さんに口を利いてもらえなかった)
「大川くん、4番さんにこれお願い。あと、山川さんには2番の片付け終わったらお会計って伝えて」
「はいよ!」
調理をしながら、席の様子を確認する。
接客のアルバイトをしている人もちらほら居て、ほぼ満席状態が続く中でもスムーズに回してくれている。みんなすごいな。
「青山くん、すごいね。めちゃめちゃお客さん見てるね」
オーダーを取ってきてくれた山川さんが声をかけてくれる。
「はは、今同じこと思ってた。山川さんたちも接客すごい。めちゃめちゃスムーズ」
手元で作業しながら、山川さんに答える。? 返事がない。聞こえなかったかな……
出来上がったサンドイッチを山川さんに渡そうとすると、山川さんが意外に近い距離でこちらを見つめてた。
「!? え、あの、5番さんのミートサンド…です?」
「青山くん、君、メガネ取ると超美形になる系男子?」
「は?」
「いや、絶対美形でしょ君。なんで黙ってた。」
え、ちょっと怖い。山川さんは、こちらを見つめたままサンドイッチを手に取り、5番テーブルにサンドイッチを運んでいく。……いや、前向いて……危ないから…。
「青山っちお疲れー!交代だよー」
「あとは任せろ」
調理スペースに郷さんと佐藤くんが来てくれる。
「ありがとー。フルーツサイダーすごい人気。やっぱスプーン入れて良かったみたいだよ」
「よかった」
「郷さん、結構ミートサンド出てたから、鶏ハム新しいの切った方がいいかも」
「ほいほーい」
「もう包丁余裕になったね」
「先生が良かったからね♪」
あはは、と笑いながら、休憩に入らせてもらう。
休憩スペースでエプロンを取り、椅子の上に置いておく。流石に朝から準備と調理で立ちっぱなしだったので、疲れてしまった。水のペットボトルとスマホを持って、教室の外へ出る。
あちこちからBGMや、生徒たちの楽しそうな声が聞こえる。飾り付けられた校舎の中は、見知った学校とはまったく違って、非日常感があって賑やかだ。
去年は悠斗と一緒に、あんな風に笑い合いながら文化祭を楽しんでいたのにな。きらきらした空間を見ていると、胸の奥にぽっかり穴が空いたみたいで。ああ、今の俺は一人なんだって実感してしまう。
賑やかな場所を避けて、B棟へ向かって行く。文化祭のメイン会場はA棟で行われているから、家庭科室や理科室のあるB棟は今日あまり人気がないのだ。B棟の裏の扉を開けて外の空気を吸い込む。廊下の窓の下あたりに座り込めば、今日は誰にも見つかることはないだろう。
しばらく、誰の視界にも入らないでほっとしたい。
ポケットに入れていたスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
『ハル』と名前が書かれたメッセージ欄は、『今日の夕飯、グラタン作ったよ 何時頃食べに来る?』の俺からのメッセージで終わっている。なぜか悠斗からの連絡は自宅からスマホへの通話で、『ご飯食べた?』『まだしばらく忙しそう』『おやすみ』と、一言二言声を交わして終わることが多い。
はぁ、と思わず深く息を吐き出してしまう。
結局、文化祭で一緒に回ろうという予定もまったく立てられていない。……悠斗は彼女と一緒に回るから。大丈夫なのかもしれないけど。
けど、気になってしまう。
何度か学校で見かける悠斗は……どこかしら疲れているように見えるのだ。
……付き合い始めって、楽しくて堪んないんじゃないのか?
「ほんと信じらんない!」
突然、頭上から女の子たちの声がし始める。驚いて思わず身を縮めてしまうが、女子たちは廊下で集まって話してるらしい。おそらく動かなければあちらから俺は見えない。バクバクいう胸を抑えつつ、すぐに歩き去るだろうと思って、そのまま大人しく座り込んでおく。
が、彼女たちは一向にそこを動く気配がないらしい。
……聞き耳立てるのも嫌だし。見つからないうちに移動しよ……
四つん這いになって、移動しようとしたが、女の子たちの次の言葉に動けなくなってしまった。
「絶対遠野くん、なんか小西に脅されてるんだって。」
えー、まじで?という声が上がる。俺も同じだ。心の中でなにそれ、と声を上げる。
「だってさ、去年付き合ってた3年のサッカー部主将だって、結局そうだったじゃん?
小西が付き合わなかったら最後の試合出させないって言って、脅したんでしょ?」
「確か主将の弟か誰かが万引きで捕まったんだよね。
で、それを学校にバラすとか脅してたんだって」
「でも結局弟の万引きも小西が仕組んでたって噂じゃん。
弟くん、無実だったんでしょ~!」
「え、こわぁ~ ドラマじゃん」
聞き間違いであってほしかった。これ以上、聞いてはいけない気がする。でも……耳が勝手に続きを拾ってしまう。
「まじで小西だけはありえないんだって。
遠野くんだって買い出しの日までは、小西のことかなり敬遠してたじゃん」
「だよねぇ! あの日も相当嫌そうだった!」
「まぁ王子は誰にだってそうなんだけどさ」
「だからこそ、おかしいんだよね。あの日以降、あんなベッタベタしてさ。」
「王子はずっと心底無表情だしね。だが、顔がいい」
「まじでそれ。あの真顔でどの角度で見ても顔がいいのはやばい まじで国宝」
女の子たちはそのまま、悠斗の顔への賛辞を唱えながらどこかへ行ってしまったようだ。
俺は、地面に四つん這いの状態で身動きが取れずに固まっている。
……ハルが脅されてる?
まさかそんな。あの悠斗が何か脅されるようなこと、あるはずがない。弱みになるものなんて何一つないはずだ。
でも、
すれ違うたびに、疲れ切っているあの顔。
悠斗、今、お前どうなってるの?
何が起こってるんだ?
……この日を境に、俺は悠斗と小西さんの仲を、見守るだけじゃいられなくなってしまった。
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