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第61話
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◆岸元美晴 視点◆
激しく後悔している。
冬樹くんの状況を甘く見ていた。
いくらなんでも嫌なら拒否をするだろうし、拒否をしないならある程度は飲み込めたのだろうと思っていたから、春華ちゃんとふたりきりにしたわけだけど、結果を見れば散々なものだ。
とは言え、不幸中の幸いとも言え、春華ちゃんだけしかいなかった時にわかったことは最悪の事態に陥らせずに済んだとも言える。
これでより精神的ストレスを与えるとしか考えられない美波がずっと側に居たらと思うと恐怖心すら芽生える。
冬樹くんの今の状況を利用する事にはなるけど、私が主導して冬樹くんに害を与えそうな人や場所から遠ざけていくことにしていこうと思う。結果として冬樹くんにとってマイナスになってしまうかもしれないし、私も恨まれてしまうかもしれないけど、そんな未来の可能性を考えて今の冬樹くんが主体的に行う事を全肯定はできない。
たぶん、このままだったら新学期になったらまた学校へ通うだろうし、美波など冬樹くんに害がありそうな人達との交流も止めないだろうし、そして冬樹くんが一層壊れてしまうことになる。
少なくとも秀優高校は退学して、転校するか高卒認定を目指すかは最低限するべきだろう。転校先にどんな生徒がいるかわからないから高卒認定の方が良いと思うし、今なら今年度の2回目と来年度の2回で3回チャンスがある。もっとも、冬樹くんは学力の問題はないから受ければ対策をしなくても1回で全科目合格できるとは思うけど・・・
診察が終わって冬樹くんが会計を待つ間に、私は少し離れて夏菜ちゃんやご両親や高梨先生へ状況を連絡して、ちょうど全員への連絡を終えたタイミングで冬樹くん会計が終わったので、そのまま合流して冬樹くんのマンションへ帰った。
「冬樹くん、これからのことなんだけど良いかな?」
「はい、もちろんです」
「医師の診断によると、冬樹くんはいくつかの精神障害が複合して発症している状況らしいのね。
ひとつは冬樹くんが自覚を持たないまま冤罪事件の時に危害を加えたり信じてくれなかったりした人達が近くにいると過剰なストレスがかかって身体が拒否反応を示してしまう状態なのと、自分の意志が弱くなってしまっていて周囲の人から何か言われると流されてしまう状態になっているということらしいの」
「それでハルや美波が泊まると言ってきても、泊めて良いやと思ったし、ハルがずっと側に居続けていたから内心で拒否反応が出てしまって体調がおかしくなって吐いてしまったんですね」
「そういうことみたい。
それでね、それをわかっている状態で言うのだけど、冬樹くんを守るために学校をやめてもらえないかなって思うの。
時期的にまだ今年度の高卒認定試験の2回目はこれからだし、来年も2回あるはずだから冬樹くんならそこまでに全教科合格できると思うし、今の状態で学校の様な色んな人がいるところにいるべきではないと思うの」
「たしかに美晴姉さんの言う通りだと思います。いくら自覚なく意思が弱くなっていると言っても、それがベターな選択だということは理解できますよ」
「そう思ってくれてほっとするわ。
あと、ここは学校から近いからできたら引っ越した方が良いと思うのだけど、どうかな?」
「そうですね。それも美晴姉さんの言う通りだと思います。
幸いここは相場より安く買えた部屋なので、普通に時間をかけて売り出せば損をする事はないはずだし、まだ資金には余裕があるから別の家を買って引っ越してしまいましょう」
「そんな簡単に家を買えちゃうんだ・・・わかっていたつもりだけどすごいね。
それでなんだけどね、引越し先には私もついて行かせて欲しいんだ。
冬樹くんの立場があるからと私とふたりきりにならない方が良いと日和ってしまった結果、私が居ないところで冬樹くんに苦しい思いをさせてしまったし、今度は誰に何を言われようが絶対に側にいたいんだ」
「そんな、僕の方こそ気を使わせてしまって、ごめんなさい。
美晴姉さんが居てくれると心強いですから、ぜひ一緒に居てください」
「うん、絶対ずっと一緒にいるよ!」
「ありがとう、美晴姉さん。
じゃあ、引越し先は美晴姉さんの大学の近くが良いですよね」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、単位はかなり取り終えているし大学へ行く頻度も減るし近くなくても大丈夫だよ」
「そうですか。でも、特に行きたい大学もないですし、美晴姉さんと同じ大学へ進学するのも良いかなって思ったので」
「私が言うのは難だけど、私の大学は難関大学だよ。
まぁ、冬樹くんなら大丈夫かな、私も教えてあげられるし」
「そうしてもらえると嬉しいです。
ではそういうことで頑張ります。
明日は婆ちゃんと会う約束をしているので、そこで婆ちゃんにも協力をお願いしてきます」
「そうなんだ。ねぇ、お婆様に会いに行くの一緒に行っちゃダメかな?」
「ダメってことはないですよ。じゃあ一緒に行きますか」
「うん、ぜひそうさせて」
冬樹くんとの話がまとまったところで、関係する人のところへ連絡をし始めた。
◆神坂夏菜 視点◆
岸元家を御暇し、自宅に戻ると春華は寝てしまった。
何もする気になれずひとりぼーっとしていたら美晴さんから電話があった。先にうちのお母さんと相談して決めたこととして、うちの家族は当面冬樹には近付かないで全ては美晴さんにおまかせする事とし、冬樹はこの夏休み中に学校を辞め高卒認定を受けて大学受験に挑み、現在の家は学校から近いので転居するとのことだ。
冬樹のことを考えれば不思議はない流れではあるが、それをこんなにも早く決めてしまうあたりは美晴さんの本気が垣間見える。私達が悪かったのは間違いないが、それにしてもこんなにもイレギュラーな形で弟との別れがくるとは思わなかった。
◆岸元美波 視点◆
午後になってから、お姉ちゃんからお母さんへ電話があった。
小母さんと相談し、しばらくのあいだ冬樹から冬樹の家族を近付けないようにすることにしたことと、冬樹は学校を辞めることと、今のマンションから引っ越しをする事になったとのことらしい。
冬樹の状況からして理に適った対応だと思うけど、わたしと冬樹の接点が完全に無くなってしまう。今は無理でも冬樹が良くなったらまた交流したいと思っていたけど、それすらも難しくなりそうな感じだ。
どうしよう。
◆二之宮凪沙 視点◆
岸元美晴さんから電話があり、その内容は冬樹が精神的な病気で私が近付くと冬樹に悪影響があるからに冬樹には近付かない様にということと、冬樹が学校を辞めることと、それらに伴って先日依頼された隆史への裁判の対応は不要になったことと、近々引っ越すことを簡潔に伝えられた。
病院の診断が今日のことなので転校先も決まってないだろうけど、辞めることだけは決めたような印象で、引越し先もこれから探すのだろう。
最悪だ。せっかく冬樹が孤立したというのに私が近付けなくなるというか、現時点でもう近付けなくなっている。
まだ引っ越してはいないだろうけど、マンションへ行ったところで美晴さんに追い返されるだろうし、冬樹に直接連絡するのだって現時点でブロックされているかもしれないし、よしんばブロックされていなくても何かあればすぐブロックされると思う。
取っ掛かりがまったくない状態になってしまったわね。
激しく後悔している。
冬樹くんの状況を甘く見ていた。
いくらなんでも嫌なら拒否をするだろうし、拒否をしないならある程度は飲み込めたのだろうと思っていたから、春華ちゃんとふたりきりにしたわけだけど、結果を見れば散々なものだ。
とは言え、不幸中の幸いとも言え、春華ちゃんだけしかいなかった時にわかったことは最悪の事態に陥らせずに済んだとも言える。
これでより精神的ストレスを与えるとしか考えられない美波がずっと側に居たらと思うと恐怖心すら芽生える。
冬樹くんの今の状況を利用する事にはなるけど、私が主導して冬樹くんに害を与えそうな人や場所から遠ざけていくことにしていこうと思う。結果として冬樹くんにとってマイナスになってしまうかもしれないし、私も恨まれてしまうかもしれないけど、そんな未来の可能性を考えて今の冬樹くんが主体的に行う事を全肯定はできない。
たぶん、このままだったら新学期になったらまた学校へ通うだろうし、美波など冬樹くんに害がありそうな人達との交流も止めないだろうし、そして冬樹くんが一層壊れてしまうことになる。
少なくとも秀優高校は退学して、転校するか高卒認定を目指すかは最低限するべきだろう。転校先にどんな生徒がいるかわからないから高卒認定の方が良いと思うし、今なら今年度の2回目と来年度の2回で3回チャンスがある。もっとも、冬樹くんは学力の問題はないから受ければ対策をしなくても1回で全科目合格できるとは思うけど・・・
診察が終わって冬樹くんが会計を待つ間に、私は少し離れて夏菜ちゃんやご両親や高梨先生へ状況を連絡して、ちょうど全員への連絡を終えたタイミングで冬樹くん会計が終わったので、そのまま合流して冬樹くんのマンションへ帰った。
「冬樹くん、これからのことなんだけど良いかな?」
「はい、もちろんです」
「医師の診断によると、冬樹くんはいくつかの精神障害が複合して発症している状況らしいのね。
ひとつは冬樹くんが自覚を持たないまま冤罪事件の時に危害を加えたり信じてくれなかったりした人達が近くにいると過剰なストレスがかかって身体が拒否反応を示してしまう状態なのと、自分の意志が弱くなってしまっていて周囲の人から何か言われると流されてしまう状態になっているということらしいの」
「それでハルや美波が泊まると言ってきても、泊めて良いやと思ったし、ハルがずっと側に居続けていたから内心で拒否反応が出てしまって体調がおかしくなって吐いてしまったんですね」
「そういうことみたい。
それでね、それをわかっている状態で言うのだけど、冬樹くんを守るために学校をやめてもらえないかなって思うの。
時期的にまだ今年度の高卒認定試験の2回目はこれからだし、来年も2回あるはずだから冬樹くんならそこまでに全教科合格できると思うし、今の状態で学校の様な色んな人がいるところにいるべきではないと思うの」
「たしかに美晴姉さんの言う通りだと思います。いくら自覚なく意思が弱くなっていると言っても、それがベターな選択だということは理解できますよ」
「そう思ってくれてほっとするわ。
あと、ここは学校から近いからできたら引っ越した方が良いと思うのだけど、どうかな?」
「そうですね。それも美晴姉さんの言う通りだと思います。
幸いここは相場より安く買えた部屋なので、普通に時間をかけて売り出せば損をする事はないはずだし、まだ資金には余裕があるから別の家を買って引っ越してしまいましょう」
「そんな簡単に家を買えちゃうんだ・・・わかっていたつもりだけどすごいね。
それでなんだけどね、引越し先には私もついて行かせて欲しいんだ。
冬樹くんの立場があるからと私とふたりきりにならない方が良いと日和ってしまった結果、私が居ないところで冬樹くんに苦しい思いをさせてしまったし、今度は誰に何を言われようが絶対に側にいたいんだ」
「そんな、僕の方こそ気を使わせてしまって、ごめんなさい。
美晴姉さんが居てくれると心強いですから、ぜひ一緒に居てください」
「うん、絶対ずっと一緒にいるよ!」
「ありがとう、美晴姉さん。
じゃあ、引越し先は美晴姉さんの大学の近くが良いですよね」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、単位はかなり取り終えているし大学へ行く頻度も減るし近くなくても大丈夫だよ」
「そうですか。でも、特に行きたい大学もないですし、美晴姉さんと同じ大学へ進学するのも良いかなって思ったので」
「私が言うのは難だけど、私の大学は難関大学だよ。
まぁ、冬樹くんなら大丈夫かな、私も教えてあげられるし」
「そうしてもらえると嬉しいです。
ではそういうことで頑張ります。
明日は婆ちゃんと会う約束をしているので、そこで婆ちゃんにも協力をお願いしてきます」
「そうなんだ。ねぇ、お婆様に会いに行くの一緒に行っちゃダメかな?」
「ダメってことはないですよ。じゃあ一緒に行きますか」
「うん、ぜひそうさせて」
冬樹くんとの話がまとまったところで、関係する人のところへ連絡をし始めた。
◆神坂夏菜 視点◆
岸元家を御暇し、自宅に戻ると春華は寝てしまった。
何もする気になれずひとりぼーっとしていたら美晴さんから電話があった。先にうちのお母さんと相談して決めたこととして、うちの家族は当面冬樹には近付かないで全ては美晴さんにおまかせする事とし、冬樹はこの夏休み中に学校を辞め高卒認定を受けて大学受験に挑み、現在の家は学校から近いので転居するとのことだ。
冬樹のことを考えれば不思議はない流れではあるが、それをこんなにも早く決めてしまうあたりは美晴さんの本気が垣間見える。私達が悪かったのは間違いないが、それにしてもこんなにもイレギュラーな形で弟との別れがくるとは思わなかった。
◆岸元美波 視点◆
午後になってから、お姉ちゃんからお母さんへ電話があった。
小母さんと相談し、しばらくのあいだ冬樹から冬樹の家族を近付けないようにすることにしたことと、冬樹は学校を辞めることと、今のマンションから引っ越しをする事になったとのことらしい。
冬樹の状況からして理に適った対応だと思うけど、わたしと冬樹の接点が完全に無くなってしまう。今は無理でも冬樹が良くなったらまた交流したいと思っていたけど、それすらも難しくなりそうな感じだ。
どうしよう。
◆二之宮凪沙 視点◆
岸元美晴さんから電話があり、その内容は冬樹が精神的な病気で私が近付くと冬樹に悪影響があるからに冬樹には近付かない様にということと、冬樹が学校を辞めることと、それらに伴って先日依頼された隆史への裁判の対応は不要になったことと、近々引っ越すことを簡潔に伝えられた。
病院の診断が今日のことなので転校先も決まってないだろうけど、辞めることだけは決めたような印象で、引越し先もこれから探すのだろう。
最悪だ。せっかく冬樹が孤立したというのに私が近付けなくなるというか、現時点でもう近付けなくなっている。
まだ引っ越してはいないだろうけど、マンションへ行ったところで美晴さんに追い返されるだろうし、冬樹に直接連絡するのだって現時点でブロックされているかもしれないし、よしんばブロックされていなくても何かあればすぐブロックされると思う。
取っ掛かりがまったくない状態になってしまったわね。
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